追儀の柊

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月02日〜02月07日

リプレイ公開日:2007年02月09日

●オープニング

 福は内。福は内。
 神棚から、五合枡に入れられた大豆を下ろすと、まずは家の中心に『福は内』と撒かれる。そうして、次は北西へ。北西からまた中央を通り、南東へ。南東から一端中央に戻り、北東へ。北東から中央を通り南西へ。この時、内の中では『福は内』としか言われない。そうして、また家の中央に戻り、玄関へと進み、戸を開けると『鬼は外』と呼ばわるのが、その家の風習であった。
 必ず、家の家主が執り行うというその追儀の儀式に、家主が辿り着けそうに無いと、奥方から依頼が舞い込んだ。
 柊を採りに、恵方の山に出かけたのだという。
 しかし、恵方の山から帰宅するその街道に、鬼が出た。六体の鬼が、三体づづに分かれて、山の中の街道を右へ左へと歩いていくのを見た者が知らせに来たのだ。
 屈強な赤褐色の鬼は一本の角を持ち、金棒を振り回し、凶悪なその顔は遠くからでも見て取れたという。
 時は節分。しかし、すべての鬼が柊と目潰しの豆で退散するわけではない。
「どうかっ!うちの人を助けてくださいましっ!」

 街道の先には、小さな宿場町があり、その先に、家主が向かった恵方の山があるという。
 山鬼戦士を討伐し、宿場町を守り、家主を無事送り届けて下さい。

●今回の参加者

 ea0276 鷹城 空魔(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6144 田原 右之助(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2364 鷹碕 渉(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3701 上杉 藤政(26歳・♂・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb5106 柚衛 秋人(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

湯田 鎖雷(ea0109

●リプレイ本文

●街道の鬼
 穏やかな小春日和。
 まだ、朝晩の冷え込みは厳しいとはいえ、風も無いこんな日は冬の薄い色の空も、暖かく思える。
 なのに。
「鬼が六体‥‥‥‥‥‥‥ちと厄介だな」
 鷹碕渉(eb2364)が倒すべき敵の数を思い出して呟いた。
 冒険者達は街道をひた走っていた。ある者はその足に韋駄天の草履を履き、ある者は魔法のかかったブーツを履き、またある者は愛馬の背にまたがる。
「しっかし、こんな時期に鬼も出てこなくてもいいのに‥そんなに節分で鬼は外ってやられるのがムカついたか?」
 豆をぶつけられて追われる役にされたら、鬼といえど、あまり良い気持ちはしないだろうなと鷹城空魔(ea0276)は、思う。だが、何故、豆を持って追われる事になったかといえば、まあ、自業自得なのだろうと、鬼の所業をも思い出して頷くのだ。
「あら、そう言えば節分ですわ」
 風に乱れる髪を直しつつ、刈萱菫(eb5761)が如月の行事を思い出す。
 脚を早める一速先の空の上には、鷹の顔、鳥と獅子の脚を持ち、強靭な翼持つグリフォンの姿が見える。まずは先に恵方の山から下りてくる家主に危機を告げなければという思いが、グリフォンを飛ばせた。幸いここは山中の街道である。たとえ目撃されたとしても、どうこう言われる場所では無い。その姿が小さくなる頃。地上を走る冒険者達は、遠目からも知れる凶悪な後姿を視界に捉えたのだった。
「他に被害が出る前に俺たちが片付けないとな‥節分とは言え流石に豆じゃ無理だしねぇ‥」
 九竜鋼斗(ea2127)は、鬼が視認出来ると、戦闘に巻き込まれないよう、愛馬普銅丸を後ろに下がらせ、鬼目掛けて走り出す。
「節分の時に出てくるなんて、本当に何の冗談かしら」
 同じく、愛馬灘風を後方へ避難させた菫も、六尺六寸はあろうかという橙紅の槍を軽々と持って鋼斗の後に続く。その一歩前を走るのは田原右之助(ea6144)である。
「俺に料理されたい奴らはどいつだ?」
 街道を二手に分かれたという山鬼戦士の行動に合わせて、集まった冒険者達も、二手に分かれた。同じ組内では一番体力がある右之助が、自然、前に出る。
 山鬼戦士は、後ろから迫る冒険者達に気が付いて、その凶悪な巨体を揺すり、振り返った。その鬼面にあるのはただ破壊の衝動だけだ。だが、いかんせん。山鬼戦士達は、自身の大きさが仇となっていた。街道に広がれるのは二体である。三体目の鬼も威嚇を込めて咆哮を上げるが、とりあえず、冒険者達は二体を相手にする事となる。数の利は、先行する仲間達が少ない分、こちらにあった。
「攻撃は最大の防御でしょ、そーでしょ?」
 片手に太刀、来派国行を構え、もう片手には十手、兜割りを構え、鬼の間合いに踏み込んだ。
 ごう。と、空気を震わせて二体の山鬼戦士の持つ金棒が次々と振り下ろされる。一体の鬼の金棒に、右之助の十手ががっちりと受け止める。それは、そのまま、山鬼戦士の金棒の粉砕に繋がる。破壊された金棒を、信じられない面持ちで一瞬見た鬼に、次の攻撃が襲い掛かる。紅蓮の業火が燃え上がるかのような軌跡を描き、菫の槍が鬼の胸部を切り裂いた。
「焼き尽くして差し上げますわ」
「抜刀術・閃刃」
 怯んだ鬼の動きを追う様に、鋼斗は霞のごとき軽い日本刀、霧刀の白刃をきらめかせる。数に勝っていても、実力は伯仲している。迷っている暇など無い。刃は軽いが、その一撃は深い。瞬く間に鞘に納まった刀を腰に溜め、裾を軽くさばく。じりと、足元が揺れる。居合いの間合いを計っているからだ。
 間髪入れず、菫の槍がくるりと回転し、最初の斬撃とは逆の方向から下から上へと炎が立ち上るかのような一撃が入る。
「抜刀術・双閃刃」
 再び抜かれる刃も、空を割いて鬼に吸い込まれた。
 それと同じ頃、たくさんの空魔が出現していた。
 振り上げた金棒を、下ろすその手が揺らぐ。揺らぎは渉に先制の一手を走らせる。
 手にする愛刀の一振りは相州正宗。抜刀の音も鮮やかで。小柄な渉が、七尺はあろうかという山鬼戦士に正面から何の躊躇も無く踏み込んだ。振り抜くその刃は正確に胴を薙ぐ。
 たくさんの空魔は、両手に三本の鉤爪がある龍叱爪を構えていた。渉の胴払いで鬼がよろめいた背後から、八の字を書く様にざっくりと背に斬撃を与える。
 ずしりと重い金棒が地面に落ちるまでの間に、刀を翻した渉のニ撃目が、攻撃を受ける事を考えないような、懐に飛び込む動作で、さらに深々と鬼を切り裂いた。
 次々と倒れる仲間の鬼を見てか、最後の一体は、逃走を始めていた。しかし、空魔と渉の脚は易々と逃げる鬼を追い詰める。右之助の戦闘馬である愛馬くろまめは怯える事など無い。逃げる背に、右之助の一太刀が赤い線を描きながら、鬼の横を走り抜けて行く。ぐらりと揺れたその鬼の背に、渉は刃を閃かせ、深々と追い討ちを浴びせた。馬首を返して戻る右之助がもう一太刀入れるのと同時だったのか、倒れた鬼の背には、からからと風車が回っていた。空魔の暗器であった。

●山道の家主
 黄色い嘴をさらに尖らせて、黄桜喜八(eb5347)はグリフォン、タカシに乗って、ひたすら先を急ぐ。
 眼下には、街道が見え、山鬼戦士が進む様も見える。だが、喜八の降りる場所はここでは無い。
「オイラ、自慢じゃねぇが戦闘能力は低い‥戦闘以外の部分で貢献しねぇとな」
 もちろん、冒険者であるからには、戦闘も厭わない。だが、今は他にやる事があった。家主が山へ分け入るという山道が延びる宿場町を抜けると、幾本もの山道が見えた。
「いきなり冒険者風情が危険を告げても信じねぇかもしれねぇし」
 軽く頭の皿を撫ぜると、胸の冒険者ギルドの依頼書を確かめる。家主の奥方の署名があるそれならば、自分の言葉も真実味が増すというものだと、喜八は思う。
「居た」
 山道の一本に、馬で下ってくる壮年の男を見つけた。幸い、こちらには気が付いていない。喜八は大慌てでタカシを回れ右させると一端遠ざかった。

 険しい山道であったが、馬が登れないほどの山道では無い。慎重に下る男は、目の前に現れた河童に、目を見張る。
「何奴?」
「お内儀からの依頼だ」
 明らかに危ぶむ家主に、しょうがないよなと内心で頷くと、喜八は胸から依頼書を出して振ってみる。馬から下りた家主にそっと近寄ると、手渡す。
「このままゆ〜っくり進むか、さもなきゃよ‥‥この先の宿場町でよ‥‥鬼退治が済むまでよ‥‥隠れててくんな」
 あいわかったと、頷く家主に、頼んだよと、声を掛け、喜八はタカシの元まで急ぐのだった。

●宿場町の鬼
 風も無い、穏やかな山間の宿は、暖かな陽だまりを作っていた。
  だが、そこに人影は無い。
「どうやら、避難しそびれた人は居ないようだ」
 上杉藤政(eb3701)は、丹念に宿場町を確認していた。自分に出来る事をしようと、罠を作ろうとするが、馴れない事は上手くいかない。手ごろな岩も見つから無いので、迎え撃つ連携を重視しようと、誰にでもなく頷いた。
「二手に分かれての作戦とは、なかなかやるな」
 鬼のくせになと、柚衛秋人(eb5106)は、戻ってきた藤政に軽く笑った。喜八に借りた空飛ぶ木臼に傷が無いか確かめると、宿場町の一角に、荷物と共に、置き、身軽になる。
 山鬼戦士の頭上を、グリフォン、大凧、臼と飛んでいったのを鬼達も背後からはわからなかったろうが、飛び過ぎる時には、その姿を見ていたらしい。宿場町に到着するのは思ったよりも早かった。
 だが、冒険者達も、宿場町の外の街道で待ち受ける事は出来たようである。細い街道に、二体の鬼が通せんぼをするかのように広がり、一体の鬼が隙を窺って、後ろから、今にも踊り出さんとばかりに咆哮を上げている。
 秋人が、マガツヒと呼ばれる漆黒の霊槍を軽く振ると、鬼達は金棒を振り上げて襲いかかった。
 打ちかかられる二本の金棒を、右へ左へと弾き飛ばす。その背後から、金色の光のが一直線に飛んで来て、一体に焼き焦げを作った。霍乱も考えていたが、細い道では味方の邪魔になるかもしれないと、藤政は、光の軌跡を確認しつつ、次々金色の光を放つ。
 そんな攻防の中、空中を旋回している秋人の鷲、志波姫が高い声を上げた。
 その時、鬼の背後で、怪しげな煙が立った。喜八である。タカシで大回りし、背後をとった喜八は大ガマを呼び出した。動揺の走る鬼の一人に、秋人が円を描く様に漆黒の槍を回して打ち込み、笑うように声を上げる。
「倒してしまっても、構わんのだろう?」
 その声に、喜八がひょうひょうと応えた。
「増援が来る迄踏ん張らねぇとな。けどよ。トドメが刺せるなら遠慮はしねぇよ」
 喜八の愛犬トシオが飛び出し、山鬼戦士の足に噛み付く。金棒を振り上げる間も無く、タカシの嘴が山鬼戦士に突き刺さった。
 秋人の槍が、何度も、その穂先を翻し、一体の山鬼戦士の動きを止め、藤政の金色の光は、行動に迷いがある残りの鬼の戦意を徐々に奪っていった。

 街道をひた走り、仲間達が宿場町に辿り着いた時には、山鬼戦士は一体倒されており、残る二体もかなりの深手を負っており、簡単に倒す事が出来た。だが、何人かの行動が組合っていなければ、こう倒せたかどうかはわからない。数日後、家主は、何事も無く、家族の待つ家に帰り着くことになるだろう。
 鋼斗が空を見上げてぽつりと呟いた。
「さて、ご退場願えたかな‥『鬼は外』ってな」
「宿場町も、家主さんも守れましたのね」
 菫が、陽だまりに温まる宿場町を見て安堵の溜息を吐いた。
「おっつけ下ってくるだろうよ」
 喜八ものんびりと応え、宿場町の入口では、鬼の亡骸を見ながら、藤政が小さく溜息を吐く。
「人と鬼の共存は出来ぬ以上、鬼が人の世界に来たら倒さねばならぬ。かといって、鬼を滅ぼすことも不可能。地道に活動していくしかあるまいな」
 何にしろ。と、右之助が、ひとつ伸びをした。
「節分が終わったら立春だ。‥春が待ち遠しいねぇ」