霧雨に潜む
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:いずみ風花
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 31 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月24日〜06月27日
リプレイ公開日:2006年07月03日
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●オープニング
雨が降る。
雨は、木々を打ち、土を打ち。
その降り止まない雨のせいか、ぞろりと蠢くモノが、複数体で山から村へ下りてきた。
濁った雨水のような鱗を光らせ、蛇に似たそれは、10体いた。
幸い、未だ田には水が張られていない。水田に居座られる可能性は低いだろう。
植えたばかりの夏野菜の畑を荒らすだけなら、そう被害は無い。
はらはらと降る霧雨の中、畑仕事をしていた男が、山から下りてくる蛇に似た妖怪を発見し、村に走った。
小さくても妖怪には違い無い。
男の掛け声によって、村人は、反対側の峠に避難した。
だが、避難出来なかった者が居た。
「誰かっ!誰か!お里を知りませんかっ?」
若い母親が、避難した村人の合間を縫って歩く。
「お里ちゃんは、隠れんぼしてて、見つからなかったの」
「うん、お里ちゃんは木の上に隠れちゃうから、いっつも最後まで見つからないのよね」
子供達は、何故避難しなくてはならないのか、よく理解していない。ただ、親達に連れられるまま、この避難所まで辿り着いたのだから。
子供等が、固まって走ってきたので、全員居ると勘違いしたのだ。
決死の表情で走り出そうとする母親を、村の者達が止める。
「今行ったら、あんたもやられてしまう!」
「木の上なら大丈夫だ。お里は賢い子だから、大丈夫だ」
確かに、蠢く妖怪は、ひとしきり田畑を荒らすと、何時の間にやら山に帰ってしまうモノなのだが。
お里がそれまで無事かは、わからないのだ。
村の若者が、村長からの言伝を持って、全速力で冒険者ギルドへと走っていった。
●リプレイ本文
●雨の依頼
「・・・・雨は嫌いなんだがな」
ルカ・レッドロウ(ea0127)が、長髪をかきあげ、溜息を吐いた。
しとしとと降り止まない雨の中、駆け込んで来た村の青年の話しに、居合わせた冒険者達は眉を潜めた。
「見付かってない子の居場所が分かってないからまずは見付けられればと思うけど‥‥どうだろ」
ユリア・ミフィーラル(ea6337)が立ちあがる。
「お里ちゃん、心配だなぁ…寂しいだろうなぁ…早く助けてあげましょう!」
自身も、寂しがり屋の一面を持つ、若葉翔太(eb3293)が、一人残されたお里を思い、気合を入れる。若葉の問いかけに、青年は、持てる全ての情報を冒険者達に伝えはじめる。そうして、何人かの冒険者達が、お里救出に、名乗りをあげてくれたのを確認すると、力尽きたのか、ぐったりと座り込んだ。
●村人
見晴らしの良い村だった。
畑は山際にあった。その裾野を広げるように田があり、畑と田の間に集落がある。小さな集落であった。
あぜ道と生活道路が縦横に走り、足場には事欠かない。田に水が張っていたら蛇の妖怪は容易く逃げ、攻撃力も増すのだろうが、雨で多少ぬかるんでいるとはいえ、隠れ潜む場所は集落にはそう無かった。
いくつかの田を挟んだ向こう側に、小高い山があり、その山から、蛇の形をした妖怪は下りて来るのだと言う。何時下りてくるのかはわからないそうだが、下りてくる時は必ず複数体で田畑を荒らし、山へと帰るのだそうだ。それが下りた後は、しばらく田畑が使い物にならなくなるらしい。ただの蛇では無い。寄らず触らず、今までは逃げるだけだったという。
逃げて、事足りたのが、良かったのか悪かったのか。
「母上殿、心配するな。我等がお里殿を助け出す故」
真摯な顔で、志羽武流(ea0046)が、雨に濡れながら立つ女性に語りかけた。お里の母親だった。
「大丈夫だ、私だけでは無理だが、これだけの者が集まった。お里さんの事は安心して待っているといい。母御、帰ってきたら抱きしめてやってくれ」
桂武杖(ea9327)も、穏やかに微笑みかける。
早く、無事にお里を助け出してあげたい。
集まった冒険者達の気持ちは一致していた。
雨に濡れただけでは無い、真っ青な顔をしたお里の母は、何度も何度も、頷く。母親を安心させている間に、子供達の集まっている場所で、軽い歓声が上がる。冒険者が珍しい子達ばかりだったので、無理も無い。お里が危険だという認識は無いのだろう。
「今日遊んでた場所は何処かな?」
アトゥイチカプ(eb5093)が、そう身長の変らない子供等に囲まれ、青い瞳を細めて、にこにこと笑う。
「あのね!お里ちゃんのお家の近く!」
「そこから、離れたりはしないの?」
「しないよ!もーいーかい!て聞こえなくちゃ駄目だし、もーいーよ!て声がしないと駄目だもん」
林小蝶(eb2319)の明るい笑顔に笑顔を返す。
「お里さんが隠れるという木は何時も同じなのか?特徴というか気に入っているのがあると思うんだが場所を教えて貰えるかな?探すのに役立つと思うんだが」
ひととおり、母親が安心したのを確認すると、桂もお里の居場所を子供達に聞きに来る。木に登るのを自分も好んだ。お里が、同じように木に登るのを好む子ならば、好きな木というのは、あるはずだと思ったのだ。大柄な身体を曲げ、子供たちの目線に降りる桂の笑顔に、その巨体に、びっくりした子供達も、笑顔を返す。
「決まってるけど!」
「見つからないんだよな!上手だもんな!」
口々に話す子供等の喧騒を横目に、若葉は、隠密行動の準備を整えて、屈託のない笑顔を村人達と仲間達にに向ける。
「それじゃあ一足先に、偵察に行って来るね♪」
「木の上ってのは考え様によっては都合良いよな、雨を凌いでくれる」
子供等に囲まれ、足にすべり止めの縄を巻いていたアトゥイチカプと林も若葉に続き、ギルドに駆け込んで来た青年と、子供等の説明で、大体の場所を把握出来た他の冒険者達も、後に続いた。
●蠢くモノとの戦い
ぬらりと雨に光る姿を、僅かに先行していた若葉達が見つけた。
体長は一尺を少し越えるくらいの小さな蛇の姿。だが、その身に宿す禍禍しさは雨に打たれても落ちずにいる。固まってうねる蛇達は、芽が出たばかりだったり、収穫直前だったりする夏野菜を、土から掘り起こし、何も育ってはいけないかのように、叩き潰し、蠢いていた。
降りしきる雨が、灰色にけぶる。
集落にはほとんど木々は無い。数本の木のうち、どれかにお里は隠れているという。
その前に蠢く妖怪のせいか、ユリアのテレパシーは上手くお里を発見出来ないでいた。
「効果時間はそれなりにあるけど、範囲は極端に広い訳じゃないから‥‥」
障害物の少ない場所だ。これ以上近付くのならば探索と戦闘は同時に行うしか無い距離であった。冒険者達は、妖怪への間合いを急速に詰める。
「お里殿、どこにおられる。助けに来た、もう安心だ」
子供等が言う、数本の木に志羽が声をかけると、雨のせいでは無く、かさりと動く木があった。ほんの僅かな揺れだが、冒険者達にはそれで充分お里の居所は知れた。
淡く銀色に発光するユリアから、月明かりのような淡い光の矢が、妖怪へと放たれると、一体が霞のように消えうせる。ユリアは首を横に振ってその様を睨む。短い髪が雨をはじいて揺れた。
「あんまり魔法の無駄撃ちは出来ないんだよね。魔力が不安だし」
その攻撃で、細い蛇の固まりが、まるでひとつの蛇のようにくねり、冒険者達を見た。ユリアの攻撃から間を置かずに、次ぎから次ぎへと攻撃の手は休まらない。
霞のように消えるこの妖怪は、夜刀神といった。
ここに居る冒険者達には、なじみの無い妖怪である。精霊の一種であり、雨水のように濁った色から、土の属性が見られる。
「へへーん、僕を捕まえられるかな♪」
若葉が、くるりと手首を回すと、縄ひょうの連撃が雨と共に、固まった妖怪に襲いかかり、数体の動きを止める。少女のような愛らしい外見だが、その連撃は鋭く激しい。
「妖怪相手に名乗る名はねーってな。ま、いかせてもらうぜェ」
日本刀を抜かずに構えると、ルカは、若葉の連撃で動きを止めた妖怪を、一線に薙いだ。一文字に切られると、妖怪は、はらりと消えて行く。一匹も討ち漏らす気は無い。これから、この妖怪から逃げずに安心して暮らして欲しいから。ルカの刃には容赦は無かった。
「お里殿には我等が指一本ふれさせはせぬ!」
緑系統の淡い光に包まれると、志羽の手からは、雨を切り裂いて三日月形の刃が放たれていた。吸い込まれるように入った刃は、一体の夜刀神を瞬時に消滅させる。
「まいったな、やはり私の奥義は効きにくそうだ。剣に頼るかね。華国の剣ではないがこの国の剣でも多少は使えるだろ」
ぬるりとしたその小さな姿に、打撃を諦めた桂は、日本刀を抜刀し、慎重に構える。
「させないっ!」
「そおらぁっ!」
一方、林は最初から妖怪の動向を広範囲で確認していた。討ち取られた妖怪と、合わせても10体。濁った雨水のような鱗をくねらせ、仄かに茶系の発光を始めた後衛の蛇めがけて、蹴りを放つ。手応えは充分だが、仲間の攻撃の邪魔にならないようにすぐに後退をする。長い黒髪が雨を含んで水滴をはじいて揺れる。そこへ走り込んで来た、アトゥイチカプの小太刀も翻った。
夜刀神は、冒険者達に、次々と討ち取られて消えていくのだった。
●お里
ユリアの月の精霊魔法が発動し、妖怪の注意を引きつけたのと同時に、伊珪小弥太(ea0452)は、お里が居る木の下へと素早く周り込んでいた。
「これから兄ちゃん達が蛇退治すっからもうちっとここで待ってな、大丈夫、俺がすぐ下にいっから怖くねーよ」
幸い、お里の登った木の周りには茂みなど無く、固まった蛇の妖怪がはぐれて潜んでいる事は無さそうだった。
仲間達が戦う妖怪を睨みながら、曲がりくねった木に足をかけ、軽く木に登ると、おかっぱ頭の小さな少女が、大きな目を見開き、口を真一文字に閉じて木の幹にしがみついていた。声を出さずに我慢していたのか、怖さで声が出なかったのか。伊珪の微笑みに、お里は首を小さく縦に降る。
「いい子だ」
次々と倒されていく妖怪を横目に、伊珪は明るい笑顔をお里に向ける。長引きそうなら、歌でも歌うかと真剣に考えていたが、どうやら歌う時間は無さそうだった。
しとしとと降る雨に掻き消えるかのように、無数の蛇は土に消えてしまったのだから。
「お里ちゃん、もう大丈夫だよ!」
ユリアの元気な声がかかる。
「怪我は無いですかー?無事で何よりです♪」
若葉の明るい声も寄って来る。
「怪我があるなら、遠慮無く言ってよね?」
林が真剣な顔で木の上を見上げる。だが、お里は降りようとしない。一番近くに居た伊珪が、身軽にお里の近くまで登って行く。怖くて、手足が強張っているのだろう。伊珪を見つめる大きな瞳を見て、満面の笑顔で頷くと、そのおかっぱ頭を軽く撫ぜるように叩いた。
「よく頑張ったな」
「・・・・ん!」
お里は、ぎゅっと、伊珪にしがみつく。冷え切った身体以外は、幸いに怪我は無さそうで。皆に安堵の溜息が漏れる。
「良かったな、お里殿。もう大丈夫だ、安心しろ」
志羽が表情の少ない顔で、淡々と言う。だが、目許が柔和にほころんでいて。
「雨も上がるか・・・・」
西の空が僅かに明るさを取り戻しているのを、ルカは目を細めて見た。夕暮れの色だ。一日が終わる。長い雨も、もう終わりを告げるのかもしれない。
●雨上がりの夜空
「あれは?」
「ああ、あれは…」
雨の上がった、降るような星を見ながら、お里に華国の星座を教える桂の姿があった。桂の物腰の柔らかさもあってか、すんなりと懐いたお里は、やはり物怖じしない子で。木の上で怖い目にあったからといって、上るのを止める子では無く。
母親達の見守る中、微笑ましい光景が、星空を背景に広がっていたのだった。