星舞いの祈り

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:9人

冒険期間:06月21日〜06月26日

リプレイ公開日:2009年06月30日

●オープニング

 京の混乱は収まるところを知らない。
 黄泉軍、鬼、そして人と人との戦いの果て、寄るべき場所を失った人々が居る。
 避難民として、野山に溢れ出た人々を京近くの村や神社仏閣で受け入れてくれる場所もある。しかし、もともと住む為の場所では無い。
 増え続ける難民達の中には、長く落ち着かない生活の為、病が長引き、動けなくなる者も少なくない。
 希望。
 それが見出せずにいる人々を見てしまった。
「うーにゅっ‥‥病を治す事は‥‥僕には難しいけどっ」
 白翼寺花綾(eb4021)は、大きな目を僅かに潤ませる。
 風は初夏の香りを運ぶと言うのに。
 若葉は色鮮やかな緑を見せると言うのに。
 今を生きるのに精一杯で、そんな風景さえも目に入らずにいるなんて。
「想いの力が‥‥いっぱい集まればっ‥‥元気になれるかもっ? でも‥‥どうすれば?」
 祈紐。
 ふと、花綾は色鮮やかな紐を思い出す。
 初夏の風が、花綾の頬を撫ぜ、歩いていた道の向こうの森を揺らす。
 鳥達が羽音を立てて、森から飛び立った。
 しゃらしゃらと、笹の葉が風に音を立てる。その横には、小さな神社がある。
 じき、七夕だ。その鳥居の前で、無償で色紙を配っていた。
「むぅ‥‥」
 沢山の人が、笹に祈りを乗せて星に願う。
 祈りを託せば。
 明日はどうなるかわからない。善は急げと言う。
 きゅっと拳を握ると、その神社へと、花綾はパタパタと走っていった。
 自分に出来る事は、踊る事。
 きっと、力になれる。

 歌・舞踊・演奏等で、想いの力を活かし、避難生活をしている人々の心を慰めて欲しい。
 そして、神社の入り口に伸びる笹へと、祈り紐や短冊を吊るして欲しい。
 そんな依頼が舞い込んだ。

●今回の参加者

 ea1011 アゲハ・キサラギ(28歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4475 ジュディス・ティラナ(21歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 eb2918 所所楽 柳(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3581 将門 夕凪(33歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3601 チサト・ミョウオウイン(21歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb4021 白翼寺 花綾(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

フィン・リル(ea9164)/ 陸堂 明士郎(eb0712)/ サントス・ティラナ(eb0764)/ フレア・カーマイン(eb1503)/ 将門 雅(eb1645)/ 明王院 浄炎(eb2373)/ 十野間 空(eb2456)/ 陽 小娘(eb2975)/ 国乃木 めい(ec0669

●リプレイ本文

●祈りの準備
 京の近くの小さな寺。その周辺は、とても慌しくなっていた。
 明士郎が、そのすばらしく男前な姿に、すばらしく映える? 兎の面と、ラビットハンドを装備し、『兎耳大名神』と称し、人々の微笑を買いつつ、祈りの儀式が行われる旨、洛内に喧伝して回っていた。依頼などで、その男前振りを目にしている京の人々も少なくない。その宣伝効果は、効果抜群だったようだ。後でアゲハ・キサラギ(ea1011)と何かあったとしても、本懐を遂げた明士郎は、満足のうちに涅槃に旅立‥‥ったかどうかは定かではない。
 ジュディス・ティラナ(ea4475)と、サントスは、親子で顔を突き合わせ、何やら真剣な密談? の最中だ。そこに、白翼寺花綾(eb4021)の荷物を運び込み、酒をお供えし、祈り蕎麦や瓜など持って来た小娘は。洩れ聞こえる密談に、ぴしりと、額に青筋を立てる。固めた拳が、満面の笑顔眩しいサントスへと綺麗に入った。サントスは、お星様になった。‥‥のかもしれない。
 そんな、どたばたを背景にしつつ、浄炎は、重傷者は老人などが、舞を見れるように。祈りを捧げられる様にと経路、観覧所などに手すりや腰掛等を設え、案内板などを細かに設置して回る。手の空いている者は介助の協力をと人手を集めるのも忘れない。
 空とめいは、色に込められる意味や想いなどをわかり易くまとめ、文字と絵図面に記し、会場各所に張り出しの看板を立てて回る。少しでも、この祈りが届くようにと心を砕き、めいは浄炎と共に、手助けをしてくれる人の手配を買って出る。
 フィンは、精霊の息吹を探すが、残念ながら、精霊は見つからなかった。陽の光当たる場所で、一箇所にとどまるほどの精霊は居ないようだった。
 フレアは、演者に化粧を施し、身嗜みを整える手伝いを買って出る。綺麗所ばかりだ。整えがいがあるというもので。
 雅は、少しでも多く、あまり演舞に馴染みの無い人や、身寄りの無い子供達に見てもらいたいと、避難している人々の合間をぬい、食べ物もあるからと、話しかけている。そして、近隣の商人へと回る事も忘れなかった。その商人としてのスキルがものを言う。協賛という形で、かなりな額と差し入れを手に入れた。仲間達の負担は、気持ちだけ頂いてすべてそれで賄う事が出来そうだ。

「来て下さって‥‥ありがとですっ」
 ぺこりと、頭を下げるのは花綾。祈り紐を結んで集めたい。色違いの大きな瞳が真剣な光を帯びる。
「来ちゃったわっ」
 ジュディスが、にっこり笑って、花綾にご挨拶。兎餅をお供えし、初日に動いていた、兎神様を思い出し、ふふふと笑う。難民の皆を含め、多くの人を癒し、励ます。
 小さな助けかもしれない。けれども、今ここで、皆で手を繋げるという、心を和らげる、きっかけの一つには、きっとなれるはずだと思うのだ。大きな希望で無くて良い。ほんの小さな‥‥。
 綺麗な夜空が見られますようにと、チサト・ミョウオウイン(eb3601)はウェザーコントロールで、晴れ間から、晴天を祈る。きっと、晴れた夜空が見れるはずだ。
 綺麗に飾り付けられた、笹や、揃えられた虹の、七色の色紙を見て、所所楽柳(eb2918)は、満足そうに笑みを浮かべる。
「七夕の七‥‥は勿論、近頃は随分と七の数が囁かれているようだし、魔や闇に向かうは光、七の光ときたら‥‥虹。そんな連想が過ぎったからね」
 周囲も、祭り特有の、ざわめきが徐々に高まってきつつある。わくわく、どきどきという、形の無い喜びの気。
 ひんやりとした空間が、あちこちに出現する。が、祭りの始まる少し前から、氷の棺を花を囲い込み作っていた。紫陽花、朝顔。じき、溶けてしまう氷の棺だけれど、一夜の涼をとるには十分で、その涼しさと美しさに、人目を引いて。旨に揺れるは、祈り紐に括られた袋。祈りの結晶がその中には入っている。
「歌舞に、癒しの力はあると思います」
 穏やかに微笑む将門夕凪(eb3581)は、奉納舞いを踊った事がある。それ故の言葉だ。神事にも、歌や舞はつきものであり、力はきっとあると。
 花綾とアゲハは、用意してもらった祭り台の他にも場所をと、願い出に向かえば、快諾され。

●星に願いを
 色とりどりの色紙や、祈り紐が笹に下がる。
 切込みを入れた飾りなども揺れて、星明りを邪魔しないように灯された提灯の明かりが仄かに夜に笹を浮かび上がらせる。
 天空には満点の星。
 柳は、青い色を選んで祈り、笹に括りつける。
 想いが理想に近付くようにと。
 ジュディスは、怒りの母をひとまず頭の隅から追い出し、星になった? 父と話した、当初の予定通りに、祈る。
(「早くお姉ちゃんになれますようにっ☆」) 
 ちっちゃい子と遊ぶと、弟か妹が欲しくなる。父は大賛成なのに、母があの通りだ。ならば、ここはひとつ、星に力いっぱい祈っておくのが最善だろうかと。
 そんなジュディスを見て、くすりと笑い、アゲハも祈る。祈ることは沢山ある。難民の皆の幸せだけじゃなく、多くの人が幸せになりますようにと。争うことなく、笑顔で過ごせますようにと。平和へと向かう願いは尽きることが無い。
(「でも今一番に願うことは家族のこと、かな?」)
 旦那さまも含め、子供達がこれまでと変わらず、無事に育ってくれること。だからこそ、願いの先に平和が第一に来るのだろう。
「ただ、願いで収まることなく現実にしなきゃだめなんだけどね?」
 アゲハは、深い笑みを浮かべた。
 それがどれほど困難な事かは、十分承知しているから。
 夕凪も、平穏を祈る。
 災厄を振り払い、平穏が続きますようにと、願い。そして、共に過ごす夫と何時までも歩めるようにと。
「生きとし生けるもの全てのモノも、彷徨いし哀れな魂達も‥‥憎しみと悲しみの負の連鎖から解き放たれますように‥‥遍く全てのモノに慈しみ愛し合う、祈りの心が届きますように‥‥」
 小さな手が祈りを結ぶ。チサトは、小さく息を吐いた。
 花綾は、赤と紫の色紙を前に、願いを書き記す。
「颯生が健やかに育ちます様に‥父様が‥‥良き人とっ‥幸せになりますようにっ‥‥」
 そこで、はっと何かを思い出す。顔を赤くしながら、ぶんぶんと首を横に振る。
(「僕の事よりも‥‥父様何とかしなきゃ! 患者様も‥‥心配だから‥‥」) 
 祈りは、願いであり、願いは、祈りに変わる。
 宵闇が深くなれば、ぼんやりと浮き上がるのは、舞台。
 雪洞や提灯が、観客席の足元を、僅かに照らし。
 ちょっとした行列が、観客の合間をぬって進む。花綾とジュディスが率いる、ペットの行軍。
 流石に、人の多い場所だ。普通の犬猫は近寄らないが、連れてきたペット達ならば、彼女達のいう事を良く聞いた。
 可愛らしいその姿が通過するのを見て、眼を細めて喜ぶ者も多かった。

●祈りの舞い
 そして、始まるのは、舞姫達の踊り。
 虹の七色を踊りに映した奉納舞いだ。
 
 赤い祈り紐を手首に巻いて出てくるのは花綾。
 扇子を刀に見立て、戦乙女が民を守る為に、不死者を相手に刀を振るう。くるりと回る度に、袖が花綾の後を追うようにくるりと舞い、その先には、扇子が、やわらかな動きと相対し、鋭い奇跡を描いて空を裂く。
 橙を担当するのはチサトだ。
「ただ、他人や神様に頼るだけの想いは祈りではなく願望でしかありません。各々が安寧と幸せを望む思いを‥‥道を誤りしモノへの憐憫を‥悲しき死者達に鎮魂と追悼を‥それらを胸に抱き、今出来る最善を尽くして日々を生きる‥‥そんな行動を伴う想いが祈りなんだと思うんです」
 チサトが、前に出て、静かに話し始める。
「病傷の床にある人にとって、祈る事…それが最善の行為なのかもしれません」
 小さなチサトが、丁寧に頭を下げて、引いていきながら、思うのは、世界を覆う、負の連鎖。
 悪魔らが、怨嗟や血の穢れで現れ、天地を覆わんとする今、果たして何が出来るだろうか。今、何をすべきだろうか。自分は、人に何を伝え、誰と共に、どう歩むのか。答えの出ない思考に嵌まり込む。
「この子抱っこしてくれるかしらっ?」
 前列に居る、小さな男の子に黄色い祈紐を手首に巻いたジュディスは、うさぎのふたばと、猫の謙信を抱っこさせる。
「あったかいでしょ? この子もね、今はちっちゃいけど大きくなるのよっ☆」 
 ちいさな動物の暖かさと、そのふわりとしたもふもふ加減に、子供達は自然、笑顔になる。ジュディスは満足そうに、頷くと、ふわりと踊りを始めた。
 元気の良い、明るい黄色の踊りを受けて、アゲハが躍り出る。緑の紐を手首、足首に結び。
 緑の翡翠を細やかに刻んだ、新緑の若葉の簪。薄い布を重ねた巫女装束。とても美しく煌びやかな羽衣が、ふわりと揺れる。
 その踏みしめる足は、力強く大地を叩く。大振りな手の動き、くるりと舞う上半身が外へと円を描く。早い音が、アゲハの動きについてくるかのようだ。伸ばした手の先には、まるで光が宿るよう。開いた手が空を掴めば、人々は、はっと息を呑む。アゲハが掴んだのは、意志。大きく舞った手が、ゆっくりと下がる腰を落とした滑らかな動きは、次第に平穏へと時を刻む。
 静寂の青へと、踊りを手渡すかのように。
 鉄笛で、伴奏をしていた柳が、前に出る。
(「この歌舞の旋律の一音になれば良い」)
 片手には扇を持ち、鉄笛を片手で持ち、ゆるゆると前に出る。手首の青い紐が揺れる。
 歌と、踊りを引き継ぐかのように、夕凪が鈴の音を鳴らす。
 長めに結んだ、藍色の紐が、ふうわりとした動きに、僅かに遅れて、空を舞う。
 澄んだ音色が響き渡り、朗々と歌い上げる声が重なる。

 ──夜空かかるは天の川 繋ぐ光は虹の橋
 ──光七色 寄り揃い
 ──祈り導け 天高く

 祝詞のような、歌声が、静かに周囲へと染み渡っていく。
 三段に重なった神楽鈴を、くるりと回せば、複雑な高音が、響く。終わりが近いのだ。
 花綾が、ゆっくりと前に出る。
 柳が、それに合わせて、進み出て。自分の青紐をほどいて、花綾の赤紐へ重なるようにと結びつける。
 それは、紫の色を示し。
 虹の七色は完成した。
 そして、後に残るのは、無であり、有である、白の色。
 花綾の伸びやかで、綺麗な声が、響き渡った。

 ──君と僕とを繋ぐ絆 潤みし空の虹とならん。
 ──君と僕とを繋ぐ色が 澄みし地への道とならん。

 ふわりと、花綾の周囲が光る。
 ファンタズム。幻影を作る魔法だ。
 天空にきらめく、星の流れに重なるかのように、雪洞に照らされ浮かぶのは、虹の七色。
 夜空に浮かんだその光景を、集まった人々は、忘れる事が無かった。
 一瞬の空白の後、空に届くかのような、大きな拍手が沸きあがった。

 その幻影は、幸福な出来事として、確かに胸に刻まれたのだ。

 星の光が。

 家路に着いた、冒険者達は、その荷物の中に、いつの間にか紛れ込んでいた、小さな結晶を見つける事になる。大勢の祈りが、彼女達と共に踊っていたのかもしれない。