秘密の果樹園〜その叫びは誰の物?〜

■ショートシナリオ


担当:戌丸連也

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月24日〜09月29日

リプレイ公開日:2004年10月04日

●オープニング

●『CLOSED』
 と、書かれた木の札がかかる酒場。
 いつも昼はランチを出しており、休みではないし。
 今日は特別な日なのに、この札がかかっていた事で、酒場の前には人々が集まっていた。
「どうしたんだろうな、ジジイ」
「ついにどっか壊しておっちんじまったんじゃねえか?」
「かもな。もういい加減歳だったしなあ」
「もう、ここの飯が食えないなんて残念だねぇ」
「この村の名物が一つなくなったなあ」
「むさいツラだったが、見れないとなると寂しい物があるなあ」
「残念だ‥‥‥‥いい人を亡くしたよ」
「れおぽんはお星様になったのね‥‥‥‥」
 と、誰かが言った時、大音響と共に開かれるドア。
「いい加減にしねぇか、てめーらっ!!」
 と、怒鳴り出てきたのがこの店の主、レオポルドであった。
「それからコリン。俺の事をれおぽんって言うなって言ったろう」
 ぐわしゃっと赤毛の少女の髪の毛を軽く掴んでくしゃくしゃにすると、コリンと呼ばれたその子はむっとした表情で手櫛で髪を整える。
「なんだよ、元気ぢゃねえか」
 ひょろっとした農夫風の男が、なにやら口を尖らせてそう抗議する。
「うるせーよ、ボブ。何時休もうがこっちの勝手だろう」
 元気、とは言われた物の、目の下に熊が2匹‥‥‥‥ではなく、隈が大きく浮き出ていた。恐らく一睡もしていないのだろう。
「どうしたんだよ、どっかわりぃんなら北の村のジェイコブ先生に‥‥‥‥」
「止めてくれ、あの腐れヤブなんざに診られた日にゃ、身体いくつあってもたりねえ」
「腐れヤブで悪かったな、れおぽん」
 その声に全員が声のした方向を見ると、人ごみから外れて一人の初老の男が木立に寄りかかって立っているではないか。
「れおぽんゆうな! 大体なんでお前がここにいるんだジェイコブ!」
「どうしたもこうしたもあるか。今日だって宣伝してただろう。コケモモジャム本日お目見えってな。毎年この日にスコーン食べにきているじゃないか」
 言われて、表情を歪めるレオポルド。
 大きく首を振ると、目をつぶって吐き捨てた。
「今年はコケモモがとれなかった!」
「な、なんだって!!」
 ザワメキが辺りを支配する。
「じゃあ‥‥‥‥今年はじゃむ食べられないの? 楽しみにしてたのに‥‥‥‥食べたいよ!!」
 涙目でそう訴えかけてくるコリン。レオポルドは思わず顔を背けた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥すまん」
 そう言って、レオポルドは踵を返すと店の中に入って行ってしまった。
 呆然と佇む一同。
 だが、一人離れ‥‥‥‥二人離れ‥‥‥‥そして、その場にはコリンとジェイコブだけが残っていた。じっと何かを考え込んでいたジェイコブだったが、コリンを呼んで店の裏に二人で周った。
「コリン、あそこにヤツが昔飼っていた犬の出入り口がある。コリンなら潜り抜けられるはずだ。あいつの犬はでかかったからな」
「うん」
 するするとコリンは小さな入口から中に入ると、閂を外してジェイコブに入ってくるように促す。
そして、ベットにうずくまっているレオポルド。
「お前等‥‥‥‥勝手に入ってくるな!」
「昔を思い出して犬の出入り口からな‥‥‥‥‥‥‥‥幼馴染の様子が変なのを捨てておくわけには行くまい。で、本当にどうしたんだ?」
「‥‥‥‥出たんだ、化け物が」
「化け物?」
 恐怖を思い出したのか、ぶるぶると震えるレオポルド。そんな彼の手をコリンがぎゅっと握り締めた。
「子供にまで心配されてるようじゃ、お前も先長くないな」
「うるせえ」
「で、何が出たんだ? あの森に何か出るなんて聞いた事が無いが」
「聞いちまったんだ‥‥‥‥此の世ならざる叫び声」
「叫び声って言うと、あれか?」
 ジェイコブがそう言った瞬間、レオポルドががばっとベットから跳ね起きる!
「止せ、縁起でもねえ。もし、あいつに聞こえたら村までやってくるぞ!」
「だが‥‥‥‥そんな話は本当に聞いた事が無いぞ? もし泣き女だったとしたら、この周辺のどこかの村で甚大な被害が出てるだろうし、お前も生き残っちゃいないだろう?」
「とにかくっ‥‥‥‥俺は聞いたんだ!!」
 そう言って布を頭からかぶるレオポルドに、やれやれと言った表情でジェイコブは溜息を吐く。
「判った、ハッキリさせよう。場所は俺達の秘密の果樹園だな? 冒険者ギルドに調査を依頼してくる。俺は杞憂だと思うけどね。猿の鳴き声でも聞いたんじゃないのか?」

●今回の参加者

 ea0693 リン・ミナセ(29歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 ea0904 御蔵 忠司(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1980 鬼哭 弾王(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea3418 ブラッフォード・ブラフォード(37歳・♂・ナイト・ドワーフ・イギリス王国)
 ea5420 榎本 司(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5444 ギリアム・フォレス(42歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea6386 ジェシカ・ロペス(29歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea6690 ナロン・ライム(28歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●進め、村の希望たち!
 コケモモのジャム。
 強い酸味と爽やかな香り、赤い宝石と見まごうばかり鮮やかな赤い果実を蜜糖で味付けしたそれの発売は、楽しみの少ないこの村の大いなるイベントの一つであった。
 それがモンスターによる発売停止が伝えられた時、村人は等しくがっかりした物だが、ジェイコブにより冒険者が雇われた事を知ると、大勢がその一行を歓喜で迎えたのである。
「こ、こりゃあ‥‥‥‥派手なお出迎えだな」
 照れが入ったのか、鬼哭弾王(ea1980)はぼりぼりと頭を掻く。
「浮かれるな。相手は泣き女と聞く。気を引き締めて掛からねば全滅の憂き目を見るじゃろう」
 ブラッフォード・ブラフォード(ea3418)がそう言って弾王を咎めるが、ナロン・ライム(ea6690)がにこりと笑って割り込んでくる。
「まあ、まだ森に入った訳でもないですし、いいじゃないですか」
「過度の緊張は疲れる。相対する前に困憊では、洒落にならない」
 榎本司(ea5420)が、そう言葉を続けた。
「まあまあ。相手がバンシーなら、警戒はし過ぎてても足りないぐらいですけど、村の中っていうのもその通りですから各自の方針でいいんじゃないですか?」
 ジェシカ・ロペス(ea6386)がおっとりとした口調で述べると、その場の空気までまったりとした感じになっていた。
「さてと、まずは情報収集でもしましょうか」
 御蔵忠司(ea0904)が、そう言うと一同異存無しと言う事で大きく頷く‥‥‥‥が。
 然程大きな村でもないし、何せ歓迎に人々が集まっている。
 と、言った所で収集はあっという間に済んでしまっていた。
「う、うーん。皆さん仰る事は一緒ですね」
 リン・ミナセ(ea0693)が困ったようにそう呟くと、ギリアム・フォレス(ea5444)が苦り切った表情でそう述べる。
「或いはそう言う事なのかも知れぬが。我が輩はれおぽんに面会を求めたが拒絶された。何とも心許無いがこのまま行かざるを得まい」
 人々の期待の声を聞きながら、一行は地図を手に村を後にする。
 戦いを前にした恐怖と、自らの中にある勇気との葛藤を胸に。

●そして、森。
 森は、何て事の無いどこにでもあるような森だった。
 林業を産業としていない為、植樹も行われておらず手入れも特にされていない為、実に雑然とした印象を受ける。
「いてっ、くそっ。歩きづれぇな」
 弾王の頭にびしばしと当たる木の枝。
 森の中も深くなってくると下草も低くなってくるが、枯れ枝は朽ちずについている物も結構ある。
で、ジャイアントはそう言う意味では森の中の行動は向いていないのかもしれない。
 ‥‥‥‥。
 そんな弾王が辺りをきょろきょろすると‥‥‥‥何時の間にはぐれているではないか!
「お、お〜い!」
「なんだ? どうしたんだ!?」
 直ぐ後ろを見ると、司とリン、ギリアムの姿が見えた。
 どういうことかというと、下草が高い所を歩く内に方向感覚に狂いが生じたのである。
 下草を掻き分けるうちに隊列が乱れ‥‥‥‥先に名前が上がったのは、弾王の頭を目印に前に進んでいた者たち。
 そして、事前に渡された地図を持っていたのはレンジャーのジェシカ。
 彼女の場合は森林の土地感がある為に、正しく地図を見ることが出来た。故に、先頭を歩いていた訳だが、今一緒に行動しているのは直ぐ後ろについてきたナロンとブラッフォードであった。
「地図によると然程広い森ではありませんけれど、最悪このメンバーでバンシーに当たらねばなりませんね」
 で。
 一人はぐれたのは忠司‥‥‥‥流石に心細そうな表情で歩いているが‥‥‥‥実は彼は道ではない最短ルートを突っ切っているのだが、そんな事は判ろう筈も無く、仲間の姿を求めて歩いていた‥‥‥‥と、言うのもあったが、実は彼がはぐれたのは考え事をしていた為だった。
「ち‥‥‥‥乳房‥‥‥‥」
 いや、彼の為に釈明しておくと、別に変態な訳ではない。彼なりの知識に基づいて行動をしようという訳だ。
 が、それが正しいかどうかは現時点では判らない訳だが。
 もやもやと降りかかってくる妄想‥‥‥‥そして、モンスターとは言えそんな事をしたら責任を取らなければ。志士としての責任を考え、とーい目をする忠司だった。

●襲撃! →← 遭遇戦!!
 白い影がちらりちらりと頭上を通り過ぎ、明らかに風の仕業ではない木々のざわめきが辺りに響き渡っていた。
「来たようじゃな」
 ブラッフォード、一言そう呟く。
 当たり(?)を引いたのは彼らの組だった。

「キィィィィィィィイイイイィィッッッッ!!!」

 響き渡る叫びは森の中に響き渡る。
「猿ですか!」
 ナロンはジェシカを守るようにその前面に立つが、隊列的には後列、前に出てるのはブラッフォードだけだった!
「むぐっ!?」
 木の上から打ち振るわれた棍棒は強烈な一撃となって振ってきた。
 攻撃として避けれぬ類の物ではない。ロングソードでそれを打ち払う、が。次の瞬間その白い猿は枝を引いて頭上の樹に舞い戻っていた。
「厄介な敵じゃ‥‥‥‥地上で一対一なら、軽く屠って見せる物を」
 威嚇するように枝を揺らす猿に、ジェシカはショートボウを構え‥‥‥‥放つ!
「ギャアッッ」
 矢は過たず猿の太ももに命中する!
「敵はサスカッチ! 群れる習性のある猿ですが‥‥‥‥どうやら単体のようです。追いましょう!」
 その猿の叫びは、はぐれた4人にも聞こえていた。
 すぐさま、その方向に歩みを向ける。
「どうやら話し合って判る相手ではないようじゃのっ!!」
 ガサガサ近づいてくる白い影に気付いたギリアムは頭上に目を向けて、気合がてらに叫ぶ。
 じっとその影の移動を見つめていた弾王が、その猿が目の前の樹に飛び移ろうとした瞬間、拳を突き出した!
「うっしゃああああっ!」
 勿論それで樹が粉々に粉砕されると言う事は無いが、衝撃に揺れた樹から白い影が落ちてくる!
「き、きゃあああああっ!?」
 一行のうち一番弱そうに見えたリンに飛び掛ろうとする猿。
 その間に強引に割り込んだのは‥‥‥‥司だった!
「リンさんは、俺が守る」
 静かな声でそう述べると、上段から身体を捻って袈裟斬り気味に刀を振るう!
「‥‥‥‥浅い」
 青く微光帯びた刀は猿の傷口を凍りつかせ、鮮血の噴出を一瞬押さえるが‥‥‥‥動いた瞬間砕け散って赤が地に滴り落ちる。
 だが、致命に至るほどではなかったのか、逃げ出そうとする‥‥‥‥が、力を入れた時にジェシカに撃たれた太腿の矢の傷が痛んだのか、瞬間動きが鈍った!
「でぃああああ!!」
 気合一閃打ち込まれる弾王の拳、追撃で振り下ろされるギリアムのロングソード。
 最早樹に駆け上る力も無しにふらついた先にあった切先が胸を貫く。ブラッフォードのロングソードだった。

●おっぱいがいっぱい?
 さて。さてさてさて。
 他の面子がサスカッチを仕留めていた頃。結果として先行していた忠司は猿の叫び声を聞いて、足を止めた。
 何か、薄く霧が立ち込めて来た森の中。
「アレが、それなのでしょう、か?」
 振り返ろうとして、足を動かした瞬間!!

『ギャアアアァアアァアアァアァアアアアアアァアアッッッ!!』

 確かにそれは此の世ならざる叫び声に聞こえた。高鳴る鼓動。
 周りに仲間はいない。頼る物は無い!
 歩くごとに響き渡る叫び声の中を忠司は駆ける!
 そして見えてきた‥‥‥‥木々の陰で暗くぼうっとしか見えないが、随分と大きな帽子に確かにタイトなスカートを履いている女性の様な影が見えてきた。
 確かに叫び声はそこから聞こえる。
 思えば短い人生でした。
 父上、母上。
 異国の地で切腹する息子をどうかお許しください!
 これも人々の為!!
「乳房、失礼を致します!! ‥‥‥‥‥‥‥‥あれっ!??」

 サスカッチを屠った瞬間響いてきた叫び声に、一同の間に緊張が走る。
「出たか!」
 皆、走り行く中、リンは憂いと悲しみのこもった瞳で、打ち倒されたサスカッチに一言祈りを捧げる。
「行こう、リンさん」
「‥‥‥‥ええ」
 鮮血とあまりの戦力差に同情を覚えたのか、リンは魔法の行使を躊躇ってしまっていた。人と動物の共存など、所詮できない事なのか。
 まだ新しい赤から目を背け、リンは司の背を追っていった。

 微妙。微妙。びみょんな空気。
 響き渡る声を追って辿り着いた先。濃く白くその場を覆う霧の中、ナロンが翳したランタンの向こうで‥‥‥‥極彩色の茸に抱きついている忠司がいた。
「どうも小さいと思ったんだ‥‥‥‥」
 うめく様に、そう漏らす忠司。
 相変わらず響く叫び声は、その茸からの物だった。後から追いついてきたジェシカがそれを見て、大きく溜息を吐いて首を振る。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花、って言うのはジャパンの言葉でしたっけ。それはスクリーマー、叫び声をあげる茸です。ちなみに食べられますけど‥‥‥‥抱きつくほど貴重な物じゃないですよ、御蔵さん。そんな50cmしかない物見間違えるとは‥‥‥‥レオポルドさんも御蔵さんも‥‥‥‥霧で距離感を失ったのと‥‥‥‥心理の綾って言ったところですか」
「あは、はははは。茸、だったんだ‥‥‥‥いやあ、あははは」
 笑ってごまかそうとする忠司。仕方なく一緒に笑ってあげる一行。そうでもないとこの微妙な空気はどうにもなりそうもなかった。
「気を取り直して、コケモモの収穫でもしましょう!」
 ナロンのその声に、一同救われた気分でコケモモに向かっていった。

●お・ま・ち・か・ね
 サスカッチに荒らされてはいたが、結構な量のコケモモを手に、村に帰り着いていた。
「綺麗ですね、コケモモって」
 ティアドロップを思わせる形の赤い実を見て、普段あまり感情を表に出さないリンがそう漏らしていた。
 大鍋の中、水の代わりに使われたミードというか、コケモモジュースでミードを薄めたを入れ、結晶化した蜂蜜とコケモモを入れてくつくつと弱火で煮込んでいる。
 料理人なナロンは鍋をゆっくりとかき混ぜるレオポルドの作業をじっと見つめていた。
「当面使う分はそんなに水気を飛ばさなくてもいいし、蜜糖を入れる必要も無いけれど、長期保存する分は少し長めに煮て水分を飛ばし、糖分も上げたほうが腐らない。それから、スコーンのコツだが、とにかく手早くざっくりと作る事。粉の混ざり具合を気にしてると、上手く膨らまないからな」
 こうばしい香りを含んだ熱風と共にオーブンが開けられ、天板の上に乗ったスコーンは「狼が口を開けた」ようにぱっくりと割れ目が入っている。
「美味しそうですね!」
「うん、いつものだ。さあ、運ぶよナロン君!」
「はいっ!」
 料理人はいつも食べられないけれど、今回は自分の分もあるし、レシピもしっかりと聞いた。
 それが出た瞬間、村人達の顔に溢れる笑顔と口元に溢れる涎(!?)。
 奪い合うように皆が取っていき‥‥‥‥そして、冒険者達の分は最後に別の皿にナロンが運んでくる。
 同じ大きさに、少々がっかりしていたのは弾王だった。
「俺、ジャイアントだから身体に対して小さいなあ‥‥‥‥」
「図体でかいくせに小さい事を気にするな」
 ギリアムがそう言って苦笑する。
 クロテッドクリーム(バターと生クリームの間みたいな物)の入った壷とジャムの入った壷がテーブルの上に置かれ‥‥‥‥そして、各自のカップに手際よくナロンとレオポルドがハーブティを淹れていく。
 そして。
「皆さん、とってもいい笑顔です。そして、美味しいし。本当によかった‥‥‥‥」
「らんぷ亭の皆にも持って帰ってあげたいですね‥‥‥‥え? 名物だから食べに来い、ですか?」
「あーっ、もう食っちまった! 寂しいぜぇぇっ!」
「こっちを見てもやらんぞ。ゆっくり味わうつもりなのじゃ」
「(リンさんにあげたいが‥‥‥‥美味しそうだし食べよう)うん、とても合う。ジャムとクリームとスコーンか。美味いな」
「ふむ。微かに酒の匂いがするのぅ。ミルクとミードのハーフ&ハーフをくれぬか〜?」
「やっぱ美味しい‥‥‥‥私も後でレシピ聞かなくちゃ、ですね」
「皆に配り終わったら、ジャム残り少ないです! でも、食べられたから、ま、いいです」
 そんな一同のところにててててっと走りよってきた少女。あの時食べられないと聞いて泣いていた子だ。
「みなさんどうもありがとうございました!」
 鼻にクリームをつけた顔で、にこっと満面の笑みを浮かべる少女。

 ささやかな幸せは、確かに君たちの手によって取り戻された。
 日々の暮らしの合間の、そんな小さな幸せ。けれど、かけがえの無い物が。