春雷の御伽噺

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 32 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月15日〜04月21日

リプレイ公開日:2008年04月24日

●オープニング

 春雷。
 豪雨と共に、轟く雷鳴。
 とある高原にも、春の嵐は襲い掛かった。
 見渡せるほどの高原。
 背の低い花が這うように咲き乱れていたその場所は、今年はどうも様子が違っていた。
 浅い皿のようなその高原は、水はけも良く、水が溜まるという事は無かったのだが、昨年起こった小さな地震や台風などで岩盤が崩れ、排水する場所に堰を作ってしまっていた。
 放っておいても、溜まった水は、いずれ地表に吸込まれ、夏がくれば日差しにその水かさを減らすものなのだが、その場所を通らなくては、山の村に辿り着く事が出来ない。
 孤立してしまった山の村の食糧事情が悪い。
 冬の間の蓄えが、そろそろ尽きる。
 この広大な湖を越えて、山を居りれば良いだけなのだが、そうもいかなくなってた。
 その湖に、妖怪が住み着いたのだ。
 弱い稲光をさせる、一尺ほどの小さな蛇のような生き物。稲光を纏うのならば、それは、ただの蛇では無いだろう。
「さても、世の理は歪む事よ。歪みが理なのかもしれないが」
 月精龍揺籃は、春雷を避けてしばし眠っていた岩陰からその湖を見て、溜息を吐いた。膨らむ月明かりに、光る湖は美しいが、それを波立たせるモノは、山の村には酷く不安なモノだろう。稲光は、すぐに収まった。そのまま、湖の底へと沈んでいったのだろう。けれども、人がこの湖を渡ろうとすれば、きっと妨害をしに出てくるだろう。あれは、あまり人を好まない妖だ。
 ほうと、揺籃は溜息を吐く。
 堤を壊すのは簡単だ。
 しかし、堤を壊せば、何十と居る夜刀神が、零れ落ち、ふもとの村へと雪崩れて行くだろう。その全てを、自分が退治する事は難しい。体当たりと、噛み付きぐらいしか有効な攻撃も無い。
 この場所で雨宿りをしたのも何かの縁。人好きな月精龍は、何とか力になろうかと、身を起こす。
 毎度同じでは、簡単に気がつかれてしまうなと、苦笑しつつ、六枚の白い羽根を羽ばたかせ、赤紫の鱗を月光に僅かに照り返し、ふもとの村へと舞い降りた。

 冒険者ギルドに、とある山のふもとの村の村長から依頼が入った。
 山の上に出来た湖を調べて、何か居たら退治して欲しいと。
「湖の中に、妖が居るらしいんですよ。はっきりと調べたわけじゃないんですが、そう、見た人が居るんです」
 見た人は、もう何処かへ旅立ってしまいましたがと、申し訳無さそうに、村長が頭をかいた。

 その言葉は、山の村にも伝わっていた。
 湖に妖が居る。決して入るんじゃないと、山の村の村長は夢枕に聞いた。
 その言葉の有無は、入ってみないとわからないが、何とも不思議な声だった。お告げは、大事にしなくてはならない。
 けれども、蓄えもあと僅か。
 悩む村長を見た子供達が、こっそり相談を始めているのを、大人達は知らなかった。
 気候は、また不安定な空模様だ。
 冒険者達が辿り着く頃には、再び、春雷を伴う、暴風雨が吹き荒れるかもしれない。

●今回の参加者

 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2364 鷹碕 渉(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec3613 大泰司 慈海(50歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292

●リプレイ本文

●高原のある二つの村
 その二つの村は、山の中にあった。
 高原は、かなり標高の高い場所にあり、その高原の麓といっても、山裾というよりは、山腹の村と言って良いかもしれない。
「伝承‥とかは、無さそうだよね‥」
 その二つの村の地理を調べ、何か伝わる話などは無いかと鷹碕渉(eb2364)は聞き込みに回るしかし、高原が、一面湖のようになってしまうという現象は、今春初めてある事で、特にそれにまつわる伝承は無かった。ジェシュファ・フォース・ロッズが、その妖が、何かわかっていれば、調べたのにと、背中に六枚の羽根を持つ月精龍ルーンヌイ・スヴェートを撫ぜつつ見送ってくれたのを思い出す。
 湖面は風が吹けば、波立つ程度で、とりたてて、目立った異変は無い。
 本当に、ここに何か妖しが潜んでいるかどうかを知りたいのは、村人の方のようだ。
 不可思議な旅人に入るなと念を押され、金子を預けられたというだけなのだから。それを見たのも村長だけ。
「不思議な話しですね‥」
 渉は呟く。山の村へと辿り着くのは困難のようだ。それ故に、依頼が出たとも言える。遠回りにでも辿り着く事が出来るのなら、この湖に入らなければ良いだけなのだから。
 愛馬銀嶺をかけて、僅かに予定時刻よりも早く現地へと到着しようと思っていたが、その荷物により、結果、仲間達と同じ時刻の到着となる。それは、早くに辿り着こうと思っていた仲間達も同様だった。
 地響きを立てる、大泰司慈海(ec3613)の連れてきた塗坊の久凪が村へと到着すると、村人達は、おっかなびっくり。遠巻きに伺っている。依頼を受けてやってきた冒険者という事はわかるのだが、流石に塗坊は村人にとっては、あまり好まれない姿のようだ。
「ごめんね〜。何もしないからね〜」
 そういうつもりでは無かったので、慈海は愛想良く、村を通過する。
 麓の村を通過すると、空飛ぶ絨毯に乗り、湖上空から、異変が無いかと探る。絨毯の影が落ちた場所から、ぱちりと、放電が見え、慌てて湖の外へと飛んで行く。手にする百鬼夜行絵図には、電流を帯びるだけでは、何者か特定は難しそうだ。
「姿が見えれば良いんだけど」
 下手に刺激するのもまずいだろうと、考えていると、山の村の方角に、ちょろちょろと動く影を見つけた。
「どうも子供みたいだね」
 麓の村で、村長に会い、こちらが良いと言うまで湖に村人を近寄らせないで欲しいと相談していたカイ・ローン(ea3054)は、当座の繋ぎにと、山の村へと食べ物を輸送する事を申し出て、空飛ぶ箒で運搬中だった。
 必ずこの異変を解決するという気持ちではあるが、ただ待つ身の山の村の人にとっては、余分に食料が届くと言う事は、気持ちに余裕が出る。何かあっても、また運んでもらえるという安心感もある。
 同じように、空を飛ぶのは、リフィーティア・レリス(ea4927)。長い銀髪がざあっと風になびく。
「湖の上に行っちゃ駄目なのか?」
 回避してきた慈海を見て、思い留まる。大きな鏡面のような湖には、さしたる変化も見えない。精霊知識も僅かにあるが、姿を現さなければ、わかるとも、わからないとも判断がつかない。
 ぬるり。
 起き上がり、雷を纏わせた、姿が、湖上空を飛ぶ冒険者達の落とす影に浮き上がった。
 そう、大きくも無い。それは。
「あれは、ひょっとして‥その前に、あのお子達ですね」
 空飛ぶ木臼で、仲間に添って飛ぶ火乃瀬紅葉(ea8917)は、どちらの村にも、被害が出ないようにと思う。そうして、やはり、山の上の村でちょろちょろと動く影を認め、それが子供だと判別する。
「ナンか、しそうよネ」
 御陰桜(eb4757)が、鮮やかな桜色の髪が風に乱れるのを気にしつつ、湖へと近寄る子供達が引きずっている丸太の束を見て呟く。
「俺は、堰の様子見てくるよ」
 山の上の村へと行くカイと慈海、紅葉と桜を見送り、リフィーティアは、偶然にも堰になってしまったという、場所へと引き返す。
 堰の前には、慈海の塗坊が待機していた。

「いけませぬ、湖は今危のうございます」
 紅葉は、子供達に駆け寄ると、その手から、引きずってきた縄をそっと外す。
 空から人が降りてくる。そんな光景に、子供達はぽかんと口をあけたまま、突っ立って居たが、縄を取られて、我に帰る。
「ボウヤ達、ナニしてるの?」
 綺麗なお姉さんが二人。もとい。紅葉は男性だが、子供達の目には、そう見える。
 子供の目線まで下がった桜の豊かな胸に真っ赤な顔で横を向き、紅葉に取られた手の男の子の顔も真っ赤だ。
「湖渡って、下の村に行くんだ」
「もう、食べ物が少ないんだ。俺達はいいけど、村長さんが困ってる」
「あんた達も心配なのは分かるけど、無理したらお父さんやお母さんがあんた達のコトまで心配するのよ?」
 やれやれと、桜は思う。可愛らしい正義感だ。子供らしく、後先考えないのはしょうがないかと、真っ赤な顔の男の子に、お話するなら、ちゃんと相手の目を見てねと、にっこりと微笑んだ。どうして顔を赤くしているのか、十分承知。その子がさらに真っ赤になって下を向くのは仕方ない。
「食べ物なら、問題は無いよ」
 カイが、持ってきた荷物へと顔を向ければ、子供達は、うわぁと、歓声を上げる。
「嵐が来てるしから。雷におへそをとられちゃうし! 早くお家に帰るんだよ」
「今、この湖には、妖が潜んでいるのでございまする。それは、必ず退治致しますから、それまで、待っていて下さい」
 この湖には、妖が居て、危険だ。黒雲は、西の空にその影を見せていた。それは、山に住む子供達も知って居て、だからこそ、早く湖を渡ろうとしたのだと言う。そして、紅葉の言う、妖という言葉に、顔を見合わせる。どうやら、妖に怯んでは、面子が立たないらしい。子供達も、何か居るのは知っていた。
 でも、カイの持って来てくれた食料があるのなら、無理して渡らなくても大丈夫。そう、大人ぶって、でも、慈海が空飛ぶ絨毯に乗せて送ろうと言えば、目を輝かせて乗ってくる。
 こまっしゃくれた子供達に桜は手を振った。胸元で、赤い糸の指輪と誓いの指輪が揺れた。
「魔物のコトは何とかするから、あたし達に任せて村で大人しくしててね。イイ?」
「お姉ちゃん達は、無理すんな?」
「‥‥紅葉は男にございまする」
 さっきとは逆に、真っ赤になって俯いた紅葉に、ええっ?! とか、でぇえっ?! とか、子供達の声がかかったが、早く早くと、慈海に空飛ぶ絨毯に乗せられて。
 そんなに驚かなくてもと、ますます赤くなってしまう紅葉は、そうそうと、湖の中に浮かび上がった妖を、自らの知識に照らし合わせて、その正体を大よそ間違いなく言い当てた。
 夜刀神。落ちぶれた神の成れの果てとジャパンで伝えられている、精霊の一種。自らの精霊力に対応した色の鱗を持つ蛇に似た姿をしており、ときおり群れて田畑を荒らしたりすることがある。
 何の伝承も無い、この高原に、何故そんな妖怪が入り込んだのか。
 動乱収まらないこの国に、とある動きが少なからず起こっているからかもしれない。それは、冒険者達の与り知らない事だが、ギルドに並ぶ依頼に見え隠れする姿は‥。

●春雷
 身体に響くかのような、遠雷の音がする。
 まだ、雨は来ない。
 けれども、すぐにあの黒雲はやってくるだろう。
 カイは、夜刀神が飛び出てくる時の、防波堤にならないかと、溝を掘る。仲間達も、その作業を手伝った。湖の両端は、切り立っており、人が歩く事すらままならなず、溝を作る事は出来なかったが、二つの村へと向かう道には、万が一の防波堤のような溝が掘られた。
「簡単なもので構わないですから」
 湖は大きい。その、堰に当たる部分だけでも、かなりの長さになる。渉は、村人に手伝ってもらって、柵を作っていた。夜刀神が飛び出る妨げになるぐらいで良いからと。
 また、遠雷の音がする。カイが空を振り仰げば、ぽつり。と、水滴が頬を濡らした。
「どれだけ居るのかな」
 ぽつり。ぽつり。
 大粒の雨が、激しい音を立てて、降り始めた。
「駄目カシラ」
 桜は、春花の術を試してみるが、睡眠を誘う香は、水に溶けて打ち消されてしまう。その上、この大雨だ。駄目もとだった術である。仕方ないから、応援してるわと、麓の村の方へと下がる。
 稲光が間近で光る。
 それとほぼ同時に、地を打つ、雷の音。
 腹に響く、その音に、夜刀神も反応しているのか、打ちつける雨に、湖面がざわざわと揺れている。ごう。と、吹き荒ぶ風にあおられて出来る波紋だけでは無さそうだ。
「うひゃ〜、すごい暴風雨だね!」
 慈海が声を上げる。
 大声でも、やっと通るかどうか。
 湖の夜刀神の気配にか、その暴風雨にか、カイの連れ来たエレメンタラーフェアリー、ユエの姿は無い。戦いの気配がすれば、身を隠すのだから、仕方が無い。風雨を浴びながら、忍犬のセイのみが、湖の周りを警戒して動いている。しかし、この暴雨風雨に、思うように動けないようだ。
 暴風に、その動きを阻害されつつも、カイは空飛ぶ箒で湖の上を飛ぶ。
 今度は、お構い無しだ。
 そうすれば、夜刀神達は、ざわざわっと、収束し、持ち上がるかのように、カイの飛ぶ方向へと鎌首を上げる。
 拘束の魔法をかけて、その動きを止め、一体づづ倒すにしろ、数が多すぎる。
「こっちこっちっ!」
 夜刀神は、人が湖に近寄ると寄って来る。
 それを見ていた慈海が、堰の近く、仲間達が戦いあぐねている場所へと、入った。
 すると、ざざざざざっと、音を立て、唸りを上げて、夜刀神は堰へ‥慈海へ向かって動き始めた。その動きは、非常に早い。
 打ち付ける風雨。
 時折光る稲光。
「あのお子達との約束の為にも、麓の村の為にも、紅葉一匹たりとも逃しはしませぬ!」
 僅かに、堰に水の流れを作ってやると、紅葉は力強く頷いた。炎の罠に最初の一体がかかる頃には、勢いづいてやってくる夜刀神達の巨大なうねりが目の前にあった。
 網や、柵は、ほとんど役には立たなかったが、一拍おくぐらいにはなったようだ。
 淡く焔に光る紅葉は、地上から炎を吹き上げる。
 その脇から、こぼれる夜刀神へと、霊刀オロチで切りつけて。なだれ、零れ落ちる夜刀神も狙い討ちされ、春雷が鳴り響く暴風雨の中、討伐は無事終了した。
 
●澄み渡る月夜の高原
 堰は壊された。
 そもそも、この堰が無ければ、湖は出来ず、夜刀神が群れて棲みつく事も無かった。もともとは、湖では無く、淡い色合いの花々が咲く高原の一角なのだから。
 浅く広がった湖は、暴風雨が通り過ぎた後、雨によって濁った水を冒険者達によって落とされる。
「大丈夫です」
 紅葉が、流れ行く濁流を凝視する。
「っ! わっ!」
 水の流れきった高原の地を、調べていたリーフティアは、討ちはぐった夜刀神を一体見つけた。魔力を使い果たしたその小さな妖を、リーフティアが踏みしめてしまい、ぬるりと足に巻きついた所を、慌てて切り裂く。
「‥ちゃんと、全部退治しておかないとな‥」
 少しびっくりした。そう思いつつ、顔に出さずに、リーフティアは、今度は踏まないようにと、真剣な表情で調べていく。
「子供なりに、考えていたんだな」
 渉は、こちらへ向かう子供が居たと聞いて、最初は、冒険の類かと思い、腹を立てた。妖がどれだけ危険か知らずに出て行く事は許しがたい。けれども、それが、村の食糧事情を考えての事だったと知ると、ふうむと、軽く腕を組んだ。
 その行動は、無謀であり、認めるわけにはいかないが、その心情は酌むべきものがあるのだろうと。
「水浴びが出来なくて、ちょっと残念」
 でも、平和になって良かったって事かしらと、小首を傾げて、桜は艶やかに微笑んだ。

「済まなかったな。世話をかけた」
 何所からか声がする。
 夜、月が昇ったら高原にて待つと、声は続いて。

 蒼く染まった夜。
 春雷、暴風雨が通り過ぎた山の夜は静かだった。
 村人達は、泥のように眠っている。酷く緊張した数日だったのだろう。
 真っ白な六枚の羽。赤紫の鱗持つ月精龍、揺籃が、すっかり水の落ちた高原で待っていた。
「お久しぶりー! 去年の秋以来だね♪ 『一度目は偶然。二度目は運命』だっけ?」
 にこにこと手を振る慈海に、揺籃は、相変わらず無邪気であるなと、頷き、左様、二度目だなと喉の奥で笑う。年を尋ねれば、さて、数えるのを忘れて何年になるかと笑われる。その長い年月の中での出会いを不思議そうに呟けば、別れも同じだけあると頷かれ。
「空を飛べると色んなところへ行けていいね。今はどこに住んでいるの? 次はどこへ旅立つのかな」
「さても、お主は子供のようよな。次から次へと‥」
 興味が尽きないのは、良いことだと、揺籃は、見た目だけは、実に渋い姿の慈海を笑う。今までは点々としていたが、棲みかを綺麗にしてもらったから、一端返ろうと思うと、また喉の奥で笑う。また会えると良いねとの言葉に目を細め、縁があれば、いずれ、必ずと。
「揺籃だと思ったんだ」
「うむ。気がつかれるかもしれぬと思っていた」
 カイの差し出す尊酒アムリタを、揺籃は、これはまたと、嬉しそうに舐めた。
 乙女の滝の顛末を、揺籃に語れば、世話をかけたな、友よと、頭を下げられる。気にしていたらしく、何所か遠い目をしているなと、カイは思った。
「一つ目巨人の集落とか、知らないかな。何の陰謀があったのか、調べてみたいから」
 ずっと気になっている。風精龍が、何故月精龍揺籃の棲みかを襲ったのか。何故、一角獣白偲の棲みかを襲ったのか。しかし、揺籃はゆるゆると首を横に振る。
「一つ目巨人の集落は知らぬが‥」
 少し考えて、還った風精龍の棲みかなら知っている。もっとも、知っていたのは人の一生分ほどの年月が経つ前の場所だと。カイがあちこちに冒険の足を伸ばしたいのを、汲み取っての答えだった。
 その場所は、揺籃の棲みかから、海に出た島にあるという。その島は、岩場ばかりで出来ており、船着場も無く、鳥が止まって休むような穏やかな場所でも無く、険しい山の頂上、風の吹き荒ぶ場所に棲んでいたと。
 しばし、眠るが、起きた時で良ければ、同行しようと約束をした。

 月が、高原を蒼く照らす。
 静かな夜が、二つの村に訪れていた。