紅葉峠変〜怪骨〜

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 18 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月21日〜10月27日

リプレイ公開日:2008年10月30日

●オープニング

 真赤に燃えるような紅葉が美しい峠があった。
 その峠は、深い山の中にあり、普通の人はあまり通らない。
 交通の手段としての道でも無く、何所かに通じる道というわけでも無い。
 細い、山道だ。
 ただ、その山道を登りつめ、峠に差し掛かると、眼下に真赤な色が飛び込んでくる。
 裾野に広がる一面の紅葉。
 その美しさを知るのは、猟師のみである。
 何時紅葉が色をつけるのかを正確に知る事は出来ない。その場所へ行くには、かなり歩かなくてはならず、酔狂な人もしり込みするほどの遠くにあるからだ。
 突如として湧き上がったのは死霊侍と怪骨。
 怪骨は、峠を下り、近隣の村へと向かう。死霊侍は、その峠を守るかのように、ゆらりゆらりと立ちふさがる。
 豪奢な内掛けを羽織る女がゆらりと立ち上がる。
 透けて見えるのは、その女が人では無いことを示している。
 口角を上げ、薄くと笑うは、艶やかで、酷薄な。
 手には一振りの薙刀を持つ。
 そういえば、この峠には、小さな城砦があった。
 戦乱でその城砦は壊滅したが。
 燃え盛る業火の中、落ち延びた姫が居たが、戦乱の拡大を恐れた近隣の村の男達に捕らえられそうになり、自害したという。
 ひっそりと、峠には小さな塚があった。
 苔生したその塚は、その姫を慰めるはずだったのに、年月は、無常にもその場所の意味を曖昧にする。
 人の生活圏から離れていたせいもあるだろう。
 自分達が姫を追い詰めたという負い目もあるだろう。
 年に四度が、二度になり、一度になり。
 ついに昨年この塚を参る者は誰も居なかった。当事者たる生き証人が全て鬼籍に旅立ったせいもあるかもしれない。
 詳しく聞いていない村人達は、その塚を参る懺悔と安息を祈る後悔の気持ちとを欠落させていた。
 今生き残る村人のせいでは無い。
 しかし、怨霊にそれはわからない。
 ただ、無念の内に自決し、無念が昇華する前に塚すら打ち捨てられたのだ。
 昨晩の落雷が、塚に落ちたのは、偶然か。それとも。
 真っ二つに割れた塚。
 怨霊の姫は赤い涙を流して、自分を追い詰めた村をひたと睨んだ。

 怪骨の群れを最初に見つけたのは、畑仕事をしていた青年だった。
 慌てて、村中に知らせて回るが、すでに怪骨は間近に迫り、全ての村人が逃走は出来なかった。仕方無しに、家に籠り、閂をかけ、屋根裏に登れる者は登り。じっと息を潜めて、救いを待っている。
「全部で八名。お年寄りが三人。女性が二人。男性がひとり。子供が二人。うち、お年寄りひとり、男性ひとり、女性ひとり、子供二人は家族で一軒村の真ん中。女性一人は足が悪く村はずれ、怪骨のやって来た山側。お年寄り二人は夫婦で、怪骨のやって来た山から一番遠い家ですね?」
 蒼白になった数名の村人が、冒険者ギルドに駆け込んできたのは夜半。すでに三日が経っているという。備蓄は各家にあるものの、どれだけ持つのか、生きているのかと。
 そのすぐ後に、猟師から、山中で異変ありとの依頼が舞い込む。
 どうやら関連があるやもと、その山中の異変の調査討伐依頼と、この依頼は並べて張り出された。

●今回の参加者

 eb2408 眞薙 京一朗(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb4462 フォルナリーナ・シャナイア(25歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb9449 アニェス・ジュイエ(30歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ec3527 日下部 明穂(32歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec3613 大泰司 慈海(50歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ec4348 木野崎 滋(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec4354 忠澤 伊織(46歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●怪骨の村へ
 グリフォンレオンに乗った陰守森写歩朗(eb7208)の飛影が怪骨が白い姿を晒して蠢く村の上空へと差し掛かる。
 貸そうと心積りしていた品物は、どうも見当たらず、村からの撤退時に必要だと森写歩朗が思う撤退線に黄金の枝で怪骨の動きを妨げる結界を張ろうと思っていたが、誰とも打ち合わせがなされてはおらず、道返の石を発動させつつ、そのまま移動する事になる。共に来た忍犬円は、避難して来ていた村人達への護衛を良い含めてある。後は、避難対象者を救出するだけだ。
「一番遠い場所は‥‥」
 山間の村だ。村の入り口から、一番遠い場所は、避難所から一番遠い場所でもある。
 避難所は、村の南。山ひとつ、越えた場所にあった。
 闇雲に逃げるわけにもいかず、背にもしや怪骨が襲ってくるのではないかという不安を払うためにも、山頂には、何時も人をやって村の見張りをしている。怖いながらも視認出来る場所を選んだ。もちろん、十分距離はある。
 冒険者からの食料などの差し入れは、大変ありがたかった。備蓄も無いわけではなかったが、心細く、その心遣いに感謝する。
 仲間達が保護対象者を救出して戻ってくるなら、一端この物見の場所で預かるつもりで、陣取った木野崎滋(ec4348)は、村の合間に動く白い影を見て、同時期に張り出された依頼書を思い出し、僅かに眉を顰める。
「‥‥死霊侍達の存在も気になる所。‥‥同じ場に、時同じく同属たる不死者の群れか‥‥村に現れた怪骨が何ぞの先触れで無ければ良いのだが」
 空飛ぶ箒で、アニェス・ジュイエ(eb9449)は駆けつける。空から見れば、どの山もそれぞれに、色をつけている。
 一際目立つのは紅い色。紅葉の赤を目にし、僅かに目を細める。先日見た彼岸花の色だ。
 この国では、彼岸花の赤は喜ばれず、紅葉は歓迎される。その色合いを指し示す言葉は似ているが、違う。
「‥‥そうね、こっちの赤のが、優しい感じがするかもね」
 外国生まれのアニェスにとっては、どちらも綺麗な風景ではあったのだが、山腹に広がる紅葉は、確かに幾分か穏やかな風景であった。
 その、穏やかな風景に縁取られた村の中で、恐怖に耐えている人々が居る。
 紅葉の隠れ名所。
 地を走りながら、もう一方の依頼書にある記述を思い出し、忠澤伊織(ec4354)は、最近見かけない酒友達がふと過ぎる。紅葉狩りで一献を喜んだだろう。だが今は、取り残された人々を救うのが急務と、アニェスから借り受けた韋駄天の草履で駆ける。一刻も早く。
 それは冒険者達に徹底された行動だった。
「怪骨の群れがいる村に取り残されたんじゃ、怖くて心細いだろうなぁ‥‥」
「俺だったら一人置いていかれたら、怖くて泣いちゃうね」
 同じく走る大泰司慈海(ec3613)が渋い年配の顔をくしゃっと渋面にする。避難所に逃げても、不安気な人々を思い出す。滋には、魔除けの風鐸を預けてきた。自然の風が吹かなければ、効果は発揮しないが、鳴ればアンデッドは入れない結界が出来、その場所から遠ざかろうとする。気休めかもしれないが、無いよりはあったほうがいい。
「‥‥御老体が多いのが気懸かりだ、急がんとな」
 滋に呼子笛を手渡してきた眞薙京一朗(eb2408)は、怪骨を移動中にも警戒する。村を探し回った挙句、人の気配で村からこちらへと、動いていないとも限らない。
「怪骨の群れとなると、ありがちとはいわないけれど不自然というほどでもないわよね‥‥過去に何があったにせよ、今を生きる人が死者に脅かされる必要は無い‥‥必ず、助けましょう」
 ただ、もうひとつの依頼が気がかりだった。推測はいくらでも立つ。しかし、推論を重ねるよりも、今は救出に力を注ごうと日下部明穂(ec3527)は思うのだった。

●白骨の割れる音
 幸い、村の外へと怪骨は出ては居なかった。
 人の気配がまだ村に残っているからだろうか。
 怪骨が群れている場所が、点々と見える。
 その場所は、事前に聞いていた救助対象者の家に間違いは無かった。人の気配に寄せられて、動いているのだ。
 どの怪骨も武装していないのが救いか。
「こちらにいらっしゃいな?」
 村の中心を走る大通りに明穂が踏み込んで大声で叫ぶ。
 救出に来たと、潜む人達に聞かせるためであり、怪骨の注意を引くためでもある。
 走り込んできた冒険者達に、怪骨の注意は一斉に向いた。
 そして、上空からの衝撃で、がくりと、体を崩す怪骨も居る。飛影が過ぎる。森写歩朗がグリフォンで通過したのだ。
「さあて」
 伊織が、魔力を帯びた太い棍棒鬼砕きで、怪骨の攻撃をそのまま返す、鈍い音が響き、がらりと怪骨がよろめく。
 怪骨達は、大通りの正面からやってくるだけでは無い。横合いの路地から、ふいに躍り出る怪骨。京一朗は、横合いからの攻撃に備えていた。鬼神大王と呼ばれる太く長い刀が、怪骨を薙ぐ。その骨の手が、吹き飛び様に京一郎を掴もうと伸ばされるが僅かに届かず。がらがらと音を立てて、地に散じ。
「路地に気をつけろ‥‥今外で動いているのは恐らく不死者のみ‥‥皮肉だが」
「それにしても、なんでこう、ウジャウジャ怪骨が湧いてるんだろ」
 強力な鬼の力が宿っているという、鬼魂と名のある棍棒で、怪骨の攻撃を受けて振り抜く。胴を薙ごうとすれば、怪骨の手が目の前まで迫り、しばし、着物を掴まれる。こちらの攻撃で吹き飛び、絡みついた白骨が揺れて落ちる。
「目的があるのかなあっ?!」
 迫る怪骨の攻撃をぐっと受けて振り抜けば、がこりと、骨の砕ける音が響く。京一郎が、横合いからの怪骨を粉砕しつつ、ちらりと、閂のかかった手前の家を眺める。
「老夫妻から救出だったか?!」
「ええ、そうだと思ったわ」
「一番遠くだから、足の悪いお姉さんだよ〜!」
 明穂が、乾三本線が刻まれた小太刀、照陽と坤三本の破線が刻まれた小太刀、影陰で、怪骨と退治しつつ頷けば、慈海がそれを訂正する。
「どちらでも構わないが、どうやら怪骨はこっちに集まってきてる!」
 何体目かの怪骨を地に伏した伊織が、続け様に襲い掛かる怪骨の腕を払い、そのまま、衝撃を与えに踏み出して声を上げる。
「アニェスさんと、森写歩朗さんに任せれば良いって事ね」
 ぎちりと、怪骨と小太刀が打ち合い、軋む。明穂はさらりと流れる髪を僅かに怪骨にすくい取られ、眉間に皺を寄せ、押し戻す。
 手前は乱戦となっている。今この時点で一番近い老夫婦の扉を叩くのは難しいだろう。
 がこり。がこり。
 怪骨が次々に襲い来る。

「よし!」
 森写歩朗のレオンの飛影が怪骨にかかる。その影では無く、命ある生物の気配を感じて、しゃれこうべを僅かに上向かせる怪骨は、その鉤爪の一撃を食らう。
 レオンから降りると、油断無く、日本刀姫切を構えて不意打ちに注意する。その刀は死者を切るために鍛えられたといういわくがある。
「大体、この辺りは良いみたい?」
 慈海から借り受けた空飛ぶ絨毯から降りたアニェスが、閂のかかった家の戸を叩く。しばらく、音がしなかったが、何度か叩くと、閂が外される音がした。
 立て付けの悪い戸が、開けば、今にも崩れ落ちそうな女性の姿。家の隙間から、覗いていたようである。彼女は足が悪い。抱えて空飛ぶ絨毯でまずはひとり、避難所へと向かう。

「お願い」
「任せろ」
 アニェスが滋に女性を託すと、すぐに取って返す。
「大丈夫だ。すぐに皆、合流出来る」
 残された女性が不安げに視線を彷徨わせる姿に、滋が安心するようにと笑いかけた。

 大立ち回りを繰り広げている釣り出しの冒険者達は、決して弱くは無い。しかし、怪骨の数が多い。村の中へと踏み込んでいけば、攻撃は前方からくるだけでは無く。
 伊織がゆらりと棍棒の先を揺らせば、明穂が小太刀を油断無く構え。
「‥‥囲まれたか」
「打ち砕くまでですわ」
「ほんっとに減らないねっ!」
「来るぞっ」 
 うーと唸りそうな顔で、慈海がやや高めに棍棒を構え直せば、京一郎が声を上げ。僅かな間が空いただけで、次の攻撃がすぐにやってくる。つかみかからんとするその白い骨の手は、命を奪うためなのか、何かを訴えるためなのか。そのどちらもなのか。
 
 家族で閉じこもっているという家からは、反応が無い。アニェスは言葉をなくす。助けだといえば、すぐに開けてくれるものだと信じていたのだ。見ず知らずの人々が、怪骨を倒している。それが助け手だと、素直に信じられる人ばかりでは無い。
「骨やっつけてたよ」
「うん、俺も見た」
 子供の声がする。また隙間から覗いていたのかと、父親らしき怒声が響き。
「下がらせましょう」
 森写歩朗の指示で下がって行くレオン。決して村人を怖がらせたりする心積りでは無い。
 しかし、ただでさえ一般人には馴染みの無い生物だ。彼等の目に触れないように行動するのはとても大切だった。
 目の下に隈を作った壮年の男性が最初に顔を出す。家族を守る為に、あまり寝ていないのだろう。気持ちがささくれ立っているのがわかる。なんとか宥めて空飛ぶ絨毯に急ぎ乗ってもらい、慎重に飛んで行く。積載量ぎりぎり一杯だ。

「もう大丈夫、安心してね」
 ふわりと香る桜の香り。
 甘い香りは緊張を僅かに解きほぐす。
 愛馬クラウスを繋いだフォルナリーナ・シャナイア(eb4462)の優しい手が、声が響いていた。
 やわらかな印象を与えるフォルナリーナへ寄って行く子供達。泣き叫ぶものは居なかったが、子供達と一緒に小さく歌を歌う彼女の姿は、苛立つ大人達も心和む風景であるようで。
(「良かった‥‥あまり騒がれて、怪骨が万が一向かってきたら困りますもの」)
 フォルナリーナは、内心で安堵の溜息を吐いた。
 様々な物を渡され、避難した人々の顔が次第にほころんでいたのは、渡されたのが物では無く、集まってくれた冒険者達の気持ちであるという事を感じているのだろう。

 路地を覗いた京一郎は、潜んで居ないのを見て、頷く。
「終わりかなっ?!」
「‥‥そのようですわね」
 慈海と明穂、伊織が、肩で息をしている。僅かに怪骨に掴まれたりした場所がしくりと痛むが、酷い怪我というわけでは無い。
「後は老夫婦‥‥だけかな」
 老夫婦は、扉を叩くと、すぐに顔を見せてくれた。
 怪骨は、どうやらもう何所にも姿は無いようであった。
「悲しい魂が、大地に抱かれ安らぎを得る事が出来ますよう‥‥」
 砕けた怪骨を見、もうひとつの依頼の場所である方角を眺めてアニェスはぽつりと呟いた。

●村の北
 とりあえずは、一息。
 山の上から冒険者達は、救助した人々を絨毯に乗せたり、背負ったりして、避難所へと向かう。
 怪骨が現れ、山中では怨霊と死霊侍が現れている。
 このまま何もなければ良いのだが、何かあっては遅い。
 もう一方の依頼に書かれていた場所の事を探るつもりだった。
「怪骨‥‥いえ、死者や墓、怨念に関係する事などで、思い当たる事はありませんか?」
 森写歩朗が村人に手当たり次第に聞いていると、助け出した老夫婦が、そういえばと、首を傾げる。
「北の山は呪われているから、入ってはならないと、昔親に聞いた事がありますねえ」
「呪われている?」
「ええ。それ以上は怖い顔で睨まれて、聞けませんでしたが」
「その峠でね、怪骨と同じ頃、死霊侍と姫の怨霊が出たんだって」
「大丈夫、そろそろ向こうも方がつくんじゃないかな」
 アニェスの言葉に、村人は色めき立つが、依頼出てたからと、慈海が大柄な背を丸めてくしゃりと笑えば、そうなのかと、皆安堵する。
「関連、あるのかな‥‥やっぱり」
 伊織も並べて張り出された依頼書を思い出して、首を傾げる。
 子供の頃は、駄目と言われれば、行くものだと、老人達は口々に自分も行った。我も行ったと助かった気安さからか、顔を見合わせて笑う。
「それで‥‥」
 アニェスが言葉を継げば、老人は軽く肩をすくめた。
「なーんもありゃせんかった」
 遠くだから、行って帰るだけでも一日はたっぷりかかる。帰ったらこっぴどく怒られて、二度と行かない。それが、この村の年寄りの話しだった。その子である親世代は、そんな場所がある事すら知らなかった。
 老人達が気にしていないのだから、入るなという教えも続かず、入るなと言われなかったら、そこはただ不便な深い山にしか過ぎず、わざわざ苦労して登る必要も無いのだから。今現在小さな子供達に至っては、今初めて聞いた話で、小突き合っている。
「ただ‥‥」
「ただ?」
 伊織が首を傾げる。
「大昔に、城があったって聞いたけど、何でまたうちの村に異変が起きるのかねえ?」
 その原因は、数日たたないうちに、知らされる事になるのだった。
 紅葉が、燃え上がるかのように美しかったという。