「私を殺していただきたい」

■ショートシナリオ


担当:戌丸連也

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月19日〜12月24日

リプレイ公開日:2004年12月28日

●オープニング

「私を殺していただきたい」

 依頼人の口から言い放たれた台詞。
 冗談を言っている顔ではない、報酬もしっかり準備されている。
「今の俺の全財産だ。もっとも、アレに相続させる遺産をさっぴいてだがな」
 見たところ、男は冒険者のようだ。
「ある女の子が敵討ちに出た。その敵が俺って訳だ。つつがなく敵討ちを完遂させてほしい」
 冒険者ギルドを一瞬、沈黙が支配する。
 男は一枚の古ぼけた絵を懐から取り出すと、カウンターの上に広げておいた。
「この娘の名前は、アリィ。この絵から10年たった状態を想像してくれ。顔の雰囲気は殆どそのままだ。キャメロットから少し出たところにある村に逗留している」

 なぜ、なのか。
 何故に殺されなければならないのか?

「俺はあの娘の父親を殺した。ならば討たれなければなるまい‥‥‥依頼をだした理由だと? そうさな、あの娘は決定的に冒険者には向いてない。このままでは、俺を追う中で無謀と勇気を履き違えたままあの世行きだ。比較的治安のいい王都周辺で何とか決着を付けたいんだよ」

 娘の父親との関係は? そしてなぜ殺したのか。

「あの男は昔、一緒にパーティを組んで各地を歩き回っていた相棒だ。あいつの事はよく判っている。ずっと一緒にいた仲間だ。ハーフエルフだが、気のいい奴だったよ。ただ、その血が‥‥‥‥月が闇に食われる様を見て、奴の血が暴れ出した。狂化ってやつだな。あいつは普段の優しい人柄と逆にそうなるとあたり構わず人を殺したくなるようだ。月を見て心配になった俺が駆けつけた時には、その刃をアリィに向けていた。止めようったって、あいつのほうが俺より腕はたったんだ。怪我の後遺症がなかったら俺の方がやられていただろう。手加減する余地なんか無かった。気が付いたら、殺していた訳さ。そして、あいつの断末魔を聞いてアリィは目を覚ました」
 一気にそう話しきると、決まり悪げに苦笑して俯き加減に下を向くとぼりぼりと頭を掻く。
「俺がどう言い訳しようと、あの娘にとって俺は親の敵だ。死に物狂いで追ってくるだろう。そこでだ、あんたらは俺の使者としてあの娘の所に行き、決闘を申し込んでほしい。そして、その場所までの護衛と決闘の助太刀を頼む。俺のほうは適等に抵抗するから、後はアリィが殺しやすいようにしてやってくれ。」
 それだけ言って、その男はカーディ・フォルトは冒険者ギルドを後にしていった。
 彼が扉の向こうに消えていったのを見計らってか、一人の女が近づいてきた。歳は四十前後、職業はウィザードだろうか。やりきれない顔をして大きく首を二、三度振ってこちらを見る。
「あの男、カーディはアリィの本当の父親だよ。皮肉なもんだ、冒険者を志す二人の仲間の片方が怪物との戦いでその夢を断たれ、もう片方は連れ合いを病で亡くした。夢を追うカーディは幼い娘をもう旅には出る事の出来ないハーフエルフ、ヒィロに託して旅を続けた。それだけの話だったのに、まさかこんな事になるとはね‥‥‥‥」
 それだけ言うと、がっくりと肩を落としてそのウィザードも冒険者ギルドを後にしていく。

 運命の皮肉はこうも人を嘲笑い、悲劇に叩き落そうとするのか。
 悲劇の連鎖を成し遂げる他ないのであろうか‥‥‥‥。

●今回の参加者

 ea0558 セリルヴィス・シュテルヴァルグ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea4131 アルベル・ルルゥ(26歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7263 シェリル・シンクレア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea8807 イドラ・エス・ツェペリ(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea8955 アミィ・アラミス(27歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9267 鈴木 久遠(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9337 アルカーシャ・ファラン(31歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ea9656 安宅 莞爾(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●同行依頼
「あなたにお力を貸していただきたいのです。私はこのまま決闘で死ぬつもりのカーディさんを止めたいのです」
「放って置いたらアリィは取り返しの付かないことをしてしまう。我等は出来ることならそれを止めたいのだ」
「いやだね」
 そう言って、ウィザードは目の前の四人、セリルヴィス・シュテルヴァルグ(ea0558)、アルベル・ルルゥ(ea4131)、シェリル・シンクレア(ea7263)、安宅莞爾(ea9656)からの視線から逃れる様に目を伏せた。
「あんた達のやろうとしている事は到底冒険者としては認められないね。我々は便利屋じゃない。けれど、冒険内容に対しては誠実に守ることが職業倫理ってもんだ」
「職業倫理? 馬鹿馬鹿しい。そんな物に拘って何かを失ってももう戻ってはきやしない‥‥ま、いいんだがな」
 そう、顔をしかめて吐き捨てる。
「安宅殿、説得にきているのだからそういきなり論をぶつける物ではない」
 そう言ってからルルゥはウィザード、名前をカシス・ローレイと言う、に向き直った。
「だが‥‥ローレイ殿。私も同じように思う。やりきれなく思うのならば、それを後悔として残さぬ為に御同道頂けぬだろうか? 冒険者として頼むのではない。一人のエルフとしてお願いする」
 困惑の表情を浮かべるローレイの顔をじっと見つめて、セリルヴィスは口を開く。
「事情を知っているのならば彼女に明かすべきだと思う。何もしないのは逃げでは無いのかと拙者は思う」
 投げかけられたまっすぐな視線に耐え切れなくなったのか、一同に背を向けるローレイ。
「だが、私は私の信じる冒険者の姿がある。依頼人の意図を全く無視して行動するなんつーことはできないね。悪いが帰らせてもらうよ」
「人の命が、アリィの心がかかっているのだぞ!? その様な拘り捨ててしまえばいいだろう!」
 歩み出しかけた足を地面に下ろし、ローレイはくるりと向き直る。
「冒険者なんて物は根無し草さ。簡単に、はい判りました。それではお供します、では世界を渡っていけないんだよ! 自分で決めた事は決めた事だ。悪いが、これ以上付き合う時間はない」
「待ちな!」
 ウィザードの進路に立ちはだかるのは安宅だった。
「あいつらみたいに感情論をぴーぴー喚き立てるつもりは俺には無い。依頼の完遂にはそれが一番手っ取り早いと思っただけだ。要するにそのアリィとか言うガキが納得すればいいんだろ? 死にたいって言うのはよ。納得させんのにゃあんたが語るのが一番。どーよ?」
 とっとと帰りたいオーラ満載で、そう語る彼にローレイの曇っていた表情がやや明るくなったように思われた。
「‥‥青二才どもが。言ってくれるよ。が、依頼の完遂のためなら協力もやぶさかじゃあない」
 そう言ってあまつさえカラカラと笑うではないか、ローレイは!
「もしかして、試されたのではないのか?」
 口をへの字に結んでセリルヴィスはそう漏らす。
「まあ、いいではありませんか。来て下さるというのですから」
 にっこりと微笑むシェリル。ともあれ、事情を知るウィザード、カシス・ローレイの同道には成功したのでした。

●娘、アリィ。
 春麗らかな原っぱで。
 野に咲く花を摘みながら、それでティアラを作ってみる。
 ヒィロお父さん、サリィお母さん、そして?
 二人の真ん中で大柄な人間の男が楽しそうに笑っている。顔は‥‥霞んで見えない。その男が私を抱き上げる。力強い腕、懐かしい匂い。
『アリィ、元気でいろよ』
 その声に促されるかのように、暗闇に身を起こす。夢‥‥か。最近頓にこの夢を見る。
「今日こそ、仇に出会えますように」
 今日は彼女にとって、運命の日。となろう事など彼女自身知る由も無く。いつもの様に、薄暗い内にテントから起きだして、朝の空気を吸う。
 朝の支度を総て済まし、荷物をロバに括り付けて朝日があたりを白く照らしつけはじめたその時、出発する。
 そんな彼女の様子を見守る影が四つ。イドラ・エス・ツェペリ(ea8807)、アミィ・アラミス(ea8955)、鈴木久遠(ea9267)、アルカーシャ・ファラン(ea9337)の四人である。
「一人で野営かぁ。この辺なら、むしろモンスターより人間が襲ってきそうだけどな」
 苦笑しながら、久遠がそう漏らす。就寝時が一番無防備な時であり、例え事に際した時に起きられたとしても即応など出来る物ではない。
「どこに行くのかしらね、あの娘。あのオカマ野郎のいる町とは別の方にされてますわよ」
 やれやれといった表情でさりげなく過激な発言をするアミィ。
「もたもたしていても仕方ないな。声を掛けようか」
 アルカーシャがそう言って歩を進めると、それが合図であるかのように全員がそれに習った。
「誰!?」
「貴方のお探しの仇からの使者です。いつまでも探されているのは気分が悪いから決着をつけようとの事。お受けになりますか?」
 アルカーシャの言に飛びつくようにアリィは反応する。
「本当!? どこにいるのあいつはっ!?」
 疑うというのを知らぬとでも言わんばかりに話に乗ってきて、そして一行に加わるというのだからイドラは呆れてしまっていた。迫害と蔑視の中に生きるハーフエルフは常に緊張して生きるのがさだめなのかと問いたくなるぐらいの緊張感を持って生きている。ましてや冒険者ともなれば。
 それはともかくとして。
 こうして総てのお膳立ては整った。あとは結果をごろうじろ、と言う事になろう。

●復讐
 吹き荒ぶ北風。ヒースがところどころに生えている、枯色の草原。
 そこに立つ男が一人。カーディ・フォルト、であった。
 そして、それに向かう五人。アリィと冒険者達。
「父の仇! この手で晴らさせてもらう!!」
 アリィのその声に無言で剣を抜き払い、構えるカーディ。
 それを見て、怒り心頭の表情を浮かべているアミィ。その他の面子はやや心配そうにそれを見ている。間に合うのか!?
 そんな心配をよそにして、アリィの気合とともにショートソードが振り翳される。仕方なく、と言った様子がはっきり判る防御に専念したノーマルソード捌きでそれに応じるカーディ。だが、一行に動きが無いのをみて、カーディのほうは困惑の表情を見せていた。話が違うじゃないか! と。
 だが、どう手加減するつもりであっても、つい地力の差が出てしまっていた。
 人間という物は戦いに際して、鉄の棒をそう長時間振り回し続けられる物ではない。緊張によって身体の自由は奪われ、重量によって握力を奪われる。
 それでも、カーディはその瞬間を待っていた。
 致命に至る事のできる一撃を。
「まったあああああっ!!」
 突如として、空から響き渡る声。
 そのフライングブルームに乗って上から突っ込んできたのは、セリルヴィスとローレイ!
(ちなみに遠くのほうから近づいてくる黒い影はルルゥとシェリル、安宅である)。
 その声呆気に取られたカーディの左胸を、一瞬の隙を見逃さずに飛び込んだアリィの刃が貫こうとする!
「そこまでですわ!」
 その声と同時に放たれたソニックブームがアリィの足元を打って最後の一歩を踏み出す事を躊躇させ、ウイップの一撃でショートソードは軌道を変えて、左腕の皮を僅かに切り裂いた。
「その仇討ち、異議あり! 断じて認められぬ!!」
 促されるようにしてローレイが前に歩み出て、真実を語り始めた。そして。
「止めろ、止めろおっ!! これはいったい何なんだっ!?」
 怒りの表情で一同を‥‥遅れてきた三人も含めて‥‥を睨み付けるカーディ。だが、仇討ちを仕組んだともまさか言う訳にも行かず、次の言葉が出てこない。
 そんな彼のもとにアミィが歩み寄って、平手を振るう!
「何も知らない実の娘に父親殺しの十字架を背負わせておいて、自らはのうのうと眠りにつこうなんて‥‥虫が良すぎるにも程がありますわ。貴方が本当にしなくてはならないコトは、こんなコトではなくってよ?」
 頬を打たれて顔を背けたままのカーディにイドラは歩み寄っていく。
「アリィさんに何も教えずに敵討ちをさせようとするのは‥‥フェアではないと思います」
 だが、皆の注意が、剣を下ろしたカーディに向かったその刹那の瞬間だった。
 アリィがショートソードで自らの首を切りつけようとする!
「‥‥馬鹿なことは止めるんだ」
 その手を抑えたアルカーシャがそう言ってショートソードを奪い取ると、アリィは大粒の涙をこぼして大地に両の膝をつく。
「何なのよ、いきなり現れてそいつが私の父親!? 真実だっていわれて信じろっていうの!? 私はそんなに物分りのいいようにはなれないよ! だからっていって殺せない! だけど、その男は私の一番大切な父を手にかけた! 私の命を守るためであっても。私は、私はどうすればいいのよっ!!」
 そう。
 カーディではないのだ。
 むしろ、どうなる気を配らなければならなかったのはアリィの方であった。
 唇を噛んでそれを見つめるカーディにルルゥは歩み寄って小声で囁いた。
「娘のために死ぬよりも、娘のために生きてみせよ、と。一度死んだ気持ちで、新たに娘に接すれば良い。死ぬ覚悟があるのなら、生まれ変わる事くらい訳なかろ?」
「こんな状態にしておいて、なにを」
「いつでも殺される覚悟があるならその後でも良いのではないですか? 貴方にはその義務がある。親なのですから。あなたは彼女を鍛えることも出来るし、いざというときは助ける力を持っているのでしょう」
 いつの間にか隣にきていたシェリルもそう、囁きかける。
「さて。アリィさん。あなたはやっぱり、真実を知った上でカーディさんを討とうと思いますか? であるならば他がどう言おうと私はあなたの助太刀に入ります」
「許せない。許せないわ、その男は。けれど、殺せる訳ないじゃない! 私の本当の父だなんて‥‥そんなの、無い。誰か嘘だと言ってよおっ!!」
 信じていたものが崩れ、そして、何もない状態になったアリィ。その姿を見て、アルカーシャは思う例えあだ討ちが成功したとして、果たしてこの娘が生きていられたのだろうか、と。
 そして、歩み出たアミィ。
「貴方の口から真実を伝え、その上で彼女の望む償いを行うこと。元は貴方の身勝手が招いたコトなのですから、これくらいは当然でしょう?」
 訪れた沈黙。そして、語られる真実。
 ぽつりぽつりと、そしてやがては堰を切ったように。
 辛かった、瞬間の事。
 楽しかった仲間時代の事。
 母親の事。
 今までずっと我慢を重ねていたのだろう、止め処なく話し続けるカーディ。
 そして、決して目を合わせることはしないが、立ち去る訳でもなくそれを聞くアリィ。そこにはもう、先程までの険は無いように思われた。
 この先、二人が本当の親子として生活するのにはまだ時間がかかるのかもしれない。
 だが、今日確かに氷は溶け始めたのだと、そう思わせる雰囲気だった。
 すっかり高くなった太陽は、イギリスの冬の空にしては珍しく青い空の中で済んだ光を地に放っていた。どこまでも高い空の下。
 冒険者たちの努力によって新しい親子の形ができつつ、あった。