●リプレイ本文
●炎の山の麓の村で
やっぱりと、カイ・ローン(ea3054)は、見覚えのある場所に立つ。
「せっかく助けた相手が不幸になるんじゃ悲しむだろうなぁ。手も開いているし彼の友として参加させてもらおう」
かつて、友と呼びあった月精龍が救助を願った村人の居る山だ。
「何故、急に暴れだしたのかな?」
これは、炎龍に聞いて見なければと思う。人には気がつかない理由があると思うから。
「あんまり気は進まないけど出てきちゃったモノはヤっちゃわないとダメそうねぇ?」
小首を傾げ、指を頬に当てて、御陰桜(eb4757)はうーんと、考える。カイと同じく、この場所には見覚えがあるのだ。あれは冬だった。
「瑪瑙、雨呼べる?」
つれて来た水馬瑪瑙に、桜が問いかける。ひとつ頷くと、瑪瑙は淡く体を発光させる。
折しも梅雨時、上手くいけば、やがて天候は変わるだろう。
そうして、さて。と、周囲を見回す。
ずっと、依頼結果として、巻物が出現する依頼に関わっている。
なんとなく、これは最後の火に関わる依頼ではないかと思うのだ。
「わんこが居れば、確定よね」
けれども、どうやら今回は、あの犬の姿は無い。おかしいわねえと、桜は気にかけて山へと向かう。
「突如、豹変した炎龍‥‥。炎というと‥‥残りの1つ、か?」
髪を撫ぜつけて、アシュレイ・カーティス(eb3867)が桜に頷く。
依頼が終わってみなければ、巻物の有無はわからないのだが、十中八九、火の巻物が出てくる依頼だと、アシュレイも思うのだ。そして、もし巻物がらみなら、悪魔が関与しているかもしれないと。しかし、石の中の蝶は、ぴくりとも動かない。
村で聞き込んだ炎龍の現在の予想地域は、山の南方。
「拡大を防ぐ為に、見てまわっていたそうだから、間違いは無いとは思う」
大泰司慈海(ec3613)も、村に寄っていた。
「ちゃんと、場所を棲み分けてたのにね」
炎龍は地の底から出る事が無く、人も、炎龍が棲むと聞いてからは、なるべくその洞窟に繋がる亀裂辺りを避けて、のんびりと暮らしていたのに。人だけでは無く、山には様々な動物も居る。
「何も見えてないような感じみたいだよ。人が近くに偶然遭遇しても、気にしてないって。気にせず、好きなように火をつけているみたいなんだって」
慈海は、大柄な体をしょぼんとさせて、炎龍に遭遇した人から聞いてきた話を仲間達に伝える。
隼のエギューが戻ってくるが、リフィーティア・レリス(ea4927)は、隼から何か聞き出すすべを持たない。戻ってきた方向から考えれば、慈海の話通り、山の南の方だ。
「ま、やるだけやるしかないか」
炎龍。その文字にギルドで首をかしげた。退治する相手の質が、ここ最近は変わってきているような気もするのだ。
「なるべくなら、山に被害が出ないようにしたいとこだ」
あちこちが燃えている。
その消火する手管を、持たないから、きっちりと、炎龍を退治しようと思うのだ。
「しょうがないよね。早めに倒そう」
イリーナ・ベーラヤ(ec0038)が、頷く。退治対象が炎龍という事で、炎に耐性のある、ほのかに赤く光る宝石をあしらった、金製の首飾りウィッチネッカーを身に着けている。
村は、ちょっとした騒ぎになっていた。冒険者がつれて歩くのだから、誰も何も言わないが、つれて歩くにはいささか難のあるペットが大挙したのだから。ペガサスや、水馬は、馬のようであるから、特に気にはされていなかったし、犬や隼は特に気にはならないし、変化する三笠大蛇も、わからないのでかまわない。香炉に入っているなら、巨大な精霊も脅威では無い。愛らしい精霊なら、連れ歩いても喜ばれる事が少なくない。だが、ライオン、グリフォン、ウイングドラゴン、ドラゴンのように見える不可思議な生き物、特に、ライオンは絆も低い。山村だからといっても、人は居るのだ。申し訳ないけれど、今度はそれを置いてきて欲しいという嘆願が、ギルドへと届く事になる。
「龍退治か‥‥‥‥‥‥‥」
ウイングドラゴン風穿を連れて来ている鷹碕渉(eb2364)は、複雑な思いで、呟く。
依頼は依頼だ。きちんと退治する事になるだろう。
「炎龍って、精霊なんだね」
ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)は、その能力と、依頼にあがっている話で、調べずともおおよその推測は立つ。
全身に炎をまとった八本足のトカゲ。近寄るだけで、ダメージを受け、そして、火の魔法をすべて操るという。
桜がみなもから聞いていた炎龍の詳細も同じ。
(「仕方ないね」)
炎龍は気の毒だが、そういう事もある。人に迷惑がかかった時点で、退治されるのも止むを得ないと、ジョシュアは思う。
彼に呼ばれたエリザベートは、炎龍をおびき寄せる手伝いをと思っていたようだが、来られなかった。
同じく、渉が呼んだコンルレラも、龍の探索は不可能だった。移動に一日以上かかるような場所だったからだ。
煙と炎が見える。
急がなくてはならないだろう。
●時、来たる
炎龍の元に辿りつく。
ちらちらと、舞い上がる炎。
火の粉が、舞い、細かな明かりとなって、周囲に散らばる。
緑の木々は、その熱にうなだれ、炎龍から飛んだ炎が、草木を燃やす。
あまり近づくと、ダメージが入る。距離を測りながら、冒険者達は炎龍へと近づく。
「少し、話したいね」
カイの言葉に頷くものが多い。
インタプリティングリングを使用し、カイは炎龍へと向かう
ぱちぱちと炎が大きくなる。
炎龍は、冒険者達を視界に入れては居ないようだ。
『何故火をつける』
『時だ』
時。何の時だろう。
『何時まで行う』
『消えるまで』
消える? 消えるとは、何がだろうか。
『住処に帰る気はあるか』
『ない』
無い。
「──駄目か‥‥」
人に非があるのかどうか、確かめたかったのだが、カイの質問からは、さらにわからなくなった返事と、炎龍が棲みかに戻りたくないという事だけが知れる。
慈海もインタプリティングリングを装備すると、炎龍へと向かう。
『どうして今まで仲良く暮らしてたのに、急に山を燃やしてるの?』
『時だ』
慈海の質問にも、時という言葉が帰る。
では。と、アシュレイもインタプリティングリングを嵌める。
『何故、山を燃やす?』
『時だ』
また、時。という言葉。
『何故、人を苦しめることをする?』
『時だ』
原因は、時だと言うのだろうか。アシュレイは軽く首を傾げた。
イリーナが、前に出る。
『私も、質問するわ。犬猫とはなすような感じよりも感情が昂っているみたいだから、「はい」「いいえ」「わからない」の簡単な3つの回答でいいわ』
『‥‥』
そもそも、そんな定義を示されても、逆に難しすぎて、その内容は理解されない。
『なぜ眠りから目覚めたの?』
『眠ってない』
炎龍は、眠ってなど居なかった。ただ、不愉快に思い、洞窟の外に出ただけなのだから。
『この火災はあなたが興したの?』
『そうだ』
火をつけて回っているのは、村人からも報告が上がっているし、目の前で火の手が上がるのを確認した。
『デビルのニオイはする?』
『‥‥ニオイ?』
炎龍は、デビルという単語を知らないようだ。
(「何をしてるのか、とか聞いても意味あるもんかなあ?」)
リフィーティアは、複雑な思いで、そのやりとりを見ていた。
火をつけてるのは見ればわかることだ。それを、止めさせられないのならば、倒すことになる。
どうせ倒すのならば、言葉を交わすのも憚られ、テレパシーリングを持ってはいたのだが、使うことを思いとどまる。
スクロールをぱらりと開き、ジェシュファが炎龍に向かう。大太法師のヴァリショーイ・ガラーが、ジェシュファを守るように、前に立ちはだかっている。
『これ以上火をつけるなら、退治する事になるよ』
『‥‥』
炎龍からは、返事が返らない。その代わりに、淡く炎が舞い踊る。
「何が来るっ?!」
炎龍の操る魔法は、全種類。
先ほど見たのはファイアーボム。また、その攻撃がくるのか、それとも、他の攻撃だろうか。
地表から、炎が吹き上がった。マグナムブローだ。
相対した時点での陣形などは考えていなかった。
吹き上がる炎に焼かれるのは、ジェシュファと大太法師。そして、ジェシュファから魔法付与を受ける為、近くに居た渉だ。
ちりちりと焦げる音と、嫌な臭いが立ち上る。高速詠唱を使えば、あるいは先手を打てたかもしれないが、ジェシュファは、今回は使わないと決めていた。
「大丈夫」
カイのリカバーがジェシュファを救い、次いで、渉をも癒す事になる。
攻撃の合図も何も決めていなかったが、こちらを攻撃するのを厭わない炎龍に、冒険者たちは一斉に攻撃を仕掛けた。
サンレーザーをぶつけようとしたが、相手は炎だ。確かに燃えたが、あまり効いているかどうかはわからない。
「うーん。どうシようかシら」
敵が近づいてきたら、戦うつもりの桜は、動くのを躊躇う。
「しょうがないか」
リフィーティアは蓮華の花を模した盾ヴァイジャヤンティを構え、鬼神ノ小柄を打ち当てようと、走る。
「連携、気をつけようっ?」
魔槍ドレッドノートが空を突いて、そのまま炎龍へと突き刺さる。慈海だ。
「うむ、互いにな」
アシュレイのコルムの槍が、気合と共に振り下ろされる。
イリーナは、オーラパワーとオ−ラエリベイションを自身に付与する。
「因果を知ることは出来なかったけど‥‥」
カイは、炎龍の変心が、人の介入でなされたので無ければいいと思いながら、透き通るほど青白い、霊矛カミヨを叩き付けた。
飛散するように、炎が散った。
炎龍が再び炎を纏い、炎龍はその姿を変えようとする。
それと、ほぼ同時に、名刀村雨丸のほのかに濡れた様に光る刀身を閃かせ、渉が炎龍へと刃を埋める。炎龍の炎で、再び、僅かだがダメージを受けた。大太法師の影から僅かに離れジェシュファがウォーターボムを叩きつける。水球が水蒸気を立ち上らせて、炎龍へと当たる。小柄を走らせるリフィーティアも、その炎に焼かれて、渋面を作る。慈海とアシュレイが共に、死角から槍を突き入れ、イリーナがクルセイダーソードに裂帛の気合を乗せて、叩き込んだ。その熱は、やはりイリーナへもダメージを与え。
一際大きな炎が舞う。炎龍が使おうとしたのはファイヤーバードだったのだろう。羽を広げたかのように、炎が空へと吹き上がる。しかし、それが限界だったのだろう。限界はとうに来ていたのかもしれない。
舞い上がる炎は、形にはならず、その羽根が舞い散るように、霧散する。
そして。
炎龍の最後の炎が舞い散った空に。
この国では、見たことの無い、鮮やかな花畑が広がった。
遠くで何か音が聞こえたような気もする。
風音だろうか。
──時、来たる。
そんな、言葉が聞こえたような気がした。
炎龍のかき消えた空から、ふわりと、落ちてきたものがある。
巻物だ。その巻物は、何の変哲も無い巻物。表題すら無い。色鮮やかな緋色の平織りの組紐で巻かれている。
巻物には、文字が書かれていた。日本語のようだ‥‥が、かすれて読めない。ただ二か所、『火』と『天鳥船』が、不思議にはっきりと読めた。
そうして、桜が水馬瑪瑙に頼んだ天候を変化させる魔法で、ようやく雨雲を連れてきていた。
ぽつり。ぽつり。
小さな水滴が、炎と混ざり、音を上げる。
そして、瞬く間に、雨足は強くなり、ざあざあと音を立てて、この地域に雨の恵みを降り注ぐ。鎮火しつつある山のあちこちからは、煙が立ち昇る。じき、その煙も消えて行くだろう。
「気に入らなければ何時でも離れて構わない。只、俺はお前に対して友情を抱いているから、勝手に居なくなって欲しくないし、一緒に居てくれると嬉しい」
絆の低い三笠大蛇月雫を待たせている場所で、かろうじて待っていてくれた月雫へ渉は、絆を深めようと言葉をかける。何の弱みも握っていない。ただ、仲良くなりたいからと。
「悪魔、居なかったわね」
出てくるのが、ネルガル程度ならば、たたき伏せてやるつもりだったのにと、イリーナは肩を竦める。
梅雨時だ。集まった雨雲は多く、中々降り止む事は無い。
桜は、しまったかしらと小首を傾げた。
「のんびり温泉っていうわけにもいかないわねぇ」
「でも、入りましょう」
「そうよね」
桜とイリーナは、雨も何するものと、秘湯と呼ばれる、山中の温泉に入った。翠の色を僅かに落としたかのような、透明な温泉に、雨の波紋が消える事無く模様を作る。ぷっかりと浮かんで、手足を伸ばせば、炎で汚れた煤や戦いの汚れも綺麗に落ちるかのようで、二人は心行くまで温泉を楽しんだ。
「これですべての巻物が揃った‥‥果たして、何が起きるのか。通行手形を手に入れている‥‥と言ったか」
風音を聞きながら、アシュレイは、見慣れた花畑が消えるのをじっと見ていた。けれども、何時もと何ら変わる事が無い。
残ったのは、巻物だけ。
これは、どういう事だろうか。
あの、いつも居る犬──天使の姿も見えない。
「‥‥ままならんものだ」
村へと戻ると、消えた炎龍の墓を作りたいと申し出る。村人達は、喜んでと頷いた。
火炎により負傷した仲間達の傷を治すと、カイは、濡れた髪をかきあげる。
「一応、確認だけはしておかないとね」
炎龍の洞窟に、もしかしたら、何か他に脅威になるような対象があるかもしれない。それは、今後の村の為にもならないだろう。軽く首を振ると、歩き出せば、慈海がそれに気がつく。
「俺も行くよ〜。急に暴れだした理由がわかるかもしれないから」
雨が、視界を曇らせる。
洞窟は、破壊されていた。
炎龍が出るときに破壊したのか、炎龍が出てから、何者かが破壊したのか。それはわからないが。
人がやっとひとり通れるほどの隙間を見つけ、カイと慈海は、洞窟の内部へと足を伸ばす。
慈海は、石の中の蝶をじっと観察するが、動く様子は無い。
「どうやら、何もなさそうかな‥‥」
「あの奥は狭そうだもんねえ」
子供でも通れなさそうな、狭く、横に長い亀裂が、洞窟のさらに奥にあった。だが、どうやら何も無い空間のようで、炎龍の居なくなった洞窟は、ただの洞窟になったのかもしれないと、二人が思った、そんな時。
「あ!」
「命は巡る‥‥か」
慈海が嬉しそうな声を上げれば、カイが、目を細めて微笑んだ。
人の入れないような奥に、炎が灯ったのだ。
そこには、小さな、小さな炎龍が、生まれ出ていた。
精霊に愛された地のようだった。