【時、来たる】水の巻
 |
■ショートシナリオ
担当:いずみ風花
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月19日〜05月24日
リプレイ公開日:2009年05月31日
|
●オープニング
「時、来たる。か‥‥」
さらさらと地下水が僅かに地表に顔を出す、岩場の割れ目。
割れ目というよりも、作られた円柱の空間。
内側に剥き出す岩からは、木々が生えているが、暗いというほどでも無い。ぽっかりと円に切り取られた青空が眺められる。
垂直に近い岩場の壁を上り下りするのは、人ではかなり無理がある。
外界とは隔絶されたような場所であった。
二十畳あるか無いかの川原。その端を細い川が壁から壁へと流れて行く。流れる先は、洞窟の中へと続き、山中の滝となって現れるのだろう。その流れ込む先はわからない。
綺麗な川原の小石の上で胡坐をかくのは河童であった。
深く刻まれた皺、白い短い髭。白く長い眉。かなりの老齢である事が見て取れた。
ただの河童では無い。
その名を『八津守』と言い、とある地域にひっそりと住んでいる。
八津守の住む地域には山寺がある。
その山寺を囲むように八つの村があった。
各村は協力し、山を守り、育て、派手では無いが堅実な生活を営んでいる。
山を荒らし、人が荒れると現れる猿三体と人とを八津守が介し、荒れた場所を正す事を何十年も行っている。
八津守は頼まれたのだ。
頼む。と。
それは、人のようで人では無い者だった。けれども、とても人と世界の好きな方だった。
時が来たら、これと思う者に渡してくれと。
その時は、時が来ればわかると。
謎かけのような言葉だったが、八津守は頷いた。
八津守は、洞窟に仕舞い込んである巻物を思う。
その巻物は、鮮やかな紺青の組紐で巻かれていた。
半年ほど前、この空間に見たことの無いような花畑が浮かび上がった。それは、洞窟内が僅かに光ったからだ。その淡い光りを八津守は懐かしく思った。
優しい香りが漂ったような気もした。錯覚かもしれない。
それは、大好きだったあの人の香りと良く似た香りで。
「八防の守りの中心に居る河童よ。お主『天鳥船』の一部を持っているだろう。渡せ。渡さねば、お主が見守り続けていた八防の村を焼く」
「‥‥悪魔か」
炎を纏い、不意に現れたのは、ネルガル。
倒しても、倒しても、次から次へと現れるのは、鬼や悪魔、妖怪だ。
「さて‥‥悪魔がその人では無いはずじゃの」
「渡せ」
「それは出来かねるっ‥‥」
「ちっ!」
飛び退る八津守へと、その黒い禍々しい爪が伸びて、ざっくりと傷を負わせたが、八津守もその身を躍らせ、小川へと飛び込んだのだ。
川の流れは速い。
「忌々しい。まあ、あの傷では長くなかろう」
仲間意識は高くは無いが、役目を請け負った前任者があっさり退治されたと聞く。何の手掛かりも持ち帰らなかったそいつを無能と思う。
「オレは、探し出し、かの方の覚えめでたくありたいものだ」
情報を持って戻るより、現物を持って戻るほうが良いに決まっている。
そう、このネルガルは思い、八津守の棲みかをじっくりと探索に入った。
邪魔な木は薙ぎ倒し、岩を破壊し、川原を掘り返し。細い亀裂を見つけた。
そこから洞窟へと踏み込むのだった。
瀕死の姿の八津守が、はるばる江戸ギルドへと顔を出したのは、それから数日経ってから。
「悪魔を探し、退治してはもらえないかの」
懐から出したのは、光る色とりどりの石。
十分ですと、冒険者ギルドの受付は頷いた。
果たして、この依頼を受けてくれる中に、巻物を託す人物が居るかどうか。
賭けだと八津守は思う。
悪魔の爪により、自身の命がそう長い事は無いのを感じている。
随分長く生きた。時が来たならば、もう自分の役目は終わりに近いのだろうと。
その山は、岩場の多い山だった。
岩場には無数の風穴があり、洞窟の数も半端無くあった。
細い滝が、高い場所から、糸のように、幾筋も流れて、小さな淵を作り、細い沢となって蛇行し、麓へと流れて行く。
その小川を、額に白い星のような印のある、足の太い小さな犬が登っていっていた。
時折、顔をじっと上流の先へと向け、時折顔を顰める。酷く嫌なものがあるかのようだ。
そして、滝の入り口へと辿り着くと、何度か大きく吠え、考えるようにその場に座り込み、時折顔を上げ、吠えるのだった。
●リプレイ本文
●悪魔退治の依頼なのだが。
ギルドで辛そうにしている八津守を見て、アシュレイ・カーティス(eb3867)は軽く目を見開いた。
「八津守殿とお会いするのは久しぶりだが‥‥」
懐かしい顔だ。しかし、懐かしいといってはいられない状況だと、深く溜息を吐く。
「お久し振り、と再会を喜んでいる場合でも無いみたいね?」
依頼に、悪魔退治とある事に、セピア・オーレリィ(eb3797)は苦笑する。八津守に会ったのは、邪魅という悪魔も絡んでいた依頼だった。悪魔は人の心の弱い部分を巧みに操る。しかし、今回は相手が八津守だったからだろうか、酷く直接的だ。
「‥‥事態は深刻という事かしら」
セピアが呟く。
特徴のある笑い声がその後ろからかけられた。トマス・ウェスト(ea8714)が、腕組みをして、顎に手をあてて立っていた。
「久しぶりだね〜。おっとひどい怪我だね〜。まあ、運命だとしても、まだまだ、くたばるわけには行かないだろう〜」
淡く光りを纏い、トマスは八津守の傷を治す。深い傷だったが、みるみるうちに治っていく。トマスの治癒の力は桁外れである。
「けひゃひゃひゃ、死者も蘇る聖母の慈愛と御仏の慈悲の御業だ〜」
ばたばたっと、入り口で音がする。
ルンルン・フレール(eb5885)が、きょろきょろとギルド内を見回し、八津守を発見すると、駆け寄ってくる。
「悪い悪魔は私達が絶対やっつけますから、無理せずこれ飲んで美味しい物食べて、早く元気になってください」
依頼を見て、飛び出していったと思えば、差し入れのようだ。
馴染みの顔それぞれに、苦笑しつつ、八津守は挨拶をする。綺麗に治った傷をさすり、トマスに謝意を告げると、嬉しそうに頷いた。
「デビル退治か」
大柄な体躯を軽く揺すり、武藤蒼威(ea6202)が口を笑みの形に変える。悪魔が襲ったと言う事は、そこに宝があるのかもしれない。宝があるのならば、それがどんな物でも、一欠けらだって渡すまいと強く思う。
悪魔退治かと、リフィーティア・レリス(ea4927)が、長い銀髪を無造作にかき上げると、依頼書を見て、じゃあ俺も行こうかと、参加を表明する。
「悪魔を倒せばいいんだよな」
まさしく。と、八津守は蒼威とリフィーティアに頷く。
「御陰 桜よ、ヨロシクね河童さん♪ 河童さんを困らせてる、でびるを倒せばイイのよね? ナニか、でびるに襲われた心当たりってあるのかしら?」
ゆさりと谷間を揺らしつつ、御陰桜(eb4757)が軽く片目を瞑る。僅かにすぼめられた口元も愛らしい。
退治依頼はあまり受けない桜だったが、何か気になって、参加を決めた。どうにも座りの悪い、上手くかみ合わない、そんな感触なのだ。
桜の問いに、頷きつつ、心当たりという言葉に、目を伏せる。長い白い眉が八津守の顔に影を落とす。
「私も、それを聞きたいです。山も人も、貴方が守ろうとしたものはわたし達が守ってみせるわ」
レティシア・シャンテヒルト(ea6215)が、気休めでも、安心を与えたいと、笑みを浮かべ、軽く竪琴を奏でる。古い子守唄だ。
アシュレイも、言葉を繋ぐ。
「八津守殿が守り続けてきた八つの村を荒らさせるわけにはいかない。必ずデビルは退治する‥‥だから安心してほしい」
「‥‥依頼が終らずば、語る事では無い。すまんなあ」
本当は、何かあるという事を話すつもりも無かったようだ。逡巡してから、八津守はようやくぽつりと言葉を出した。
馴染みの顔が無ければ、その言葉すら出なかっただろう。
とにもかくにも、まずは悪魔退治へと、冒険者達は向かうのだった。
●八防の山
綺麗な清流の側道を通り、冒険者達は山を登る。
この山が初めてではない、アシュレイやルンルン、セピアが居り、地図もある。迷うことなく、常よりも時間が短縮出来たようだ。
そういえばと、ルンルンは山を見渡す。八津守の住む山とくれば、猿が居るはずだ。山を守るはずの猿であったが姿も気配も無い。大丈夫かなと、首を傾げる。アシュレイも、猿を気にしていた。猿達にも危害が及ばないようにと、十分に注意を払う。
「わんこの声がするわねえ」
洞窟へ向かう途中、耳を澄ますと、犬の鳴き声がする。
「洞窟内は、立ち回り出来るほど、広くなかったはずだ」
アシュレイが、洞窟を思い出す。八津守の居住空間へは、大人がやっと通れるほどの狭い通路しかなかった。だが、破壊されているとすれば、楽に通れるだろうか。
「はいはい! 降りれますよっ!」
ルンルンが先行し、亀裂から降りる足場を作る。そこから、次々と仲間達は洞窟内へと降りて行く。少し動きに苦労しそうなのは蒼威だ。その巨躯の為、洞窟内では移動も難しそうだった。
「‥‥これは」
「‥‥うーん」
「けひゃひゃひゃひゃ」
「‥‥」
アシュレイ、レティシア、トマス、蒼威が指に嵌める石の中の蝶と呼ばれる指輪を見る。その蝶は、激しく羽ばたいていた。それは、悪魔が近くに居るという事。しかし、どの方角、どれほどの距離などは正確には、わからない。ただ、接近すれば羽ばたきが大きくなるだけだからだ。
この指輪だけでは、悪魔の詳細な居場所特定は不可能である。しかし、冒険者達は、ある手を考えていた。
八津守には、守っている物がある。それは、どうやら確定のようだったが、それが何かとは、聞きだす事は出来なかった。
探すものが大きいのか、それとも小さいのか。
レティシアとセピアが顔を見合わせて頷く。
悪魔を釣り出す為に、一芝居打つつもりなのだ。
その時。
「あっ、あんなとこにあのワンちゃんが」
「あら、また会ったわね♪」
ルンルンが声を上げた方角には、ひょこりと顔を出した犬が居た。桜が寄っていき、もふもふと抱き上げる。
「妙に気になると思ったら、また天鳥船なのね?」
桜が依頼でずっと関わっている『天鳥船』と、書かれた巻物は、それぞれ、月、陽、土、風と書いてあった。ならば、ここは火では無さそうなので、水だろうかと、小首を傾げる。
「八津守殿の、巻物‥‥か」
レティシアが、桜とアシュレイの言葉に、頷き、仲間達へと声をかける。
「外へ出ましょうか。一応確認をしてみましたが、あれは外だと聞きましたし」
「お爺ちゃんに教えて貰った場所、悪魔よりも早く辿り着かなくちゃ!」
「そうね、悪魔より先に確保しないと」
「一応中の様子も見たことだしな」
ルンルンが頷き、セピアが頷く。そして、リフィーティアが周囲を見回す。連れている燐光ティルナのおかげで、洞窟内は仄かに明るい。
カンテラで辺りを照らし、油断無く見渡していた蒼威は、仲間達が外に出るというので躊躇する。このまま、探索を続け、悪しき悪魔をこの手で見つけなければと気持ちが逸り、ひとりずんずんと洞窟の中へと進んで行くが、他の仲間達は、そのまま外へと出て行く。
「あ、レティシアさん、怪我していますね。一応治しておきましょう」
「ありがとう、セピアさん」
ふわりと淡い光りを纏い、セピアがレティシアのあるような無いような傷を治すフリをする。魔法は、不死者の大きさと距離、数を知る為の魔法。
(「すぐ近く‥‥洞窟の奥‥‥人ほどの大きさ‥‥近寄って‥‥来る」)
来た道を、戻れば、犬も後からついてくる。
一端外に出ると、緑が眩しい。夏へと向かう山の息吹がむせかえるかのようだ。
上空を、トマスの連れてきている赤斑越具羽有渡丸が旋回している。霊鳥は四尺強もあるので降りるに降りられないようだ。
インタプリティングリングを使い、トマスがついてきた犬へと語りかける。
「さ〜て、わけを話してもらえるかね〜」
『薄々気がついているのだろう、諸君等は』
「まあね〜。しかし、推測でしかないからね〜」
「‥‥ここにも巻物があるということか」
同じく、アシュレイがインタプリティングリングで犬へと言葉を届ける。
「おまえは一体、何者なんだ。なぜ犬の姿をしている?
『人が天使と呼ぶ者だよ、冒険者。犬の方が人に紛れてあちこち探りやすいからね』
「巻物の場所をなぜ感知できる? なぜ天鳥船を探している?」
『それは、大よその場所を知っているからだよ。だいたいあの辺り。とね。探すのが私の任務だからね』
「天鳥船とは、場所なのか? そこへ行くと何があるのか?」
『船は、船さ。じきわかる。一度でも係わり合いになってきた冒険者諸君は、その通行手形を手に入れている。いずれ、わかる』
「八津守さんに、巻物の守りを依頼した人を知っていますか?」
レティシアは、子犬に向かい、質問をする。しかし、答えは返らない。聞き取れてはいるようだが、レティシアは犬との会話に何も介して居なかったからだ。答えは、インタプリティングリングを装着していた仲間達から聞く事になる。
『聞いてどうするのかね?』
「最後に偽りの幻でもいいから、逢わせてあげたくて」
『では、会いに行こう』
犬がくすりと笑ったかのように見えた。
その途端つむじ風のように、冒険者達の合間に入るものがあった。
逐一聞いていたのだろうか。沢山の巻物を持っていたルンルンが狙われた。間一髪身体を捻り、その攻撃を交わすが、巻物の沢山入った袋がネルガルの手に握られて、そのまま空を飛んで逃走に入られる。
「返しなさーいっ!」
大ガマで退路を塞ごうにも、空では届かない。ルンルンがペルーンの神弓を取り出し、引き絞る。雷の力を封じ込めたといわれるその神弓から放たれた矢が、僅かに青白く軌跡を描き、ネルガルの翼を掠める。
「出てきたのが運のつきというものだね〜。コ・ア・ギュレイトォ〜!」
トマスの拘束の魔法が、瞬時に投げつけられる。
「いっせーのせで、攻撃ね」
セピアがくすりと笑い、落ちたネルガルへと、業火の槍を振るう。悪魔フラウロスが使用しているといわれる、地獄の業火を元に作り上げたとされる槍だ。陽光を受け、ざっくりと突き刺さる。
「オイタはここまでね」
どんと、爆風が起こる。遠くに離れて、微塵隠れの術を発動させた桜は、ネルガルに刀身に炎の模様の入ったマグナソードで切りかかる。
「山をぶっ壊すような無粋なヤツはぶっ飛ばしてやる」
洞窟の中は、酷い有様だった。このまま、被害が拡大したらと思うと、リフィーティアは手にする鬼神ノ小柄と蓮華の花を模した美しく軽い武器ヴァイジャヤンティを立て続けに打ち込む。
アシュレイのコルムの槍が綺麗に入り。
「此処であったが百年目、何の恨みも無いが ネルガル。死んでもらうぜ。恨むならデビルに生まれた事を恨むんだな」
石の中の蝶の羽ばたきにつられて、ようやく顔を出した蒼威が、日本刀長曽弥虎徹を抜き放ち、仲間達の後から攻撃をと走ってくるのが見える。
「返してもらいますからね!」
ぷんぷんと怒りつつ、ルンルンが事切れたネルガルから巻物の束を奪い返せば。
滝が、僅かに光った。
その巻物は、水の扉に守られた、小さな穴の中にあった。
洞窟から零れ落ちる、滝の中。
一瞬、周囲に花畑が広がったかのように思えた。
冒険者達は、子犬を探すが、もうその姿は無く。
ようやく追いついた八津守が、嬉し気に顔を向けたのは、複数人。
「読んでも構わないかね〜?」
読まなくては中身もわからない。読んでいいものならば、自分の夢の為に知識を得たいと望むトマスに、ほとんど読めないものなのだがと、八津守は手渡す。
その巻物は、何の変哲も無い巻物。表題すら無い。色鮮やかな藍色の平織りの組紐で巻かれている。
巻物には、文字が書かれていた。日本語のようだ‥‥が、かすれて読めない。ただ二か所、『水』と『天鳥船』が、不思議にはっきりと読めた。
そして、不意に目の前に現れたのは、天使。
「これは夢か‥‥」
「夢じゃないよ、八津守」
お疲れ様と、声をかけたのは、綺麗な顔をし、背に白い翼のある天使。
「人のようで人では無い者‥‥けれども、とても人と世界の好きな方、か」
「今回が予想通り水だったから、近々最後の火に関わるコトが起きそうね?」
残る巻物は、多分『火』そう、アシュレイや、桜は思う。
人とそうでない者との仲を取り持ってきた彼に報いたいと、そう願っていたレティシアは、そっと胸を押さえる。
同じ天使かどうかはわからない。そうでは無いと思う方が自然だ。しかし、八津守が嬉しそうで、良かったと、レティシアは思った。
その邂逅は、本当に最後の邂逅だと冒険者達は知る事が無かった。
八津守は寿命が近かったのだ。傷によるダメージまでは回復はしない。全て綺麗に治ったのは確かなのだが、老いはどうする事も出来ない。
冒険者達のおかげで、ひっそりと、幸せな顔で八津守は息を引き取る事となった。
そして、ひょこりと八津守の川原に現れたのは、小さな河童。
名を八智森と言う。それはまた別の話。