また、お化けが出たんだよっ!
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■ショートシナリオ
担当:いずみ風花
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月29日〜02月03日
リプレイ公開日:2009年02月08日
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●オープニング
とある小さな町の寺。そこには年若い住職さんと、口うるさい小坊主さんが二人で寺を守っていた。
「若さん! また出ましたっ!」
「本堂に?」
「じゃなくて、お墓に!」
今年数えで九歳になる小坊主が、大変大変と、ばたばたと走ってくる。やっと二十一歳になる若い住職は、小坊主のタメ口を聞き流しつつ、おっとりと大変だねえと微笑んだ。
正月が終わり、年末年始のお参りもひと段落したばかりである。
墓掃除は楽なものだと、小坊主が竹箒片手に、墓所へと向かうと、そこに、出たのだ。
「見覚えの在る、あれは『傘化け』ですよ、若さん」
「うち、居付きやすいのかね」
「若さんがぼーっとしてますからね!」
「あはは。そうかもねえ」
「そうかもねえ。じゃ、ありませんっ!」
「何? その手は?」
「お金っ! 冒険者ギルドへひとっ走りしてきますからっ!」
「あ、そうだね。じゃあ、私は町の顔役さんに話をして、立ち入り禁止の張り紙でもしてくるね」
のほほんと頷く住職へ、早く早くと口を尖らせた小坊主さんは、てきぱきと色々な用意をすると、お墓に覗きに行ったら駄目ですよと、住職に注意してから、お寺を飛び出した。
お墓は、高さ三尺ほどの生垣で囲われている小さな場所である。入り口は二箇所。大人の腰ぐらいの竹の扉が、かろうじて留まっている。
整然と設えられた墓石は三列に並び。真ん中に大きな蝋梅の木があった。黄色い花をつけている。蝋梅の下、墓地のど真ん中には、代々の住職の墓があり。
その、綺麗な墓所の間を。
がこん。がこん。
下駄の音。
ぼろぼろになった、生成りの色した和紙の傘が太い竹の柄の上に乗っかっている。何の顔も足も無いが、その生成りにはなにやら文字が一文字づつ書いてあった。
判別するには近くに寄らないとわからない。
「出てきませんねえ‥‥でも、あの傘。見覚えがあるんですよねえ」
あれほど近寄るなと念を押されたのに、若住職は墓を見物していた。
しかし、どうやら傘化けは墓から出て来ないようだ。
竹の戸が閉まっているのも幸いしているのかもしれない。
「うちの寺! やっと信用回復したばっかりなんですようっ!」
そんな頃、小坊主はぷんぷんと顔に書き、冒険者ギルドへ駆け込んでいた。
「へえ。前にも出たんだ?」
「っ! 何ですかっ。誰ですかっ?!」
「見たいなあ。傘化け。行って良い?」
ひょっこりと顔を出したのは赤い髪の、派手な衣装の大きな壮年の男。
くしゃりと笑う顔は子供のようだ。
前田慶次郎。最近見なかった顔だが、小坊主の頭をぐりぐりと撫ぜて笑っている様に、ギルドの受付はくすりと笑うと、依頼書に書き足した。
傘化け退治。前田慶次郎様付き。と。
●リプレイ本文
●冬の傘化けとはコレいかに
「おや、前田さま、お久しゅうございます。暫くぶりですね。おくににお帰りでしたか?」
「んー。国には帰って無いが、少々思う所があってな、玲瓏も元気そうで何よりだ」
たおやかに齋部玲瓏(ec4507)が、前田慶次郎の大きな姿を見つけて微笑み、軽くお辞儀をすれば、慶次郎が自分に伸ばしかけた手を止めるのが目に入る。どうも守護対象と見ている節がある。その姿にくすりと笑い、前田様もお元気そうでなによりですと、また微笑む。
「数ヶ月振りになるかしら?」
「そんなになるか?」
新年の挨拶にしては遅いけれどと、笑みを浮かべる日下部明穂(ec3527)は、そういや年越ししたなあと、真赤な頭を掻く姿に、軽く溜息を吐く。
その脇をするりと抜けた、同じような真赤な髪と羽織を羽織った神薗柚伽(eb5492)が、ひょこりと顔を出す。
「慶次郎、いつ以来かしら? 今までどこで何してたのよー。かあさん、ちょっぴり寂しかったんだから★」
「俺も! すっごーく寂しかったよ!! おかーさーん!!」
どちらも棒読みである。
顔を見合わせてにやりと笑う。
「前に会った時は、年なんだから夏バテするとか何とか言われた気がするけど。今度は寒さの心配?」
女性に年齢を尋ねるのは危険がつきものであるが、柚伽はかなり年齢を重ねた女性である。冒険者に年は関係ないとはいえ、習い性なのか、慶次郎はいつも彼女の体調を気にかける言葉を吐くが。
当の本人もいい年で、人の事は言えないだろうと柚伽は腰に手を当てて言い放つ。
「‥‥こういう子、アンタ大好きでしょう?」
早く早くと、冒険者達の間をうろうろしている小坊主をぐりぐり撫ぜている慶次郎に溜息をつきつつ苦笑すれば、とってもー。と帰ってくる。やれやれと溜息を吐いて、依頼を確認すれば、八体の妖怪退治である。
「で、今回は‥‥傘のお化けね」
「‥‥久しぶり、ね。一反といい、傘化けといい‥‥物がモンスターになるのよねぇ。ジャパンの『妖怪』ってユニークだわ」
しゃらりと身につけた貴金属が揺れる。僅かに慶次郎を見上げてアニェス・ジュイエ(eb9449)は、少し困ったような笑みを向ければ、慶次郎もひとつ詰まったような笑顔で、おーう。と答える。
「墓場に出た傘のお化けさんを退治すれば良いんですねぇ。頑張りますぅ。ただ退治するだけじゃなくて、書いてある文字も確認するんですね? 分かりましたぁ」
のほんとした声がする。慶次郎と目が合えば、初めましてぇ。と、マルキア・セラン(ec5127)はにっこりと微笑んだ。太い三つ編みが揺れる。
出る時期を間違えているんじゃないかと、アキ・ルーンワース(ea1181)は小首を傾げる。
「傘は、雪の時期も使うけどさ。‥‥真冬の傘化けは‥‥シュールだよね結構」
「そうなんですか? 見た事無いのですが、楽しみです」
ディファレンス・リング(ea1401)は、依頼書を見て、面白そうに頷く。どんな姿なのだろうかと。
「二度と出て来ないようにせねばなりませんね」
急ぎましょうか? と、妙道院孔宣(ec5511)が声をかければ、そうです。急いでくださいと口を尖らせる小坊主に、お名前はと優しく聞く玲瓏。その後ろからそっと近寄ったアニェスが、撫ぜようかと、うずうずと手を伸ばし。
●踊る傘化け?
がこん。がこんと、境内に入る頃から耳に聞こえてくる音に、冒険者達は顔を見合わせる。
墓所の手前で手を振る、住職と見られる、のんびりとしたお坊さんに、小坊主が、やっぱりいう事聞かないっ! 危ないじゃないですかと飛んで行くのを、微笑ましく見つつ。
「なかなかに床しいお寺でいらっしゃいますね」
それなりに手入れが行き届いている、小さな寺を仰ぎ見て、玲瓏は、小さく笑みを零せば、柚伽が首を捻る。
「どうして出られないのかしらね」
「見覚えがおありならば、お寺の傘なのでしょうか忘れられたのが寂しかったのかもしれませんね。或いは九十九神故に、数が足りなくて仲間をさがしにでたのかも」
「ま、とりあえず退治ね。でも文字は読んでから退治したいわよね」
柚伽がひとつ頷く。
「文字、気になるよね」
アニェスが飛ぶ傘化けを目を細めて見て、読み取らないとと頷き、詠唱に入る。
「墓所から移動しないのなら、地味に戦うのが一番です」
くすりと笑い、明穂は小太刀を抜き放つ。
「全方向からの襲撃は厄介だ、生垣に沿って動いた方が良さそうだね。一方向は、少なくとも潰せる」
生垣の中を伺っていたアキの言葉に、マルキアがおっとりと頷く。
「戸の付近で相手を迎え撃つんですねぇ」
壁役にとアキとアニェスに尋ねられた慶次郎は、ふたつ返事で引き受けている。
竹の戸口を空ければ、好き勝手に跳ねていた、傘化けが、一斉にこちらを向いたような気が‥‥した。正面は定かで無いが。
そして、また好き勝手に動き始め、戸口へと向かって、やってくる。
春花の術を繰り出した柚伽。その効果は、数体に表れるが、ばたりと倒れても、倒れた拍子に目が覚めるのか、起き上がるモノや、がこん。がこん、と煩い音や、仲間の柄に踏まれて、すぐに起きる事になる。
「いやーっ!」
及び腰で前に出て行っていたマルキアは、お化けの類が苦手である。しかし、仲間達を信じて、大技を繰り出す。
スカートの裾を翻し、手近な傘化けに飛びつくと、がっつりと捕縛する。踏み潰したり体当たりしたりするのが主な攻撃の傘化けは、身動きが取れない。
テレスコープを使い、文字を確認しようとする玲瓏。最初に全体を見た時は、さまざまに移動する傘化けに焦点が合い辛く、良くわからなかったが、がっちり押さえてもらえば大丈夫。
「『よ』ですね」
ふむふむと、玲瓏は住職と頷き合い、文字を確認して書き記す。その横で、危ないから遠くで待ってましょうよと叫ぶ小坊主の願いは若住職、楽しげにガン無視である。
その横では、アキが傘化けを暗闇で覆っていた。視界を遮られた傘化けは、よろめいて、墓石に激突したり、仲間同士でぶつかったりと、慌しい。
「‥‥効果、切れる時の一瞬なら、文字読む隙も出来るから‥‥」
見覚えのある傘達なら、文字を全部読めれば、若住職さんにはわかるかなと小首を傾げつつ、次のターゲットを探す。
前に出ている孔宣も、拘束の魔法をかけ、アニェスが動きの止まった傘化けに陽の魔法を当てる。
「きゃーっ!」
読み取られたと見ると、マルキアは、掴んだそのままに、スープレックスを決める。ちゃんと墓石の無い方向へとしたたたかに傘化けを投げ落とし。
「まずは‥‥」
詠唱を終えたディファレンスが放つのは竜巻の魔法。それは、かなりの周囲を巻き込んで大人の背丈よりも高く吹き上げる。墓石と共に傘化けも舞い上がり落ちてくる。何体かの傘化けは、共に吹き上がった墓石で重しになって、動けないものも出ている。
その魔法は止めた方が良い。墓石の被害が大き過ぎる。と慶次郎から笑いながらの声がかかる。
「『も』‥‥どういう順番で読めば良いのか少し苦労しそうね」
倒れている傘化けの文字を読み取り、明穂が止めを刺す。墓石に気を使った刀の振るい方は、大振りを抑えて、刺すようにと気を配る。
「徹討!」
仲間達が読み取りを終った傘化けへと、孔宣の聖剣カオススレイヤーが黄金色の刀身を煌かせてざっくりと入る。力を乗せまくっているその一撃に傘化けはなす術も無い。
倒されれば、傘は朽ち果て、その過ごした年月に相応しい姿へと戻って行く。
詠唱を終えるとディファレンスは真空の刃を放つ。よろめいていた傘化けを、ざくざくと切り裂いて。
多少墓所に被害は出たが、全ての文字を読み取る事に成功した。
●蝋梅と嫌がらせメッセージ
芳香を放つ、蝋細工のような黄色い薄い花弁を何枚も重ねる小さな花が木に満開に咲いている。
玲瓏はその梅の花へと、祝詞を捧げる。とうとうと、声が祈りとなって墓所へと響いて行く。
うら響く かさに映せしことの葉も 縁取る梅のらうたきに 思い慰め いと安らなれ
その蝋梅の下には歴代の住職の墓。敷物を持ってきた小坊主が、てきぱきと宴会場を設える。
「冬の日だまり‥‥冬のぷちヒマワリみたいなお花ね。いい香りだわ」
線香を手向け、酌は愚息──慶次郎にさせますからと、お参りをした柚伽は、花の香に、嬉しそうに目を細め。
お掃除手伝いますぅ。と、マルキアが墓石を直し、同じくアキも墓石などに気を配ってくれ、小坊主は大喜びである。
「おこころあたり、ございますか?」
ほいほいすてるな。では無かったですとこっそり思い、玲瓏が若住職へと尋ねる
『ら』『は』『え』『く』『よ』『や』『も』『め』
文字を目の前に、住職は、とほほな顔をしている。
(「あけおめことよろ。じゃなかったわねー」)
柚伽も思っていた言葉と違う文字に首を傾げる。
その間、明穂は墓前にと、様々な味の保存食を捧げる。墓参りは、死者にはあまり必要の無い事だろう。けれど、生きている者の心の安らぎと、ここに集う仲間達が楽しく過ごせればと思い。
「別嬪と言ってくれたお礼に?」
「明穂。別嬪度合いが増した」
「簡単に上がるランキングですわね」
うわばみ殺しを出した明穂は、満面の笑みを浮かべて、受け取る慶次郎にくすりと笑い。
「あと二ヶ月もしたら‥‥また桜が咲くわねぇ」
「あー。そーだなぁ‥‥」
アニェスが苦笑しつつ謝辞の言葉を繋げ、これからもまた一緒に依頼が出来るかと問えば、それはお前さん次第だからと、困ったような啓次郎の答えが返る。慶次郎の素性を知りたがった理由を告げれば、困惑顔が、さらに困った風になる。答えは必要としていない。アニェスはただ告げたかったから、告げた。ひとつ、心にわだかまっていた事を告げたからか、以前のようにしゃにむに向かう必要も無い。
「わかったっ!」
小坊主が、大声を上げれば、煩いよと言うように、若住職は顔を顰める。
「して、その内容とは?」
孔宣が、生真面目に尋ねれば、若住職は小坊主につつかれて、しぶしぶと語る。
代々住職は二十歳にはとっくに結婚していて、特に先代は、もう今の住職を境内で遊ばせるほど結婚が早かった。という事は。
「『早く嫁貰え』‥‥遺言だったんですよね」
ひゃ、ひゃと笑いながら、小坊主は、いつまでもぼーっとしてるからですよと、はやし立てる。
ディファレンスと孔宣が、笑いを堪えつつ、では、葬送を致しましょうかと、住職に声をかければ、お願いしますと、浮いた話の何の予定も無い若住職の溜息を聞く事になり。
では、小坊主さんもご一緒にと、玲瓏は沢山の兎餅を取り出し、アキもおまんじゅうを差し出せば歓声が上がる。
厨を借りて、何か作りましょうと言っていたディファレンスに、マルキアも手伝いますとぱたぱたと駆けて行く。小坊主指導の下、山菜を中心とした惣菜が出来上がり。
「前田さんもどうぞ」
「お、ありがとさん」
ディファレンスは、差し出す胡麻和えに、嬉しそうに目を細める慶次郎に作ってよかったと思う。
「‥‥男の酌で申し訳ないけど、ね」
「別嬪さんだから、男でも問題無い」
「あー‥‥そう?」
嬉しそうに杯を出す慶次郎にくすりと笑い。この国の冬は綺麗な花が多いと、先の依頼で見た冬桜を思い返してアキは慶次郎にシードルを注ぐ。嬉しげに国に伝えると言ったアルファリィの言葉を思い返し、僅かに渋面を作るが、すぐに相好を崩す。ふわりと香る花に来る春を思えば。
信頼の証と言われる蝋梅の黄色の色が春めいてきた冬空に映えて。