大地の美禄〜人と言う生物に生まれて〜

■ショートシナリオ


担当:戌丸連也

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月23日〜09月28日

リプレイ公開日:2004年10月04日

●オープニング

 イギリスの大地に置いて、全国民にもっとも愛されている酒は何か? と問うたら‥‥‥‥蜂蜜酒? 甘すぎる。葡萄酒? ノルマンの連中が飲む物。米酒? なんだそりゃ。
 そんなものは決まっている。
 麦酒‥‥‥‥そう、エールだ。
 で、あるからしてエールハウスでのエールの消費量はかなりの量となる訳で。
 しかしながらこのイギリスの地。
 味覚が保守的なことでも知られている‥‥‥‥のだが、新しい物を受け入れる柔軟性に欠けている訳では決してなかった。
 そんなイギリスの地に、情熱に燃える一人の醸造技師がいた。
 サム・エリュソン。35歳。
 彼は先祖代々伝わる原料麦の混合具合を示すレシピを焼き捨てて、単一麦と彼自身が奇跡の水と呼ぶ、ある森の湧水で新しい最高品質のエールで世に問おうという心積もりでいた。
 既に最高の原料小麦と言えるディビット爺さんの畑の冬小麦を押さえて倉庫に眠らせてある。
 そして、彼が奇跡の水と呼ぶヴァートンの泉(彼が命名しただけで、他の誰もその名を知らない訳だが)はオーク(欧州楢)が生い茂る丘陵地帯の麓にあり、丁度こんもりと盛り上がった火山の火口のような石灰岩の頂上に、2m位のほぼ円形の泉を成して、滾滾とその清冽な水を湧き出させていた。
 この泉を見つけたからこそ、新しいエールを作ろうという決心がついたのだ。
 先祖伝来のエールは確かに飲みやすい。
 ただ、それだけだ。
 自分も醸造を手伝いながら旨いと感じた事は一度も無かったのだ。
 そして、総ての準備を終えてこの森に戻ってきたサムはあまりの光景に大地に膝をついて放心してしまう。
「何てこった‥‥‥‥なんだ‥‥‥‥これは‥‥‥‥」
 清冽な泉の中には、大量の動物の毛が浮かび、周囲には‥‥‥‥恐らく犬‥‥‥‥と思われる獣の足跡が大量に残されていた。
 呆然としつつもサムは家に帰って木桶を取ってくると、泉の中の水を総て掻き出した。
 そして。
「絶対に、入ってこれないようにしなければな」
 サムは泉の周りに1m20cm程の柵を設けて、野犬が入ってこれないようにした。
 だが、日曜日の朝。
 泉には再び犬が水浴びしたような、抜け毛が漂っていた。
「この柵を飛び越えてきたのか!?」
 周りを囲む柵に壊された後は無く、出入り用の戸もかけた閂がそのまま残されている。
 考えにくいが、犬はこの柵を飛び越えてきたのだろう。
 今度は木枠に刃を埋め込んだベアトラップや、細い紐を用いて、紐に引っかかったら仕掛けが外れ、木に吊り上げられるトラップや、絞首紐のように結んだ紐を犬の通りそうな獣道に仕掛けておいた。輪の中に頭を通して進むと、どんどんきつく締められて行くと言った寸法だ。
 再び、日曜の朝。
 何と、総てのトラップがご丁寧に破壊されて、晒されているではないか!
「な、なんて犬だ!!」
 苦心して仕掛けた罠は、どれもこれもが破壊されて、わかりやすいように周囲の木々や草がおられてよく見えるようになっていた。
「何とかせねば‥‥‥‥何とか‥‥‥‥犬畜生どもめがっっ!!」
 元来、サムは犬はどちらかといえば好きな方であるのだが、この泉に毛を撒き散らして行くのは我慢ならなかった。
「よし、ならば‥‥‥‥これならどうだ」
 そして、次の一手は‥‥‥‥毒入りの干し肉をばら撒いた‥‥‥‥が。
 再び日曜日の朝。
「お、お‥‥‥‥おのれっ、腐れ犬どもめがっ!!」
 ご丁寧な事に干し肉は一ヶ所に纏められ、あまつさえそのてっぺんに犬糞が乗っかっているではないか!
「こうなったら‥‥‥‥こうなったら!!」

 そして、サムはキャメロットに戻ると冒険者ギルドに駆け込んでいった。
 依頼の内容は野犬の駆除。
 出来れば、泉の周りで殺して欲しくは無いが‥‥‥‥捕獲できない場合はやむを得ず、と。

 ‥‥‥‥そんなサムが冒険者ギルドを出てくると‥‥‥‥。
 それを見つめる小さな影が一つ。
 何を意味しているかは、わからない。サムは気付いてもいないから。
 だが、こうして依頼は張り出された。
 果たして、ビールは造られるのか‥‥‥‥総ては、この依頼に賭けられていた。

●今回の参加者

 ea1010 霧隠 孤影(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea1877 ケイティ・アザリス(34歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea2182 レイン・シルフィス(22歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea3657 村上 琴音(22歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3800 ユーネル・ランクレイド(48歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea5235 ファーラ・コーウィン(49歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea6832 ルナ・ローレライ(27歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●エール・B
 何時の頃かそのエールはBと呼ばれる様になっていた。ブリテン・エールと言う名が正式名称だが、その名で呼ぶのは作っていたエリュソン一家だけだったのかもしれない。
 さて。
 ケイティ・アザリス(ea1877)とルナ・ローレライ(ea6832)は泉より程近い村の一番古いエールハウス、マインに来ていた。ここであれば、サムについて何かわかるかもしれない。
「サム? ああ、あのハナたれ小僧か。親父さん達の仕事無為にしやがって」
 問い掛けられた酒場の親父は、そう吐き捨てた‥‥‥‥がその台詞程には顔は憎憎しげ、と言う訳でもなく、むしろ笑っているかのようにも見える。
「ブリテンってどんな味のエールだったの?」
 ケイティが美人二人に、と親父がサービスしてくれたエールを傾けながら、そう聞いてみる。
「正に、今飲んでるそれだ」
「もう作ってないんじゃないんですか?」
 ルナが驚いた様子でそう聞くと親父はかっかっかと笑い出す。
「あのハナたれ先走りやがるからな。取り敢えず今作ってるやつが本当に美味いか不味いか判るまでは作らせる事にした。まあ、あいつの腕は確かだし、仕事はもう全部覚えてる。紙をとっとくかどうかなんて、あいつが生きているうちはあんまり意味が無いさ」
「腕は認めてるんだ」
 ケイティがそう言うと親父は大きく頷く。
 続けて、そう言う新しい事をする事って反発もあるんだ? と聞いて見る。
「ハナたれのする事だ。ま、あいつもこの村や周辺の村の為に随分骨を折っているしな。だから偏屈のディビットも麦を売る気になったんだろう」
 

●チェックタイム
 と、二人が聞き込みをしている間、霧隠孤影(ea1010)、レイン・シルフィス(ea2182)、村上琴音(ea3657)、ユーネル・ランクレイド(ea3800)、ファーラ・コーウィン(ea5235)、ラシェル・シベール(ea6374)の六人はサムと共に奇跡の泉に到着した。
「報酬の話だが‥‥‥‥エールを含めてくれ、と言うのはだめか?」
「現物も支給しろってやつだな」
 厳しい顔でユーネルの問いにそう返すサム。
「そうだ」
「えっと、そろそろ周りを調べて見たいです!」
 一瞬、硬くなった空気を嫌ったのか孤影がそう語りかけてくる。
 そして、各自思い思いの調査を開始する。孤影はわさわさと辺りの茂みを探り、レインとユーネルは罠を設置して、ファーラはレインのお手伝い。琴音はマジカルエブタイド‥‥‥‥と思ったが透明度が高く、底まで全く何もしなくても見えてしまうので中を覗き込み、ラシェルは足跡をチェックしてみていた。
 このうち、レインとユーネル、そして手伝いのファーラの行動は準備の為なので置いて、琴音の調査も何も見つからずで‥‥‥‥足跡を見ていたラシェル。
「これ、エリュソンさんの足跡じゃないですね」
 見つけたそれは、小ぶりな靴の足跡。少し大柄なサムの物とは違うのだが、一応クリーニング‥‥‥‥見つからないよう足跡を消去しようとした痕跡‥‥‥‥がある。
「それに、足跡も二足歩行の生物の物、では無いです、ね」
「やはり、犬だと言う訳か?」
「それはルナさんが戻ってきたらはっきりしますわ。結論は急いで出さなくてもいいと思います」
「パーストの呪文使えるんですよ、彼女は」
 にこにこしながら出てきたファーラとやや困惑気味のレインがそう答えた。別に何かされた訳ではないが‥‥‥‥何かが違うような。

●AMBUSH
 ケイティとルナが戻ってきて。
 そうして、予定通り始まるルナのパーストの詠唱。その身に銀色の淡い光をまとって‥‥‥‥見えてきた、光景。
「今見えているのは‥‥‥‥早朝、うっすらと霧の立ち込める森の中。あれは‥‥‥‥犬? 1、2、3匹。白と黒と赤い毛色です。それと‥‥‥‥人間? 違いました。エルフの少女‥‥‥‥が、犬を制止して、肉を拾い集めています。犬は‥‥‥‥肉には見向きもしませんね。白い犬が肉の上で糞をして‥‥‥‥少女が閂を外して、犬を水浴びさせています」
 語られた内容は何があったか総てを物語る物で。
「コボルトではなく、犬だった訳か。しかし‥‥‥‥罠を排除してまで入る理由はなんだろう?」
 と、考え込むユーネル。
 確かに、保水量が多いオークの森の中には所々から水が湧いていて小川をなしている。ここには一匹ずつしか入れないが3匹入れるところもあるだろうに。
「理由はエルフの少女に正せばよかろう。大体、来る時間はそうそう変わらないじゃろうな、罠を外すのは森の闇の中では至難の業じゃろうし」
 琴音が辺りを見渡して、そう言うとサムはやれやれと言った調子で溜息をつく。
 それから一同は、取り敢えず昼の内は寝る事として、不寝番で見張る事にした。
「来ました!」
 流石は忍者という訳か、気付いたのは孤影。小さな声で全員に注意を発する。
 だが、相手は犬だ。孤影のその声に反応した様子は見られないが、あからさまに警戒しながら近づいてくる。
「アイ、アイム、忍者オブ忍者!電光石火いぎりす忍者!霧隠孤影です! 火遁、業‥‥‥‥」
「わーっ駄目駄目っ。森の中で火の呪文使ったら火事になっちゃうよ!」
 隣にいたユーネルが慌てて孤影の印を押さえて崩す。
 その時、発動した別の呪文!
 レインのスリープだった。抵抗に成功したのは少女のみでぱたりぱたりと犬達はいびきをかいて寝始めた。
 あからさまな異変を感じ取り、少女はダガーを抜いて辺りを見渡す。
「誰だ! 出てこいっ!!」
 言われて拒む理由は無い。一同、姿を現す。
「えぅっ‥‥‥‥」
 九人に囲まれた状態に、思わず泣きそうになる少女。だが、気丈にも構えたダガーで牽制して来る。
「無駄な抵抗は止めろ」
 斬る気は今の所無いが、クルスソードを構えて威嚇するユーネル。
「武器を置いて、ね? 犬達の安全の為にも話し合いましょ?」
 飴と鞭と言う事だろうか。ファーラがそう言ってにっこりと微笑む。
「あたしたちがさ、キミらを傷つけようってんなら、もうどうにだって出来る訳でしょ? 大丈夫、ただ話したいだけだからさ」
 と、ケイティ。
「で、いいのじゃな? 依頼主殿?」
「構わんさ、相手がこんな女の子じゃあどうもこうも無い。とにかく話してくれないか? どうしてこの泉で犬を水浴びさせるのか」
 最初のほうはあきれた様子だったが、やはり水の事となると表情が厳しくなる。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥この子達の皮膚病の治療にはこの冷泉に浸かるのが一番の治療だから。けど!」
 小さな声でそう言うが、最後の『けど』に強く、力を込める少女。
「けど、どうしたのです?」
 ルナが続けるように促すよう、そう問うと敵意剥き出しの表情となってサムを睨みつける。
「私達の方がここ、先に見つけたの! なのに何独占しようとしてるのさ!!」
 返す言葉が見つからないのか、サムは黙って少女の顔をじっと見つめていた。
「さて、困りましたね。皮膚病の治療とエールの醸造、ですか」
 本当に困ったようにレインはそうサムに問い掛ける。
「どうするかは、依頼主さん、あんた次第だ」
 ユーネルもそう言ってサムを見つめる。
「‥‥‥‥判った。なあ、お嬢ちゃん。犬達が起きたら一緒に来てくれないか? 是非見せたい物がある。それを見て貰った上で、もう少し話してみよう」

●エール蔵
 何時の時代からエールを作っていたか記録には残ってはいないが、それはかなり昔だったろうと思われる黒光りさえ浮かべるオークの蔵。
 何も言わずに棚の上から陶器のジョッキを取り出すと、7と書かれた樽からエールのような液体をついで少女に差し出す。
 ごくりっ。
 唾を飲み込む音。
 じーっとそれを見ていたのは‥‥‥‥随一の酒好き、ユーネルであった。
「私、エール飲めない。美味しくないんだもん」
「じ、じゃあ俺が!」
「残念だったな。これはモルトジュースと言って醗酵前の甘い汁だよ」
 あからさまにがっかりするユーネルに、思わず笑ってしまうケイティ。
 しかし甘い、と言われて少女はジョッキを手に取る。一口それを含み、それからこくこくと一気に飲んでしまった。
「本当に‥‥‥‥甘くて。パンみたいな匂いがする」
「じゃあ、騙されたと思ってこれを飲んでごらん」

 ‥‥‥‥。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥美味しい」
「おじさんは、これが作りたいんだ。そのためにはあの泉の水が絶対に必要なんだ。頼む‥‥‥‥水浴びは他でさせてくれないか?」
 深々と頭を下げるサムに、少女は困り切った表情でそれを見つめていた。
「だって、あの水が‥‥‥‥」
 さて。
 そんなやり取りをしている最中、弧月は物珍しいエール蔵の中をきょろきょろと見ていた。
 あちこち彷徨っていたその視線が、一点で止まる。そして、琴音の耳元でボソボソと何か話し始めた。
「あれ。使えないです?」
「あ、ああ。確かにあの寸法ならぴったりじゃろうな」
 二人の会話が気になったのか、ラシェルが二人の方にゆっくりと寄ってみる。
「どうかしたんですか?」
「ごにょごにょです」
「かくかくしかじかじゃ」
 と、二人に耳打ちされたラシェルはぽんっと手を叩いた。
「あ、ああ! お風呂かあ!!」
 弧月と琴音が見ていたのは大きな樽だった。今は使っていないようで蜘蛛の巣が掛かっている。
それを半分に割って地面に埋めて。樋を使って冷泉を入れれば、源泉掛け流しの風呂が出来る。
「‥‥‥‥のです!」
 えっへんと胸を張ってジャパニーズ風呂について語る弧月。
「へぇ、夏気持ちよさそうね。暑い時なら私も入ってみたいわ」
 と、愉快そうにファーラはそう言って、笑みを浮かべた。
「それで、どうだろう。樽は責任を持って風呂に仕立てる。だから、今後そちらに入っていただけないか?」
 大きく一つ溜息を付いて少女はつかつかとドアの方に歩いていく。
 交渉決裂?
 ドアをあけて、大きく息を吸い込んだ。
「コートニー! ハリー! アイラ!」
 呼ばれて、三匹の犬がわんわんわんと吼えた。一応外につながれているので走ってくる事は無い。
「嘘を吐いたらお尻かませるよ。それでいい?」
 交渉は纏まって、お次は。
「売り物は飲ませられないが、さっき飲んで貰った試作品なら試飲しても構わない」
 と、サムの一言で試飲と言う名のぱーちぃが始まりまして‥‥‥‥。
「ア、アイム、どりんく〜」
「あらしのエールとるなぁあ。あれ、みんらなんれこんらにいるのぉ??」
「上品な甘味じゃの。しかし、酔っ払いはみっとも良くないのぉ」
「(ごきゅごきゅごきゅ)ぷはーっ! うひーっ!! うめー!!!」
「ホント‥‥‥‥いくらでも飲めちゃうのね、このエール。だけど水っぽくない。不思議」
「麦汁って売ってもらえないものですかね? ミルクで割ったら、面白いかも」
「‥‥‥‥飲みすぎは身体に毒です」
「陽気に飲む分にはいいじゃないですか。私はあんなには飲みたくないですけれど」
 と。
 どれが自分の台詞かは後で思い出してくださいまし。

 こうして、君たちの活躍により、エールは近い内に、エールハウスで売られるようになり、犬も少女も傷付かず、幸せな結果に終わったのでした。