高僧大塔宮、参戦。

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:05月27日〜06月01日

リプレイ公開日:2008年06月05日

●オープニング

「大塔宮様」
「真実は、混沌の中にあり、慈円様が正しいのかもしれぬ。しかし、俺には理解できぬ」
「慈円様に背くとの事でございますか?」
「すまんな。静かに僧として果てるのが、今上様‥‥安祥神皇の御世の為ではあるのは承知しているのだが」
「では」
「おう。権力振りかざして、叡山に物申す平織も許せないが、この混乱に乗じて、人の世に介在する鉄の御所、許すまじ」
「宮様」
「生きて帰るつもりは無い。それでも共に行ってくれるか?」
 大塔宮が延暦寺に入る時に、共に僧になった、まんまるな顔した屈強な臣下は男泣きに泣いた。
 大塔宮還俗。
 正式な手はずを経て、還俗したわけでは無い。ただ、彼の気性がこの状況を応とは答えさせなかった。実直で、素直な性格の大塔宮を慕う者は少なくない。
 十数人の手勢は、あっという間に集まった。
 それ以上は、安祥神皇に付き従ったり、都の治安を治める為に奔走している。十分と、大塔宮は笑った。


「なんと、早まった事を」
 慈円は大塔宮出奔、還俗の報をいち早く手に入れていた。
 酒呑童子の首級を挙げるつもりだろうが、酒呑童子に辿り着く前に、大塔宮の命は無いだろう。何重にも人喰鬼や、配下の鬼が守り通す。僅かな手勢でどうにかなる相手では無い。
 それに、心底倒さなくてはならないのは、平織虎長であるのだ。
「誰か、ギルドに使いを」
 ここで、延暦寺から人をやっても、あの一本気な宮はかえって態度を硬化させるだけだろう。ならば、冒険者に、命を惜しんでもらう説得を願おう。出来るならば、無駄に散る事の無いように。


「大塔宮を説得ですか?」
「家臣十数名と、鉄の御所へと向かわれまして、しかし、それはあまりにも無謀です」
「人喰鬼の中を突っ切っる必要がありそうですね‥‥」
 よろしくお願い致しますと、慈円使いの僧が深々と頭を下げた。

●今回の参加者

 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb2408 眞薙 京一朗(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

白翼寺 花綾(eb4021)/ 木下 茜(eb5817)/ トウカ・アルブレヒト(eb6967)/ 九烏 飛鳥(ec3984)/ アレット・ロティエ(ec4865

●リプレイ本文

 大塔宮の行方は、すぐに知れた。
 人喰鬼との戦線は拡大し、あちこちで冒険者達が戦いを繰り広げていた。その中に切り込む、平織でも、延暦寺でも無い兵。互いの出方に神経を尖らせていた各陣営の斥候や冒険者達は、その武士達を記憶に残す。
 白翼寺花綾もその情報を得ようと鷹を飛ばそうとするが、混戦だ。残念ながら確実な情報は得られない。木下茜が、しかとあちらの方角にと、大塔宮達の移動を告げる。
 その巨体から咆哮を上げ、棍棒や日本刀を振り回す人喰鬼。
 そして、その鬼と対峙しているのは。
「グラグラァー!」
 その可愛らしい姿からは考えられないような雄叫びを上げ、楠木麻(ea8087)が石の壁を出現させ、人喰鬼へとその重量をかけて倒す。転倒の魔法をかけようかとも考えたのだが、混戦になっている。巻き込むのは得策では無いと瞬時に意識を切り替える。
 突然の助太刀に、大塔宮達は何事が起こったのかと、怪訝そうな顔をする。
 僅かに遠くに居る人喰鬼の影が立て続けに爆発する。そして、その爆発に気をとられた人喰鬼数体が、よろめく。
「延暦寺から派遣された冒険者です。援護しまーす」
 目深にフードを被ったカンタータ・ドレッドノート(ea9455)の魔法だ。白翼寺涼哉(ea9502)の拘束の魔法が人喰鬼共を縛れば、火柱が上がる。ステラ・デュナミス(eb2099)の火魔法だ。
 走り込んだ物部義護(ea1966)は、霊刀ホムラを閃かせて、鬼と僧兵や武士の間に割って入る。
 山本建一(ea3891)が、ジェイド・ブレードの薄い刃で鬼に切りつければ、ミラ・ダイモス(eb2064)が斬魔刀から刃を飛ばし。
 速攻。
 それは仲間達に徹底されていた。
 間段を置かずに、眞薙京一朗(eb2408)と備前響耶(eb3824)の鬼切丸が、重い一撃を、まだ立っている鬼へと向かい打ち込まれ。山王牙(ea1774)がその巨体を驚くほど素早く走り込ませ野太刀を振るう頃には、大塔宮とみられる一行の周りの鬼は地に伏していた。怪我人へは回復薬を手渡す。

 失った魔法力を補うように、カンタータも富士の名水をあおり、守られるように立つ背の高い男性に近寄ろうとすれば、人喰鬼との戦いとは別の意味で押し殺したかのような気配が走る。
 冷たい視線を寄越されて、カンタータは戸惑いつつも、話しかける。
「ボク達は延暦寺からの依頼でお迎えに‥‥」
「これ以上の延暦寺からの援護は無用。確かに、戦いは楽になるだろうが、延暦寺の思惑には乗らん。とっとと帰るがよかろう」
 大塔宮らしき人物を庇うかのようにカンタータの前に出た武士が一瞥をくれる。
 延暦寺から人をやれば、一本気な大塔宮は態度を硬化させる。そう、僧侶は告げなかったか。
「白翼寺にございます。先日のご無礼ご容赦願いたく」
 張り詰めた空気の中、涼哉が頭を垂れば、大塔宮の表情が揺らぎ、涼春だったか? と、僅かに笑みがこぼれた。先日は文を届けようとしたのですがと言う涼哉に、あの時は籠り修行の最中で外界との接触を断っており、間に合わず済まなかったと頭を下げ、しかし、確実に会えるかどうかもわからない手は使わないが良かろうと苦笑された。
 それにしてもと、涼哉は心中で軽く舌打ちする。このままこの少人数で動かれれば、鬼に首を晒すどころか、平織に何らかの手を打たれないとも限らない。
 何より、無駄死にへと突っ走る様がどうにも業腹だ。誰に語る事の無い過去が、今の大塔宮に僅かに重なるような気がするのだ。
「大塔宮殿? 貴方に死なれたら、共について来た者達はどうなるんです?」
「共に死ぬだけだ。冒険者方にはわからぬ事」
 付き従う侍が、涼哉の言葉に苦笑する。しかし、涼哉も引き下がらない。
「生きて慈悲を施し多くの者達を救う事。我々が生きる理由がココにあるのです」
「御無礼ながら。酒呑童子との会談に際し慈円殿と共に在った身として申し上げる」
 京一朗が割って入る。
 酒呑童子と慈円の会談は、大塔宮も大よその話は聞いている。僅かに眉を寄せ、京一郎の話を聞いている。
 天台座主であるが為の苦悩と、度量。それを備える慈円をこのままにしておきたくは無い。そして、人を謀るは人が行為と、己が身で知るであろう、大塔宮を此処でむざむざ散らす訳には行かないと。
 しかし、天台座主と仏の慈悲という言葉は、今の大塔宮にはあまり良い言葉として受け止められなかったようである。
「天台座主。その慈悲は万人に向かう。万人には、鬼も含まれるのだよ。延暦寺の高僧‥‥天台座主様となれば、たとえ人を喰らう鬼でも慈悲の心をかける。では逆に問うが、その慈悲、果たして人の為か否か?」
 人を喰らうは鬼の性。
 それは誰にも止められない。
 涼哉はぐっと言葉に詰まる。京一郎は、大塔宮を静かに見るとそれ以上は言を継ぐ事はしない。このままここで散らしたくは無いという思いと、大塔宮の考える通りに動けば言いと思うふたつの相反した気持ちが京一郎の動きを止めるのだ。
 心の奥にこごった塊りを押し殺すかのような二人の物言いに、僅かに大塔宮は首を傾げたが、目を閉じてゆっくりと首を横に振る。

「貴殿の命の重さを鑑みるにはっきり言うが‥‥その行動は無意味に近い」
 響耶が、僅かに声を荒げる。
「‥‥お主も以前、助け手となってくれた者だな?」
「今、延暦寺は慈円殿の意志で京を戦場にしようとしている。貴殿はそれを御存知だろうか?」
「延暦寺が進軍‥‥」
 ざわりと、共の者達が浮き立つのを、大塔宮はかるく目で押さえた。
 知らぬその事実に、興味を惹かれたのか、先を促すそぶりを見せる。
「自分は貴殿なら慈円殿の意志を変えられるやも、と思っている故に‥‥戻って欲しいと思っている。いや、それだけではない。これからの先の未来の為にも失いたくないのだ。貴殿も、それに慕う僧兵もだ。平織側も延暦寺側も何かがおかしいこの状況、正しく世を見れる者が一人でも多く必要。後生だ‥‥帰還して欲しい」
「泣き落としかね?」
「っ!」
 そこまで、心が冷えてしまっているのだろうかと、響耶は唇を噛締める。
「大塔宮様が比叡山に向われた後に平織軍は京に一時退却、慈円様は虎長様を魔王と断じ、京への進軍を決意、それにより鉄の御所も京へ進軍を開始しています。
 神皇様は両者の調停を考え、御身を運ばれる事も辞さないつもりです。慈円様は真意を語らず、慈円様以外に延暦寺を止められるのは大塔宮様しかおりません」
 ミラの言葉に、大きく買ってくれたものだなと大塔宮は苦笑しつつ、思案顔の大塔宮に、牙が言葉を続ける。
「それは、京に比叡山と『鉄の御所』が攻め込むと言う事です。それだけは、何としても止めさせなければなりません。如何か、この場を引き、真に鬼を食い止める戦場へ赴いて下さい」
 必ず和平への道をと、牙は思う。
「慈円さんを止めて欲しい、というのは私も同じ。単純にやりすぎというのもあるけど、仮にこのまま虎長を討ったとしても、多分それは何かの意図に乗った形になるんじゃないかと思うの。
 延暦寺のジーザス狩り騒動の時、再び仏教に改宗した人が延暦寺に協力してるのを見て、延暦寺とジーザス教の諍いを深刻化させるような意図があるように感じたわ。本当にその人自身の意志かは別にしてね。
 このままだと延暦寺も戦乱を起こした影の駒の一つに成り果てる。『延暦寺の高僧』という立場で出来ることを探して欲しいんです。きっとそれが、酒呑達鉄の御所の意図を阻むことにもなると思うの」
 ステラにも幾つもの疑念があった。そのどれも、はっきりとした証拠は無い。けれども、このまま戦いを続けてはいけないと、それだけは強く思うのだ。
 カンタータも気を取り直して説得に当たる。
「事態は進み宮サマ方が出立された頃よりも剣呑でーす。充分講和に持ち込める段になったに関わらず、慈円さんは叡山総出で虎長さんを討ち取るべく下山の指示を出されました。慈円さんを止めて欲しいのもありますが、平織の軍では手隙の叡山を襲撃しようという動きも見られます。至急お戻り願えませんかー?」
 しかし。
 立て続けに、和議の場へと声を合わせ、延暦寺という言葉が出る度に、嫌な空気がまた流れて行く。
 大塔宮が、何度目かの溜息を吐き、首を横に振る。
「説得とお主等は言うが、延暦寺の僧として。慈円様をお止め出来るものなら、私はここにこうして居ない。話しても、話しても、私の言葉は届かなかった。否、届いてはいたのだろう。しかし、慈円様は聞き入れる気は針の先ほども持ち合わせてはおいでで無かった」
「意地や誇りを示さねばならない時が有るでしょうが、今一刻を争う最中に、この鬼以上の悪鬼が京に迫っているのです。これを止めずして一度は仏門に席を置いた者でしょうか、貴方の戦うべき戦場は、此処では無く、和睦を願う者達と共に戦う事です」
 大塔宮の心が揺るがないと見るや、牙はなおも言い募る。
「意地も誇りもお主の基準とは少し違うな。冒険者方よ。延暦寺が打って出た。ここまで来て、和睦が成ると、そう、お主等は思うのか。確かに、平織と延暦寺のみの戦いであれば、和睦の道もあるかもしれぬ。しかし、この戦はこの二つが戦っているのでは無い。鬼が居る。だからこそ和平をと言うのだろうが、そうでは無い。鬼が居るから、延暦寺は動き、平織が動くのだ」
「大塔宮さんは、大塔宮さんにしか出来ない事をやるべきでは?」
 麻が、首を傾げる。人は誰でもその人にしか出来ない事があるはずである。
 これには、大塔宮は、笑顔を見せた。
「だから、私は鉄の御所に向かう。あれが、ここ近くにある事がおかしいのだからな」
 
「見廻組として茨木童子あたりとは因縁があります故に鉄の御所の動きが全く気にならないと言う事はございませんが‥‥」
 義護も、鬼にはかける思いがある。
 一口に鬼と言っても様々で、人のように交渉を持ちかけ、裏切り、強暴する鬼も居る。一気に殲滅が出来なければ、これからじりじりと鬼との戦いは続くに違いなく。
「今上帝の為を思えばこそ、今は生き延びて頂けませぬか。帝はお優しい方で御座います、縁の遠近問わず皇家の方が亡くなられたと聞けばどれほど悲しまれるか。それに帝の戦を由とされぬ御志は尊きものでしょうが理想と現実は違いますれば、帝にはご意思を示されたとて、ソレを実行に移せる手足となるものが圧倒的に足りておりませぬ。帝が触れを出せば冒険者の多くが参じましょう、しかし全てが従う訳ではなくいつ何時離れていくかも分かりませぬ、縛られぬ者達ゆえに『帝の意思を具現化する為に冒険者だけに頼らぬ為に』も、何卒」
 お側にという言葉に、大塔宮は渋面を作った。頷かざるをえない言葉の重みがそこにあったのかもしれない。和議の場に立つために戻る気はさらさら無いようだったが‥‥。
 そんな仲間達の説得を見聞きしながら、健一もぽつりと呟く。
「還俗したならば、正直、陛下の近くで支えてもらいたい所ですね」
 今ここに居る大塔宮は還俗しているのだ。またこれから僧に戻るにしろ、今は延暦寺の高僧という立場では無い。
 大塔宮とさして係わり合いも無く、積極的に説得をするつもりもなかった健一の言葉に、大塔宮は首を横に振る。
「還俗したという事は、安祥神皇のお立場を騒がす位置に居るという事にもなるのだよ」
 ただでさえ、五条の宮で悩ましい事になっている。還俗したからといって、すぐに復権するものでも無いが、誰がどう担ぎ出すかわからない。再び高僧の位置に戻るにも、慈円の方針は頷けないのだろう。
「ただ命を惜しんで貰ったのは、これ達以外久方振りであったよ」
 大塔宮は、家臣達を見て苦笑しつつ、響耶に向かい、手を差し出した。

 今この時は、確かに大塔宮は安祥神皇の側へ一度顔を出すつもりであったが。
 ───戦は思いもつかぬ方向へと転がり出す。