罠職人の小屋〜禁断の橋を渡れ!〜

■ショートシナリオ


担当:戌丸連也

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月17日〜10月22日

リプレイ公開日:2004年10月25日

●オープニング

「さてと。これで今回のトラップは完成だな。しかし、実際どの程度効果があるものか判らん。今後の事もあるし、少し費用を投資するか。大掛かりに作った訳だしな」
 キャメロットから大体二日ぐらい郊外に在る、或る舘。
 その庭の隅に何棟かの石造りの小屋があり、それは彼の工房となっていた。
 彼の仕事は罠の開発、設置。
 貴族や商人達の金庫や趣味で(!?)設置するのである。
 結構いい腕のようで、この舘もそれなりに大きい物であった。
「禁断の橋は管理は大変だが、驚かせるには十二分な効果があるだろう。一度ここまで育ってしまえば、後はランニングコストもそうは掛かるまい」
 ニヤニヤ笑いながらそう言うと、いつものように冒険者ギルドに依頼する手続きに入るのであった。
 やはり、実験は本物の人間で、そしてプロの冒険者に頼むのが一番費用対効果が出る物、と言う物である。
 今回の罠はかなり悪趣味で、管理もある程度は必要なので実際買ってくれる人間がいるかどうかは謎ではあるが。
「よし、この説明と依頼をギルドに出してこよう。ふふ、楽しみじゃなあ」



 当方、新作罠の実験について若干名冒険者を募集する物なり。
 我、と思う者は是非応募していただきたい。尚、募集する種族、年齢、職業は不問。
 報酬は面談にて。
 今回の罠は次のような物であるが、核心部は解き明かしてくれる事を期待する。
 尚、小屋には二人一組で入って頂く事とする。

 禁断の橋:天井のざるの様な小さい穴から光が射す薄暗い小屋の中に横たわる白木の橋。これを対岸まで渡りきるだけ。
 小屋の中は異臭がする為、汚れが予想されると言う事で必ず汚れても構わない服装、装備で来る事。戦闘と呼べる物は基本的には無い。死傷する確率も転落しての事故などを除けばあまり無いと思われる。
 橋の幅はおおよそ30cm強、橋から床までの高さは3m弱。小屋に入る時は扉が常に閉まろうとしているので、扉に挟まれないように注意する事。
 また、危険が予想される為、シフールも歩いて橋を渡る事を推奨する。

「これでよし、と。シフールに飛んで渡られても楽しくは無いからの。まあ、別の意味で楽しいかもしれんが‥‥‥‥後はこれをギルドに出して来るだけか」
 そう言って彼は下男を呼び寄せると報酬と共に張り紙をギルドに持って走らせる。
 さて、今回は一体どういう惨劇(!?)が繰り広げられますことやら。
 妄想に浸る罠職人、イヴァン・トラップなのでした。

●今回の参加者

 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0369 クレアス・ブラフォード(36歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0403 風霧 健武(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0781 アギト・ミラージュ(28歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0850 双海 涼(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2194 アリシア・シャーウッド(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7218 バルタザール・アルビレオ(18歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●先陣はジャパン!
 薄暗い小屋の中に年頃の男女二人が入って行くと言ったら普通は怪しい雰囲気ではございますが。
「あの、斬り付けていいですか?」
「一応終わるまでは生かして置こう。ここで終わられても困る」
 命拾いした語り手に冷たい視線を送っているのは双海涼(ea0850)と琥龍蒼羅(ea1442)。意思疎通に苦労しない同国人同士の組み合わせである。
「じゃあ、開けるぞ」
 正直開けたいもんではない、がお仕事だから仕方がない。
 相当重い二重扉を開けて中に入ると、いや開けた瞬間から漂ってくる異臭。覚悟していたとは言え‥‥‥‥ツライ。
「扉の仕掛けは‥‥‥‥見た所、橋には繋がってないようですね」
 呟く涼。怪しいと思っていたのだが、小屋の隅まで続いたロープが、その先に石が結びつけられて完結している。重さで扉を締める仕掛けのようだ。
 注意深く辺りを探る蒼羅。
 天窓の穴が僅かに揺れたような気がする。そして、辺りに絶え間なく響く何かが擦れる音。
「やっぱりゴキヴリなんでしょうかね‥‥‥‥」
「かも知れぬが、決め付けるのもどうか」
 厳しい表情を崩さぬまま、心配げな涼の問にそう答える蒼羅。
「どんな罠か解からない以上二人同時に渡るのは危険だ‥‥‥‥俺が先に行く、後から来てくれ」
 と、蒼羅が言って振り向くと、腰に縄をつけて手渡そうと縄の先端をこちらに向けている涼がいた。
「えっ、忍者の私が先に行きますよ。そう言う物ではありませんか?」
 と、この後先陣争いでちょっとした口論になるのだが、どうしても譲らぬ涼に蒼羅は一つ、溜息を吐く。
「判った‥‥‥‥ならば、危ないと見たら即その縄を引くぞ?」
「はい。覚悟完了してますので大丈夫です、きっと」
 何か、遠い目で虚空を見つめる涼。彼女の肩をポンと叩いて語りかける蒼羅。
「諦観は愚者の結論だ。先を行くのであれば結果を示せ」
 苦笑でそれに答えると、涼はうっすらと見える白木の橋をまじまじと見つけるが‥‥‥‥考えたような仕掛けはどう見てもありそうも無かった。

 ‥‥‥‥。

「あ、あれ‥‥‥‥渡れちゃいました、ね?」
「罠はどこにあったのだろうな」
 なんと二人は何の障害も無しに渡ってしまったのである!
 と、言う事でミッションコンプリート。ジャパンの二人は難無く渡れたのでした。

●グットラック
 その魔法が発動した瞬間、小屋全体がヴヴヴと言う唸り声をあげたように思えた。
「な、なんだい。やっはり蟲だと言う訳かい?」
「不穏な空気‥‥‥‥臭い物は仕方ないが、魔法を掛けると発動するのか?」
 とりあえず、と。
 罠の種類を予想したのがパトリアンナ・ケイジ(ea0353)、グットラックを行使したのがクレアス・ブラフォード(ea0369)である。
「扉が閉まり切らないよう、石でもかませて置くぞ」
 そう言ってクレアが扉を開けて、石を置いておく。
 一枚目の扉は外界と完全に遮断するようにきっちりと閉まっているので、小屋の中の明かりの量は変わる事は無かった。
「さて。じゃあ渡ろうか。まあ、汚れにゃ慣れてるから。綺麗な嬢ちゃんを汚すのは趣味じゃないんでね。先に行くよ」
「冒険に綺麗かそうでないかは関係無いと思うんだが」
 苦笑してそう漏らすが、パティの折角の好意なのでここは素直に受けるクレア。
 渡り始める前に、耳と鼻を総動員して辺りを探るパティ。匂いは臭い。判りきっていた事だが‥‥‥‥まあ、この匂いは牛舎とかそう言う匂いが強烈になった感じ。ならば下に敷き詰められているのは恐らくは。音の方は入ってきた時の唸り声はそろそろ止んで、何かが盛んに擦れる音だけが響いていた。
 パティがロッドで橋を確かめながら、そしてその後ろをカニ歩きで、パティの背に手を置きながら進むクレア。
 上や周囲にクレアは意識を向けるが、渡る前と特に何も変わらない気配。そして、パティは立ち止まって、下に小石を結びつけたロープを下ろすと‥‥‥‥ついて来たのは恐らく家畜の糞尿ミックスと、一匹の黒い甲虫だった。
「これ‥‥‥‥がざわめきの正体かね?」
「かも知れん」
 ‥‥‥‥と。
 注意深くロッドで前方を注意しながら行く二人だったが、ついに何も起こる事無く渡りきってしまった!
「うーん、それでいいのかねえ」
「とまれ、依頼完了と言った訳だ。いいのであろう、きっと」

●前進あるのみ!!
 扉が閉まり切らないよう楔を打ち、いざ出陣なのは風霧健武(ea0403)とアリシア・シャーウッド(ea2194)。
「天井の穴からは、鳥糞かジェル系か、虫あたりが降ってくるか。下は‥‥‥‥肥溜めだろうか」
「かなあ。どれも降ってきたらやなのばっかね。肥溜めも最悪だけど。後は、橋に仕掛けがあるとか。渡っているうちに折れるとか、一箇所しか止めてなくて橋が回るとか!」
「‥‥‥‥みたところ、がっしりとした橋だが、な」
 蹴ろうが叩こうが、びくともしない橋であった。造りが原始的な丸木を二本並べただけの橋だが、渡る分には問題なさそうだ。
 命綱と称し、健武とロープで身体を繋ぐ。本当に命綱なのか死なばもろともなのかはその可愛らしい表情からは窺い知る事は出来ないが。
「落っこちちゃったら助けてね?」
「ああ、勿論だ」
 にっこりと笑うアリシアの笑顔はとても眩しくて‥‥‥‥(にやり)。
 渡る前に匂い、音、辺りの様子を確認するアリシア。匂い=肥溜めの匂い。音=何かが擦れるような。辺りの様子=薄暗くて見えない。
「迷っても仕方ないし、行きますか!」
「アリシ‥‥‥‥アっ!?」
 迷わず駆け抜ける策にでたアリシア!
 ロープで繋がれている健武も必然的にダッシュ開始!!
「いいさ、このまま行ってやる!!」
 が。ちょっと待ったお二人さん。
 ここは相当暗い小屋の中。しかも白木の橋は走ったりしたら揺れます。丸太ですから。周辺状況は最悪。しかも健武はカニ歩き!
 状況とスピードのアンバランスがアリシアの足を取る!
「あ、ええっうそおっ!!」
 バランスを崩して頭からまっさかさ‥‥‥‥いや、健武が引いたロープが辛うじてそれを食い止めるが‥‥‥‥ここは幅30cmの橋の上。
「くそっ、アリシア‥‥‥‥飛ぶぞ!」
「え、ちょっ‥‥‥‥!?」
 体重差は凡そ30kg。勢いをつけてタックルされたアリシアは思わず吹っ飛んで‥‥‥‥そのまま健武もその勢いに身を任せる‥‥‥‥届くか!?
 そのまま着地。くんずほぐれつお団子状態で対岸に二人は転がった。
「や、健武どこ触ってるのよっ!?」
「不可抗力だ!? 違うわざとじゃない!!」
 慌ててもがいた事でまた別な所を触ってしまい‥‥‥‥ちょっとの後、びんたの音が悲しげに響いたのでありました。

●そして、伝説へ
 さて、最後はアギト・ミラージュ(ea0781)とバルタザール・アルビレオ(ea7218)のペア。
「罠職人の罠・・・相手にとって不足はない!クリアして一人前の怪盗になってやるぜ!」
 だが、この二人が入った瞬間、小屋の中に異常な熱気というか雰囲気が漂い始めた。
 言っては失礼なのだが、二人ともあんまり深く物事を考える性質ではないらしく‥‥‥‥異変を感じつつもアギトはステインエアーワードをバルザダールはフレイムエリベイションを、止せばいいのに行使してしまった!
 熱気はさらに高まって!!
「う、うぐぐ‥‥‥‥」
 正直バルタザールは大失敗であった。尋常でも臭いのにさらにくさっ、なのである。しかも全身を何か這いまわるような感触で‥‥‥‥」
「匂いの正体判ったけど、聞きたい?」
「‥‥‥‥遠慮、しておき、ます」
 暫く、辺りを確認したバルタザールは何か壁が動いたような感じを受けた。
「壁‥‥‥‥壁が黒い気がします」
 提灯を持って入っていたアギトだったが‥‥‥‥彼も周りの様子を大まかに確認して危険が無いようなのでそれを消した。
「い、嫌なんですけど‥‥‥‥罠に掛からない為もう一度フレイムエリベイション掛けますね」
 異様なテンションの高まり。
 湿気はあり、温度も高いここ‥‥‥‥出てくるのは嫌な汗。
 そして。
 魔法は行使される!!
 限界まで高まったテンションは‥‥‥‥解放された!!
「うっぎやああああああああああああああああああああああああああ!!」
「バルタくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」
 橋の袂に立つバルタザールの身体を赤い淡い光が包んだ瞬間、黒い嵐がバルタザールを襲う!
 それが何かしっかりと確認しようとしたアギトは思わず提灯に火を入れ‥‥‥‥‥‥‥‥二人は全身に蟲を纏い‥‥‥‥もう橋を進むどころではない。
、引き返そうとする‥‥‥‥が、床に落ちた蟲を踏み潰す嫌な感覚!!
「うわわぁぁあああ!!」
「もう勘弁してくれぇっ!!」
 歩くたびに残る虫の体液色の足跡を残して、命からがら二重扉の一枚目を開けると‥‥‥‥自動的にそれが閉じて上から降り注ぐハーブの香りのする水。
 蟲はあらかた流れさるが‥‥‥‥二人は表に転がり出て‥‥‥‥思わずへたりこんでしまった。

●4分の1の確率。
 先行していた六人は、入口から二人が出てきたのを見て嫌な予感がしていたが‥‥‥‥。
「うっわあ‥‥‥‥‥‥‥‥やっちゃったんだ」
「その蟲が罠だった訳か。気持ち悪いな」
「ヨゴレ‥‥‥‥むごいわなあ」
「無残だな、成功してよかった‥‥‥‥」
「何事も失敗は有り得る。あまり気を落すな」
「早くお風呂に入って、ね」
 その様子を見て、ふははははと笑うトラップ。
「全員何事も無くクリアされたらどうしようかと思ったわい。禁断の橋の種明かしは、禁断を犯すこと、つまり光を使う事だったんじゃな。魔法使いすぎじゃ、あと提灯は決定的じゃった」
「んだよ、もーーーーーんなことか!!」
「早くお風呂はいりたい、です」
 じたりばたりとするアギトとがっくりと肩を落すバルザダール。
 秋の陽が寂しく二人を照らすのでした‥‥‥‥‥‥‥‥。