悪意無き暴走?

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月10日〜03月15日

リプレイ公開日:2008年03月20日

●オープニング

 戦いの依頼は、往々にして、辛いものだ。
 誰かを助けたり、しがらみの果てに戦わなくてはならなかったり。
 何か思う所が多い。

 ───しかし。

「街道占拠ですか」
「へぇ。何が面白くて、そこに居るのかわかりませんが、迷惑なんでさぁ」
「そりゃ、迷惑でしょうねえ」
 街道を行き来する旅人や、商売人が、迷惑と一刀両断にし、話を聞いた冒険者ギルドの受付も、何やら脱力と共に、溜息を吐き出した。
 街道の道幅半分を、一里に渡って占拠しているのは、埴輪。
 埴輪と言っても、立派な(?)モンスターである。普段は、偉いさんの墓を守っていたり、廃墟にひっそりと居たりするのだが、何故に街道。どうして街道。そこは、埴輪では無い人の身なれば、理解不能はしょうがない。
 下手に手出しして、怪我しても馬鹿らしい。幸い、歩くのは遅い埴輪である。今の所、誰も襲われたという被害報告は無いが、道幅が狭くなり、子供ほどの背丈の埴輪に見送られつつ、行き来するのはどうにも、むず痒い。
 片方の手は天を挿し、片方の手は地を指し、虚ろな眼と、とぼけた口。
「暖かくなってきて、ようやく稼ぎ時なんです。それなのに、あれでは。怪我人出てからでは遅いですし」
「そうですよね」
 三色団子と、蓬餅。あったかいお茶もご馳走しますからと、街道沿いの茶屋と民宿、近隣の村人から集めてきた依頼料を、どうかひとつと、ギルドの受け付けに手渡した。
 その茶屋には、主人が好きで、良く手入れされた枝垂れ梅があるという。紅の梅が枝垂れる下で飲むお茶は格別だとかで、毎年この時分には、枝垂れ梅目当ての旅人も居るという。
 風光明媚。茶屋の前の街道の向こうには、春の浜が広がっているという。なだらかな山を背にし、春の息吹がそこかしこで香り立つのだとか。
「まさか、梅見に来たとか言わないですよね、あれ」
 ぽつりと、帰り際に茶屋の主人が呟いた。

●今回の参加者

 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4462 フォルナリーナ・シャナイア(25歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ec2197 神山 神奈(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec3613 大泰司 慈海(50歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●埴輪・埴輪・埴輪‥‥
「うわー‥‥ほんとに埴輪いっぱいだー。埴輪天国?」
 街道のはるか先まで、点々と等間隔に並んでいる埴輪の、とぼけた顔に、神山神奈(ec2197)は声を上げる。大量の埴輪など、普通はお目にかかることなど無い。
「こちらから手出しをしなきゃ襲ってこないみたいだし、ちょっと可哀想なんだけどね」 
 僅かに肩をすくめて、大泰司慈海(ec3613)も、丸い空洞の三つ空いた、ひょうげた顔を眺める。
 春風に、陽の光りを溶かし込んだような豪奢な髪がなびく。フォルナリーナ・シャナイア(eb4462)は、ハニワ‥埴輪‥墓守?と、異国の習慣に、明るい茶の瞳をくゆらせる。シュールな置物なのかと、ひとり納得する。やはり、妙に愛くるしいその姿に、心は揺らぐ。
「言葉が通じるのなら、元の場所へ戻ってもらうのだけれど。そうもいかないかしらね。茶屋の主人の言うように、集団で梅見に来たのかしら」
「にしても梅を見に来たとかだったら面白いけど‥‥そうすると倒さないでも梅が散ったらいなくなるのかなー?‥‥それまで放っておくわけにはいかないから確認不可能だけどねー」
 ぴくりとも動かないので、置物のように見える。神奈は興味深そうに、大きな黒い瞳をきらめかせ、少し屈んで覗き込んでみたりする。
 のほーん。
 そんな擬音が聞こえてきそうな埴輪の顔。
 ひばりのさえずりが今にも聞こえてきそうな、うららかな街道。
 政治、陰謀、封魔、討伐、護衛、奪還、仇討‥‥お使い、子守り、店舗テコ入れ、恋の相談。そして、埴輪。
 冒険者ギルドは日夜皆様の助っ人にがんばっています。いろんな依頼があるけれど。
「不思議な依頼がたくさん来るものだ」
 いつも落ち着いて、乱暴事にはあまり縁の無さそうな鷹司龍嗣(eb3582)だったが、今日は少し手にする武器が違う。陰陽の道具や、魔法に関するものでは無く。
 棍棒。二尺弱の、その武器は、たおやかで上品な彼の手に、妙に似合っている。
「確か三十体いるって話だから‥‥一人約八体を相手にする勘定だねー」
 神奈は、くるんと腕を振ると、鉄の金槌もくるんと回して、にっこりと笑った。思い切り割って、割って、割り倒せば、気分爽快に違いない。
「近隣住民の皆様の安全のために、破壊だね♪」
 黙っていれば渋い壮年の慈海が、茶目っ気のある笑顔で、鬼魂という金棒を構え。いざとなれば、殴る。そんな気まんまんのフォルナリーナも、微笑を浮かべながら、しっかりと杖を握り締めた。
 じりっ。と、最初の埴輪に近寄る冒険者達。気のせいか、埴輪の背後にいやんな縦線が入っているような。

●埴輪と冒険者。タコ殴りのお時間です
 よーっし!と、神奈から、真空の刃が、最初の一体に飛ぶ。流石に、一回の攻撃では倒れないが、そう何度も攻撃をしなくても、動きは止まる。パリーン。というかガチャーンというか。
「それじゃあ第一回埴輪割り大会行ってみよう〜♪ 一番たくさん割った人には豪華賞品が‥‥出ないけどね☆」
 陶器の茶碗を取り落として割ってしまえば、やってしまった感が拭えないが、割るつもりで、叩き付ければ、それはもう、爽快の一言につきる。破片で怪我さえ気をつければ、ガッチャン、ガッチャン、割りまくるのは楽しいものだ。しかし、普段の生活で、そんなにたくさん、割る品は無い。
 埴輪は、割り出がある。割って人助けなのだから、一石二鳥なのだ。
 しかし。埴輪とて、ただ割られるだけでは無い。
 最初の一体に、一撃が入った瞬間。置物状態だった彼等の機動が始まる。
 くるり。
 ずーっと先まで、街道の向うの海を向いていた埴輪の顔が、冒険者達の方へと向けられた。
「わ」
 二体目を割った慈海の声。
 その足取りは、冒険者達のおおよそ半分の速さではあるが、じりじりと寄って来る。というか、街道いっぱいに、さらに、山側へ回り込みつつ、埴輪が。埴輪が迫ってくる。
「まったく世話の焼けることだ」
 全部の埴輪があつまるまでは、時間がかかりそうだ。最初の数体は、問題無く叩き割る事が出来たが、数が押し寄せてくれば、そうもいかない。龍嗣が巻物を開く。
 どん。
 炎の玉が、埴輪の集団に飛んで行き、爆発する。火炎の風と、埴輪が砕けた爆風が、飛んできて、仲間達にも僅かにふりかかる。
「あまり、近くに寄られても、発動出来ないのが、難点か‥」
 発動距離ぎりぎりへと、打ち込むが、近寄られすぎれば、その魔法は両刃の剣なのを龍嗣は良く知っていた。
 その破片の多くや、接近してきた埴輪の行動範囲を狭めているのは、フォルリーナの塗坊アニェスと、慈海の塗坊久凪だ。上手く連携して、八の字型に、文字通り壁となる。
「ごめんなさいね。 大いなる父の祝福を受け、土に還りなさい」
 フォルリーナが淡く闇色に光り、邪悪な者にはダメージが行く魔法が飛ぶ。邪悪。ほどの悪では無いのか、その岩の体に通る魔法ではなかったのか、さして効果は見えてこない。
「パリーンと割れる埴輪さん♪ ‥‥これは面白いかも〜♪ ‥‥こんなにたくさんじゃなければ」
 龍嗣の魔法で、その数は減らされているとはいえ、迫り来る埴輪の攻撃は、塗坊にも、がっつん、がっつん、体当たりがかかる。最初のうちは、流石塗坊。なんとか受けてはいたものの、重なりまくれば、その動きも鈍くなり。さらには、塗坊の横から回り込み、のほーんとした顔を覗かせる埴輪も増えてきた。その額には、怒りの青筋マークが見えたような、見えないような。
 神奈へと、どっかんと、埴輪の攻撃が当たる。
「あう、痛い痛い! 可愛い乙女にたかる気持ちはわかるけど暴力反対ー」
 やめーっ!と、金槌で攻撃をするが、攻撃をする間に、次の埴輪が、どっかんと。
 どっかん。どっかん。
 パリーン。ガシャーン。
 埴輪の突進攻撃と、それを受け続ける冒険者達との攻防が激しさを増す。もう、囲まれまくり、塗坊達は壁としての役割をなさない。後はもう、持久戦。フォルリーナの熊犬エルにも、遠慮無しに、無表情に、どっかんと。何しろ、埴輪には、引くとか、怖いとかいう感情が無い。牽制はあまり意味を成さなかったようだ。
「もういやっ、しつこいんだから!」
 手にした杖が、唸りを上げ?ぺしぺしと、埴輪を叩くが、それが、何か? と、言いたげに、のほんとした顔が迫るのは、何だか無性に腹が立つ。丁度上手く、ひび割れた埴輪に当たれば、それなりになんとかなりそうだが、丁度そんな埴輪が彼女の前に現れる確立は五分五分で。やっぱり、どっかんと攻撃は受けてしまう。とても、痛い。
「勘違いするな。これは戦略的撤退だ」
 やっぱり、どっかん、とっかんと、攻撃を受けつつ、棍棒を振るう龍嗣に、うっすらと汗が滲む。かなり突撃を受けてしまった。
「ごめん〜許して〜俺が悪かったよー」
 慈海は、痛い痛いと、どっかんと当たる埴輪を、鬼魂で打ち砕く。もう勘弁して。そう、皆が思う頃。
「終わったか‥」
「地味に痛いですわ」
「疲労蓄積って、年みたいで、嫌んな感じだよね〜」
 がっくりと膝をついた龍嗣と、座り込むフォルリーナ。鬼魂に寄りかかって、盛大に溜息を吐く慈海。回避能力の高い神奈だけ、どうやら、そんなに怪我をしなかったようだが、後の三人は、結構どっかんとした攻撃にさらされてしまったようだ。

●春うらら
 埴輪が何故、街道に並んでいたのかわからないし、確かに、脅威になったに違いなく。一掃する事が出来た。
「海に還るんだよー」
 壊れた破片を、おっかなびっくりの周辺の人達とかき集めて、埋めたり、捨てたり、海に撒いたり。僅かに緑かかる、穏やかな海へと、ばらばらっと、慈海は埴輪を還した。砕くのもかなり時間がかかりそうなので、とりあえずは、茶屋の近くだけ。ぱんぱんと、手を払えば、美味しいお茶請けが待っている。
 陽射しの暖かい、午後。お茶と三色団子と蓬餅。疲れた体には染みる。
「ふー‥‥運動した後は甘いものが美味しいね☆」
 ぱくりと口にする団子の甘さに、思わず笑みがこぼれる。目の前には、枝垂れた紅い梅。梅の蕾は、鮮やかに紅いのに、花開くと、ふんわりと優しく色を落とし、様々な紅が、良い香りを放つ。
 枝垂れた梅のカーテンの向うから、慈海が海を背にしてやってくる。淡い水色と、緑かかった春めいた浜の浜風が、働いた胃に直撃だ。意外とお腹がすいている事に気がついて、ぺろりと食べてしまえば、まだありますよと、茶屋の主人がお変わりを持って来てくれる。これで、愛でる対象の可愛い男の子か女の子が居たら完璧だったのにと、美人さんと、美男さんと、美(?)中年さんを眺めて、もう少し若いととか、神奈は思ったりした。ちょっと内緒。
「梅見、したかったのかしら‥」
 たくさんの埴輪の欠片に手を置いたフォルリーナは、表層の意識が読み取れないかと、試してみた。そこに見えたのは、今ここで座って見ている景色のような、紅い枝垂れ梅。最後に見たのが枝垂れ梅だったのか、本当に梅を見たかったのか、埴輪の心はわからないが、ぼうっと浮かぶ、紅い枝垂れ梅は、確かにずっと見ていたい気分になる。
「サイコーだね」
 慈海は、満面の笑みを浮かべて、お茶をすすり、蓬餅の春の香りを頬ばった。冬の寒さはもう終りなのだと、体が感じる。
 預けておいた、黒猫とぶち猫を受け取ると、龍嗣は、夜になるまで、その場所に座っていた。夜はまだ冷える。
 うちよせる波の音を聞きつつ、星明りに浮かぶ紅い枝垂れ梅を眺めれば、春の香りが龍嗣をゆっくりと包んでいき。
 悪くない。そう、春の宵を楽しむのだった。