紅葉峠変〜死霊侍〜

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月22日〜10月28日

リプレイ公開日:2008年10月30日

●オープニング

 真赤に燃えるような紅葉が美しい峠があった。
 その峠は、深い山の中にあり、普通の人はあまり通らない。
 交通の手段としての道でも無く、何所かに通じる道というわけでも無い。
 細い、山道だ。
 ただ、その山道を登りつめ、峠に差し掛かると、眼下に真赤な色が飛び込んでくる。
 裾野に広がる一面の紅葉。
 その美しさを知るのは、猟師のみである。
 何時紅葉が色をつけるのかを正確に知る事は出来ない。その場所へ行くには、かなり歩かなくてはならず、酔狂な人もしり込みするほどの遠くにあるからだ。
 如何してか、その峠で異変が起きた。
 突如として湧き上がるのは死霊侍と怪骨。
 怪骨は、峠を下り、近隣の村へと向かう。死霊侍は、その峠を守るかのように、ゆらりゆらりと立ちふさがる。
 豪奢な内掛けを羽織る女がゆらりと立ち上がる。
 透けて見えるのは、その女が人では無いことを示している。
 口角を上げ、薄くと笑うは、艶やかで、酷薄な。
 手には一振りの薙刀を持つ。
 そういえば、この峠には、小さな城砦があった。
 戦乱でその城砦は壊滅したが。
 燃え盛る業火の中、落ち延びた姫が居たが、戦乱の拡大を恐れた近隣の村の男達に捕らえられそうになり、自害したという。
 ひっそりと、峠には小さな塚があった。
 苔生したその塚は、その姫を慰めるはずだったのに、年月は、無常にもその場所の意味を曖昧にする。
 人の生活圏から離れていたせいもあるだろう。
 自分達が姫を追い詰めたという負い目もあるだろう。
 年に四度が、二度になり、一度になり。
 ついに昨年この塚を参る者は誰も居なかった。当事者たる生き証人が全て鬼籍に旅立ったせいもあるかもしれない。
 詳しく聞いていない村人達は、その塚を参る懺悔と安息を祈る後悔の気持ちとを欠落させていた。
 今生き残る村人のせいでは無い。
 しかし、怨霊にそれはわからない。
 ただ、無念の内に自決し、無念が昇華する前に塚すら打ち捨てられたのだ。
 昨晩の落雷が、塚に落ちたのは、偶然か。それとも。
 真っ二つに割れた塚。
 怨霊の姫は赤い涙を流して、自分を追い詰めた村をひたと睨んだ。

 あな悔しや。
 姫の怨霊は泣く。
 領民に裏切られた無念は、胸をついた小太刀から染み出る血の色のように生々しい。
 姫に付き従うのは、十数体の死霊侍。
 そこそこに腕が立つ。日本刀を持ってゆらりとゆれた。

 紅葉を見に連れ立って山を越えて来た猟師仲間が、遠くからその異変を見た。
 山に暮らす者は、異変に敏感だ。
 慌てて引き返す。死霊侍とは、距離があったのが幸いであり、綺麗だが、恐ろしい姿の怨霊が追ってこなかったのが幸いした。怨霊が本気で襲いかかっていたら、彼等は逃げ切れず、ひとたまりもなかったろう。
 怪異の調査と、出来れば討伐を。
 その近辺の山々を根城とする猟師達から、そんな依頼が届いた。
「おや‥‥場所が‥‥」
 冒険者ギルドの受付は、先に届いた怪骨退治と村人救出の依頼と見比べて、首を捻る。
 これは、同じ地域。
 関連があるのかもしれないと、並べて貼り付ける事にした。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2046 結城 友矩(46歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb3867 アシュレイ・カーティス(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

菊川 響(ea0639)/ ジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)/ ディートリヒ・ヴァルトラウテ(eb2999)/ 鳴滝 風流斎(eb7152

●リプレイ本文

●嘆きの戦い
 細い獣道を尋常ならざる速さで進むのは冒険者達。
 なるべく早く。
 その思いは徹底されていた。
 山中の空気は冷たい。じき、冬が来る。明け方の冷え込みは、色づく紅葉の赤を際立たせ。かの地へと辿り着けば、ゆらりと蠢く死霊侍の一群が見えた。
「結城殿」
「おお」
 前衛にと歩を進める陸堂明士郎(eb0712)へ、淡く桜色を纏い、自身の士気を高めた結城友矩(ea2046)が、やはり淡い桜色に発光しつつ、彼の武器の威力を上げる。明士郎も自分へと士気を高める色を纏う。
「武運を」
 最前列で移動をしていた天城烈閃(ea0629)が、ゆるりと微笑み、道を外れ、僅かに下り坂の森の中へと分け入って行く。横合いから回り込まれるのを防ぎ、死霊侍の背後をとれればと。
 猟師達から出掛けに聞き込んだ烈閃と明士郎により、この地にかつては城砦があった事が知れている。その詳細はわからなかったが、猟師達が触らない忌み石として、その場所近くには苔生した小さな石がある事も。
(「物事にはそれなりの理があるという事だ」)
 烈閃が漆黒の弓矢ソウルクラッシュボウに矢を番え、最初の一矢を死霊侍の中へと飛び込ませた。
「どこかに預けられれば鈍器丸をつれてきたものを〜」
 後方では、トマス・ウェスト(ea8714)が、自身にとってはかなりの荷物に喘いでいた呼吸を整えている。怨霊に直にぶつかるとなれば、ペットは置いてくるのが良いのは十分承知。
「数は十七体。ほぼ固まっているけれど」
 琉瑞香(ec3981)が、声を上げた。不死者を探査する魔法を使っていたが、探査出きた頃には、前衛の目の前に見えていた。しかし、正確な数はそれで知れるし、もし彷徨う者が居れば、不意打ちには効果があっただろう。
 今は固まっているが、近付いていけば、死霊侍達も移動を開始する。全員に、アンデッドからの攻撃から身を守る魔法を付与しようと思っていたが、行動が追いつかず、間に合わない。
「これは?」
「必要でしたらと思い」
「そうか」
 多くの巻物を有する鷹司龍嗣(eb3582)は、地中に潜れる魔法を選択し、付与しようとするが、とりあえずは、使う予定はなさそうであり、やはり間に合わない。
「では」
 次なる巻物は雷撃を飛ばす魔法だ。自身から、一直線に飛ぶそれは、混戦前でなければ、見方をも撃つ可能性がある。前衛達の僅かな隙間から放った雷撃が、死霊侍へと吸い込まれる。
 何か思いを残しているに違いないと、ねじくれた宿り木から作られたモルフィスの杖を握り締めながら、距離が迫る死霊侍の群れを見て龍嗣は端正な眉を顰める。
「かなりの数だが、なぜ急に現れたのか‥‥。近隣の村にも怪骨が現れたと聞く。そちらもかなりの数らしいが、何かがあったのだろう。また同じように怨霊が現れないよう、原因を突き止めなければ、な」

「では、この辺りに‥‥」
 瑞香は、魔除けの風鐸を木に結びつけようと動く。
「こちらに寄って来た死霊侍は引き受けましょう」
 セピア・オーレリィ(eb3797)が十字架を象った魔法の槍聖槍グランテピエを構える。腕には白銀の篭手。攻撃を受け流すには十分な装備だ。
 そして、淡く光ると、聖なる結界を作り出す。
 ああ、私が作ろうと思っていましたと、瑞香が風鐸をようやく括りつけて振り返れば、怨霊戦には、僧侶さんが無くてはならないからと、セピアが頷く。
 死霊侍の後方に浮かぶ死霊の姿が冒険者達の目に入る。
 玲瓏たる面。その切れ長の目からは、真っ赤な色した涙とおぼしき後が二筋。表情は無い。
「死してなお、姫を守り抜く精神は、武士道というものか。哀しい、な」
 背後の怨霊を守ろうとするかのように押し寄せる死霊侍を見て、アシュレイ・カーティス(eb3867)は呟く。侍は、故国でいうナイトと同じ。その矜持に思いを馳せる。
 友矩と並ぼうと、ケルト紋様が刻まれたコルムの槍を構えて追いつこうとするが、歩を進める明士郎と友矩は僅かに早い。
 びょう。
 びょう。
 何本もの矢が森から、死霊侍の群れに打ち込まれているが、死霊侍は微動だにしない。うち、何体かは、その矢により、がらりと地に崩れ、動かなくなっては居たが、動揺する事も無く。ただ、生者の気配を感じてか、烈閃の移動する森へと、数体が、移動する。
「はぐれた者が居るのでしたら」
 淡く月光を纏い龍嗣が放つのは、月の矢。しかし、月の矢は指定対象が副数体居る場合は、自らに帰る。その衝撃は、龍嗣に膝をつかせ。急ぎ、瑞香が回復をかける。両手に二本持った無我の杖が軽く揺れ。

 前方では、打ち合いが始まっている。
「けひゃひゃひゃ、コ・ア・ギュレイトォ〜!」
 トマスの複数を呪縛する魔法が飛べば、死霊侍の何体かの動きが止まる。そうなれば、もう打突の攻撃を防ぐ事は難しい。
「如何な理由があれど、生ある者に害を成すなら斬り伏せるのみ」
 明士郎が、名工胴田貫の作である日本刀胴田貫を抜き放ち、ぐっと迫ると、打ちざまに振り抜いて。返す刀で、崩れ落ちる死霊侍のしゃれこうべを飛ばす。
 がしゃがしゃと、死霊侍が崩れ落ちる。
「抜かせはせん。我と思わん者は掛かって来い。拙者が冥府に送り返してしんぜよう」
 横合いから僅かな隙をついて出てくる怪骨には友矩の胴田貫の白刃が踏み込んだ上段から振り下ろされれば、死霊侍の古びた日本刀が、へし折れ、兜ごと、乾いた音と共に、地に膝を着く。そのまま地に伏せよといわんばかりに振り抜いて。
 友矩と逆側へ抜けようとする死霊侍は、アシュレイに阻まれる。狭い道すがら、槍は振るい難いが、前衛二人より、少し遅れたのが幸いし、それなりの場所を確保していた。イギリス正当たるその槍の切っ先が、滑らかに死霊侍を打ち。
「ただの悪霊にしては、なかなか‥‥。生前は、さぞ腕の立つ侍衆であったのだろうな。こんな姿になり果ててまで、苦しみもがいてなお、成したかったことがある‥‥か。今、その苦しみからも解放してやる」
 横合いへと進んだ死霊侍は烈閃の矢の餌食になっている。打ち込まれて膝を突き、尚日本刀を杖にして立ち上がろうとする死霊侍へ、烈閃は敬意を込めて、再び冥途へと送り返す矢を放つ。空を裂いた音が響いた。
 己が仲間に背を押されるかのように、広がる死霊侍は、前衛にほぼ討ち取られて行く。背後には聖なる結界が広がれば、そちらへと向かう者は居ない。瑞香の拘束の魔法も飛び、戦いは有利に進んでいく。

「女性の怨霊と死霊侍、ね。怨霊の身形と、死霊と化しても侍が付き従ってることを考えればやんごとなき人だったのか‥‥何を恨みに出てきたかは知らないけれど、静かに眠らせてあげましょうか」
 瑞香とトマスを守るかのように前に立つセピアは、攻撃の余波が来にくい。それゆえ、浮かぶ怨霊を良く見ることが出来た。
 死霊侍の数が減ってくると、その背後に浮かぶ姫姿の怨霊が、苦悶の表情に変わって行く。
 胸をかきむしれば、その胸には、真赤な血の跡。
「非業の死を遂げた姫君が成仏出来ぬでござるか。その未練‥‥」
 この刀で断ち切らせてもらおうと、友矩は刀を握り直せば、間髪入れずに怨霊は揺れると、凄まじい勢いで迫って来た。
「無念を背負ったまま現世をさまようとは何たる無慈悲、ここは聖なる母と御仏の慈悲により我が輩が成仏させてくれよう〜」
 何時もと変わらぬ、出で立ち、口調で笑うと、トマスは何度目かの拘束の魔法を放つ。同じように、瑞香からも、拘束の魔法が飛び。
「何が未練か? その未練、果たせれば成仏叶うだろうか?」
 明士郎の言葉は怨霊に届いたのだろうか、拘束され、苦悶する姫の長い黒髪が、空に舞う。指し示す指は、先ほどまで浮かんでいた足元。
 そこには、真っ二つに割れた、苔生した塚のような石があり。
「安らかに‥‥」
 瑞香から、浄化の魔法が飛ぶ。同じように、トマスからも放たれた、浄化の魔法が姫を捕らえ。
 間に合わなかったかと、せめてもの餞にと用意していた七色に僅かに光る七徳の桜花弁を友矩は手の中で弄んだ。
「成仏なされよ‥‥」
 ざあと、紅葉を揺らす風が吹き、瑞香の括りつけた風鐸が、澄んだ音を物悲しく山道に響かせた。

●紅葉燃ゆる
 避難した村人達に出会えればと、瑞香は足を伸ばしていた。
 先に情報収集を行おうかと思っていたのだが、後回しにしたのだ。
 先に出向く事になっていたら、戦いには間に合わなかったかもしれないし、怪骨と戦う別の依頼とかち合っていたかもしれない。
 丁度村へと戻って来た人々と出会うことが出来た。
「こちらも、無事終りました」
 怪骨の依頼も無事成功していたようで、不安は多少残ってはいるようだが、村人達の動向に問題はなさそうで。
 話を聞けば、塚ほとんど何も知らないようであった。
 依頼成功の報で、安堵の気配が広がって行く。
 村の寺など、何か文献は残っていないかと、龍嗣は巻物を広げ、隠し部屋や窪みを探すが、普通の寺で、窪みもあるにはあるが、文献のようなものは探り出せなかった。
 それならばと、龍嗣は村人に微笑む。
「あの場所を祭ると良いでしょう。今日の日を印、書き残し、お参りを欠かさず行えば、きっと」
「手厚く弔うと良いだろう。どうやら、無念を飲んで無くなった姫が眠っているようだから」
 明士郎が、村人に弔いを頼めば、怖い思いをした人々は、それで死者が安らぐならと、二つ返事で頷く。
「塚の再建、お手伝い致しましょう」
 穏やかに微笑む青い瞳の瑞香は、何か、塚になるような石はありませんかと、村人達と一緒に歩き出す。祈りを捧げて、果てた姫
の、その眠りが穏やかであるようにと願い。
 村人達の過去罪は暴かれる事は無かった。
 それでも、その場に祈りを捧げるのは悪くは無いかもしれない。
 何も知らない者の純粋な祈りは、無駄では無いだろう。
 ただ祈るだけで、心が軽くなる人は多い。

「悲しい過去は、心をそこに縛ってしまう。死者には旅立ちを。生者には新たな平穏の日々を。互いのために忘れることが必要な時だって世の中にはあると、俺はそう思うんだ」
 俺は。と、烈閃は呟いた。
 仲間達の多くは、塚を建て直し、再度祭り、弔いを続ける事を是とした。
 けれども、そのまま、記憶から薄れれば、その地に縛られる人も魂も無くなるのでは無いかと思うのだ。
 何故、その場所に姫が眠るのか、詳細は誰も知る事が出来なかったが。

「敗戦の記録はほとんど無い‥‥」
 セピアは、村に記録が残っていれば、こんな大事になっているとは思えなかったので、近くの町へと繰り出していた。それなりの役所に掛け合えば、滅びた城砦の記載はあるが、詳細まではわからない。戦に負けるという事は、そういう事なのかと、嘆息する。
 かろうじて、その城が滅びた当時、城砦の主夫妻と姫が居たのは確認できた。
 それが、あの姫なのだろうか。
 セピアは、ふ。と、近いようで遠い歴史に思いを馳せて、小さく息を吐き出した。

 村へと赴く少し前。
 問題の塚の前で、冒険者達はそれぞれに思う事があった。
 姫の怨霊の指した割れた塚近辺を、透視の巻物を開き、龍嗣が探索していた。土の中という曖昧な指定では、焦点が定まらない。だが、地中深くに、どうやら骨のようなものがあるようだと。浅い穴では、獣が掘り返す。かなり深い場所のようだ。
 その前には、植物に話を聞くが、変わったことや、怨霊が何故出たのかとか、抽象的な問いには木々に答えは貰えず、立て続けの魔法に、僅かに身体が傾ぐ。
 だが、苔生したこの塚のような石の下に、誰かが眠っているのは判った。
 それは、この事象からして、怨霊の姫と無関係では無いだろう。
「誰の記憶からも消えてしまった時、それこそが人の本当の死だという話を聞いたことがある。憎しみだとか悲しみだとか以上に、彼らはただ、寂しかったのかもしれない。人々に忘れられてしまうのが、怖かったのかもしれない」
 ぽつりと、烈閃が呟く。それが真実かどうかはわからない。けれども、ひとつの真理なのかもしれない。
菊川響と鳴滝風流斎の見送りを思い出し、明士郎は終ったなと小さく呟いた。
 真っ二つに割れた塚の苔を、アシュレイは、そっと丁寧に取り除く。ディートリヒ・ヴァルトラウテがこの地について調べてはくれたが、さしたる記載は無かったのを思い出す。
「二度と忘れないよう‥‥石碑に平和を記念する詩でも刻んでみたらどうだろうか」
 村人だけでなく、訪れた猟師達にも手を合わせてもらえるように。四季折々に咲く花を植えるのも良いかもしれないと思う。眠る姫の心を慰める為に。四季折々の花が大木になれば、それを見に、多くの人が集まってくれるかもしれない。そんな夢想を描く。
「美しいね」
 眼下に広がる、広大な紅葉。この地に城砦があった時代も、広大な紅葉は、かの姫の心を慰めていたのだろうかと、アシュレイは思う。そして胸に残るのは、姫の怨霊の頬に伝う紅い涙。
「理屈など我が輩には関係ないね〜。神と御仏の御心により、さまよう邪悪な魂を成仏させただけだね〜」
 秋に目に付く薬草を調べつつ、トマスは峠に清めの塩や、清らかな聖水を撒く。
 はらはらと落ちる真っ白な塩。聖水の飛沫がざっと飛べば、場の浄化は完璧なものになる。

 また、風が吹いた。
 その風は冷たさをはらみ。もう、紅葉は終わりだと告げていた。
 燃え立つような紅葉は、きっと冒険者達の事を覚えているだろう。