黒塗りの槍と山百合
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■ショートシナリオ
担当:いずみ風花
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 10 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月19日〜07月27日
リプレイ公開日:2009年07月27日
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●オープニング
「黒塗りの槍をな、渓谷に落としたんだわ」
あっはっはと、笑いながら、前田慶次郎が、冒険者ギルドへと顔を出した。
加賀に入る手前で負った、骨折などの怪我は治っている。
「それ、探してきてくれないか? 重いから、多分、盗人には動かせなかったんじゃあ無いかとは思うわけだが」
大丈夫か? そう、受付に笑う。
「大丈夫でしょう」
にっこり笑顔で返すと、受付は請合う。
「渓谷渡り切った、加賀側に、目立たない男が居るから、渡してくれ。小豆色の豆絞りの手ぬぐいを首から提げている。立花と言う名だ」
じゃあ頼むと笑う慶次郎に、何時ものように、依頼に随行しないのかと、不思議そうに首を傾げる受付の、言外の言葉を読み取ってか、慶次郎は笑みを深くする。
「もーひとつ、依頼頼みたくてな」
「わかりました」
渓谷。
慶次郎が追い落とされたのは、狭い峠。
まるで、細い橋が渡っているかのような場所があった。
馬一頭が通るのがやっとという場所だ。
そこを通りかかった時、暴れ牛が前後から突っ込んだ。暴れ牛も、慶次郎も、足を踏み外し、てんでばらばらに、渓谷へと落ちていったのだ。その、慶次郎が落ちた、反対側に。黒塗りの槍は落ちたのでは無いかと言う。
漆黒の太い槍だ。八尺はある。その槍の芯には、鉄柱が仕込まれており、かなり重い。
引き上げる為には、力に自信の有る冒険者4名は必要だろう。縄もどれだけいるか。
何より、その渓谷の高さが、十間強ほど。ほぼ、垂直に切り立ち、場所によっては、えぐれて内側へと入り込んでいる。降りるには、それなりの技術が必要だった。
その、渓谷の下には、背の高い山百合が、なだらかな岩場の合間、合間に咲き誇る。
そんな、山百合の群生の中に、黒塗りの槍は僅かな傷を負っただけで、静かに横たわっていた。
だが、そこには、黒塗りの槍と山百合だけが居るのでは無かった。
むくりと起き上がるのは、死人憑き。
侍の姿した、その死人は、黒塗りの槍の周りをうろうろと回っているのだった。
茶金であったはずの着物に、茶の袴。その着物の背についた家紋は、花家紋。加賀の職人技の家紋だ。
花車に山百合。かつては、鮮やかに染め抜かれていただろうそれも、煤け、風化しぼろぼろになっていた。
●リプレイ本文
●渓谷
吹き抜ける風が、冒険者達を撫ぜて行く。
ふわりと風を受けてなびく着物の裾。乱れる髪。空中にぽっかりと浮かんだ橋が渡る。岩場の合間には木々が負けじと枝葉を伸ばし、緑のざわめきが、森の香りをも乗せる。そんな渓谷を目の前に、田原右之助(ea6144)は、笑みを浮かべる。依頼でなければ、のんびりするのは気持ちがよさそうな場所だと。
「それにしても、八尺か〜すげぇ。会えないのか、残念だな。デカイ槍を振り回すその姿、一度拝んでみてぇ。さすがに俺は持てねぇよ」
右之助が、自身の獲物を確認しつつ、今回拾い上げるという槍を思い呟けば、あちこちから似たような声が上がる。
「その上、鉄骨仕込みの槍とは‥‥中々に興味深い武具です。是非この目で見てみたいもの」
気持ちうきうきしているのは、桂木涼花(ec6207)。
刃物がとくれば、その興味は尽きないようだ。
「力自慢が4人がかり‥‥槍もすごいが、そんな物を得物にしている依頼人もすごいな。一体どんな怪力の大男なんだ?」
生命力を探知し、生命を持つ者の大体の大きさと距離、数を知ることができる魔法を展開しつつ、ヴィタリー・チャイカ(ec5023)も頷く。
「思えば前田さまが武器をとられるのを目にしたことはなかったかも」
前田慶次郎を知る齋部玲瓏(ec4507)が、僅かに空を仰ぐ。確かに、大柄ではあるが、そこまで巨大な人ではなかったようなとも考えて、小首を傾げる。
「四人力とは、まあ。余程の偉丈夫か力士でもないと動かせないのではないでしょうか」
そうねと、笑い、やはり慶次郎を知る日下部明穂(ec3527)が、玲瓏にくすりと笑う。
「暫く会えなくなると聞いて、戻ってきたら大怪我。色々派手な人だけれど、心配のかけ方まで派手でなくていいのにね」
「はい」
「今回は一緒じゃないけれど、まあいずれ会うこともあるでしょう。お礼はそのときに貰いましょう」
明穂が目を細めて笑う。慶次郎が聞いたら、きっと、やっぱり明穂。と呟くようなそんな笑みだった。
「さて、暴れ牛が出たという話ですが、そんな気配は無いようですね」
道すがら拾い上げた木材を下ろし、緋村櫻(ec4935)が、細い天空の道の向こうを眺め、やってきた道を振り返える。縄をくくろうとして、手持ちに無いのに気がついた。暴れ牛対策なので、間を狭く杭打てば大丈夫かと、天空の橋のこちらと向こうに杭を打つ。
「人とかならば、気がついて避けるでしょうしね」
手伝うわと、明穂が杭を打つのに手を貸し。程なく落ちた場所へと降りる準備は整う。
「この高さから落ちたとは‥‥やれやれ、難儀な事ですね」
引き上げる槍の重さを思ってか、櫻が僅かに溜息を吐いた。
●山百合散る戦い。そして。
「成る程、山百合の美しい‥‥しかし、不穏な気配漂う谷ですね」
涼花が眉を顰めた。
小さく人の姿が見える。けれども、その人の行動は、あまりにも人からかけ離れていた。
「かなり重たいみたいだから、腰を据えて取り組まなければ‥‥あれは、先に倒してしまう方が良いかもしれないわね」
明穂が頷く。
玲瓏の三笠さまとヴィタリーのミカヤが、姿を変じる。人の姿をしてついて来ていた、三笠さまと、ミカヤの本体は三笠大蛇という巨大な生き物である。犬のような顔をし、白いふわふわの毛で包まれた大蛇が姿を現した。その全長はおおよそ十一間。
「かの三笠大蛇の背に乗せて頂く機会があるとは、思いもよりませんでした。よろしくお願い致します」
思わず、深々とお辞儀をしてしまうのは、涼花。
「ミカヤ、お願いするね」
「三笠さま、どうぞ宜しくお願いします」
二頭のルームは、微妙な表情を浮かべつつ、それでも絆の深い主人の頼みを聞く。僅かに我慢しているようだ。
「ああ、俺は大丈夫だ。これがあるから」
右之助は空飛ぶ絨毯を取り出し、念じ始める。
他の冒険者達は、ルームに数名にわかれて乗った。二頭のルームのふさふさの毛がゆれ、示し合わせたかのように、静かに山百合の咲く底へと下りて行く。尾が上空にあるうちに、下についてしまいそうだ。その後を右之助の空飛ぶ絨毯が追いかける。
人の気配に、怪しげな動きでぐるぐると回っていた死人は、その動きをぴくりと止める。そして、ルームから降りて来た人へと向かい、ゆらゆらと動き始める。大きく開いた口は生き物を求めているかのようだ。
「こっちだ!」
ヴィタリーが大声を上げれば、さらに死人の歩みは速くなる。
「侍か‥‥なんつーか、色々残念だったようだな‥‥っし。鎧なんかは無さそうか」
右之助が向かってくるその死人の服装を見て、小さく呟く。そして、都を騒がす妖怪を退治したという謂れのある名刀獅子王と、天から降り落ちた星の神より作られたといわれる紫の刀身を持つ魔法の刀アマツミカボシを抜き放ち、走り出す。足元の山百合が、なぶられて揺れる。
「出来るだけ損傷無く‥‥」
叶うならば遺体も引き上げ、埋葬したい。その為には、少ない手数で倒したい。涼花はそう強く思う。片身の日本刀姫切の鯉口を切る。不死者へ深いダメージを与える力を、その刀に潜ませ。
「気持ちはわかるけれど‥‥ね」
涼花の言葉に、明穂は僅かに苦笑する。その気持ちはわかる。ならば、接近時は加減の効かない魔法は避けようかと考える。その前にと、詠唱を終えた魔法を発動させる。アンデッドの影が揺らぎ、瞬間、爆発が起こり、吹き飛んだ。それと同時に、玲瓏の魔法も発動する。巻物を開いたその魔法は、真空の刃を作り、死人へざっくりと傷をつける。はらはらと、吹き飛び、落ちた、山百合の花が散る。その頃、ヴィダリーは聖なる結界を展開し終わっている。
がくりと妙な形に歪んだ死人は、人ではありえないような動きで起き上がり、あちこちが損傷しているにも関わらず、向かい来る冒険者の方へと、その身を晒す。ただ、生き物の姿を求め。
「‥‥悪ぃな」
どうやっても引かせる事は出来ない。右之助は、命中力を高めた刀を、死人の手をかいくぐり、その腹へとざっくりと打ち込んだ。涼花が後に続き、腰にたわめたままの刀から、不意に刃を躍らせて切り上げる。踏み込んだ足が、山百合を散らした。
「いっそ斬り捨てられた方が彼も幸福でしょうよ」
名刀アキカゼを腰にたわめ、鯉口を切って走り込んだのは櫻。咲き乱れる山百合の中、異形の姿となった男へと櫻が抜き放つ刀身は鮮やかな真紅。刀を翻し、峰打ちを食らわす。続く攻撃で、死人の足は乱れ、たたらを踏む。
魔法を撃って、僅かに遅れた明穂の小太刀、陽中の陽を表す乾の線浮かぶ照陽と、大極と八卦で陰中の陰を表す坤の破線浮かぶ影陰が、涼花の後を繋ぐように、傷を深くする。邪悪な者へと向かう魔法をヴィダリーが発動させた時点で、もう死人の足は崩れ落ちていた。
踏みしだかれた山百合の中に、うつぶせに倒れたその死人の着物の背には、かつては鮮やかに染め抜かれたであろう、花紋が見て取れた。
「どうか、安らかに」
涼花が合掌する。風渡る山百合を見て、櫻はひとつ頷いた。
「何らかの形で供養出来たらいいんだけどな」
右之助が僅かに下を向いて呟く。
「百合も咲くようですし、ここが墓でもいいかもしれませんね」
──山百合の花香をしをりに音尋ねしか。
土饅頭に玲瓏が、そっと言霊を零せば、ヴィタリーが酒を注ぎ、冥福を祈った。
●黒塗りの槍
その槍は、多少の傷はついてはいたが、大きな損傷などは無く、死人がぐるぐると回っていた場所にあった。
黒々と漆で塗られたその槍が、問題の槍に違いなかった。何より、重い。
戦闘の気配に、立ち去りたいのを我慢していたルームは、あまり機嫌が良くなさそうだ。
「手が必要なら、俺の絨毯も使えるからな?」
不機嫌そうなルームを見て、右之助が声をかける。
「ふふ。ご協力、感謝しますわ」
にっこりと笑い、明穂は笛を取り出す。選りすぐりの素材で作られた竜笛は、雅やかで、美しい音色を響かせる。明穂の技量もあいまって、その音色はルーム二頭の不機嫌さを払い、山百合の合間を抜けて行く。
「‥‥不明‥‥業物は確かのようですね。多分、この世に一本だけの槍」
玲瓏は、物品鑑定の魔法を発動し、その槍の価値を探っていた。万が一、違った槍であってはならないと。けれども、どうやらその心配は杞憂のようだ。小さく息を吐き出すと、ただ一本の槍をそっと触る。
「毛布をかけて‥‥縄は‥‥」
丁寧に埃を払い、仲間達は、槍を毛布などで包む。そして、玲瓏は、縄を持参していない事に気がついた。
「ごめんなさい。私も無くて」
「あ‥‥しまったな」
櫻は、先ほど杭を打つときに、縄が無かったのを思い出す。ヴィダリーも、毛布はあったが、結ぶための縄が無い。
「うわ。俺もねーぞ‥‥」
「私が、一本ありますが、一本では、どうでしょうか」
涼花が、幸い一本持っていた。
なんとか、毛布の端を結んだりして、それらしく体裁を整える事が出来た。
「頼んだぞ、ミカヤ」
ヴィタリーが、ルームに声をかける。ミカヤは、槍を加えると、軽々と渓谷の上の道へと槍を運ぶ。
「‥‥ところで谷底に降りている私も‥‥上げてもらっていいでしょうか‥‥」
櫻がえぐれたようにそびえる道を見上げて、溜息を吐けば、玲瓏が、三笠さまと、声をかけて、全員無事に渓谷の上へと運ばれた。
「あら?」
櫻は、通常馬赤雷を連れてきていたのだが、ルームが二頭現われ、下で戦闘が始まると、我慢の限界が来て居なくなってしまっていた。江戸へ帰り着く頃までには戻るだろう。
「じゃあ、俺のヤツで運ぶか?」
右之助のだいふくは、軍馬だ。戦闘の気配ぐらいではびくともしない。ならばと、括り付けて、引きずるように道を進む。それを目にして、涼花は、小さく首を傾げる。
「しかし、この槍を易々と操るとは‥‥持ち主の前田さんとやら、一体どのような御仁なのでしょうか。あの高さから転落して、無事とは言えずとも、生還されたとか‥‥。一度、お会いしてみたい気もいたしますね」
「酒場を覗いていれば、そのうち会えると思うわよ」
「面白い方です」
明穂が笑うと、玲瓏もこくりと頷いた。
対岸では、目立たない男が待っていた。明穂が声をかける。
「立花さんですか?」
「はい、左様でございます。この度は、槍の回収、ありがとうございます」
立花という男は、深々と冒険者達に頭を下げた。
「慶次郎さんによろしくと、伝言お願いしても良いかしら?」
「承りました」
「その槍の周りを回っていた死人が着ていた着物の一部と遺髪です」
百合の花車。そんな花紋の場所を切り抜き、遺髪と共に持ってきていたヴィタリーが、立花に手渡すと、立花は目を見張った。
「心当たりありそうか? 遺族に渡してやってくれないか? あ〜‥‥手一杯なら、ギルドに願い出るとか、何とか。あのままじゃやりきれねえだろ?」
「ありがとうございます。これは、私共が身内でございます。それなりの手は尽くさせて頂きます」
ご配慮感謝致しますと、立花は大事そうに花紋の布と遺髪を胸にしまった。
「この辺りで、栄えていた方でしょうか?」
「はい、ここから加賀へと向かう山間の家門でありました。行方がしれませんでしたが‥‥これで安否が確認出来ました。ありがとうございます」
玲瓏は、死者の無念を案じ、慶次郎は元気だろうかと問えば、何時もの通りでございますと、くすりと笑いが漏れる返事が戻って来た。大丈夫そうである。
手渡した槍は、待機していた軍馬が引く荷馬車に括り付けられ、何度も感謝を述べる立花の手で、加賀方面へと足早に運ばれて行った。
山百合の花車。
染め抜かれたその加賀の花家紋と呼ばれる紋の一門は、岩瀬という一門の紋だった。
その岩瀬一門の行くえは、じき、冒険者ギルドに報告が上がる事となる。