村砦

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:9人

サポート参加人数:5人

冒険期間:02月06日〜02月11日

リプレイ公開日:2007年02月12日

●オープニング

 その村は、特に大きな村では無かった。囲むように山があり、東には大きな川が流れている。江戸から村に入るには、その川を船で渡る。
 整備されていない川は、大雨が降る毎にその身をうねらせ、大蛇のような暴れた川となり、橋がかからない。
 橋を架ける事が出来たら、どれほど楽になるかしれない。けれども、それには結構な資金が必要である。
 小さな村には不必要な整備だ。
 しかし、その村の奥の山から水晶の洞窟が見つかった。
 だが、大掛かりに発掘するほどの鉱脈でも無かった為、村預かりとなった。それほど小さな鉱脈であり、小さな村の僅かな副収入となるだけの鉱脈だったが、村にとっては、大切な鉱脈だった。
 その水晶を売った利益で、橋が架かれば。
 大雨が降る度に取り残されたような、いつあの濁流が村を飲み込むのかという、そんな不安から開放される。
 幸い今は農閑期である。
 村人総出で、水晶の洞窟へと向かった。
 
 江戸に橋の普請を頼みに来た、村役達の、嬉しげな会話を聞きかじった悪意ある男達が村へ向かっているとも知らず。
 
「立派な橋が出来るとええな」
「本当になぁ」
 村役二人は、雨を気にせず、行き来が出来ると、嬉しげに話をしながら、村へ続く街道をのんびりと歩く。江戸土産は話ぐらいしか無いけれど、誰もがのんびり江戸見物に出かける余裕も出来るだろうと、顔はほころびっぱなしである。
「な‥‥何の用ですかぃ?」
「ん?特に用ってほどのものじゃ無い。‥‥死んで欲しいだけだ」
 着物を着崩したちんぴら風の若者が、小太刀をひらめかす。
「なっ!」
 ざっくりと斬りつけられた村役は、かろうじてかばった手を切っただけで済んだ。
「街道で追い剥ぎか?感心しないな」
 ちんぴらは、村役二人を黄泉路へと向かわせる事が出来なかった。江戸へ依頼から帰還途中の冒険者達に出くわしてしまったのだ。
 
「そんな‥和尚様が‥」
 話を聞き出せば、村では村長と同じくらい尊敬されていた和尚が、水晶目当てでやって来た、毛むくじゃらの犬のような生き物を連れた浪人二人組みと手を組んで、船着場を掌握し、七尺ほどの高さの篭目の竹の砦を作って守りを固め、村に残った女子供を人質に、洞窟へ入った男達を、昼夜問わず働かせているのだという。
 一端、ちんぴらを連行しつつ、江戸へと戻った村役達は、その足で、橋の普請を先延ばしにして貰い、預けた手付金を拝み倒して戻して貰った。そうして、そのお金を持って、冒険者ギルドへと走り込む。
 お役所で、調査をしてからと気の毒そうに言われたからだ。
 水晶を持ち逃げされるのはもとより、男達の生死、女子供の生死が気になる。
「どうかっ」
 不安で蒼白になっている村役二人を連れて、村を奪回して下さい。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2832 マクファーソン・パトリシア(24歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 ea9916 結城 夕貴(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

リフィーティア・レリス(ea4927)/ マクシミリアン・リーマス(eb0311)/ 天馬 巧哉(eb1821)/ 小鳥遊 郭之丞(eb9508)/ メイ・ホン(ec1027

●リプレイ本文

 それは、遠目から見ても、仰々しいほどの竹の砦だった。櫓も組まれて居るらしい。こちら側には、ちんぴら風の男がひとり、法螺貝を首から下げ、ぶらり、ぶらりとしていた。何かあれば、法螺貝で船を呼ぶのだろう。
 冒険者達は夜を待っていた。夜の闇に乗じて上空から村に侵入を図るのだ。入念な打ち合わせは、細部にまで及んだ。村人を誰一人傷つけず、救出するのだから。
 川沿いの冷え込みはきつかった。深々と冷える川沿いの空気に、冒険者達は軽く身を震わせる。
 情報収集にも抜かりは無かった。聞き込んだ地形と、マクファーソン・パトリシア(ea2832)の前日の偵察などを皆で照らし合わせる。ジェームス・モンド(ea3731)が軽く肩をすぼめて呟く。
「和尚の急な心変わりが気になるな‥デビルに操られたか、物の怪に憑かれたか」
「毛むくじゃらの犬か。和尚が急に心変わりする訳はそいつにありそうだな」
 冷たい川風が超美人(ea2831)の黒髪を巻き上げて吹き抜ける。謎の生物がいて人心が弄ばれる。そんな状況は必ず魔物が絡んでいるはずだと、天使の名を冠するイシューリエルの槍を握り締めた。
「欧州で良く聞くいわゆるデビルの仲間か」
 欲に釣られたか魔に魅入られたのでは無いかと、逢莉笛舞(ea6780)も和尚の急過ぎる変心を妙だと思っていた。確たる証拠は上がらなかったが、熟練の冒険者達は真実に近い場所に居た。
「川超える時位は大凧引っ張るぞ」
 にかっと笑うと、モンドは鳥に変身する。その際、ばらばらと装備などが落ちた。向こう岸に着いたときに丸腰ではと、行動を共にする舞が気が付く。固めてひとつに括って大凧に乗り込むと頷いた。
「お願いしよう」
 夜が深々と更けて行く。次々と、大凧が暗い夜空へと浮かび上がる。
「おいで、龍丸」
 すっぽりと黒装束に包まれた白井鈴(ea4026)は、自身の忍犬を呼びながら。空を飛ぶ木臼に飛び乗る。こうして、洞窟と寺とを制圧する班は空中の人となった。
 川風に多少は押し流される事もあったが、無事対岸へと辿り着く。上空からの進入を考えに入れる事の無い連中である。どうやら魔法を使う者は外には居なさそうだ。
 目立たない場所に、冒険者達は静かに降り立ち、それぞれの持ち場へと静かに移動し、朝を待つ。モンドは装備を身につけると、寺の屋根に上るのは諦めた。また、装備が落ちては困るからだ。一息吐くと、静かに呪文を唱え始めた。彼の頭の中には、この村全体の人や動物の吐息が感知される。事前の情報収集の通り、寺と洞窟に無数の人の吐息が感知された。だが、寺に和尚と一緒に居るという、けむくじゃらの犬のような生き物の吐息は確認出来ない。馬や牛も居ないのだというその寒村には、犬などの姿も無い。と、いう事は。
「感知にはかからぬ、やはりデビルか」
「何より囚われの者達の安全確保が最重要だ。必ず助ける」
 美人が、寺班の顔を見て確認するように頷いた。
 朝日が昇るのが合図となるだろう。
 しかし、合図は法螺貝の音にとって変わられる。
 川向こうから、明け方に響くその法螺貝は、潜む冒険者達の背筋に嫌な汗を走らせる。

 時間は少し遡る、明け方。
「渡して欲しいのです」
「お願い致しますわ」 
 猫耳をつけた巫女装束の結城夕貴(ea9916)が、酷く愛らしい姿で船着場の見張りのひとりに近寄る。金髪碧眼のパトリシアの巫女装束姿も、可愛らしかったが、どうにも不思議な空間が広がっていた。
「腰にずいぶんなもん差してるじゃねぇか」
「そういう宗派なんです」
 パトリシアの必死の言葉も、どうやら効かないようである。東の空が紫色に染まる。もうじき夜明けだ。
「神のお告げなんですよ」
 夕貴の言葉には重みがあったが、神も仏も信じていないようなちんぴらは、薄く笑うのみである。だが、少女達には下世話な興味を持ったようでもある。ひとりは少女では無いのだが。
「腰のもん置いていきな。だったら船を呼んでやる」
 そう、船はこちら側には無い。合図と共に、村側からやってくるのである。
「これが無いと、神事が行えない」
 下から見上げるようにちんぴらを覗き込む夕貴に、ぐらりと心が揺れたのか、ちんぴらは法螺貝を吹いた。
 
 ざわりと、村が揺れたような気がした。
 気配が一斉に動き出す。
 その時、一筋の光が村に差し込んだ。朝日だ。

 「大丈夫?!助けに来たよ!」
 鈴が爆音と共に、洞窟の奥から声を上げる。ひっそりと影にかくれて動くのはお手の物だ。やすやすと坑道内に進入出来ていた。もともと、僅かばかりの量しか取れない水晶の洞窟。そんなに奥行きは深く無い。鈴の声に慌てた入り口に居いた着流しの男とちんぴら風の男は、慌てて立ち上がったが、その目の前には、ルーラス・エルミナス(ea0282)とカイ・ローン(ea3054)の姿があった。朝日を背に受け、ルーラスが、イシューリエルの槍を持ち、踏み込む。
「嘆く涙を拭う為、白き槍が悪を祓う。白騎士推参」
 かろうじてその一撃を受け止めた着流しの男がその一撃に押されて僅かに下がった。
「青き守護者、カイ・ローン参る」
 逃げる隙を窺いつつ、日本刀を振り回し、奥へと走り込もうとするちんぴらに、カイは容赦なく、手にする河伯の槍を打ち込んだ。河の神の加護を受けていると言われるその槍は、狙い違わずちんぴらを打ち倒す。悪は許せない。弱い者から搾取するような悪党に慈悲など要らないのだから。
「小悪党らしく、小さな悪事を働いていれば死に急ぐことなかったのにな」
 カイは、倒れるちんぴらに、ぽつりと呟いた。
 一方、しゃにむに飛び掛る獣のような目の着流しの男の太刀筋を見切ると、ルーラスのニ撃目がざっくりと男を突き通した。出来るならば、どんな生命も大切にしたい。けれども、罪無き村人を使役し、搾取しようとする悪漢にまでは、その心は届かない。慎重に辺りを警戒するルーラスは、迫る気配の無い事に、軽く溜息を吐いた。
「‥終わりでしょうか?」
「大丈夫だよ〜。こっちにはもう敵は居ないから!」
 鈴が暗い洞窟から、ぼうと輝く白い髪を揺らして現れると、満面の笑顔で微笑んだ。

 爆音を聞き、寺の戸を蹴破って入ったのは舞である。そのまま和尚と人質の間に割って入るように立つ。同じように、モンドも逆方向の扉を蹴破り侵入する。正面の観音開きの扉は美人が蹴破った。
「お前らの目には映らんだろうが、あの小さな輝きの中には村人達の夢が沢山詰まっているんだ。その夢を醜い欲望で踏みにじらせはせん!」
 モンドは、戦神の加護を受けた剣を抜き放つと構えた。
 挟み撃ちになった和尚は、その身を震わせるくぼんだ目に、黒々と隈が浮いた目は尋常な光では無い。毛むくじゃらの犬のような生き物が低く威嚇する。
「その目つきではやはり。ならば化け物を倒すまで!」
 美人は和尚の顔色を見て、やはり。と、すばやく行動に移った。操られているのなら、和尚のせいでは無い。手にする槍をくるりと回転させ有無を言わさず和尚にその柄を叩き込む。低い呻き声と共に、和尚の身体は床に崩れ落ちた。
 逃げようとする毛むくじゃらの犬。冒険者達にはそれが邪魅と呼ばれる下級のデビルであるとは知れなかったが、邪魅を倒すのに彼等の武器は充分なものであった。
 逃亡を警戒していたモンドが和尚に柄を叩き込む美人を横目に、その長身を揺らりと傾がせ、切りかかった。僅かにかすったその刃によろめいた邪魅に、鬼気迫るような冷たい輝きを放つ刀身の刀を抜刀しながら走り込んだ舞の一撃がその悪意ある命を絶ったのだった。
「誰も怪我などされていませんか」
 いつの間にやら手ぬぐいをかぶり、背中を丸めて邪魅の最後を見届けていたモンドを横目に、舞が声をかける。
 奥に固まって震える女性と子供達の安堵の声と、堰を切ったような鳴き声が、小さな寺に響渡った。

 渡し舟が巫女姿のパトリシアと夕貴を迎えに辿り着く頃、かすかな爆音が村から響いてきた。
 その音に、ちんぴら達は村を向いた。
 こちら側にはふたり。
 村側にもふたり。
 どうしようかと、顔をこちらに向けたちんぴらは、めったに見られない馬を見る。レイナス・フォルスティン(ea9885)の水馬沙羅である。爆音を耳にしたレイナスは、もう身を潜める必要も無いと、その身をさらす。じっと待つのも己を磨く良い修行だったとかるく微笑むレイナスの腰から、すらりと抜き放たれるのは、磨き抜かれ褐色の刀身を持つ、アルマスと呼ばれるデビルスレイヤー。
「人質を取るような輩に容赦はせん」
 走り込む長身の騎士に、男達は慌てて船を出そうと飛び乗った。だが。
「逃がさないよ?」
「悪いが‥戦いは、馴れていてな」
 口の端に笑みを浮かべるレイナスと、朝日を受けてまるで燃えているかのような霊刀で切り掛かる夕貴によって、またたくまに、男達は黄泉路へと向かわされる。
「こっそり姿を眩まそうなんて事はさせないわ。私の目から逃れられると思ったら大間違い。そうは問屋が卸さないわよ!」
 綺麗な顔立ちをしてはいるが、性根は熱血のパトリシアが淡く青く輝きながら詠唱を始めると同時に、その手からは、水弾が川向こうへと飛んでいく。状況は悪し。そう見た弓を持つ男と船を漕ぐ男ふたりが、川を下って逃亡を謀っていたのだ。 
 しかし、その逃亡はパトリシアの水弾によって、あっけなく潰されていった。揺れる船の上から放たれる矢は、夕貴とレイナスの手によって、こちら側の誰にも傷ひとつ与える事は出来なかった。

 村役二人は、舞によってつれて来てもらっていた。彼等が生きていたという事実も、村人達には朗報であった。むせび泣く村人達を、ひとりひとり丁寧に診察するのはカイである。短期間の拘束とはいえ、閉じ込められた人々の健康が心配だったのだ。
「依頼の内だから気にしないで」
 そう、笑っていたのを聞いた村役二人は、カイや去り行く冒険者達に、深々と頭を下げたのだった。