お化けが出たんだよっ!

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月11日〜02月16日

リプレイ公開日:2007年02月18日

●オープニング

 とある小さな町の寺。立て続けの不幸で、今やそこに居るのは年若い住職さんただ一人。
 だからといって、何も不自由は無い。突然の訃報以外、とりたてて若い住職にやる事は無いからだ。先代が大変慕われていたおかげで、食べる事には事欠かない。けれども、本堂の掃除まで人手が割けるほど、余裕のある町でも無く。
 ようやく小坊主が寺に来た時にはかなり埃が積もっていた。
「若さん、これ一人でやれって言うんじゃないですよね?」
「手伝うよ」
 今年数えで八歳になる小坊主が、ぷっと頬を膨らませる。やっと二十歳になる若住職は小坊主に結構タメ口聞かれていたが、それに目くじら立てるほど大人では無いというか、大人だったというか。若住職も気にはしていたので、本堂の掃除を小春日和に始める事にした。
 しかし。
「白い布が一枚飛んでいて、足の付いた傘が二つ居た‥ねぇ‥」
「‥‥冒険者ギルドへ頼みましょう。絶対、その方が良いに決まってます!」
「そうだねぇ」
 きっと、まなじりを吊り上げた小坊主の言葉に、若住職も、軽く溜息を吐いて頷いた。
 本堂の中は、ちょっとした妖怪だらけだったのだ。
 普通、気が付きますよね。
 そう、小坊主の突込みが入ったのは言うまでも無い。

 本堂に居る一反妖怪一体と、傘化け二体を退治して下さい。

●今回の参加者

 ea0046 志羽 武流(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb4802 カーラ・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb6966 音羽 響(34歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb7311 剣 真(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ec1071 阿倍野 貫一(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●若住職と小坊主
 小さな寺の本堂に妖怪。
 そんな依頼を見て、なんだか微笑ましくなってしまった冒険者達が居た。慌しい昨今、本堂に住み着く妖怪に気がつかなかったという若住職は、懐が広いのか、ただ単に抜けているのか。
 志羽武流(ea0046)と阿倍野貫一(ec1071)は、妖怪について思う所があり、朝早くに寺を尋ねた。
「これはこれは。ご足労下さいまして、ありがとうございます」
 のんびりと顔を出したのは、若住職である。その後ろから、小坊主が飛び出して、二人を厨に案内する。本当なら、本堂に行ってお茶をお出しするのですがと、軽く頬を膨らませている。茶菓子と共に出される茶を一口飲んで口を湿らすと、武流が住職に身を乗り出す。
「住職殿、現れた物の怪の事を詳しく話してはいただけぬか?そうして下さるだけでも、我らがどう動けばわかる」
「詳しくと言われても、覗いただけなのです」
 申し訳無さそうに、若住職はつるりと頭を撫ぜる。この厨と住居の合わさった小さな建物から、本堂の向かって右側の引き戸を開けると、気配が一斉に向いたのだという。それは、冒険者ギルドに願い出た通り、一反妖怪一体と、傘化けが二体、ひょこりと居たのだという。時刻は昼間。ぽかぽかとした小春日和で。
 昼間に物の怪が出るとは、何とも面妖な話だと、武流は首を傾げる。だが、本堂に居座っているのも確かな事実で。
「うん。それで?」
 一方、貫一は小坊主と厨の端で立ち話をしていた。
「それでもへちまもありません。妖怪の出る寺に、どうして人が頼ります?若さんは、あの通りのお人ですから、どうせ野放しにしていたんでしょうけれど、このままじゃ、長い事ひいき‥いえ、長年の檀家さんもどうなる事か」
「内緒にして、同居ってのはどうでがんす?」
 妖怪は妖怪なのだけれど、何となく憎めないなと思っている貫一に、膨れっ面の小坊主は、いいですか?と、貫一を見上げる。冒険者ギルドに頼んだ時点で、この寺に何が起こっているのかは近所に知れている。内緒にして出かけたのではないのだからと。
「お化け屋敷として鞍替えするにしろです、これ以上増えたらどうするんです?」
 万が一、怪我人が出たら事はさらに大事になるんですよと、小さい癖に、嫌に訳知り顔で頷く小坊主を見て、住職を見ると、そういう訳なんだよと、目を細め、つるりとまた頭を撫ぜていた。
 武流は、やり取りを聞いて、頷いた。
「寺はできるだけ破壊せぬよう、退治致す」
「本堂の掃除やっても良いでがんすか?」
 しょうがないなと、貫一も頷くと、少し偉そうな小坊主に笑いかけた。小坊主は、その申し出を満面の笑みで歓迎したのは言うまでも無い。

●夜が来るまで待って
 荒れ果てたとはいえないが、微妙に廃れた寺を見て、音羽響(eb6966)は、穏やかに微笑んだ。
「妖怪さんより‥これは少々許せませんわね」
 早速、掃除を出来る姿に着替えて来る。先に来ていた、武流と貫一が桶に水を汲んできて、雑巾を絞って本堂周りを小坊主と若和尚と共に拭いているのに混ざる。
 本堂の中は、昼間ではあるが、妖怪が居るという事で、外回りを先に綺麗にしようという訳であった。きゅっと絞った雑巾で、本堂を囲むようにある廊下を、なるべく静かに拭いて行く。
 万が一、出火してはいけないと、剣真(eb7311)もあるだけの桶に水を入れて準備する。つい、井戸までの短距離を迷いそうになってからは、水汲みには必ず小坊主がついて行く。鮮やかな赤い蝶の羽根を持つ火のエレメンタラーフェアリーがひらひらと真の周りを飛ぶのが間近で見たかったようである。
「仏陀さまに代わって悪たれ妖怪をよしおきよ♪て、いう事なのですわよね?夜‥になるまで待つのかしら?」
 軽く小首を傾げ、カーラ・オレアリス(eb4802)が碧い瞳を瞬かせる。側には、ペットのグリフォン赤卵12.18が大人しくしている。町外れなので、どうという事は無いが、小坊主がその姿を見て、一瞬硬直していた。だが、冒険者さんは色々すごいのですと、すぐに訳知り顔になって掃除に戻って行く。
「薄暗くなってからの方が雰囲気ありそうだ」
「そう言われれば、そうですわね」
 真の言葉に、カーラは頷く。妖怪は、やっぱり暗くなってから活躍して欲しいものなのか。いや、これは万が一、昼間に扉を開けて、居なかったでは困るからだ。そうなのだ。
 のんびりと合間に休息を挟みつつ、本堂の外側の掃除が終わる頃、ようやく陽は西に傾き始め。冒険者達の考える、夜の妖怪退治が始まるのだった。
 鐘を撞くのは小坊主で。
 諸行無常の鐘が暗くなり始める境内に響いて、雰囲気を盛り上げる。若住職が松明に火をつけて、お気をつけてと見送ってくれた。
「いや、依頼を成功させるために貸すだけなのだから」
 貫一は、妖怪相手には魔力を帯びた武器で無いと効かないかもしれないからと、真に小太刀、微塵を借り受ける。確かに、一反妖怪には通常の刀は通らない。真は、借り賃をと申し出る貫一を押し止めて笑う。万が一、取り逃がしたら、付近に迷惑がかかる。退治するならば、きちんと退治しなくてはならない。
 だが、それでも、通じるのならば、話はしてみたかった。
 興津鏡に宝手拭。会話を有利に運ぶため、それらで身だしなみを整える真が、ゆっくりと正面の観音開きの扉を開けた。
「こんばんわ〜妖怪さんはいらっしゃいますでしょうか?」
 本堂の中の空気がざわつく。妖怪達が、開いた扉を一斉に振り向いた。天井には一反妖怪が一体。右端と左端には傘化けが一体づつ。炎と月明かりに照らされて、ぼうっと本堂内に浮かび上がる。自室に踏み込まれたかのようなその反応は、やはり、真が思っていた通り、どうやら自分達が何処に居るのかよくわかって居なかったようである。武流が続ける。
「お前たちは何をしようとしている。住職殿と話し合いをしたいのであれば、我らが仲裁致す。驚かしをするにも理由があろう。寺破壊、殺戮が目的であれば問答無用で退治するものと思うが良い」
 しかし、その次の言葉を言う間は冒険者達には無かった。開いた扉目掛けて、一反妖怪と傘化けが迫ってきたからだ。その行動は、明らかに敵意ある動きだった。
「しかたありませんわね」
 響の身体が淡く真白に輝いた。空に浮かび飛ぶ一反妖怪を拘束したかったのだ。一瞬、それは成功したかに見えたが、振り切られる。ガコガコと下駄の音を立てて近寄る傘化けは、妖怪退治をこっそり見ようとしていた小坊主に向かっていた。
「話合いは、出来ないでがんすか?」
 自身、藩では身の置き場の無い貫一は、出来たら話し合いたかったのだが、それは叶わなかった。攻撃を仕掛けて来るのならば、戦うまでである。走り込んで、傘化けの前に出る。
「お願いよ?!」
 動きの一瞬止まった一反妖怪を、カーラのグリフォンが月を背にして上空から襲い掛かる。それを避けようと、高度を下げる一反妖怪に真が日本刀、法城寺正弘を閃かせ、切りかかった。切りかかられる一反妖怪は、真をぐるりと巻きつけようとするが、真の刀は魔力を帯びる。ざっくりと切り裂かれる、一反妖怪が、地に落ちる。
 流水と貫一は一体づづ、傘化けと向き合っていた。
 ここに現れてしまったのが運の悪い事だと思うのだ。貫一は、慎重に間合いを取りながら、傘化けを窺う。生け捕りも考えたのだが、その隙が見当たらない。
「話す気は、無いでがんすか?」
「これは俺の予測でしかないのだが‥お前たちは九十九神か?九十九神というのは、古い道具等が百年の時を経て妖怪と化したもののことだ。もしそうであれば、この寺と何か縁があるのではないのか?」
 古来、この国には、長い年月を経て、物に魂が宿る。武流は、それでは無いかとも考えていたが、傘化けは、何も語らない。
「ここから、立ち退いて、人里離れた山にでも行って頂けたら、もう戦う事はいたしませんわ!」
 カーラも、出来れば妖怪の話を聞いてあげたかった。しかし、ガコン、ガコンと下駄が、飛び掛る間合いを計っているようで。人の話を聞こうとはしていなかった。
 そうして、冒険者達の視界の端には、昼間はあんなに偉そうだったのに、傘化けを見て、怯え、震えて逃げる事も出来ず、縮こまる小坊主の姿があり。
「止むを得まい!」
 武流の声に、貫一も頷いた。
 
●妖怪が居ない
 翌日はやっぱり小春日和。
 薄い冬の空は、何処と無く寒いが、風も無く、降り注ぐ陽射しはとても暖かくて。
「高い所はお願いしますね」
 響が、たくさん葉のついた竹を切り出して貰って来ていた。一番背の高い武流が、天井の煤払いを任される。低い場所は、みんなで手分けして竹の葉で落として行く。埃が落ちたら拭き掃除だ。
「良い感じです」
 綺麗になっていく本堂に、響は満足気に頷いた。
「変化のが、雑巾かけする姿が見てみたかったでがんす」
「どぶろくで乾杯というのも、楽しそうだったのだが」
 貫一は、雑巾を持って天井を拭く一反妖怪を想像して、はあと溜息を吐き、真は妖怪と車座になって飲み交わす姿を想像して、やはり、軽く溜息を吐き。
 楽しい夢だったが、現実の妖怪は人に仇なすあやかしであると、その身に染みさせていた。
「何ですかこれは」
 小坊主は、昨夜の一件で大人しくなるかと思いきや、まったく態度は変わらなかった。本堂の奥から、様々なガラクタを見つけて外に放り出している。どうやら、前の住職が集めていた、得体の知れないものらしかった。中には、面白そうな物もあり。
 冒険者達は、記念にどうです?と、にっこりと、小面憎い笑顔を向けられ。苦笑しながら手にとった。

 綺麗に磨き上げられた寺は、こざっぱりとその雰囲気を変え。口煩い小坊主と、のんびりした若い住職は、これから安心して町の人を本堂に迎え入れる事が出来るようになったのだった。
 妖怪の姿は、時としておかしみを誘うのだけれども‥。