約束の日 〜隔絶した終わりに〜
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■ショートシナリオ
担当:戌丸連也
対応レベル:1〜3lv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月16日〜01月21日
リプレイ公開日:2005年01月28日
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●オープニング
村と呼ぶには少々小さすぎる集落から程近い丘の上。
大きな大きなオークの木の下で。
重ね合うは‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥白刃!
「でぃあああああっっ!」
「甘いわよっ!!」
火花散る剣の刃は潰してあるようだが、直撃を食らえば重傷は避けられないような物。見るに、男と女。二人は剣の稽古をしているようであった。
我流のそれは荒々しく、未だ完成を見るような物では無かったが、若き二人はその情熱と体力の続く限り剣を合わせあう。
がっしりとした背の高い男の名はロバート。細身ではあるが、引き締まった肢体の女の名前はエルザ。稽古の為に作られたぴったりとした服、手作りの防具から覗く二人の身体は筋肉に覆われていて、そして無数の傷跡が見えていた。鍛錬の程が判るという物だろう。
短い冬の昼間。中天にあった太陽は既に地平線に掛かって、辺りを赤く染め上げて。
夜の帳が天蓋となりて降りてきた頃。
冷たくある大地が火照った身体を癒すような感覚。大地に転がった二人は、冬のイギリスの空としては珍しい、満天の星を見上げていた。
「また、引き分けかよっ! ちくしょう!!」
「あ、あはは。そんな汚い言葉を使っちゃだめよ。明日からキャメロットでお勤めでしょ?」
「‥‥‥‥エルザは冒険の旅に出るんだったな」
その言葉を聞いて、ちょっとだけ困った顔をする。
「一緒に来たい、なんて駄目だよ? もう決めたんだ、あたしの腕がどの位通用するのか、もっと上を目指したい。そして、貴方は小さい時からの夢、騎士様の従者になるチャンスを得た。もう、お互い道は違う方に別たれたんだから」
「別たれた、か‥‥‥‥なあ、エルザ」
呼び掛けに、視線をこちらに向ける。赤く染まった太陽光がエルザの瞳に差して、まるで燃えている様なそんな瞳にしていた。
「3年後、3年後の今日。ここでまた会わないか?」
「ふふ。随分先の約束ね。でもあなた、帰ってこれるかしら? 折角冒険から戻ってきて、すっぽかしなんかしたらキャメロットに乗り込むわよ!?」
「‥‥‥‥約束、だ」
『その後、日々忙しく働く俺の耳にも、エルザの活躍はたまに飛び込んできた。日々の仕事や鍛錬も忙しくて、3年間はあっという間に過ぎていったんだ。そして、約束の日の一年前、エルザが凄い宝を見つけたって噂を聞いた。やったじゃないかって、その時は思ったんだ。けれど、それがあんな事になるとは。
その後エルザは、肺を患って。
余命幾許も無い、と医者に宣告されたらしい。金は持っていたろうから、結構いい医者に掛かったろうにな。
けれども、あいつは俺との約束の日までキャメロットから帰ってくんなってシフール便で送ってきやがった。帰る暇があったら剣の修行でもしやがれってね。
そして、その日‥‥‥‥。
今日と同じく俺は、ある任務を帯びてキャメロットを出る事になった。時間? ああ、まだ大丈夫だ。任務の内容は職業柄話せないけれど、俺が行かなかったら、その分罪のない人間が殺されるかもしれない。そんな仕事だ。
あの時は、出かけて行ったものの空振りに終わって。任務を重視した為に、一日行くのが遅れたんだ。そのせいで俺は‥‥‥‥エルザを殺してしまった!
行かなかったあの日、エルザは一日中、病を押してオークの木の下で俺を待っていたらしい。そんなあいつを‥‥‥冒険者崩れの二人組が、宝の秘密を知る為に襲い、そして殺した!
たまたま通りかかった集落の者が一部始終を見ていたんだ。あいつの家は剣術道場みたいなのをやっていて、普段は近づけなかったんだろう。あの親父はクソ強いからな。その親父が娘の危急を聞いて駆けつけた時には、あいつはもう息を引き取っていたそうだ。
そして、今日。あいつからの手紙と一緒に訃報が届いた。馬鹿野郎が、宝の地図渡すから、夢の続きをいつかお願い、なんて書いてあったのさ。あの日、あいつは地図を俺に渡そうと持っていた、それを奪われて殺された。もう、いくらも生きられないその命を。
良いんだ、宝なんて!
エルザを返してくれ!!
おおよその宝のある場所はもう、今までの手紙から判っている。
あいつを殺したやつらもそろそろ宝を目指している事だろう。急いでほしいんだ。殺されたのは一昨日。届いたのは今日。うまくすればその場所であいつらと鉢合わせできるかもしれないから。
俺がいければ、行きたいが‥‥‥‥そろそろ集合の時間だ。行かねば‥‥‥‥行きたくないが、あいつの手紙に書いてあったんだ。夢を裏切るなって。馬鹿野郎だよ、畜生! 二人の処分は君たちに任せる。できる事なら俺の代わりに殺してほしい。宝は見つけたらそっちの処分も君たちに任せる』
そう言って男は報酬と大まかな地図、そして二人組の手配書を置いて足早にギルドを後にしていった。手配の冒険者は二人ともファイターのようではあるが、詳しい事は判らない。
名前はギリーとヴァンダイ。
熊のような大男と卑屈そうな背虫男だ。
仇討ちとも取れるこの依頼、さて、あなたはどうしますか?
●リプレイ本文
「美しくない。全く美しくない。なんと美しくない者達だ」
この世には確かに唾棄すべき存在という物がある。それがこのギリーとヴァンダイである事は冒険者である彼等が一番判っていた。いろいろな物を捨てて得た自由は、命をすり減らす事を条件に得ている物。
庇護の上にある平和をかなぐり捨てた冒険の途に在る者達はライバルであり、同志であり、家族のような物。しかも、病に冒され床に臥した物を襲うという卑劣極まりない行為は、もはや冒険者と呼ぶに値しない冒険者崩れ、ただの野盗であろう。
そして一行は、デュクス・ディエクエス(ea4823)、羽紗司(ea5301)、セレスティ・ネーベルレーテ(ea8880)と、ヴルーロウ・ライヴェン(eb0117)の馬にそれぞれ孫龍鈴(ea8387)、ミネア・ウェルロッド(ea4591)、フレドリクス・マクシムス(eb0610)、夜十字信人(ea9547)を乗せてその場所と目される岩山を目指す。
●湿地帯の一本道
そして、見えてきた岩山の頭、周りに広がる湿地帯。
一行は馬をあたりの木々に繋いで置くと、湿地帯の中にある一本道に足を踏み入れた。
雪を得た湿地帯は、湿地は黒くヒースが被る雪は白くあり、岩山は灰色、それは重く垂れ込めた雲色、そして短いイギリスの冬場の夜は早くも暮れかけて来ていた。
ちなみに道はあるが、闇が差し迫るここを早めに抜けねば、湿地帯に足を踏み入れたが最後、遺体が上がるかも判らない湿地に飲み込まれてしまう、かもしれない。
一行の足は自然に速まるが。
遠くから何かが絶叫する声が聞こえてくる。背中にざわめきを感じつつも進んでいくと、何か丸い物が道の真ん中で叫んでいる。
目を凝らしてみるとそれは、黒い猫の頭。首から下は地面に埋められている。
「猫ちゃんっっ!?」
思わず、走り寄ろうとしたミネアの腕を、羽紗がぐいと引き戻す。
「馬鹿野郎! うかつに近づくやつがあるか!!」
「で、でも、猫ちゃんが!?」
注意深く進んでいったフレドリックスが黒猫の頭の手前にベアトラップ、雪で偽装された穴の中に足が嵌ると、ダガーを踏み抜いてしまう仕掛けになっている、を見つけ、判りやすいように皆に合図する。
「何て‥‥‥‥事を」
うめく様にセレスティは呟く。
そしてすっかり辺りが調べられても、ミネアが猫を助け出すのを羽紗は許さなかった。
「この猫の絶叫が切れた時、奴等はここに誰か来た事を知るだろう。助ける事は出来ない」
宝捜し気分だったミネアの目に涙が浮かぶ。
その時だった、なんと龍鈴が駆け寄って、その猫の周りを掘り始めたではないか!
「何を!?」
「ばれたらばれたでその時さね。猫の命一匹救えないで何が冒険者さ!」
緩んだ手を振り払ってミネアもそれに加わり、黙って様子を見ていたデュクスと一瞬躊躇ってから信人も二人の下に歩み寄った。
「仕方あるまい。これも美しき冒険者の姿と言う物」
「奇麗事で命のやり取りは生き抜けんよ」
ヴルーロウの言葉に羽紗はそう言って応じる。そんな一行の中、フレドリクスは地面に残る足跡と岩山を見比べて、ぽつりと呟いた。
「俺も奇麗事には賛成できないな。敵はきっと気づいたぜ‥‥‥‥厳しい戦いになりそうだ」
●憤怒の鉄槌
「ちっ、追手が掛かったか。が、猫を助けるようなお人好しどもであれば大した事はないだろう」
「ぐぅへへ。女はいるかなあ?」
その台詞には興味を持たずに、岩山の上をじっと見詰めているヴァンダイ。
「そうだな、女がいるかもしれねぇな。お前はここでまっていたらどうだ」
背虫の小男、ヴァンダイがそう言って大男のギリーの腰をぽんと叩くと下卑た笑いを浮かべて大きく頷いた。
「よおし、俺がここは引き受けるからお前は先に宝を見つけてろ」
「そうだな、早く追いついて来いよ」
「任せろ」
そんな会話が交わされているとは勿論知らず、一行は岩山に足を踏み入れていた。
かなりの急勾配の大小の岩が浮く斜面に、九十九折の道がへばりつく様に刻まれている。地理を知らずに闘うと言う事は、かなり厳しい事である認識があるのか無いのか。一行はあたりに注意を配りつつも、急ぎ足で道を進んでいく。
「あれは、ギリーか」
先頭を歩いていたフレドリクスが、小声で一行に合図する。その見据えた先にはギリーが道を塞ぐ様に仁王立ちしていた。右は崖、左は切り立った岩壁。
人一人通れるかどうかの場所で、ギリーに当たれるのは一人しかいない!
そう、戦闘で相手を待ち受ける場合には自分にとって有利な場所を占めるのが当然だ。
一行の作戦では、二人同時との戦闘作戦、あるいは各個撃破を狙った作戦であるようではあったが、戦う場を岩山とした者はいたが、それに対する考察は無かった。隘路や高低差に付いての展開があってもよさそうな物ではあったが。
ブンブンとウォーアックスを振り回すギリー。ダガーを構えるフレデリクスも引くつもりはとりあえず無いようだ。
「体勢が整えられるところまで引こう。この場所での戦いは危険すぎる」
ギリーには届かない程度の声で、そう囁くデュクス。
‥‥‥‥技量的なことで言えば、残念ながらギリーの方が一枚も二枚も上手のようで、スープレックス狙いでダガーを投げつけた後、ロングソードで応戦するがなかなか一人では厳しい。
時折、狙い済ましたセレスティの矢の援護、そして、この程度の障害は物ともしないヴルーロウのオーラショットが確実にギリーの体力を削り落としていく。
それでも一行はじりじりと後退し、ついに何人か並び出て戦う事が出来る広さをもつ場所に出た。
「フレドリクス兄さま、変わってっ!」
一人傷つく彼を庇うかのように歩み出た、デュクスと羽紗と龍鈴。
「さあ、年貢の納め時だ」
「自らの罪の重さを思い知るが良いわ」
‥‥‥‥パラパラ。
「みんな、伏せてぇっっ!!」
叫び声をあげたのはミネア。
そう、滑落した人の背丈程もある岩と土砂が上から斜面を今、押し寄せて来た所、であった。
「おおおおおおおお‥‥‥お!!」
その岩は身を低くした一行の頭上を通り過ぎていき、一人立ち尽くしたギリーに直撃して宙に身体を吹っ飛ばしていた。
人形のようになす術無く一度二度バウンドするギリーは岩山の麓でピクリとも動かなくなっていた。
「おのれ外道めっ!!」
立ち上がった信人が斜面の上を見てそう叫ぶ、
そう、あの岩が落ちそうなものを見て、ヴァンダイはギリーを囮に使う事考えたに違いない。そしてこの場所まで後退する事を予測して、前衛四人一気にと言わないまでも何人か一緒に始末しようとしたのだろう。
「ちっ、一人も殺れない上に誰も道連れに出来ずか。役立たずの木偶の坊め!」
一瞬の油断、だったのだろう。
姿を見せてギリーの運命を見届けたヴァンダイの右肩にセレスティの放った矢が突き刺さる。
彼女のその目は、一人別な場所にいるかのようでもあった。
前につんのめり。そして‥‥‥‥滑落。
「楽に死なせるかよ! 腐れっっ!!」
落ちてくるヴァンダイの腹部にデュクスのバーストアタックEXが炸裂! 千切れ飛んでいく革鎧。ラージクレイモアのフルスイングは落ちてきたヴァンダイの身体を道に叩き落とす。
そして、激しく吐血する小男。
「悪く思ってくれて構わんぞ? 痛くも痒くもないからな」
フレドリクスはそう言って歩み寄り、切先をヴァンダイに向けると、瀕死の男は大きく口許歪めて血とともに笑い声を上げた。
「くくくっ。俺も焼きが回ったよ。まさかお前等のようないい子ぶった坊ちゃん嬢ちゃんにやられるとは思わなかったが、行ってもお前等宝なんかないぜ? お互い骨折り損のくたびれも」
鈍い音。
ヴァンダイの喉をヴルーロウが力一杯踏みつけたのだ。軟骨が砕ける音と同時に口から溢れる血。
「美しくないお前はここで朽ちろ」
その行動は、皆予測できていた。ヴルーロウがやらなければフレドリクスがやっていたであろう。神聖騎士であるデュクスもセレスティも、あえてそれを止めようとはしなかった。
かっと見開かれたヴァンダイの瞳がやがて死の色を帯びていく。
祈りを与える訳もない、悪人の死を一人だけどこか別の視点で見ていたセレスティは山頂を仰ぎ見て一つ、頷いた。
「‥‥‥‥この男の言う事なんて信用できませんが、何点かあの手紙に不可解な点もあります。行って確かめてみませんか、皆さん」
●そして、宝。それは。
その岩山の頂上が、地図によると宝のありかとなっていた。普段人が通る事がなかったのだろう。鬱蒼とした背の高い枯れ草が辺りを覆っていた。
よくその辺りを見てみると、ギリーとヴァンダイが通ったであろう、真新しい枯草の切り払われた道があった。
好奇心を抑えられないのか、ミネアが先を行き一行も足早にその場所へ急ぐ。
そしてやがて開けた視界。
それは。
「お花畑!?」
すっとんきょうな声で、ミネアがそう叫んだ。一段低くなった10m四方位の窪地には数多くの白い花、スノードロップが咲き乱れ、背の低い木々には真紅が踊っていた。内側の岩壁に何本か生えている木は林檎やマルベリーの物の様であった。
他の季節には美しい花を咲かせたであろう枯れ草も風雪によって所々地面に横たわっているのが見て取れる。
そして真紅、それはカーラント(すぐりの一種)であった。
戦いの場に身を置いてはいるが、信人も子供。思わず手を伸ばして口の中に放り込んだ。次に出てくる言葉を一同はじっと待つ。すると‥‥‥‥見る見るうちに信人の顔は真っ赤になり、かくんっと膝が砕けて地面にへたり込む。
「おいっ、大丈夫か!?」
思わずヴルーロウは解毒剤に手を伸ばした時、突然信人がけたけたと笑い出す。
「こ、これ。お酒!」
「んなにおぅ!?」
思わず頬が緩んだ羽紗とミネアが一房口の中に放り込む。そして。
「う、うまあぁ!!」
シェリーキャンの姿はないが、木々に残されたカーラントの実は樹上で発酵していたのだ!
酒飲み二人がその美酒に酔いしれる中、龍鈴は小さな声で一つ、呟いた。
「これは確かにちょっとした宝、かな」
誰も知らない秘密の花園。明らかに雑多で人の手の加わった後の見えないそれは、言わば自然の作り出した奇跡。
そんな中、セレスティはバラバラにされた一枚の板を見つける。この場にはそぐわない人工物であった。
「夢の続き。私は冒険者、貴方は騎士に。振り返らないで、ただひたすらに歩んで。貴方の存在がいつも有難かったです。大好きな、ロバート。ごめんなさい。そして、本当に有難う」
一文、女性の字でそう刻まれていたのが見て取れた。
何か、言い知れぬ悲しみが込み上げて来て、思わずセレスティの真青な瞳に涙が浮かんできていた。
「それ、届けてやろうぜ。遺言‥‥‥‥になってしまったけれどな」
いつの間にか、後ろに立っていたフレドリクスの声に一つだけ頷いて答える。
「この景色、見せたかったみせたかったんでしょうね、きっと」
伝えたかったのは、想い。
ほのかな恋心。
静かな空から純白の雪があたりに降り始めていた。静寂の中、一堂はそこを後にする。最後の想いを男に届けるために。