想像出来る?大蟷螂
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■ショートシナリオ
担当:いずみ風花
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 71 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月29日〜12月04日
リプレイ公開日:2007年12月07日
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●オープニング
江戸から徒歩二日、森とススキの原の境辺りに大蟷螂が出現するというらしい。
そんな、『大蟷螂退治』と書かれた依頼書がギルドの掲示板に張られてから、数日。剥がれる事も無く、その依頼書はひらひらと掲示板の一番目立つ場所にあった。
「まあ、近くに村は無いし。江戸からも離れているんで、良いっちゃあ良いんですがね」
ギルドの受付は、肘をついて溜息を吐く。様々な依頼書を手にする冒険者のひとりが、さも嫌そうな顔をする受付に、水を向ける。
「でも依頼?」
待ってましたとばかりに、受付は身を乗り出した。
「これ、雌蟷螂みたいでして。森の中に卵でも産み付けられてたら、来年は‥‥」
「‥‥あんまり考えたく無い」
「でしょう?」
一斉に孵る大蟷螂の子供の姿を想像して、冒険者と受付はげんなりとした顔を見合わせた。
「退治‥しません?しません?しとかないとヤバイななんて思いません?」
共感を得たとばかりにさらに身を乗り出す受付の満面の笑みに冒険者は折れた。
「‥じゃ、行って来よう」
「やった!頼みましたよ!森の持ち主さんが太っ腹なので以外に報酬は良いですからね!」
良かった。これ、なかなかはがして貰えなくてと、ほくほく顔の受付を見て、早まったかなとも思う冒険者達であった。
だがしかし。
依頼は依頼だし、ちょっと報酬が良いというし。行ってみるかと冒険者達は肩をすくめた。
確かに、わらわらと生み出される大蟷螂は想像したくなかったからでもある。
すでに産み付けられた卵の駆除と、大蟷螂雌の退治をお願い致します。
●リプレイ本文
●やっぱり想像したくない
うきうきとか、るんるん、とかの擬音を背負って大泰司慈海(ec3613)は、わくわくと依頼を受けた。黙って立っていれば、非常に渋い外見をしているのだが、その行動が渋さを打ち消している。出発日、がーん。という音が聞こえて、縦線が背後に落ちているかのような慈海は、依頼の仲間に一人も女の子が居ない事に気が付いて衝撃を受けていた。
女の子が仲間に居ない。
必ず混合で依頼に望むという、そんな決まりは無いのだが、つい本音が素直に態度に出てしまったようだ。もちろん、思い切り悪気は無い。
あ。一人居る。雌の大蟷螂‥‥違う。と、一人でノリ突込みを繰り広げていたが、依頼は依頼である。がんばろうかと、気を取り直して仲間達の下へと向かう。
ふむ。と、静かに、淡々と、銀の前髪がはらりと落ちるのを軽く整え、ガユス・アマンシール(ea2563)は、この依頼が何時までも受理されない事を考えて、顎に手を当てる。
「放って置くと春には大蟷螂の幼生が大量発生か。確かにあまり考えたくないな」
「デカイ虫が沢山ウヨウヨしてるなんて考えたく無いよ。鳥肌立ってきちゃったよ」
紅林三太夫(ea4630)が、早まったかと、依頼書を振ると、とほほな受付の顔と目が合った。嫌〜んな依頼である。しかし、受けてしまったからにはしょうがない。このまま引き返すわけにもいかないし。とほほになっている三太夫を目の端に捕らえつつ、ガユスはふと、思い付く。
「普通サイズの蟷螂の幼生は小さいから結構天敵が多い‥」
しばし考えると、そうかと頷いた。大蟷螂の天敵は自分達冒険者なのだろうと。ならば、天敵らしく、きっちり片付けなくてはならないだろう?と、とほほの姿の三太夫の肩を叩いた。
「仕方ないな。やるよ」
沢山の虫がウヨウヨは、絶対避けたいものねと、溜息を吐きながら、三太夫は覚悟を決める。
そんな中。依頼にわくわくしている鳳翼狼(eb3609)の元気な姿があった。長身の割には、何所か人懐っこく、その背丈を感じさせない。
「いや〜。依頼って久し振りなんだ!京都からちょっくら出張してきたよ☆」
武闘大会に明け暮れてたんだ。と、きらきらと緑柱石のような瞳を輝かせる。冬空に陽の光のような髪が光って、元気よく挨拶をする。
「ヨロシク頼むね、みんな」
「‥‥よろしく」
同じく、依頼は一年振りになるという鷹司龍嗣(eb3582)が、静かに息を吐く。大蟷螂退治。復帰の手ならしとしてみれば、丁度良いかもしれないがと、依頼内容を確認すると、また小さく息を吐き、あまり美しい依頼では無いなと呟いた。
占星術を解する龍嗣は、その技で大蟷螂を探そうとするが、天が動くほどの怪異では無いようである。占いは、漠然とした指針にしかならない。いくつもの因子が重なってようやく導き出される天文の術よりは、場所を特定するならば、示された地域をさらに区切り、何所とカードをめくる方が確率的には高い。しかし、それすらも、探索する相手が移動出来るのならば、よほどの技量があっても難しいだろう。
(「‥‥あまり、自信が無かったからな‥‥」)
それも良し。龍嗣は、そう穏やかに微笑む。
空を飛ぶ雲のように。変わる事象を言い当てる難しさを、龍嗣は良く知っていた。
●ススキの原と森の中
ススキの原は、山間にぽっかりと出来た寂れた空間だった。
銀茶色の頭を揺らすススキの背丈は冒険者達をすっぽりと隠す。背の低い三太夫は、ススキの原に踏み込むと頭すら見えない。問題の森の方向は、確認出来るのだが、不意に何かが現れたりする時には、行動が遅れるかもしれない。
「何とか森が見えるかな」
自慢の眼力で、大蟷螂を探そうと翼狼は、森へと眼を凝らす。森の入り口までは良く見えるのだが、森の中は複雑に木々が生い茂る。遠くまで見通す事とは僅かに勝手が違うが、一生懸命に変化を探す。
「颯羽」
龍嗣は、連れてきた鷹を冬の薄い色した空へと羽ばたかせる。大蟷螂がどの辺りに居るか、探索を命じるが、探索した後どうするかまでの複雑な命令が通ったかどうかはわからない。
「駄目元でな」
そう、ガユスに視線を向けた。ペットに出来る事は知れている。龍嗣は、探査の魔法を使えるガユスが一番大蟷螂発見の近道になるだろうと思っていた。
森の入り口に辿り着くと、淡く新緑の色を身に纏い、ガユスはじっと気を凝らす。森の中の呼吸を探るのだ。
仲間達の呼吸。そして、大蟷螂が徘徊している為、森に住む動物達は、その息を潜めているか、逃げ出している。動物に比べて、大蟷螂の呼吸は小さいだろうが、それは、すぐわかった。その場所は‥‥ガユスは叫んだ。
「来るぞっ!」
森の変化に気が付いたのか、大蟷螂は、ススキの原へと向かっている。そして、もう目の前に。
森の中を歩き回って探そうと思っていた三太夫は、仲間達よりも僅かに森の中に入っていた。その目の前に、大蟷螂が、がさがさと音を立てて現れた。十尺はあろうか、その手の大鎌が三太夫を襲う。手にした短弓、早矢で重傷は回避するが、僅かに傷は入った。
「っ! こりゃ、スリルがありすぎるっ!」
「後衛さんは下がっててねっ!」
もう一撃来る別の手の鎌の前に飛び出したのは翼狼だ。十手が、鎌の先端をがっちりと受けて、弾き飛ばす。
「蟷螂子ちゃん、大柄だったのねえっ!」
があっと、三角の顔からぱっくりと口が開く。つややかな眼球が僅かに朱に染まっているかのようだ。慈海の宝槍三叉戟、毘沙門天が、襲い掛かる顔を牽制する為に踏み込めば、鎌をかいくぐって後ろに回った三太夫の手から桃色に染まった大蟷螂の腹に矢が何本も放たれる。
その痛みに鎌首をもたげる大蟷螂の隙を、翼狼は逃さず、ふらつくその大鎌に、日本刀、霞刀を叩き込もうとするが、僅かに及ばない。
「月夜では無いのが残念な事だが」
龍嗣は大蟷螂の背後に回って懐からスクロールを取り出す。
「月が出ておれば、月光の矢を見舞ったものを」
月夜でなくともムーンアローを使うに支障はないが、信条なのか得意技を封印した陰陽師は雷撃の巻物を開いた。龍嗣は、仲間達に当たらぬように、僅かに上方向へと稲妻を飛ばす。
「乱戦では使い難い技なのだが、さすがに的が大きいと気兼ねも要らぬ」
細身とはいえ、大蟷螂である。急所に直撃とはいかないが、衝撃に大蟷螂の動きが一瞬止まる。それとほぼ同時に空を裂く刃のごとし魔法がガユスから放たれ、ざっくりと大蟷螂をえぐった。ふるふるとふるえる大蟷螂の翅。
「そうそうは、その鎌振るわせはさせない」
「まさか、飛ぼうってんじゃないだろうな!」
三太夫の矢が再び何本もその翅ごと腹を射抜いた。
「昆虫ってっ!」
ぼたぼたと落ちる体液のに、うーっと唸りながら、闇雲に振り回される大鎌に、今度こそ霞刀を叩き込むのは翼狼だ。もう片方の大鎌は、慈海が必死に打ち払い。
「落ちるか」
何度目かのガユスの魔法が空を裂き、大蟷螂は地に伏した。
●大蟷螂卵探し
「‥高い場所だね〜っ!」
大蟷螂を倒した近くの木の上に、三尺ほどの大きな卵らしき物体を発見したのは翼狼だった。乾いて固まったその卵は、砂色をしている。しかし、場所が高い。
「試してみるか」
ごうっと、上空へと暴風を巻き起こす。木々がしなり、揺れて、木の葉が高々と舞い上がるが、びっちりとひっついた卵は剥がれない。どちらかというと、木々にありがたくないだけに終わりそうだ。
「ぎりぎりっ?」
毘沙門天を伸ばして、えいえいとつついてはがしているのは、慈海だ。ぽろぽろと卵の殻ともいえるものが頭上に降ってくる。
「まあ、まかせろ」
本領発揮とばかりに、三太夫がするすると木に登っていくが、武器を持っていなかった。木にへばりついた卵は、非常に硬い。通常の蟷螂の卵も産み付けられた場所から引き剥がすのはやっかいだ。
「硬いな」
手が真っ赤になってしまった三太夫は、一端、木から降りる。ガユスが、続けて、空を裂く魔法を放つ。それは、確かに卵を切り裂くが、剥がすというわけにはいかず。
「あれなら剥がせそうだぞ」
裂かれた卵を見て、三太夫は再び木に登る。小さくなった大蟷螂の卵は、ぺりぺりと木から剥がされる。ものすっごい手間である。その間に、龍嗣が、手近の木に話を聞いていた。『もう残っている卵はないか?』『残りあと何ヶ所か?』この場所で起こった事なら木は答えたのだが、森全体を一箇所の木は知らなかった。『わからない』と、穏やかな答えが返る。大蟷螂がどちらから来たかを問えば、答えは返ったはずである。
「残念だ」
「ま、い〜じゃん。森の隅々まで探すよ〜ん!」
長さ三尺強の木の柄にやはり、三尺強ほどの長い刃がついた、長巻という武器に持ち替えた翼狼は、元気良く森の奥へと入って行く。
「雄の蟷螂雄くんとか居たりして?」
全部廃棄処分。そう慈海は取り除いた卵を壊すと、出会ったらイヤだよねぇと、言いながら、翼狼と反対の方向へと向かう。大丈夫である。実際に見た者は居ないが、おおよそ小さな蟷螂の雄と同じ運命を辿るものである。卵が産み付けられているとなれば‥‥。
「地道にやるか」
「そうだな。手伝おう‥こんなに硬くては、颯羽はどんな顔をするか‥」
ガユスが、魔法の残りはどれくらいだったかと、やれやれと溜息を吐くと、鷹の餌になるかと思ったのにと、地に落ちた硬い物体を眺めて龍嗣も、やはり、やれやれと溜息を吐いた。
「壊れた卵の処分は、森が勝手にやってくれるはずだけどな」
三太夫がばらばらに落ちた大蟷螂の卵を一瞥すると、そんなもんだしと、笑った。
退治された大蟷螂と卵は、様々な形で森へと吸収されるのかもしれない。
冬の冷たい風が吹く。じき雪が降るのだろう。ススキの原が、寒風に揺れた。