遊冒団〜VSちびっこ盗賊団〜

■ショートシナリオ


担当:戌丸連也

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月23日〜01月28日

リプレイ公開日:2005年02月08日

●オープニング

「たいしょお、たいしょお〜」
 ぱらぱらと足音を立てながら(どんな音やねん)パラの犬飼たろ丸が尻尾をふりふり‥‥‥‥いや、犬じゃないんだからそんなもんついてる訳も無いのであるが‥‥‥‥キャメロットの雑踏を走り抜けてくる。
「お仕事です、お仕事ですーおしーごーと♪ げふっ。グーで殴りましたねっ!?」
「聞こえてるっつー。んで、どんな仕事だ?」
 むっさりもっさり筋骨隆々としたジャパンの浪人がぶぉりぶぉりとそのザンバラ頭を掻いて、そう返事をする。
 彼の名前は青柳戒次郎。御家再興を断念した父を見限り、外の国で一旗上げようと使用人の護兼雑用として来た訳だが、契約期間を満了してもあても帰るつても何もある訳でもなく。
 戦もないこのイギリスで些か身体を持て余している。そして、たろ丸はその従者って訳である。
「ギルドで拾ってきたんですけどねー、ほらーこれ安いじゃないっすか。ですから、埋もれてたんですよ」
「御託はいいからよ。なんだっつてんだろ?」
「へいへい。何でもね‥‥‥‥」
 ある村の近くの森に少年数名が住み込んで、村の店に忍び込んで盗みを働いたり、牛の糞を各家の玄関にご丁重に配置したり、飼犬の頭頂部だけハゲにしたりしたらしいのだ。
「とくに飼い犬の頭をぱげにしたのは許せませんよ!」
「毛、あんだろ? ズラか??」
「じゃなくって! ぼくは飼い犬じゃなくって犬飼です!!」
「しかし、あれだな。そんな物は村の男どもで何とかすればいいじゃねえか」
 はっ、と鼻で笑いつつ戒次郎はそうのたまうが、たろ丸はふるふると首をふる。
「それがですね、子供達も相当やり手らしく、巧みに罠を配置したり、とても村人の手には負えないようです。どうでしょうか?」
 そうだなあ、と言いながら戒次郎は虚空を見つめていた、が。その視線をたろ丸の顔を見て止まった。
「お前一人で行ってこい!」
「ななななななななな、なんですってぃ!?」
「戦ともなれば、お前も隊を率いて闘う事もあるだろう。そのときの練習として、冒険者を集めてちびっこたちを捕まえてみろ!」
「そ、そんなああああ!!」
 崩れ落ちたたろ丸に一撃蹴りを食らわして扉からたたき出すと、仁王立ちになってたろ丸を見下ろした。
「冒険者を組織して、いざこざに当たる。仕事を独自に取ってきてギルドに出せば文句は無いだろう。手数量は自分らが参加して、同額を貰ってくればいい。俺も別口を探してくるから。そうだな、遊撃冒険者団とでもしとくか。ほら、なにぼやっとしてやがる。とっとと行って来い!」
「は、はい!!」
 こうしてたろ丸はてけてけとギルドに向かって走っていった。
 さてさて、この目論見どうなることやら‥‥‥‥。

●今回の参加者

 ea1010 霧隠 孤影(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6004 エルネスト・ナルセス(42歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea6484 シャロン・ミットヴィル(29歳・♀・クレリック・パラ・フランク王国)
 ea7743 ジーン・アウラ(24歳・♀・レンジャー・人間・エジプト)
 ea8397 ハイラーン・アズリード(39歳・♂・ファイター・ジャイアント・モンゴル王国)
 ea8893 レックス・エウカリス(28歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9910 シャーリー・チャダロ(32歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb0710 アストレア・ワイズ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●森にて
 さて。冒険者一行はまず森に向かう前に村に寄った訳だが、当てが外れたと言った感じだ。エルネスト・ナルセス(ea6004)の捜したドライフルーツの販売は無かったし、蜂蜜はちょっと手の出る値段では無く。ハイラーン・アズリード(ea8397)の捜した強烈な匂いの出る物、と言った所で、具体的に何か聞かなかったので村人からそれが出てくる事は無かった。
 と、言う事で、彼等を誘き寄せる手段として残されたのはハイラーンのジャパン仮装‥‥‥‥じゃなかった装束、と。
「こ、ここから落ちたらきっと‥‥‥‥」
 怪我した旅人の振りをしようとするシャーリー・チャダロ(ea9910)の策だけであった。ちょうど良いような高さの崖を見つけたので、真っ白な視界の中、その下に落ちる事を決意するシャーリー。
「いち、にの、さんで、落ちよう。落ちたら気絶した振りをして‥‥‥‥」
 怖かったのか、思いの他勢いがついてしまって、シャーリーは斜面をころころと転がり落ちていく。選んだ高さは4mの崖の下。気絶の振りをするつもりが本当にしてしまったシャーリーだった。
 と、そんな単独行をしているシャーリーと、村に残ったレックス・エウカリス(ea8893)を除く、ハイラーン、霧隠孤影(ea1010)、エルネスト・ナルセス(ea6004)、ジーン・アウラ(ea7743)、アストレア・ワイズ(eb0710)の一行は、当ても無く森の中を彷徨っていた。
 こちらから積極的に何かをする目的がある訳ではなく、しかも冬季の森の中は皆微妙にその知識を持っているだけに、一抹の不安を持ちながらあたりを見渡していた。
 リングワンダリング。つまり特徴の無い風景は総て同じに見え。一度歩いた所を延々とぐるぐる歩いてしまうような、そんな現象。
 が、しかし。
「やられた!」
 怒気を含んだ声で、エルネストは吐き捨てる。
 薄暗い森の中、うっすらと残された小さな足跡は総て偽装であり、道から外れた部分は白色迷彩、つまり白い布で覆われていたのだ。そんな馬鹿なと思われるかもしれないが、雪の白が覆う薄暗い森の中、巧みに偽装されたそれはそこから先の道を見事に覆い隠していた。つまり、円状に同じ場所を歩くしか道が無いような錯覚を与えていたのだ。
 そして、地面に残る雪質もよくよく見ると上層にあるはずの柔らかい雪とは微妙に異なる根雪。それが綺麗に切り取られたものが置かれている。恐らくはそれを使って足跡を消しているのであろう。
「嫌な気配がするです」
 孤影が一言、皆に注意を呼びかけるように呟いた。

●違和感
 村に残ったのが、みょうちくりんなパラとハーフエルフと言う事で、村にはある種の違和感が漂っていた。レックスには感じ慣れた、あの感覚である。
「大将は安易に動き回ったりしないで構えてるもんだ」
「か、かなあ。みんなだけで大丈夫かなあ?」
「部下を信じるのも大将の勤めってもんだ」
 そんな会話をしつつも、あまり交渉をする気が進まない、と言うかさりげなく彼を避けていく村人たちを見て、少年たちは村にはこないのではないだろうか、と思い始める。
「なんか変な感じだなあ」
 たろ丸がそう漏らすがあえてレックスは何も言わなかった。
 ジャパンのパラのせいか、ハーフエルフに対する差別意識がほとんど無いたろ丸に対してこの状況を説明するのも面倒だし、動揺しているように思われるのも面白くない。
「なあに、天気が悪いんで家の中にいるんだろう」
 さて、もう一方の単独行者なシャーリーだったが。
 気づくと、朽ちかけた小屋の中にいた。
 粗末な暖炉だが、赤々と燃えているのが見える。ぼろぼろの布が何枚か、体にかけられている。
「あんた冒険者だろ。村に雇われたの? 悪いけど人質になってもらうよ。まあ、でも、あんな所に倒れてたまま放置されてた所を見ると、死んだものだと思われてたりしてね」
 朦朧した意識の中、襟元に覗く青い猫。
 この少年が恐らく、リーダーのソーマだ。
「しかし、気絶した仲間を放って行くなんてね。あと1時間も放置されていたら間違いなく死んでたな」
 低体温症を起こしているのか、体の震えが止まらずかすかに筋肉が硬直しているような感覚に襲われる。まあ、実際両手首と足首が縄でぐるぐる巻きにされているので、動く事も適わなかった訳ではあるのだが。
「こんなのしかないけど、暖まるから飲んで」
 ハーフエルフの少女が、恐らくはくまみみのネィが、シャーリーの身体を起こして縛られた手に木のカップを握らせる。中には湯が入っていた。
 人質と言っても、彼らには尋問する気も無いようだ。その理由について考えるようなシャーリーではなく、ようやく収まってきた震えを抑えるために必死で差し出された湯を飲もうとしていた。

●ひとじち
 少年達が意識的に誘い込んだそこは、彼らにとっての狩場という事かも知れない。
「な、なんだ!? 体が‥‥‥‥重い」
「アグラベイション、ですか」
 外見上一番脅威に見えたハイラーンにそれを行使してきたという事だろう。それを察してアストレアがさらに注意を促す。もう、指呼の間に少年達はアンブッシュしていると言う事だ。
 ジーンが集中してあたりの様子を探る。
「そこっ!」
 放たれたスリングショット。
 白い服を着て、木陰に隠れていた少年の手に命中し、その少年はたまらず大声を上げた。すると、勢い良く犬が飛び出してきてジーンに襲い掛かろうとする。
「駄目だモリ、行くなっ!」
「おイタはいけませんですっ!!」
 瞬間対応が遅れたジーンとモリの間に手裏剣を打ち込む孤影。それに気づいたモリはスピードを落とす。
 突如として痛みを訴えていた少年の声がぱったりとやんだ。
「サイレンス‥‥‥掛かりましたね」
 アストレアが放ったサイレンスがその少年の声を完全に封じ込めたのだ。
 そして、同時に響く犬の声。
 動きが鈍ったとは言え、ハイラーンが指をくわえて見ている訳は無い。それに先程の孤影の手裏剣攻撃で彼の方にモリが避けて来たのだ。
「ちぃとばかし痛てえが我慢しろよ!」
 その大きな拳がモリの鼻先を直撃し、モリは後ろの木に叩き付けられた。だが、悲鳴を一つあげるも、ふらふらと立ち上がって攻撃の意思を崩さない。
「モリ!」
「チェックだ」
 声と同時に冷気が姿を現した少年を包み込み、氷の角柱が一つ森の中に立つ。エルネストのアイスコフィンが行使されたのだ。
 同時に悲鳴ともつかない声でわらわらと何人かの少年たちが逃げていくような足音が聞こえた。
 追撃に移ろうとするが、人影に一同は意識を集中する。
 首から覗く、猫のアクセ。
 青猫のソーマ。
 彼が、現れたのだ。
「あんなに先走るなって言ったのにざまないね。そして、僕の策を破綻させてくれて。ほんとによくやってくれるよ」
 サイレンスで声の出ない少年に厳しい視線を向けるソーマ。
「さ、て。皆さん方。この寒いのにご苦労様。一つ人質交換と行きたいんだけれど、もしかして人質の価値を認めないかもね」
「人質?」
「あんたらと同時間位に森に入ってきた姉さんを一人預かってる。なんなら、殺してあげてもいいけれど。うちの連中も捕まってるし、交換しようよ」
 さらりと殺しても、と言ってのけるソーマに何か異質なものを感じる。かといって彼がパラであるとか小さなエルフとかで年齢が若く見えているなどという事はなさそうだ。
「シャーリーか。人質交換には異論はないが、少し話し合わないか?」
 ハイラーンの言葉に、返事は無かった。
 だが、それは否定の沈黙ではなくて、話を促すようにとの意思表示にも思えた。
「もう判っているだろう? こんな事を長く続けてはいられないと。もし、官憲に捕まれば死罪は免れまい。軽く考えていると取り返しのつかないことになるぞ」
「判ったような口を聞くね、部外者は」
 吐き捨てるようにソーマはそう言い放つ。だが、それに怯む様では冒険者はやっていられなかった。アストレアはソーマの目の高さまで腰をかがめてじっと彼の顔を覗き込む。
「もう、やめましょう。村に帰って頭を下げればみんな判ってくれる筈です。罪を悔いて皆に尽くせば」
「だから‥‥‥‥」
 そう、彼が言い掛けた時。新たな人影が二つ。
 瞬間場に緊張が走るが、来たのはたろ丸とレックスだった。
「心配ないよ、仲間だよ。たろ丸、お手!」
「わんっ‥‥‥‥じゃなくってぇ!!」
 ジーンの差し出した手に思わず反応してしまったたろ丸であった。それを見た子供たちから小さくではあったが笑い声が漏れる。
 だが、それも束の間。
「村人達との交渉は決裂した。あんな連中だったとは‥‥‥‥」
 沈痛そうな面持ちでレックスはそう切り出した。そう、ハーフエルフは迫害と言わないまでも、かなり強い差別の中にあったのだ。
 交渉の手段として、彼らを許して戻って来た所を一網打尽とたろ丸に村人たちは提案したが、レックスの発言には返事をしようとも、目を合わせようともしなかった。物は言わぬが人格を認めていない、そんな感覚であった。
「どうしたものでしょうかです」
 孤影が困りきった表情でため息をついた。落とし所は完全に失われたかのように思えた、その時。
「だったら、俺と来るか?」
 突然の声に全員の意識がそちらに集中する。なんと、そこに立っていたのはだった。
「た、たいしょお!?」
 自己紹介の場面はとりあえず省くとして、とりあえず全員に出てくるようにと言う。ソーマは少しの間考えて、皆に出てくるようにと声を上げた。
「貴方はハーフエルフをどう思うの?」
 姿を見せたネィがそう、表情をうかがうようにして問い掛ける。
「別にどうも思わんね。一緒に闘うのに必要なのは人種とか生まれじゃねえな、実際。そうだろう、みんな。闘いの佳境に好き嫌いを感じる暇があるか? 冒険者としてこれどう思う?」
 問われて苦笑する。言われてみれば冒険者ほど雑多な種族、生まれ、人種が入り混じる職業は無いように思えた。個々の信条もあるのだろうが、一堂は。
「わざわざそんな事気にしてたら、戦えねえな」
「冒険中ずっと一緒にいれば、家族みたいなものになるかも」
「ここに、自分の場所見つけたぜ、俺は」
「楽しいものですよ、いろんな方と旅するのは」
「あんまり考えた事無いです。色んな人いるなぁ、とは思ったです」
「種族より気持ちかな。合うか合わないかは人それぞれだろう」
「みんな、いいやつだよ。友達だよっ!」
 一通り全員申し述べたところで、最後に一人発言があったのは‥‥‥‥そう、シャーリーだった。皆が一緒に出てきたのにあわせて、連れられてきていたのだ。
 ソーマは一つ、ため息を漏らして首を振った。
「それが、最良の選択肢なのかもね。いきなり出てきた人間信じろって言われてもはい、そうですかとは言い難いんだけれど。ともに戦えって言うならそれもいいかな」

●戦い、終えて
 村には彼ら少年たちは追い散らして、森の中からは一掃したと報告する。あわせて、アジトとなっていた小屋を解体して、残っていた村の財物を返すと言った結末となる(少量少年たちは持っていったようだが、既に持ち去った後という事で)。
 差別と言うのは、なんて気持ちの悪い感情なんだろう。やりきれない気持ちを残しつつも、一行の心には少年達の笑顔が焼きついていた。彼ら遊撃冒険者団の行末は判らないが、とりあえず今回はなんとかなったのかな。と。