川向こうから茶鬼、山から小鬼

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:10人

サポート参加人数:6人

冒険期間:11月12日〜11月17日

リプレイ公開日:2006年11月20日

●オープニング

「えっ?」
 ギルドの受付は、善意の依頼に目を丸くしたが、すぐに襟を正すと、正確に記載を始める。
「茶鬼が四、五体で間違いありませんね?」
「ああ。怖かったからさ、ちゃんとは見ていないけど、そのくらい居たよ」
「ありがとうございました。道中お気をつけて」
「あの村が壊滅なんて事になったら困るから、宜しく頼むよ」
 山村へ獣肉の燻製を買い取りに行く商人が、肩を竦めて冒険者ギルドを後にした。
 受付は、つい先ほど依頼された、一枚の依頼書と、今しがた商人に依頼された依頼書を照らし合わせると、新しい依頼書を作成し始めた。

 ひとつの依頼書には、小鬼が山奥から村へとやってきそうなので、退治を願い出た依頼。
 もうひとつの依頼書には、茶鬼が森を抜け、川を渡って山村を目指しているようなので退治してほしいという依頼。
 この村は、同じ村であった。

 猟師村として、江戸から徒歩二日ほどかかるその村は、獣肉を扱う。冬場には燻製を多く出荷するので有名な村である。僅か四軒の親戚で固まった村である。
「挟み撃ち?」
 新しく書かれた依頼書に、注意書きとして、別依頼で二件分と記されているのを見て、それを見た冒険者達が受付に尋ねる。
「小鬼も茶鬼もそんな気は無いのでしょうが、結果としてそうなりますね」

 挟撃の恐れのある村を守り、小鬼と茶鬼を退治して下さい。

●今回の参加者

 eb0216 物部 楓(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3064 緋宇美 桜(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3668 テラー・アスモレス(37歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb4721 セシリア・ティレット(26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb8813 極楽 火花(25歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb8830 土守 玲雅(26歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb8882 椋木 亮祐(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

桐沢 相馬(ea5171)/ ミィナ・コヅツミ(ea9128)/ アド・フィックス(eb1085)/ 柚衛 秋人(eb5106)/ 黒之森 烏丸(eb7196)/ 物見 昴(eb7871

●リプレイ本文

●夜を越えて
 走り続けては肝心の戦いの時点で疲れ果ててしまう。野営も重要な作戦のひとつである。
 うっそうとした夜の山道は、山陰や木々に空も区切られ、星さえも僅かにしか見えない。天幕を張る者、篝火の番をする者と別れて冒険者達は戦いに備えて身体を休ませる。
 緋宇美桜(eb3064)と物部楓(eb0216)は、たわいの無いお喋りをしながら2人用の楓の天幕に寝転がる。
「燻製が値上がりすると、保存食の値段も上がるのかな?」
「燻製と保存食は似ていますが、少し違うような気もします」
 そうかな。と真面目に考える美桜に、楓はくすりと笑い返す。
「よろしければ、お使い下さいね」
 4人用のテントを張り、刈萱菫(eb5761)が燃え続ける紅い火に近寄る。
「毛布が足らないようなら使って下さいね」
 フィリッパ・オーギュスト(eb1004)も、多めに持参した毛布を持たない者へと手渡していく。夜のしじまは、秋の肌寒さを連れて来ていたが、冒険者達は戦いを思い、皆熱く作戦を語っていた。
 山から来る小鬼を止めるには、誰かが、先に川を渡らなくてはならない。小鬼といえども、数が集まればやっかいな相手である。茶鬼を抜いて、先に行こうと笑うテラー・アスモレス(eb3668)と桜に、上杉藤政(eb3701)は、信頼という溜息を吐く、最悪小鬼に対応するのは二人である。茶鬼を倒し、村へと全員が辿り着くまで盾になるしか無いからである。そういう行動は未だ自分には出来ないと、思うのだ。
「自分の出来る事。やり遂げてみせますね」
 セシリア・ティレット(eb4721)は、冒険者になりたての自分の手を、恥ずかしそうに見た。今まで苦労はあまりした事が無い。だが、今は誰かの為に出来る事があるのだ。それは、誇らしい事で、自信を深めてくれる。
「村の人たちが苦労して集めた蓄えを奪い取ろうとは許せません!徹底的に懲らしめてさしあげましょう!ねえ、皆さん!」
 土守玲雅(eb8830)が、正義感溢れた言葉を力いっぱい話した後、恥ずかしかったのか、火のせいか、頬を染めて俯いた。
「前門の小鬼、後門の茶鬼と言う状況なのですわね」
「ふむ、鬼どもが薫製の匂いに釣られたか‥冬の蓄えを奪わせるわけにはいかないな」
 事前に、地図を用意してもらっていた椋木亮祐(eb8882)は川と森とに挟まれた、小さな窪地にある村の位置を皆に説明していた。菫がそれを覗き込む。
 準備は万端であった。
 
●川に挑む
 翌朝、朝靄を抜けた頃、件の川が見え隠れし始める。未だ明けきらない川縁に立つのは、テラーと桜である。川の中腹ほどを渡る茶鬼を五体視認する。先駆けた二人は、顔を見合わせると、冷たい川に足を踏み出した。
 水飛沫を上げる音に、茶鬼達が振り返る。
 横一線に広がって居ないのが救いか。
「抜くわよっ!」
「おお!」
 桜は、団子状になっている茶鬼の脇をすり抜ける。膝まである川の水嵩が茶鬼の動きを鈍くし、桜の足でもなんとか抜ける事が出来た。魁に乗り、桜に注意が向かないように派手に茶鬼の横を駆けたテラーのおかげでもある。
 何より、茶鬼達が、背後から抜いて走られるとは思っても居なかったのが、功を奏した。
 茶鬼も二人の後を追う為に速度を速めようとしたが、それは上手くいかなかった。
 金色に光る光が打ち込まれ、茶鬼の一体に当り、焦げた臭いを出し、空を裂く音と共に、やはり密集していた茶鬼の一体が見えない刃に裂傷を作る。
 ごぉとも、おぉともつかない、茶鬼達の唸り声が木々を揺らす。
 藤政が、再び身を金色に光らせ始め、亮祐はロープを川に渡そうと探ろうとしたが、向かってくる茶鬼を見て、祖師野丸を構えた。どうやら、茶鬼達は川を渡る事を辞め、新たに現れた冒険者達を先に片付ける気になったようである。
 渡り切った二人は、そのまま後ろを振り返らずに緩やかな坂を村へと、水滴を撒き散らしながら走って行く。
 金色の光がまた放たれた。
「そっちは深いです!」
 川の深さを観察していた楓が叫ぶ。
 茶鬼を避け、疾風で川を渡ろうとしていた玲雅は、茶鬼が迫る様を見た疾風に、危うく振り落とされそうになる。だが、玲雅も疾風が戦いに向かないのは承知している。降りると、疾風を放つ。
「すみません物部殿、助かりました」
 連れてきた馬達の中、向かってくる茶鬼の姿を見ると、待機の命令が無い疾風と、セシリアと楓の馬はそのまま来た道を走り去ってしまった。しかし、今は目の前の茶鬼との戦いが先である。
 対岸に渡る事も出来ず、かといって、こちら側の岸で待ち受けるには茶鬼の行動が予測出来ず、川のど真ん中で戦いは始まった。
 炎の軌跡を描いて、菫の修羅の槍が茶鬼に振るわれ、確実に茶鬼一体の動きを止める。
「ええいっ!」
 玲雅の気合の入った言葉と共に、閃く白刃は茶鬼に切りかかるが、茶鬼の斧に受け止められ、鍔迫り合いになりかかった。その隙を突き、セシリアの村雨丸が翻り、玲雅を相手にしていた茶鬼が深手を負って、盛大な水飛沫を上げて川に倒れ込む。
 茶鬼と切り結びながら亮祐は、村と茶鬼との間に入るため、流れる水を蹴立てながら移動する。
「村に逃げ込まれたら、それこそ本末転倒なのでな」
「貴方の相手はわたくしです」
 攻撃の手薄な場所に、フィリッパがその薔薇の蔓の鞭を唸らせた。
 皆の援護を、藤政はしようとしたが、ここまで混戦になってしまうと、金色の光の魔法は味方に当たる恐れがあった。
「上手く行かぬか‥ならば」
 村へと進むだけである。茶鬼は、近づく藤政を襲おうと、斧を振り上げる。だが、斧を振るう瞬間、藤政の姿が掻き消えた。動きを止める茶鬼に楓の抜丸が深々と食い込んだ。 
「今日はおまえさん達だけじゃないんでね」
 亮祐が迫る茶鬼と打ち合い、セシリアが、玲雅が、フィリッパが、菫が、楓が残る茶鬼に切りかかった。
 
●その香りに
 川を渡り、茶鬼をすり抜けた二人は、村の広場らしき場所をも駆け抜ける。
 その中央に、酷く匂う建物があった。あれが、燻製所であるのだろう。
 走り込んでくるテラーと桜を見て、燻製所の前で番をしていたのであろう老人が、立ち塞がる。不振気な老人に、テラーは馬を下りずに叫ぶ。
「拙者らは鬼退治を任された冒険者ぞ!今仲間も戦っているし!鬼達を打ち破ってすぐ参るでござる!」
「鬼は、山からだ!何処で何と戦っているって言うんだ!」
 それはそうである。茶鬼の存在など、村人は知らない。頼んだのは、山から来る小鬼の退治なのだから。
「あのね、昨日、茶鬼がこの村に向かっているからって、討伐の依頼が、この村と商売をされている人からあったんだよ」
「何だって?茶鬼だって?」
 桜の説明に、茶鬼と聞いて、老人の顔が引き締まった。よく耳を澄ませば、川の方から剣戟の音と、嫌な唸り声が聞こえてくる。
「鬼達に出会わぬよう戸締りをして家に篭るなり、村の蓄えのある大きな家に集合してしのぐなり各自でしばしの間、対処を頼むでござる!」
「戸締りは大丈夫じゃ。お願いしますぞ」
「では!急ぎにて失礼。これより拙者らも鬼退治に推して参る!」
 元より、小鬼襲撃の為、戸締りをし、家に籠っているのだ。テラーの呼び声にも雨戸が閉まった家々からは咳ひとつ聞こえない。老人に頷きかけると、テラーと桜は山際へと向かった。
 村の外れから山を見上げれば、確かに数体の小鬼が、ゆるゆると村へと下ってくるのが見えた。
「斬鉄!よいか、村には決して鬼を入れてはならぬでござる!此処が正念場と心得よ」
 残鉄はテラーを見るが、果たしてその役を担えるのかは定かでは無い。しかし、テラーの朗々とした声に、降りてきた小鬼立ちはその動きを止める事になる。
「鬼ども!!よぉく聞け!!!拙者は義侠塾壱号生!寺亜明日猛礼守、この槍にかけてここよりは通さぬ!!」
 小鬼は、村を伺うと、ざわめいた。
 防御する人が居るとは想定外だったらしい。
 議論するようなざわめきの後、小鬼達は、村の襲撃をすることにしたようである。木を盾にしながらじりじりと降りてくる。
「此処は通行止めだよっ!」
 桜も叫ぶ。
 その声が合図になった。
 小鬼達はわらわらと手に得物を掲げ、下卑た声を上げながら二人に押し寄せた。

 モーグレイとマインゴーシュの二刀を振るうテラーだったが、左右から攻撃されてはたまらない。突進しようとしても、整地されない山には魁でも駆け上る事は難しかった。反面、木々を盾にし、小鬼達は広がりながら押し寄せてくる。桜の縄ひょうは接近戦には向かない。木々が邪魔をして、最初の一撃が美味く当たらなかったのが悔やまれる。幾つも傷を負いながら、小鬼を村へと向かわせないように二人は刃を振るう。幸い、小鬼は小鬼で、村は後回しにしたようなので、足止めにはなっていた。
 だが、多勢に無勢である。押されかかったその時、空を裂く音が響いた。亮祐である。
「すまない、待たせた」
 茶鬼を殲滅し、川の方向から次々と冒険者達の姿が現れる。
「土守家が嫡子、土守玲雅!推して参るっ!」
 張り上げるような玲雅の声が響くと、優勢だった小鬼達は、その動きを止め、じりじりと後退を始めた。登ってきた冒険者達の数の方が、残った小鬼達の数よりも多かったからである。逃げるに敏な小鬼だったが、今度は逆の立場に立つ事となった。

●森の村
 この森の何処かには、香りの出る木があり、その木で燻した肉が事の他よく売れるのだという。
 戦いの終わった冒険者達を、潜んでいた村人達が出てきてもてなす。
「へぇ‥美味いな」
 振舞われた燻製と地酒に、亮祐は目を細める。
「偶然とは恐ろしきものだな」
 藤政が、川に流れて行った茶鬼を、村から見下ろしながら呟いた。幸い被害は無い。だが、また、いつ何時同じような被害に合うかもしれない。けれども、燻製を作るのに、ここを離れられないと、村人達は笑うのだ。
 頼りにしてますよと、村人達が冒険者達を嬉しそうに見ていた。