【時、来たる】満ちる、時
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■ショートシナリオ
担当:いずみ風花
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月25日〜07月30日
リプレイ公開日:2009年08月07日
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●オープニング
ここしばらく、とある依頼の中で、巻物が見つかるという現象が起こっていた。
この国にはまったく無いような、鮮やかな花畑が、空中に幻影として浮かび上がり、様々な経緯を経て、巻物が現われる。
依頼終了後、その巻物を欲しいと言う冒険者はおらず、そのまま、冒険者ギルドへと収納されていたが、流石に、巻物が二本、三本と増えていき、巻物が出た時の現象をかんがみ、江戸城内の陰陽寮が動いていた。
江戸の月道を管理するために派遣された陰陽師は、陰陽寮の江戸支部と言ってもよい。城の主人が代わり、伊達にも協力しているが、その本来の役目は精霊魔法の管理である。
巻き物ごとに白、橙、栗色、浅葱、藍、緋色の平織りの組み紐が巻かれていた。そして、決まった文字が読み取れた。
共通して現われる文字は、『天鳥船』。
『月』、『陽』、『土』、『風』、『水』、『火』の一文字。
回収した巻物は、全て預かり、出現場所を地図にかき込めば、円を描くように散らばっていた。
そして、ある陰陽師が、中心にある場所で、やはり不可解な依頼が出ていたのを発見する。
その場所は、高原だった。
山腹の村から、さらに上がった場所には、綺麗な高山植物が咲き乱れる、場所がある。その、さらに上に
長雨が、その場所に溜まり、巨大な池を作った。それだけならば、水の流れを塞いでいる岩を崩して水を流せば良いのだが、水と共に、何十という夜刀神が出現していたのだ。流れた水と共に、夜刀神が村へと流れ出れば、ただではすまない。それを阻止する為の依頼だった。依頼は幸い成功していた。
様々な事象から考えるに、この場所が、様々な精霊が寄る場所である事は間違いが無さそうであると。
「調査に参りたいのですが、何しろ、この巻物を狙っていると思われる、悪魔が、諦めたのかどうかもわかりませんし」
ちょっとだけ、天使に興味もあるんです。そうはにかみながら、問題の巻物を持って、桜色の狩衣に白い着物、赤い袴の少女の陰陽師見習いがギルドを尋ねて来た。
小さなその姿に、ギルドの受付が眼を丸くしていると、ぷっと頬が膨らんだ。
「皆忙しいんです。でも、これも放っとくわけにはいかないから!」
「あいや、すいませんね。もちろんです。きっと誰か手伝ってくれますとも」
大規模な戦が関東をも飲み込んでいる。見習いぐらいしか人手が割けなかったのだろう。
それで、何か術はありますかと尋ねれば、うっと詰まって下を向いた。どうやら、あまり大した使い手でも無さそうだ。さらさらと、調査依頼の下に、要護衛と書き記す。
「天鳥船‥‥何がわかるのか、とても楽しみです」
芳乃と名乗った少女は、皆さんの想像も聞いてみたいですと、大きくひとつ頷いた。
その地は、平地の暑さも忘れたような、いい気候だった。高原の色の薄い花々が揺れる。
「この地へと来るはずだ」
悪魔ネルガルは、姿を消したまま、高原を眺めた。色々調べてみたが、今現在は何も無い。出し抜こうと思ったあてが外れた。こんな事ならば、あの小娘が陰陽寮を出た所で、巻物を奪っておけば良かった。
先乗りしてみたは良いが、何もおこらない。しくじったかと、ネルガルは渋面を作る。
だが、それはすぐに笑みに変わった。遠くから、犬の鳴き声が響いて来たのだ。
しくじっては居ない。あの犬がやって来たという事は、この場所で何か起こるはずだ。巻物がそろっただけでは、何も起こらなかった。ならば、何か起こるまで、待たせてもらおうと思うのだ。
柴犬の姿をした天使は、ネルガルを追っていた。
天鳥船の情報は、どうやらまだ悪魔側には渡っていない。ならば、ネルガルをどうにか探し出し、退治しなくてはと気ばかり焦る。ここまで追って来たが、冒険者に助力を願った方が早かったかとも思う。だが、万が一、かの地に先に出現する事になったら。
封に加わった方々も居られない。
騒ぎにするわけにはいかず、姿を変じているのがもどかしかった。
●リプレイ本文
●六つの巻物が示すのは
小さな芳乃を連れた冒険者達一行は、様々な依頼で現われた、六つの巻物を眺めながら、目的地へと向かっていた。
リュー・スノウ(ea7242)は、一般の社会では、あまりなじみの無いフロストウルフぽちを連れていたが、手ぬぐいで顔をほっかむりをしている。精悍なその顔が見えなければ、犬と通して、なんとかなっている。よく懐いているのも大きい。
休息を取っている合間に、巻物は、見たいという冒険者の手から手へと渡って行く。
「あたしは天鳥船が何であれ正体がわかればイイかなぁ? わからないままだと何かすっきりしないしねぇ?」
目的地の夜刀神が出た依頼に参加していた御陰桜(eb4757)が、案内は任せてと笑い、芳乃の頭を撫ぜた挨拶をしたせいか、そのふわんふわんの姿にぽっとなったのか、芳乃は桜にこくこくと頷いていた。だが、正体は想像もつかないという言葉に、そこですよと、うーんと唸るのを目にして、桜はくすりと笑う。
「だよなあ、わからないものを考えるってのもな」
長い銀髪をかき上げて、リフィーティア・レリス(ea4927)も芳乃と同じように溜息を吐く。巻物が揃ったと言うことは、何かあるという事だろうとは分かるのだが、その先が浮かんでこない。
「天鳥船か」
先ずは、現地に着く事と、悪魔介入を阻止。つまり、退治する事だろうかと、頷く。
「船っていうのは移動手段、最初の事件のことを思えば、嘘でなく異世界への門、或いはその集合体となってる場所を天鳥船と呼んでるんじゃないか、とか思ってるんだけど。精霊の世を通過して、こっちの世界の特定の場所か任意の場所へ降りられる、みたいな。この国の神様は、天から降りてきたって聞くしね」
軽く肩を竦めるのは、セピア・オーレリィ(eb3797)。巻物がそろって、出現場所から割り出した中心に、精霊の集う場所があるとは、出来過ぎでは無いかと思うのだが、無いとも言えず。まだ見ぬ出来事を思えば、時折肌が粟立つ。それと同時に浮かぶのは笑み。
「見れば分かること‥‥」
何度目かの呟きを落とし、見れればいいけれどと、いう呟きに、芳乃が絶対見ましょうと、大きく頷くのに笑ってしまう。無いとまったく考えていないらしい。
ジャパンの歴史に詳しくないからと、困惑しつつ、アシュレイ・カーティス(eb3867)は、芳乃の求めるままに、推測をひねり出してみる。
「名前からそのまま想像すれば、鳥のように天を駆ける船、だろうか。巻物のことを考えると、精霊が関係するのだろうが。様々な精霊が、船を運ぶ原動力になるんだろうか。‥‥俺は想像力があまり豊かじゃないんだ。これくらいで勘弁してくれ」
きらきらと目を輝かせた芳乃に、アシュレイは、そろそろ限界と、お手上げをすれば、大泰司慈海(ec3613)が、大柄な身体を芳乃目線まで曲げて子供のような笑顔を見せる。
「『船は船さ』ってことだから、船なんだろうけど。巻物がこんなに色とりどりだから‥‥。多彩で派手〜な船かもね!花畑とか鈴の音とか‥‥素敵な場所に連れてってくれるのかな? 楽しみだね!」
こう、どーんと、ばーんと、可愛くてきらきらっと語り始めれば、それに同意するように、はいはいと、手を上げるのは、ルンルン・フレール(eb5885)だ。先の『火』の巻物が出てきた依頼は、一度関わった炎竜が消滅したという報告書が上がった依頼である。その最後に落胆しつつ、最後は炎竜が再び小さいながらも生まれ出たと言う事を見聞きし、巻物の行くえを見たいと思っている。『天鳥船』の想像は、とてもゴージャスで、王子様が現われるかのような、素晴らしい空飛ぶ船ではないかという、図を書いてみせれば、芳乃から賞賛の声が上がる。でもまじめな話ねと、ルンルンは頷く。
「ひょっとして、神様の所に行ける手段が天鳥船って呼ばれてるって事はないかなって? 今思うと見えたお花畑、凄く綺麗で天国みたいだったし。悪魔は、それを手に入れて天国の神様に悪さしようとしてるとか‥‥だから天使のワンちゃんも見張ってるのかなって」
天使の姿も確認がとれている。
一度姿を現してから、次の巻物が出た依頼には、姿を見せなかったのは、どうしてだろうか。
「天鳥船‥‥人に月道が在る様に、精霊自身の世界に繋がる道があるのやも? 人や獣、精霊‥‥異なる存在が共に黒き翼もつ者と相対する壁画を墳墓にて見た事がありますが。今は遠き存在も、本来は身近な隣人だったのかも知れませんね」
芳乃にリューが笑いかければ、遠き神々の時代ですねと、頷かれる。そう、巻物という形をとる事で、護るべきものへの鍵と、其の所在を後世に伝えているのだろうと、リューは思う。
泰山府君符と聖なる釘を芳乃がちゃんと持っているか確認しつつ、レティシア・シャンテヒルト(ea6215)は、首を傾げる。
「古事記がありますよね‥‥神様が出てきたりするかもしれませんね。天鳥船神とか、おみえになったような気がします。船が異界を渡る者として考えれば、伝承の健御雷神のように、船にとっての主が現われ先触れをするとか」
身を乗り出して聞いている芳乃に、レティシアは笑いかける。思い出すのは、河童の八津守。長い時を『水』の巻物を守り、伝えようとしていたその姿。彼等の行為を無意味にはしたくないと願う。巻物をばらばらに持って行くという案は、頷いたものとそうでない者が居り、とりあえず複数人に分けて道中を歩いて行く。芳乃を真ん中にと、レティシアとリューが気を配る。
ルンルンは囮にと、自前の巻物をこれみよがしに持っている。
「夜刀神退治に行った場所かぁ。懐かしいなぁー」
山が近づく。何度目かの休憩に入った時に、慈海が伸びをしつつ、巻物を開く。目くらましにと、別の巻物を持ちつつ、万が一、悪魔が消えた際に使えればと、染料を徳利に入れて持ってきている。
何か、あればと思ったのだ。
同じように、アシュレイも、時折巻物を開いて見せてもらっている。
「あれーっ?」
「‥‥巻物とは長い付き合いだったが‥‥いよいよ、だな」
慈海が自分の見ている『風』の巻物を見て、首を傾げれば、アシュレイも、手にする『月』の巻物を見て目を丸くする。分担して持っていた、芳乃が慌てて自分の持つ巻物を取り出す。レティシアとリューも、巻物を開けば。
文字が、滲むように紙に浮かんできているようだった。
はっきりとわからない文字もいくつかあるが、見て取れるのは、六つの巻物を示す位置。
北に『月』。南に『陽』。北東に『風』。南東『水』。北西に『土』。南西に『火』。どうやら、目的の高原の略図のような絵も浮かんでいる。その絵には、六方向に配置するとみられる、巻物に付随する属性が一文字書かれていた。
「‥‥何か、確実に起こりそうですね」
レティシアが、小さく息を呑んだ。
その文字と絵は、高原が近づけば近づくほど、くっきりと鮮やかに文字が読み取れるようになっていった。
●天使と悪魔
「誘い出しをかけて撃破ってことね」
レティシアの月魔法頼りねと、もう何度目だろうかとセピアが苦笑する。依頼を妨害する悪魔がいるならば、それを退治する。
「犬探すんだろ?」
道中には現われなかったが、もしもこれで天鳥船が現われるのならば、時折姿を見せていた、天使の変化した犬が居るはずだ。リフィーテイアが周囲を見渡す。
「今回は大詰めだもんねぇ。わんちゃん居るはずよ」
日差しは暑いが、涼しい山の風が吹き抜けて行く。終わったら高原でそのまま、避暑。そんな気分いっぱいで伸びをしながら、桜も頷く。
そう、大詰めならば、天使も悪魔も共に現われるはずだと。
高原が近づくと龍晶球、石の中の蝶という、悪魔が近づくのを察知できる指輪に注意するのは、アシュレイ。祈りを終えると、索敵範囲の広い、龍晶球を確認する。だが、まだ何の動きも無さそうだ。
レティシアも詠唱を終えていた。その尋常ならざる力のテレパシーは、目的の相手に到達していた。何度か呼べば、反応が返る。
『天使のわんこさん』
『‥‥それは、私の事だろうね?』
こちらの状況を手短に話すと、合流するという同意を得た。
高原に辿り着くと、額に白い星のような紋様のある、柴犬に似た子犬が顔を出す。
それと同時に。
「龍晶球に反応がある」
アシュレイが仲間達へと、小さく警戒の声を発し、犬を確認するとテレパシーリングを使用するために祈りを始める。そして、その時、石の中の蝶が羽ばたき出し。
(「多分またこそこそやってるのよねぇ? ワンちゃん囮にシたら出て来そうな気もするけど‥‥」)
「あ、いたいた♪ わんちゃんのお名前聞いてないわよねぇ? 教えてくれないならぽちって呼んじゃうわよ?」
桜は、アシュレイの合図に頷きつつ、近くに寄ってきた犬をとりあえず抱きしめに向かい、インタプリティングリングをはめなおすと、にっこりと笑う。
『‥‥想夜と言う。こちらに配置された時に賜った名だ』
「レジストデビルでもかけておくわね」
芳乃へと触れると、セピアが淡く輝く。その言葉に反し、使った魔法は不死者探査の魔法。その魔法に、思いっきりひっかかる。
「ちょっとだけ、お子様扱いさせて下さいね、芳乃さん」
リューが声をかけると、目を丸くした芳乃がこくこくと頷く。同じように芳乃に触ると、リューも不死者探査の魔法を発動させる。
(「対象は一。距離は、高原の外周で一番高くなっている場所」)
(「間違いありませんね」)
リューとセピアは、小さく仲間達へと悪魔の位置を教える。ルンルンは、僅かな斜面へと身を隠す。
(「羽ばたきが‥‥」)
強く、激しくなってきた。悪魔が移動しているのだろう。近い。
「この巻物を持っていれば、この船に乗れるんだね!」
慈海が偽物の巻物を手にして芳乃にもっともらしく頷く。
「ちょっとだけ、こちらに」
レティシアがバックパックを示すが、想夜は、それを断る。悪魔を騙すならば、戻ったほうが良いだろうと。
ふわりとした光と共に、現れたのは、白き天使。あまり身長は高くない。淡い茶の髪に黒に近い青い目。長いローブを羽織り、背には白い羽がある。悪魔の位置は、大体しか分からないとこっそり教えられる。感知するのは大雑把な場所のようだ。
この天使を見るのは二度目だ。レティシアは、八津守を思い出す。ひとつお辞儀をすると、詠唱を始める。淡く光り始めるレティシアは、
「では、いきます。皆さん、伏せて下さい」
想夜は出現時に悪魔が居るのは不味いと言う。ここに現れたという情報は、持ち帰っても如何する事も出来ないから構わないのだと。
ふわりと現れたのは、まるでどこかに繋がる入り口のような幻影。
『かなり近いですわ』
リューの声がレティシアに届く。
「ネルガル!」
そう、それならばと、レティシアは、高速詠唱で月の矢を放った。
この地に居るネルガルは、ただ一体のみ。
狙い違わず、月の矢はネルガルを撃つ。傷を負ったネルガルは、もだえ苦しみながら、その姿を現した。黒い羽に僅かに纏った炎が消える。
現れれば、しめたものである。
「動いては駄目ですよ?」
聖なる結界が、やはり高速詠唱で、芳乃を護るリューを中心として現れる。
走り出す仲間達。
リフィーティアが鬼神ノ小柄を閃かせる。
「火球は不要ねっ?」
綺麗な場所だ。一面に広がる小さな花々は、どれも色が淡く、けれども、沢山の種類が咲いているのだろう。とても複雑な色合いで、美しい。火魔法を使わないようにと、業火の槍を掲げて、セピアも走る。
「逃がさないんだから、ルンルン忍法影縛りっ!」
ペルーンの神弓にホーリーアローをつがえたルンルンの弦が高い音を立てて響く。魔槍ドレッドノートがちかりと光る。レミエラがその威力を高める。真空の刃が、ネルガルへと向かった。
「飛んで逃げられても、追えるからねっ!」
「活動拠点・指示を下した者・単独行動か」
瀕死になったネルガルへと、リシーブメモリーをすかさず発動するのはレティシア。
「か‥‥が‥‥ハボ‥‥ム‥‥」
次々と襲い掛かる、仲間たちの攻撃が、瞬く間にネルガルを黄泉路へと送っていた。かろうじて聞き取れたのは、断片的な言葉。はっきりとはわからない。そこから推測するには、手がかりがなさ過ぎた。
●精霊に愛された高原
巻物に書いてある通りの地形に、六つの巻物を置けば、六つの巻物は、その属性を表す光と化した。
旋回する光の渦が、細く、高く、高原の花畑を取り巻き、青く晴れた天空へと向かって伸びて行く。そして、その六つの光は重なり、風車のように旋回を始めた。
いつか、巻物が出た依頼で、聞いたことのあるような音だ。
そして。音が鳴り止むと、淡い色合いの花畑に重なるように、色鮮やかな花畑が出現した。
何処まで続いているのかわからない、ひろい草原。
甘い香りの花々。
青く澄み渡った空。
周囲の空間がまったく別のものになっている。高原に居たはずなのに、それよりもさらに香り立つ花々が咲き乱れる場所へと、冒険者達は移動していた。
その移動は一瞬で終わり、すぐにまた、もとの高原にと戻ってきていた。
「天鳥船は、高天原への道を開くのです。高天原への道を開いて下さり、ありがとうございました」
想夜が、微笑んだ。