天の音
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■ショートシナリオ
担当:いずみ風花
対応レベル:11〜lv
難易度:易しい
成功報酬:3 G 29 C
参加人数:13人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月06日〜11月11日
リプレイ公開日:2009年11月19日
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●オープニング
江戸ギルドに時折依頼結果で巻物が出る依頼があった。その依頼に共通するのは、見た事の無い幻影の花畑が浮かぶという、不思議な現象だった。
『天鳥船』と『月』、『陽』、『風』、『水』、『土』、『火』の文字が書かれていた問題の巻物は、『高天原』への道を開く為のアイテムと言う事が、最後には判明したのだが。
高天原へと行きたがっていたのは、天使と悪魔。
天使は柴犬の子犬の姿で、陽の巻物が出る依頼から悪魔の関与を妨害していた。高天原に向かわせたく無かったからのようだ。幸い、冒険者の活躍で高天原を悪魔に渡す事は無かった。
一瞬、高天原に足を踏み入れた冒険者も居た。
そこは、幻影の花畑のような、色鮮やかで、心地良い場所だったという。
微かに風がそよぎ、小さく鈴に似た音色が響き。
「探索をお願いしたいのです」
想夜と名乗る青年が、冒険者ギルドに顔を出す。淡い茶の髪に黒に近い青い目。長い西洋のローブを着ている。穏やかな雰囲気を漂わせる青年だ。
戦乱収まらぬ昨今のご時世だが、出来れば冒険者に手を貸して欲しいと。
「高天原が上手く機動していないようなのです。原因を探って欲しいのです」
「‥‥ええと。はい。了解しました」
冒険者ギルドの受付は、巻物が出ると言う依頼の結末を覚えていた。だとすると、この依頼主は天使。だがしかし。冒険者ギルドは、依頼主の詮索はしない。冒険者が受けれると判断した依頼は、たとえ子供のお守りであっても、死線くぐる戦場の助っ人でも、分け隔てなく受ける。
さらさらと書き出された依頼は、高天原の探索であった。
高天原が姿を現したまでは良かった。
けれども、あまり長い時間、高天原に居続ける事が出来ない。
これは、高天原の機動装置が正常に働いていないせいだと、想夜は言う。何処かに、動くべきものがあり、それを動かさなければ、高天原は本当にその姿を現したとはいえないと言う。
高天原に行くには、一度でも巻物に関わった人物が居ればそれで事足りるという。
「自分が居ますから」
想夜は、多くの巻物に関わったからと、恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
気にする事は少しだけ。良く晴れた日に、自然が多く、戦いの気配が少ない場所で、目にした花畑を思い浮かべれば、高天原へと移動出来るのだと言う。
ただ、ペットは飛ぶ事が出来ず、出発地点へ置き去りになってしまうらしく、かわいそうだから連れて来ないでねと、お願いされる。
あまり広過ぎて、何処から探って良いかわからないと、困った顔をする。
そして、ひとつ問題があってねと、想夜がさらに困った顔をする。
高天原から出る時は、同じ場所に出れないと言う。
出発地点から、人の足で丸一日ほど離れた、まったく別の場所へと移動してしまうのだそうだ。
熟練の冒険者ならば、自力で江戸まで帰り着くに難は無さそうではあるが、確かに困る。戦いの場には飛ばないのが幸いと言って良いが。
危険はそのくらいで、高天原自体に、危険と言う危険は無さそうだった。
●リプレイ本文
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高天原。その言葉の響きは、何故美しいのだろうか。その場所は精霊が住まう場所なのだろう。セピア・オーレリィ(eb3797)は、僅かに頬を紅潮させる。思い浮かべるだけで、何故か心躍るのだ。それは、宗教を超えて胸に迫る言霊だからかもしれない。
「移動場所は、前回天鳥船を起動させた高原が、条件を整えていると見ていいのかも?」
昨今、どの場所でも戦いが巻き起こっている。避けて通ろうとする方が難しい。今から条件に合う場所を探すのも難しい。セピアは、ギルドに上がった報告書を読んで、仲間達へと振り返る。
「また行けるとはね」
高天原の探索という言葉に、アシュレイ・カーティス(eb3867)は、心躍らせていた。ずっと巻物に関わってきた。一度踏み入れた高天原の美しさが、目に焼きついて離れなかったから。
「滞在時間が短いと思ったら、いろいろタイヘンなんですね〜」
役に立てるかわからないが、出来る限り手伝おうと、シーナ・オレアリス(eb7143)は思う。
「高天原といえば、ジャパンの神様がすむ天国でしょうか?」
「今の所、ようやく探り当てた地と言った方が良いかも知れません。懐かしいと思う神もいらっしゃるかもしれませんが」
想夜の言葉に、そうなの? と、小首を傾げ、楽しみが増えたと、笑顔を返す。
「なんとも、興味の尽きぬ話ですな。想夜殿の話から想像するに、伝説の神々の楽園ともいうべき高天原は、天空の都なのかもしれませんな」
フレイ・フォーゲル(eb3227)は、尽きぬ興味の対象を見つけ穏やかな笑みを浮かべる。想像の翼は天空へと駆け上がる。果たして、実際この目で見れば、何が見えるのだろうかと。
「移動は条件に合う場所さえ探せれば、何とかなるだろ?」
リフィーティア・レリス(ea4927)が呟く。高天原に辿りつくには、幾つか条件があったからだ。だが、それも、程なく解決される事となる。
「高天原とは、伝承にある神々の里で、素晴らしい所の様ですわね」
その姿を目にしたい。そう、ルメリア・アドミナル(ea8594)は微笑を浮かべる。木下茜と、アルファ・ベーテフィルが、想夜の提示した条件を満たす場所を幾つか探ってきていたが、どうやらルメリア含め、前回の高原でという意見があり、その場所に行くようである。天候が不安定ならばレインコントロールをするので、問題ないだろうかと言うルメリアに、万が一の場合はよろしくお願いしますと想夜が嬉しそうに頭を下げた。
西海と呼び給えと、トマス・ウェスト(ea8714)が独特の笑いを高らかに上げる。
「君はどなたに使えているのかね〜? セーラ様かね〜? タロン様かね〜?」
想夜へと挨拶をすると、トマスは素朴な疑問をぶつければ、聖なる母にと穏やかな笑みが返る。聞いてみたかっただけだねと笑うが、感謝すべき聖なる母に使える相手だという事がひとつの意味があるのかもしれない。
「しつも〜ん♪」
はいはい。と、手を上げたのは御陰桜(eb4757)。
高天原の行き方について、詳しく聞きたかった。曖昧なままで行けないのもつまらない。一度足を踏み入れた桜は、あの綺麗な場所の探索ならば、面白そうだと思うだが、まずは移動条件をはっきりさせたかった。
どうやら、見回して、人工物が見えないような場所である事が必須。戦いの音が聞こえない事が最低条件。戦いが始まりそうである場所も駄目だから、殺気立った人が近くに居るのもあまりよろしくないかもしれないと。
「高天原が機能すると、移動条件は変わらない?」
「正常になってみなければわかりませんが、多分、今よりも簡単に行き来出来ます」
レティシア・シャンテヒルト(ea6215)は、今までの依頼の中で、妨害を行っていた悪魔が、再び関わらないとも限らないという予測を立てていた。そして、それは間違っては居ないようだ。
「もし、また異変が起こるようなら、私達を思い出して?」
柔らかに返される笑みは、レティシアに対する信頼が見て取れた。冒険者の知恵と力を何時でも頼りにしていると。
探索の心得としては特にはタブーと言うタブーは無さそうで、一息つく。失礼はしなくても済みそうだと。ならば、この目に、心に、刻み込んでこようと思う。名を聞くだけで高揚する、その場所を。何時か、誰かに話す為にも。
「戦いの無い、平和なところを移動しているのでしょうか。短時間しか居られないとは、上手く舵がとれないから‥‥装置に余計なものでもひっかかっているのでしょうか」
想夜の話を聞いて、齋部玲瓏(ec4507)は高天原を脳裏に描く。目覚めたばかりの高天原なので、動かし方を思い出していないのだろうかと、ちょっぴり擬人化してみて笑みを零す。
今まで鎮まっていたものが呼び起こされている。高天原と人の世を繋いだ天鳥船のように、神々や人の心も繋いで和が出来れば、これほど善哉な事は無いのだがと。
「起動装置って、何だろう‥‥? 高天原の役割って‥‥? 生き物って居るのかなあ‥‥?」
うーんと、あごに手を当てて考えるのは、大泰司慈海(ec3613)。年配の割には仕草が可愛いらしい。ちらりと、想夜を見る。優しげなあの青年は天使の中でも下っ端なのだろうかという、ちょっとした疑念があったから。その視線はしっかりと受け取られてしまったようで。
「はい。下っ端ですので、あまり詳しく知らないんです」
心を読んだ訳ではなくて、どことな〜く伝わってしまったようであり、いや、そんなと、慈海もあははと照れ笑い。装置とくれば、船に例え、帆とか、舵とか、動力源にあたるものだろうかと、思いは巡る。
「こんにちは、想夜さん。私もまたあの場所にいってみたかったから、凄く嬉しいです」
満面の笑顔を浮かべ、ルンルン・フレール(eb5885)が、想夜の前に立つ。しげしげと眺めてしまったのは、想夜が人の姿をしていたから。
「すみません、犬で無くて」
やっぱり、なんとな〜く伝わってしまったようで、ルンルンは笑顔を浮かべて首を横に振り、高天原へGOですと、話題を横にずらして置いた。
ずっと巻物と関わってきたから、最後まで見たいのだ。それに、ほんの一瞬滞在した、高天原が目に焼きついている。
「あのお花畑綺麗だったから、また見れると思うと楽しみです」
「すべき事は理解いたしました。せっかくのご縁です。しっかりと探索致しましょう」
ここに至る経緯はわからないが、困っているようならば、力を貸そうと和泉綾女(ea9111)は、おっとりと微笑んだ。
いざゆかん。高天原へと。
●
花畑は、引っ張っていく人物が、思い浮かべれば良いだけのようで、想夜が居るから大丈夫と言うのは、そう言う事のようだ。一度に多くの人数は飛べず、依頼で願い出た人数が限界のようでもある。
広がるのは、見渡す限り鮮やかな色の花畑。何処まで歩けば、別の風景がみられるのだろうかというほどの広さだ。
生き物という漠然としたくくりで太陽に尋ねたリフィーティアは、居ると答えられる。蝶も、花も生き物である。人か動物かと問えば、いろいろと答えられ。
「地道に探すしかないって事か‥‥」
銀髪がそよ風に揺れる。
「上手く、起動してないって理由がわかるといいよな」
爽やかな空気をいっぱいに吸い込めば、仄かに甘い花の香が鼻腔をくすぐり、思わず笑みがこぼれる。この場所には精霊が似合そうだ。思いっきり歌えば、とても気持ちが良いだろう。声は花とそよ風に溶け、何時までも歌っていられるだろうと思い、何だか嬉しくなる。
その風に目を細め、ゆったりとした笑みを浮かべた桜は、色とりどりの艶やかな花を楽しみながら、のんびりと歩いていた。
来るのには多少ややこしいが、デートするには絶好の場所だ。愛しい人の姿を思い浮かべて、桜は何だか嬉しくなる。
何か物足らないのは何時も一緒のペット達が居ないからだろう。ふんわりと優しい気持ちを何時も分けてくれる彼等の変わりは、どうやら見当たらず、桜は溜息を吐く。
「想夜ちゃんも、一応探してるのよねぇ?」
「はい、時間切れで、ひとりではとても探せないと、ギルドへと頼みました」
「そうよねぇ。広いもの‥‥あのね、想夜ちゃん。‥‥オネガイがあるんだけどイイ?」
ぱっと探すというわけにはいかないのだろうと、桜は想夜を見る。ふんわりとした茶の髪が風に揺れるのを見て、つい、依頼の時の犬を思い出してしまった。
鮮やかなピンクの花を一輪手折ったルンルンは、至高の愛の書にそっと挟む。
ずっと手に取れなかった花だ。その花達に出会えた喜びを形にしたかっただけ。その気持ちが花に伝わるのだから、ずっとおそばに置いてやって下さいねと想夜が微笑めば、もちろんですと、ルンルンが微笑み返す。
見た事の無いような花を見て、とっさに掘り起こし、採取完了した後に、はっと我に返ったトマスは、想夜へと向き直る。
「もしかして、この草花は高天原でしか育たないのかね〜?」
「試した事はありませんが、多分そうでしょう」
かつて、高天原と今の世界へ行き来があった。その時に植物が移動しないはずが無い。今トマスが見た事の無い花は、余程貴重なものになる。
トマスは、ひとつ頷くと、あっさりと埋め戻す。植物採取には目的があるからだ。それは、蘇生。
「特別な薬草が必要だというなら、髪の奇跡、仏の慈悲で十分だね〜」
何処にでもある薬材から作る薬品による蘇生が目標なのだ。何時もの笑みを浮かべて、何処かつまらなそうな表情を浮かべ、ひょうひょうと歩き出す。
準備万端整えてやって来たルメリアは、己の能力をまずは上げ、呼吸を感知する魔法を発動させる。小さな虫ほどの呼吸が拾える。それ以上の大きな呼吸は、仲間達のものになるようだ。美しいが、静かな世界だと、ルメリアは思う。
太陽の移動は、自分達がやって来た世界とさほど変わらないのかもしれないと上空の光を思う。ならば太陽信仰ではないかと、太陽の向きが強い方向に社があるのではないかと推測を立てる。高天原の制御も、ひょっとすると、その社で行われているのではないだろうかと。
「精霊と天使の住まう楽園を留める為に、がんばりますわ」
今ある太陽を基準にして、ルメリアは歩き始める。
セピアは、高天原が上手く動かない原因は何かと考えていた。転移条件を考えれば、それに反するものが妨げになっているのかもしれないと。自然が荒れた場所や、戦いを感じさせる何か。武器や争いの痕跡を取り込んでいるなどと言う事は無いだろうかと。
ざあ。と、風がセピアを撫ぜていく。とりあえずは、歩こうかと、セピアは花々の間に足を踏み入れた。
美しいこの場所が閉鎖された根源へ、ほんの僅かセピアは触れた。
しばらく、周囲を眺めていた綾女は小さな音に気がつく。それは、鈴の音のような、高く涼やかな音。気をつけなければ、聞き逃してしまうほど密やかで。音が聞こえてきた方角へと足を進める。
「ひょっとしてなのですが‥‥高天原で、何らかの事を念ずると、何か起こるでしょうか?」
移動する際に、浮かべるというこの花畑が、人の想念によるものかどうか、綾女は少し試してみるが、残念ながら、想念の具現によって、物質は生まれないようだ。とすれば、高天原は、想念によって出来たものでは無いと言う事になる。ならば、どういう場所なのだろうかと、綾女は小首を傾げる。
風に誘われるまま、玲瓏は花の中を歩いていた。鈴の音のような小さな音が聞こえる。仲間達と別方向をと考えていたが、どうやら鈴の音を頼りにする仲間も居る。共に同じ方向へと、進む。
音に場所を聞いたルンルンは、数人の仲間が向かう方向へと歩き出す。
自問する問いに答えは無い。移動力と跳躍力を上げて、ルンルンは仲間達が行く方向の先を走るれば、ふんわりと、花の香りが着いて来る。
「ここは一体、何のためにある場所なのかな?」
もしも。この場所が平和なときと場所を忘れない為に作った場所ならば、どれほど素敵かわからない。争いが絶えない世の中だからこそ。その思いはとても柔らかで。
ふわりと空飛ぶ箒で浮かんだレティシアは、高原は、高天原を模したものでは無いかという推測の元、六ヶ所に何かあるのでは無いかと思う。六属性に関連する山々の連なりが見えないかと、高く空を飛ぶが、山脈とみられるような高い場所は無さそうだ。しかし、どうやら、石造りの塔があるようだ。あの塔は何だろう。良く調べてみると何か文字が刻んであるが、レティシアには読めない。少し考えるが、首を横に振ると、鈴の音の方向へと向かう事にする。
空飛ぶ箒で移動するフレイは、時間を気にする。何処まで進んでも、見える花畑。時折、森と言うにはまばらな、木立ちが、見える。小川が流れ、その下には広い湖も見える。コバルトブルーの鏡のような湖だ。
「まぁ、高天原に宝物のようなものがあれば、研究対象にしたいところですが、ここは欲張らず」
本来の高天原と、今の状態は、どうやら一致はしないようである。何が何処にあるか、想夜では答えられないようだ。ならば、確かめなくてはならない。石造りの、塔のようなものを見つけて、寄って行く。何処にも入り口は無さそうだ。よくよく調べると、下の隅に水を現す文字が刻んであった。
古代魔法語の石碑のひとつ、超古代の神々の文明を感じる遺物など、あれば冥利に尽きると、フレイは静かな笑みを浮かべる。
シーナは空飛ぶ箒を使い浮かぶと、高台は無いかと探せす。そこには、なだらかな丘が見える。遠くを眺める巻物を広げると遠視となる。ざっとそこから高天原を一周見て、大まかな地図を作ろうと思うのだ。
遠くに、何やら、石造りの建物のような塔のようなものが見える。その方向へと、仲間達が歩いていくのも。
鈴の音のような音が、多くの仲間が向かった先の塔からだけ聞こえていた。
文字を読み取れるフレイが、仲間達へと結果を報告しに飛んでこれば、この塔の文字は陽である事が判明する。どうやら、六ヶ所、塔はあるようで、その塔には六精霊の文字が刻まれているようだった。
その中で、異変らしき異変を発しているのが、陽の塔。
この塔だけは、入り口があった。
人がひとり、入れるだけの入り口だ。
最初に辿りついていた、ルンルンが、中に入って調べていた。
「風車に似てるんですよ。でも、羽がありませんよね?」
内部は、風車のような構造をしていた。灰褐色のその塔には、回るべき風車の羽が無い。
動かしてみましょうという、想夜の言葉に後押しされ、冒険者達は、陽の塔の風車を動かしてみる。
すると。
涼やかな、音が、大きくなる。
空気が揺らぐ。
陽の色した飛沫を撒き散らす羽が、塔の前に現れた。
そして、鈴の音のような音が、一際高く響くと、ゆっくりと陽の風車は回り始めた。
鈴の音は、陽の風車から消えていったが、また、別の方向から、微かに聞こえ始めた。