●リプレイ本文
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じりじりと照りつける、夏の最中。岩場の多い場所は非常に熱くもあった。足元からは、熱せられた岩の熱さもせり上がってくる。
「皆、大丈夫か?」
耐えられなくは無いが、鎧を着込んだ者や、外套を着込んだものは、僅かに動きが鈍る事になる。暑さ対策をしてきていた風雲寺雷音丸(eb0921)が、仲間達へと声をかける。日除け代わりの獅子の兜以外は、半裸に近い軽装だ。依頼書を見た時点で、戦いは鬼共ばかりではあるまいと思った。まさに、その通りのようだった。軍馬殲塵丸が、地を蹴る。
索敵範囲は広い。
「引くを知らない鬼ならば、殲滅は容易いだろうな」
白銀に輝く剛神の鎧を着込んだオラース・カノーヴァ(ea3486)が、汗を拭い、正面を見据える。サンワードで陽の精霊ミスラに、鬼を探させようとするが、探させる為の言葉が足らない。ここから一番近い鬼とするならば、単体を特定出来たかもしれないのだが、相手は複数体。特定するのは難しい。さらに、戦いの気配濃厚な場所へと進むのだ。絆の高いミスラであったが、酷く辛そうだ。じき、戦いになる。戦いが始まれば、しばらく何処かへ飛んでいってしまうだろう。軍馬が地を打つ音が響いて行く。
その少し前。人々が避難する最中を、冒険者達は進んでいた。
(「内戦状態になると治安に手が回らないと言う見本か‥‥」)
端正な顔が人々の流れを見送る。
アフリディ・イントレピッド(ec1997)の視線の先には、避難民を誘導する慶次郎達の姿。
「‥‥とは言え、被害にあう人々を見捨ててはおけんしね」
戦闘馬ブランマクリーアとラインバレルと共に前を行くのは武藤蒼威(ea6202)。
「見殺しなど、出来ぬな‥‥」
荷車を押すほどの時間もなかったのか、身一つ、持っても、風呂敷包みひとつで移動していく人々を目の端に留めると、戦力を分析する。
(「どれほどの数がやってきている判らぬが、この面子ならば楽ではないが、難しくも無い筈だ」)
鬼の数ははっきりとは知らされていない。
「これ以上の被害を出さないためにもしっかりとやり遂げましょう」
相手が何であれ、倒す事に違いは無いだろう。そう虚の手綱をさばきつつ、笑みを浮かべる瀬戸喪(ea0443)は、鎧を着込んではいたが、涼やかな顔をしている。
「他に、何かご存知ありませんでしょうか?」
「鬼共の行動パターンなどが知れたら良いのだが。」
攻め寄せる鬼の情報が他には無いかと、前田慶次郎へとサリ(ec2813)とアフリディは尋ねる。
「鬼に関しては俺が知るのもお前さん等と同程度だが、じき避難民の集まる場所に着く。そこで聞くが一番早いだろう」
「ありがとうございます」
サリはにこりと笑みを浮かべた。出来れば避難する人々から話を聞きたいと思っていたのだ。
江戸から加賀方面へと向かえば、街道を移動する人々が嫌に多い。このまま、江戸へと入るのも危険だし、だからといって、さらに北上するは無謀。西へと上っても同じ事。戦いの合間の、ひととき平和な場所へと移動し続けるしか無さそうだ。
そんな民を、慶次郎は、とある宿場町に陣取って、目立たない風貌の男と共に振り分けている。サリは、怪我をしている人を見つけては、応急手当に走る。逃げ出してきただけでも辛いのに、怪我まで負っていてと、沈んでいた人々は、サリの手助けに僅かに笑顔を戻す。
「‥‥はい‥‥こちら‥‥」
家族は固めて、親戚を探す者などは、落ち着いたらと淡々とした表情で宥め、慶次郎の手伝いをするのは瀬崎鐶(ec0097)。こくりと頷けば、僅かに揺れる、三つ編み。動揺している人々は、その落ち着いているとも見える姿に、自らの落ち着きを取り戻して行く。
その横では、鮮やかな桜色がくるくるとこまめに動いている。御陰桜(eb4757)だ。明るい色合いは、見るものをホッとさせる。
「襲われた村の場所と順番を詳しく聞いて、次に襲われる村の予想は出来ないかしら?」
サリと桜、アフリディは、簡単な地形を聞きつつ、無事な村とそうでない村との境を見極める。
「あまり遠くは無いようですね」
「間に合えば良いが」
サリとアフリディが頷きあう。
襲撃にあった人々と、その報を聞いて、共に避難してきた人々。ほぼ無人となったその村に、鬼が辿り着く前に移動しなくてはと。
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「外を探してる人達もいるし、万が一こっちに来てもあたし達結構強いんだから大丈夫よ♪」
境界と冒険者達が割り出した村には、まだ逃げ支度が出来ていない人も少なくはなかった。
桜は、軽くウィンクをし、不安など無い事を強調する。
「‥‥哨戒‥‥してきましょう」
「了解よ、鐶ちゃん。じゃあ、行って来るわね?」
村の外周は、そう広くない。
加賀の方角を眺めれば、遠くに岩肌と、点在する森が幾つも見えた。そこへは、索敵と攻撃を兼ねて、仲間達の半数が歩を進めている。
「ある程度纏まってくれていれば、探す手間も省けるのですが」
喪が、僅かに目を細める。
「そうだな。その方が、こちらはありがたい。だが、こちらの思うようには動いてはくれぬだろうな」
アフリディは、喪に頷くと、狼煙の準備を始める。鬼がこちらの手に負えぬほど来たならば、索敵に出た仲間へと連絡をとらなくてはならないからだ。
村の哨戒も怠るわけには行かない。桜と鐶が戻って来たら交代で出ようかと、アフリディは喪に頷いた。
索敵班は、オラースの陽の精霊ミスラで大体の方角は知れていたので、そちらへと向かっていた。
袋の中に入れている風の精霊カントは、くったりとしていた。戦いの気配に、逃げるに逃げれない。そんなつもりではなかったサリは慌てる。ブレスセンサーを使う事も出来なさそうだ。
「間違いありません」
テレスコープで確認をとったサリが、仲間達へと鬼接近を告げる。
その鬼の姿は壮絶だった。
その目は爛々と赤く輝き、高い興奮状態のようだ。激しい戦闘の気配を撒き散らしている。
「引くを知らぬと言った風か」
その姿を確認した蒼威が、やれやれと行った風に溜息を吐く。
雷音丸が、張り詰めてきた気配に、にやりと笑う。
「取り逃がしたらまた村を襲うだろうから、取りこぼしがあっちゃならねえ」
オーラスも口の端を笑みの形に吊り上げる。
「行くか」
「援護します」
サリが魔弓ウィリアムに矢をつがえれば、最初に見つけた鬼の向こうに、もう一体の鬼を見つける。さらに、その奥にもう一体。
離れた場所の森の中からも、数体が、こちらへ向かってくる。
囲まれれば、いかなつわものでもただではすまないだろう。
「ガァアアア! 世に仇為す悪鬼は、残らず叩っ斬る!」
次第に増える鬼の姿に、雷音丸の黄金の双眸が強い光を宿らせたかのように見えた。
まずは、一番手前の鬼へと向かい走り込む。鬼よりも僅かに上背のある雷音丸の、太い腕から繰り出される名刀獅子王の一閃は、下段の構えから斜め上へと振り切られ、狙った先は、鬼の首。
血飛沫が上がり、その首は吹き飛んだ。
「怯みませんね」
サリは、自分の方へと向かう鬼に対峙していた。
木の影や岩場の影などを利用し、転々と移動する。矢の距離を着実に測る。つがえた矢は、空を裂いて鬼へと向かう。鈍い音と共に、矢は鬼の肩へと撃ち込まれる。
誰が誰と組むか、はっきりと決めてはいない。手近な雷音丸の背後を取っている。雷音丸も、二人一組は気を配っており、サリの動向をきちんと把握している。
「うおおおおおっ!」
仲間達は皆百戦錬磨。ならば、何も気にする必要も無いだろうと、迷いの無い踏み込みで、気合を込めて、蒼威が走って行く。名刀長曽弥虎徹をその一手に振りかざし、鬼を僅かに見下ろすと、上段から袈裟懸けに切り下ろす。防具をも破壊し、深く入ったその刃に、鬼は手にした刀を取り落とし、ぐらりと揺れて、たたらを踏んだ。
「ぬうっ!!」
その間を逃さず、刃を返し、下から上へと切り上げる。割れた防具の破片が、蒼威の頬を掠める。
チャージングで走り込んだオーラスの轟乱戟が、唸りを上げる。長い間合いが、鬼の刀を空振りさせる。振り抜いた戟を構えなおし、鬼の攻撃が届く前に、もう一閃叩き込む。
一体、二体と屠って行けば、次第に鬼の数も増え、密集度が増してくる。
ぎらぎらとした圧力は、仲間の死体を踏みしだいて、次第にその距離を詰める。サリは、回り込まれないようにと移動して、次々に矢を射掛ける。
「ぅうおらあっ!」
わざと重い一撃を食らった雷音丸は、傷口からにじみ出る鮮血をものともせずに構えなおす。どうだと言わんばかりのその姿に、鬼が怯むかと思えば、真っ赤な目をした鬼達は、怯む事無く、攻撃を仕掛けてくる。
(「どうなってやがる‥‥」)
多少の知能を持ち合わせる鬼は、不利になれば、撤退する事が多い。この種類の鬼も、無闇に力押しするばかりの種類では無い。それなのに、引く事を忘れたかのようなその姿に、雷音丸は渋面を作る。
「‥‥数体、抜けていきますっ!」
戦っている四人を尻目に、三体の鬼が遠くから別の方向へと向かっているのをサリが見つけた。あれは、村の方角。
「こっちが終わらないとな。大丈夫だろう、三体程度なら」
その戦いも、じき終わる事になる。
村では、哨戒を交代したアフリディと喪が、三体の鬼を確認していた。
「三体か‥‥」
「まあ、敵では無いでしょう」
「油断せずに行こう」
こちらもそこそこ腕が立つ。囲まれる事さえなければ、難なく退治出来る相手だ。綺麗な笑みを浮かべる喪に、アフリディが頷く。
鬼接近の連絡を受けて、鐶と桜は、残っている村人を安心させながら、外に出てくる。村から少し離れたほうが良いだろう。
「あたしの攻撃手段だと他のヒト達や建物とかも巻き込んじゃう可能性があるのよね〜」
不意打ちは出来そうにないわねと、桜は赤い目をして、真っ直ぐにやってくる鬼を見る。
「‥‥こちらが‥‥不意打ちを食らわないよう、に‥‥しないと‥‥」
「そうだな。どうも様子がおかしい」
鐶が僅かに目を細めれば、アフリディが鬼の異変を見て取る。通常出会うこの手合いの鬼とは、何か、纏う雰囲気が違っているような気がするのだ。
「ちょっと行って見ようかシら」
仲間達と距離を取ると、三体固まって迫る鬼へと向かい、微塵隠れで迫る。そして、再び微塵隠れを発動させて、元居た場所へと取って返す。爆発の衝撃は凄まじく、煽りを受けた鬼達がよろめく。
「正気を失ってる敵のようだね」
本当ならば、霍乱するような戦い方を好む喪だったが、この相手では、喪の思うような戦いにはならなそうで、軽く方をすくめると、着物の裾を蹴立てて無造作に接近する。
よろめいた鬼だったが、そのうちの一体から、見えない刃が飛んだ。
「おっと‥‥」
喪はそれをかわす。鐶が静かに呟く。その足取りは、左右に振れて、敵の視点をずらしている。
「ソニックブームを‥‥使う、みたい‥‥?」
「ま、かわせる程度って事のようだ」
鐶と同じく、アフリディも接近には気を配っている。易々とあたりはしないだろう。どうやら、ソニックブームを放つのは一体だけのようだ。
「ここから先は通さん」
アフリディが力の増したラハト・ケレブを引き抜く。陽光を浴びて黄身を帯びた刀が、下段から鬼を薙げば、先の微塵隠れで僅かにダメージを負っていた鬼は、ひとたまりも無い。
「‥‥休む、暇は‥‥あげない、よ‥‥」
アフリディの攻撃の止むかどうかの死角から、別の鬼へと、鐶が躍り出る。真横に振り抜かれた日本刀胴田貫が、鬼の防具を鈍い音を立てて圧し切って抜ける。着物の袖がその動きについて流れた。
「そちらばかりを見ていると、ね?」
喪がもう一体へと鎧の隙間へと滑り込ませるように刃を振り抜く。
たたらを踏んだ鬼へと、アフリディの一撃が叩き込まれ、鐶と喪がもう一度刃を振るえば、もう戦いの終わりは見えていた。
照りつける太陽に辟易としながら、オーラスは屠った鬼の首を取る。全部で十五。
「このくらいだったかね‥‥」
正確な数はわからないが、周辺を見回った所では、もう鬼の姿は無さそうだ。さて、避難した人々を安心させなくてはと、オーラスは踵を返す。
「あちらは何方の治める土地でしょうか‥‥」
瀕死の鬼に、サリは何処から来たのか、何故襲ってきたのかを尋ねていた。戻った答えは、示す方角のみ。鬼は人を襲うものである。鬼自体に、その矛盾は無さそうだ。
鬼の示した方角は、林という男が領主の、加賀の一角だと言う事が知れるのは、また後日の事となる。
脅威が取り払われた人々は、徐々に元の村へと戻る事が出来るようになったのだった。