雨の結婚式

■ショートシナリオ&プロモート


担当:いずみ風花

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月02日〜07月07日

リプレイ公開日:2006年07月09日

●オープニング

 冒険者ギルドでは、今日もたくさんの依頼者が、戦闘依頼、護衛依頼、失せ物探しに収穫の手伝いなど、様々な依頼を願い出ている。そうして、それを解決する冒険者達が、自分に合う受けたい依頼を受けて近隣地域に出立して行く。
 そんな中、こんな依頼が入ってきた。

 やわらかな雨の降る中、ギルドの戸を叩いたのは、呉服屋『志の』の大旦那であった。皺の多い顔に、さらに眉間に太い皺を寄せている。
「神主様を連れてきて頂きたいのだが」
 梅雨時ともなれば、木々や花々は、いっそう瑞々しく美しさを増す。たまの晴れ間が、これほど美しい時期も無い。
 そんな6月、娘が嫁ぐ。娘の名はお松。呉服屋『志の』の下働きの娘だ。嫁ぐ相手は草太という、大工の一家『上郷』の若い衆だ。
 だが、花嫁が輿入れに乗る黒駒に、飾る16個の鈴が届かない。頼んであった近くの神社は、小さな山の上にあり、地滑りで階段が崩壊し、神主様と鈴が間に合わないかもしれないという。
 雨が続くと、妖も出やすい。
 どうやら、崩壊した階段に小鬼が3体出現しているようだった。
「では、私達が、小鬼を退治し、神主様と鈴を送り届ければよろしいですね?」
 ギルドに来ていた冒険者の一人が、微笑んだ。
 その言葉に、大工の一家『上郷』の棟梁が、長い白い眉毛をひっぱりながら、大旦那の背後から現れた。
「悪いが、せっかくの結婚式だ。小鬼であっても、殺生は勘弁してくれないか?血生臭いのはまずい」
「では、小鬼を追い払うなどして、神主様と鈴を、できるだけ早く送り届けるという事ですね?」
 冒険者の言葉に、大旦那と、棟梁は頷くと、よろしくお願いしますと頭を下げた。
 神社までは大人の足で半日ほどの距離があるとのことであった。

●今回の参加者

 eb2654 火狩 吹雪(29歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb5099 チュプペケレ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb5401 天堂 蒼紫(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5402 加賀美 祐基(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb5480 ブロード・イオノ(20歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●雨のギルド
 さらりとした長い黒髪を揺らして、凛とした美形が大旦那と棟梁の前に現れた。火狩吹雪(eb2654)である。
「一生に一度の良き日に、足りぬものがあったら、なんて悲しい…必ず鈴と神主様をお送りいたします」
 天堂蒼紫(eb5401)は、相棒の加賀美祐基(eb5402)とギルドへ来ていて、この話に出くわした。結ばれる二人の、長い物語の最初の一頁が血で汚れるのは、見るに耐えない。
「面白い‥‥俺の意地にかけて、この鈴を花嫁の下へ届けて来よう。加賀美、お前もしくじるなよ?」
「心配するなって天堂!この燃える男、加賀美祐基に任せておきなさい!」
 加賀美は、静かに、参加を表明する天堂に視線を返すと、大旦那と棟梁に気の良い笑顔を向けた。
「わたくしも加わりたく思いますわ」
 異国の文化に興味のあるブロード・イオノ(eb5480)が立ち上がる。彼女は、この、珍しい異国の儀式を見て記憶し、出来れば冒険を物語りにしたいと思っていた。
「その後の、儀式も参加したいのですが、儀式の衣装をお借りできませんかしら。お返しに、フランク王国の祝いの曲を笛で演奏して祝いたいと思いますわ」
 すらりとした長身。金糸の髪、碧い瞳のブロードに、大旦那と棟梁は目を見張った。昨今、異国からの人の交流があり、見かけることもあるのだが、こんなに間近で会うのは初めてである。だが、柔らかい上品な物腰のブロードに、大旦那はふたつ返事で頷いた。衣装なら、売るほどある。祝いの曲を奏でてくれるなら、おつりが来るというものだ。
 御陰桜(eb4757)が、大胆に胸の開いた、少々目のやり場に困る出で立ちで歩み寄り、にっこりと笑った。
「まずは、神社へと辿り着かないとね」
「結婚式かぁ!あはは♪お祝いお祝い♪がんばるよ♪」
 チュプペケレ(eb5099)の元気な声が、出立を告げる。
 幸せな結婚式に手を貸すべく、冒険者達は、神社へと急ぐのだった。

●神社
 雨は降り止まない。
 その雨が、柔らかく降る霧雨であったとしても、しとしとと降る雨は、視界をくゆらせ、足元をぬかるませ、着ている着物をしっとりと濡らした。
「足元に注意した方が良いわよ。小鬼にもね」
 御陰が、ぬかるむ足元に注意を示す。
 目的の神社には、程なく着いた。赤い鳥居が見える。
 大きな石畳が、階段となり、小高い山の上まで続いている。階段の脇には、うっそうと茂る樹木が立ち並び、雨のせいか暗さを増している。
「お日様さんお日様さん、教えてくださいな」
 淡く金色に光るチュプペケレは、陽の精霊魔法を発動する。太陽に小鬼について聞いてみようと思ったのだ。だが、雨のせいか、答えは返ってこなかった。
 石作りの階段の途中に、傾れ込んだ場所があった。石が盛り上がったり下がったりで、歩くというより、山を攻略するかのような場所だった。しかし、ロープを渡し、それに手を添えてもらえば神主様も楽に通れるだろう。
「風呂敷を預かろう」
「はい。神社で鈴を包んでからでよろしいですか」
「ああ、そうだなそれで良いだろう」
 天堂が風呂敷に包んだ鈴を持って、先に走ることになっている。火狩と天堂は、頷き合う。神主様と鈴を、出来るだけ早く届けたい気持ちは、皆が同じだった。
 皆で辺りを警戒しながら、慎重に階段を上って行く。
 大勢で歩いていたからだろうか。冒険者達は、小鬼達に会うことも無く、神社へと辿り着く事が出来た。
「冒険者ギルド?」
 蒼白になっていた細面の神主様が大勢の冒険者の姿を見て、ほっとした表情に変わる。
 大慌てで衣装やら身の回りのものを包むと、三方に乗せ、祭ってあった場所から、鈴を下げてくる。
「うわあ!綺麗!」
 チュプペケレの感嘆の声が上がる。
「大切な鈴ですから」
 手にすると、しゃらんと音がする。ひとつが、大人の手のひらにすっぽりと入る大きさの祝い鈴を、火狩は正絹風呂敷に、丁寧に包み始める。16個。聞いていた数と間違いは無い。落ちないように、きつく縛ると、にっこりと微笑み、待っている天堂に手渡した。
「では、預かる」
 火狩から預かった鈴を、大切に懐に入れ、天堂が先にと、走り出す。
「あたし達も急ぎましょう」
 神主様と冒険者達が、天堂に遅れること数分、神社の階段に差し掛かると、小鬼に取り囲まれている天堂の姿が目に入った。だが、囲まれていると思ったのはほんの僅かの時間で、瞬く間に小鬼の間をすり抜け、天堂は走り降りて行く。
 身構える冒険者達の先頭を切って小鬼の前に出たのはチュプペケレである。小さな彼女をくみし易しと見たのか、小鬼がざっと寄って来る。
「あはは、あたらないよ♪鬼さん此方」
 チュプペケレが小鬼を翻弄している間、御陰の周りに煙が立ち込める。そうして、御陰が、小鬼達に手をかざした。霧雨の中、木々に囲まれた場所が幸いして、狙いたがわず三体の小鬼は眠りに誘われた。
「オ・ヤ・ス・ミ」
 しかし、小鬼の手に持っていた斧が、大きな音を立てて、石作りの階段に落ち、鈍い音を立てる。その音で、せっかく眠りかかった小鬼達が起きてしまった。
 それを見て、火狩が淡い銀光を身にまとい、放った眠りを誘う月魔法を発動する。小鬼達は、よたよたと、よろめいた。大きな頭に不釣合いな小さな体が石畳に崩れ落ちると、そのまま寝息を立て始めた。柔らかい雨だったので、雨の落ちる冷たさで起きるという事も無さそうだ。
「あはは♪」
「成功!?」
「みたいですね。縛っておきましょう」
 念には念を入れて、火狩が余分に持参してきたロープで小鬼達を縛った。

●結婚式
 金色の祝い鈴と神主は、無事結婚式に間に合った。
 しゃらんと鳴る鈴は、紅白の馬の手綱の両脇に、8つづつ括られ、花嫁の行く道の魔を払うという。
「おめでとうございます。お幸せに‥‥」
「ありがとうございます」
 黒駒に乗る小さな花嫁に、火狩はお祝いの言葉を告げる。
 真っ黒な黒駒に、鮮やかな紅白の手綱。しゃらしゃら。しゃんしゃん。やわらかい雨の中、響くのは花嫁行列の鈴の音。黒地に百花繚乱の花文様が染め上げられた花嫁衣裳を着て、金糸銀糸の亀甲帯を締め、大きな傘を差しかけられて、ゆっくりと花婿の待つ式場へと進んで行くのだ。
 参列する冒険者達は、思い思いに礼服に着替えている。ブロードは、呉服屋『志の』の店子達に、良いように着付けられ、瞳の色と同じ色の振袖を着せられていた。多少、袖丈が足らないのはご愛嬌というものだろう。
「普段の格好で、万が一花婿さんがでれ〜ってなっちゃったら、まずいものね‥‥」
 軽く、呉服屋『志の』で水浴びをさせてもらった御陰が艶やかに笑う。赤い髪に、べっこうの大輪の花簪に朱塗りと黒塗りの櫛がとても映える。
「結婚は女の子の憧れの一つだし、花嫁さんには幸せになって貰いたいもの」
 そう、言葉を継ぐと、花嫁をを見て微笑むのだった。

 花嫁の到着を告げる門前の声が響く。
 白い眉毛の棟梁が花嫁を出迎えると、広間に花嫁を先導する。広間の上座で待つのは、無骨な顔した若い衆。花婿だ。ずっと下を向いていた花嫁が、ほんの少し、視線を上げた。まん前を見ていた花婿も、計ったように花嫁を見て、少しだけ視線の合ったふたりが微笑むのを、冒険者達は見逃さず、微笑ましく見た。
 花嫁が座ると、蒼白な顔をしていた神主様が、何処吹く風のすました顔で現れ、祝詞を読み始める。
 小鬼を縛った後は、すんなりと、神主様を連れて、送り届ける事が出来たのだった。
「内地の式はこういう風にやるんだ‥‥」
 チュプペケレは、青い大きな瞳を興味深そうに動かす。神主様が下がると、徐々に広間は宴会になって行く。すでに出来上がっている大旦那と棟梁が、いかに花嫁が良く働くか、いかに、花婿が良い腕かをせつせつと語って、笑い泣きを始める。身内のものは良く知った風で、そんな大旦那と棟梁を上手になだめ、杯を重ねさせて行く。
「へぇ、結婚式って良いもんだよなぁ。うんうん、あの二人ならきっと幸せになれるだろうな!」
「俺も一応は影の者だ‥‥これ以上の祝いの席には相応しくないだろう。フ‥‥祝儀は任せたからな」
「‥‥て、天堂!?‥‥祝儀!?」
 天堂は、加賀美にさりげなく祝儀を渡すようにと、お祝いの代替わりを押し付けると、陰のように立ち去っていく。断るに断れない加賀美は、押し付けられた祝儀をどうしようかと、生真面目に考える。だが、まあいいかと、明るく笑うと、この祝いの雰囲気を楽しむことにした。
「では。失礼致します」
 宴もたけなわになってくると、ブロードが、約束していたフランク王国の祝いの曲を横笛で演奏をはじめた。彼女が中央に立つだけで、物珍しさもあいまって、宴はさらに盛り上がる。
「私も、いつかこのように婚礼をあげることができるでしょうか‥‥」
 火狩が、端正な顔で呟いた。
 女の子のひとつの夢。幸せな結婚式が、しとしとと降る柔らかな雨の中、無事行われたのだった。

●小鬼
 縛って階段に置き去りにされていた小鬼を、天堂は慎重に階段下へと引き下ろす。このまま、放置していては、まずいだろう。少し遠目の山の中にでも縛ってくるか、捨ててくるかと考えていた。その後は‥‥どうとでもなるだろう。
「結婚か‥‥朔耶もいずれはあの花嫁のように、嫁いでいくわけか」
 花嫁御寮の行列がやってくるのを思い出して、少し寂しげな、天堂だった。最愛の妹がだぶってしかたなかったようだ。
 だが今は、奇声を発する小鬼を捨ててくるのが先だった。ため息をひとつ吐くと、天堂はいつもの表情で小鬼を連れて歩き出すのだった。