頼んだから。秘密基地。

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月10日〜03月13日

リプレイ公開日:2007年03月18日

●オープニング

「俺たちの秘密の遊び場だってんで!」
「せや!出てけって、すごまれてん!」
 小さな男の子達が数人、細い路地で、身なりの良い侍を取り囲んでいた。
「うーん。でも、そこは空き地だったのですよね?」
 成りは小さくても、京都の子供達は口が回る。街中で鍛えられているからだろうか。大事な秘密の遊び場を取られたと、口やかましく、侍に訴える。秘密の遊び場だから、親や他の大人には内緒なのだと、眉間に皺を寄せたり、頬を膨らませたり、それはもう忙しい。
 秘密の遊び場とはいえ、そこは人の土地である。
 往々にして、持ち主の好意で開放されていたりもするのだが、時々、どうしてそんな場所を知っているのかと大人がびっくりするような場所で遊ぶのも子供というもので。
 やさしげな顔をした侍が苦笑すると、このまま逃げられてなるものかと、子供達はなおも早口でまくしたてる。
「俺達が最初に遊んどったんやで?!」
「知らん顔の兄ちゃんに、あないに上からもの言われるんは業腹やんか!」
「知らない‥顔‥ですか?」
 苦笑していた侍は、知らない顔という一言に、僅かに眉を寄せた。それを見逃す子供達では無い。
「せや!頼んだで!山南はん!」
 荒っぽいと評判の新撰組内で、子供に言いまくられる人物が数人居る。今回捕まっていたのは、山南啓助。ぶらりと街を歩いていたら、子供等に細い路地に引っ張り込まれたようである。
 後は任せた。宜しく頼む状態で、子供等は、言質を取ったと言わんばかりに、口々に任せたと言いながら、手を振って路地から飛び出て行く。
「何かの溜まり場になっていたら‥嫌ですね」
 手を振り返すと、ほうと微笑み、山南は冒険者ギルドへと足を向けるのだった。この程度の話を新撰組に持ち込むわけにはいかないからだ。
 けれども、子供の言う事ではあるが、捨てて置いて良いものでも無いかもしれないと。
 確かに、子供達は自分達の言い分を汲み取ってくれる大人を選んでいたようである。

 子供達の秘密基地近辺を聞き込みし、必要とあれば、そこを荒らす者を捕縛します。

●今回の参加者

 ea4236 神楽 龍影(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3393 将門 司(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb4021 白翼寺 花綾(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ec1369 呀晄 紫紀(35歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

白翼寺 涼哉(ea9502)/ 四神 朱雀(eb0201

●リプレイ本文

 京の町はいつもざわめいている。
 特に昨今は物騒である。だが、そんな空気にも慣れっこになってしまうのは、市勢の者達であるのだけれど。流石に、冒険者達の目立つペットを連れて行くには無理があった。
 荒事のある依頼ならば、多少は大目に見てもらえるだろう。しかし。山南啓助は、そこいらに居ないペットを連れた冒険者の面々にも頭を下げた。
「私も言いそびれてしまいましたから」
 色々な場所に内緒なものでと言われて、ギルドの受付は、今回限りですよと、中々街中ではお目にかかれない珍しいペットを撫ぜて冒険者達を送り出す。いつも、預かってもらえるわけではもちろん無い。
「聞き込みに、新撰組の名前を出しては駄目かしら?」
 藍月花(ea8904)が、尋ねると、そうそうと、軽く腕を組み、頴娃文乃(eb6553)も山南を見る。
「新撰組の見回り順路に加えて貰うとかは無理かなァ?それなら廃屋も取り壊さなくて済みそうだけど‥」
「物見台を変わりに作ったら、子供達も納得するんじゃないかしら」
 廃屋だから、不逞の輩が集まるのだと、ジークリンデ・ケリン(eb3225)は提案する。それが、町を護る為のモノになるのなら、子供達も嫌とは言わないのでは無いかと思うのだ。
「最悪、屯所の片隅を子供達に使わせて貰えれば、心配事は少なくなるんじゃないのか?」
 日夜心身を鍛え、有事とあれば身を削って戦う新撰組の屯所ならば、京という都を守護する次世代の育成にも繋がるのでは無いかと、明王院浄炎(eb2373)は考ていた。何よりも、子供達が密告したといういわれで、ちんぴら達に逆恨みを買わないかとの心配が大きかった。
 だが。
「全て出来れば、私も皆さんにご足労はかけません」
 新撰組には一切関わりの無い事と。いずれは知れるだろうけれども、この依頼は山南個人からのものだと言う事を重ね、深々と頭を下げた。

 廃屋は、子等が見つけた時点でもはや、廃屋では無くなっていて、廃れていくその小屋には、新しい息吹が吹きかけられ、小屋としてその存在を主張しはじめたのかもしれない。その建物としての新しい生は、生憎、存在させる事は難しいと結論がついた。
 白翼寺花綾(eb4021)は白翼寺涼哉に連れられて、浄炎と将門司(eb3393)にぺこりと挨拶をする。浄炎は、そんな花綾を見て、おお。と、眼を細め、懐から雪だるまの形を模した木彫りの人形を手渡し、その小さな頭を撫ぜる。司も、懐から団子を取り出し。
「皆と一緒に食べたらええよ。花綾はん、かわいいから男の子にちょっかいかけられるかも知れんけど負けたらあかんよ」
 緊張していた花綾は、子供達と仲良くなる為、ひとり先に走り出す。

 高く二つに結わえた金髪がふわりと揺れ、月花は小さく溜息を吐いた。
「‥嫌な世の中になってるモノです」
 そう、京の町は、子供等が遊ぶ小さな隙間の危険度も増している。それは、月花も承知してはいたのだが、何だかやるせない。
「面倒は御免なのだがな」
 流石に、ちんぴら達は、真昼間から子供達の秘密基地を使っては居ないようである。周囲を聞き込めば、昼日中には怪しい風体の者達の目撃情報は無かった。呀晄紫紀(ec1369)は、夜動くのだろうと踏んだのは間違いでは無かった。正確には夕方頃から。子供等が家に帰る時刻に出くわしたようなのである。
 ふらりと現れた、怪しい目配りの男の後をつける。ひたひたと京の町を行く。途中警邏の灯りもいくつかやり過ごし、それでもこの京の街中にまだ、悪党が隠れられる場所があるのだという事実に深い溜息を吐いた。つけて行くと、明け方、ちんぴらは普通の民家に帰宅する。放蕩息子といった所か。
「裏は‥無いようだな」
 たとえちんぴらといえども、万が一という事がある。紫紀は頷くと、またちんぴら達が集まってくるであろう夕刻になるまで、仮眠を取りに潜伏場所へと踵を返すのだった。
「八人か」
 同じ頃、司は全てのちんぴらが廃屋から出て行くのを確認していた。捕りこぼしが出ては、後々やっかいだからだ。毎日同じ顔、同じ人数であるかまでは分からなかったが、とりあえず、よしとしようと、頷いた。

 事前に四神朱雀が聞き込んでいたおかげで、小屋の持ち主とは簡単に会う事が出来、事情を説明すれば、更地にしてほしいと願い出られる。もう、取り壊すつもりであった事と、子等が遊んで怪我をする事も、いつ何時悪意ある者に放火されるのも困るからと。小屋には藁が積んであるのだからと。不逞の輩の処分はお任せしますと、頭を下げられ、食事と仮の寝所を提供される。近所には、充分言い含めておきますからと、小屋と土地の持ち主はどちらかといえば、そちらが気になるようだった。うかつな場所を作って、近所に迷惑がかかってはと、溜息を吐いた。
 四方を生垣で囲まれてしまったのは、偶然の産物だったようである。もともとは、小屋の南に位置する長屋の地所であったのだが、表から小屋が丸見えなのはどうかと、主人が躑躅を植えたのが始まりだったという。裏からも出入り出来たらしいのだが、最近そこに家が建ち。小さな死に地が生まれたのだという。
「それにしても、許せませんわ」
 見事な銀髪をかき上げて、ヴェニー・ブリッド(eb5868)は穏やかに微笑んだ。秘密基地。何て素敵な言葉の響だろう。それは、子供にだけ許される聖域である。そこに土足で踏み込んだ輩は、きっちりとお仕置きをしなければと、また、くすりと笑った。

 その夜は、満月が照らす夜だった。
 ひとり。またひとりと、廃屋に集まるちんぴら達は、二十歳そこそこの風体の悪い若者達だった。
「火事です!」
 ジークリンデの声が夜の町に響き渡る。
 ご近所には、土地の持ち主が言い含めてあった為、大きな騒ぎにはならずに済んだ。その煙のおかげで、廃屋に入っていったちんぴら達は飛び出してきた。
 ずらりと並ぶ、冒険者達の姿に、ちんぴら達はぐうの音も出なかった。帯剣している者も居たには居たが、歴戦の冒険者達の姿に、および腰である。
「少々痛い目を見て貰う事になりますよー?」
 おだやかに微笑む井伊貴政(ea8384)が派手な音を立てて、震える日本刀を粉砕する。ぺたりと、座り込むちんぴらに容赦をする気はなかったが、無下に流血沙汰にするつもりも無かった。
「いっぺん死んでみなはる‥?」
 さらりと影が揺れ、逃げ出しかかったちんぴらを神楽龍影(ea4236)がそのたおやかな姿態から考えもつかない早業で、くるりと背負い投げた。女性と見まがい、くってかかろうとするちんぴらは、龍影の一撃を受け、再び地に伏した。
 次々と冒険者達にお縄にされる。
 司は少し気になる事があった。どたばたとする捕り物の最中、ひそりと、人気が無い場所で山南を呼び止める。
「山南はん、お互いこの事は組には内緒とゆう事でええんやろ?今は隊士の俺とちゃうとゆう事にしといてな。まぁ十一番隊は他の隊とちゃうからばれても問題なさそうやけどな」
 山南が否応の不確かな笑みを浮かべ頷くのを見て、問題は無いかと、司も頷く。
「率直に御聞き致します‥今の世をどう思うておられますか?」
 やはり、夜陰に紛れて、山南の袖を取るのは龍影である。市女笠の紗のかかった長い布の間から、素の顔が覗く。しかし、彼には、さて?という笑みしか答えは返らなかった。

 翌日、廃屋を点検する月花は、解体をする為の効果的な場所を見て、仲間に伝える。
「遊ぶ場所が‥なくなるですぅ‥何も‥悪い事‥してないのにっ‥」
「泣くな?泣く奴は遊んでやらんぞ?」
「うぇ」
「大丈夫だ。俺達は。だから、花綾が泣くな?」
 ぺたりと座り込み、ぽろぽろと泣き始める花綾の肩を叩くのは子供達だった。憮然とした表情で、壊されていくかつての秘密基地を見ている。
 膨れまくる子供たちを見て、文乃はからりと笑う。子供達に、安全な秘密基地になりそうな場所をと探したのだが、安全な場所は、秘密基地にはならない。普通の遊び場はたくさん見つかった。庭の隅を提供してくれる人もいれば、墓地の隅で遊べば良いと言う和尚も居た。だが、何処も、決定的に違うのは、大人の目が届く場所だという事である。誰もが、子供達の安全を願っている。だが、それは、子供達の秘密基地という遊び場からは離れていってしまうからだ。
「大人の都合ってもんもあるのよね」
 沢山の場所を暗に示すのだが、何処も、子等は興味を示さず、これはこれはと、文乃は腕を組みなおす。
 月花は、確かに、古びていた小屋を思い出して、真剣な顔で子供等ひとりひとりの顔を見た。
「私は大工なのだけど、あの小屋、いつ壊れてもおかしくなかったわ」
「この小屋も、持ち主が取り壊すまでの間なら、と開放してくれていたのだがな、無頼の輩に目を付けられたとなっては取り壊しを早めた方が良いだろうと言う話になってな」
 浄炎が、その巨躯を軽く屈めて子供等を諭す。小山のような浄炎の姿に、たじろぐ子供達だったが、その言葉の深さに口を一文字に引き結ぶ者あり、横を向く者あり。自分達が無理を言ったのは、どうやら重々承知の上だったようだ。
「ごめんねーお詫びって言うわけでも無いんだけど、食べてくれると嬉しいなー」
 固まってしまった子供達に、穏やかに笑いかけ、ふわりと子供の目線まで降りて屈みこんだ貴政から、甘い焼きたての菓子の香りが漂った。めったに口に出来ない、やわやわした菓子を手渡され、子供達は、目を丸くして、歓声を上げる。
「ありがとうや!秘密基地はひとつや無いしな!行くで、花綾」
「あ。待って!みんな早いですぅ〜!」
 子供達は馴染むのが早い。人形をしっかりと抱いた花綾はいつの間にやら混じっており、嬉しそうに皆と一緒に走り出した。
 ひとつでは無い。
 冒険者達は顔を見合わせた。
 びっちりとした京の町の何処に隙間があるのやら。それは、子供達が一番知っているのかもしれない。
 まだ何か起こりそうだった。