小さな嘘

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 81 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月11日〜03月14日

リプレイ公開日:2007年03月18日

●オープニング

「街道に小鬼が出るんやって?!」
 冒険者ギルドに駆け込んできたのは、年の頃なら十を数えるくらい。小さな少女である。
「ああ、そんな依頼が‥」
 ついさっき、街道を旅する商人達から持ち込まれた依頼である。退治しても、退治しても、何処からともなく、現れる小鬼は、出現場所を選ばず、中々にやっかいなものである。
「あたし、嘘ついたの!」
「はい?」
「今日、江戸から帰るって手紙が来たから、迎えに行ってって!」
「‥その場所は‥」
「本当は、お兄ちゃん、もう帰ってきてるの!嘘ついたの!」
 小鬼を退治して欲しいと願い出た商人達の中に、少女の兄の名もあった。
「きよちゃんが死んじゃうっ!」
 わっと、泣き崩れた少女によく話を聞けば、今春姉になる、きよという女性に、少しだけ意地悪をしたのだという。
 街道で待ちぼうけした頃に、迎えにいって、結婚のお祝いを渡すつもりだったのだと。
 ほんの少しの嘘。
 だが、それがひとりの女性の命を危険に晒している。
「大丈夫。今から行けば冒険者の脚なら充分間に合いますから」
「本当?」
「伊達に冒険者やってる訳じゃありませんよ?大丈夫。この依頼にきよさんの事を付け加えておきますから」
 お代は気にしないで下さいねと、受付は少女に笑いかけた。

 江戸へと続く道の途中に出た小鬼退治をお願いします。
 途中で出会う、きよに、許婚は戻っている事を教えてあげて下さい。


●今回の参加者

 eb3848 ラーズ・イスパル(36歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 eb5581 東天 旋風(34歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 eb5862 朝霧 霞(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb7343 マーヤ・ウィズ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

 花の香りがあちこちから香る。春風に乗って冷えた空気は穏やかなものに変わる。暖かな春の日差しを受けたギルドで、途方に暮れる少女の姿を放っておく事は出来ない。
 本当に、悪気の無い嘘だったのだろう。どうしていいかわからないで立ち竦む少女を見れば、きよという女性を大切に思っている事はすぐに見て取れる。頼りなげなその少女が笑えば、どれほど愛らしい事かしれない。なによりも笑顔を見てみたい。ラーズ・イスパル(eb3848)は、少女に笑顔を取り戻すべく立ち上がった。
「お任せください、私達はきよさんを怪我しないように助けます。ギルドで待っていてください」
 優雅に微笑むと、ラーズは、少女の頭を優しく撫ぜる。少しでも、心が軽くなるようにと。
 淡雪のように白い髪を揺らし、マーヤ・ウィズ(eb7343)は少女の目線まで屈み込むと、深い海の色した瞳を微笑ませた。
「大切な方なのですね、もう悪戯したら駄目ですわ」
 頷く少女の目は真っ赤になっていたが、優しく寄り添うようなラーズとマーヤの言葉と気持ちに、大分落ち着いてきたようだ。しゃくりあげる声も小さくおさまりつつある。
「大丈夫。きよさんは無事連れ戻す‥と、言うか、引き返させるわ」
 たまたま、時期が悪かったのだろう。何も、少女がほんの少し嘘をついた、この時に出てこなくても良いものをと、朝霧霞(eb5862)は少女に深く頷く。少女はそんな霞の落ち着いた雰囲気に、安心感を得たのか、息を吐き出して、こっくりと頷いた。
「先行出来る方はきよさんを早く見つけてくださいな、わたくしは移動手段がないのですが出来る限り急ぎますわ。お願いしますね」
 普通に行っても間に合うのだけれど、出来れば、早くきよを見つけてあげたいと、マーヤは仲間達を見回した。
「承った」
 マーヤの視線を受けると、東天旋風(eb5581)が頷いた。マーヤとは見知った仲である。同じ京でギルドに所属する彼等は、同じ依頼に入る事も多い。お互いの手の内は知れているのだろう。音を立てずにするりとギルドから外へと出る。仲間達より早くきよに会うべく身に着けた術をその身にかける。
 旋風が先に行ったからといって、油断は出来ない。そろそろ出立の時刻だ。
「では、行ってまいります」
 穏やかに微笑むと、ラーズはまた、少女の頭を撫ぜた。大丈夫だからという気持ちを込めて。

 江戸からの道は聞いている。合間合間に、江戸へ向かいそうな旅支度をする者へ、 愛馬鞍馬で駆ける霞が、今から小鬼討伐に行くから少し待つよう言い含める。多くても数日だからと。
「確認は、ギルドでとって下さいね」
 すらりと背の高い霞が、馬を駆る姿は、好印象で人目を引いた。ああ、彼女は冒険者なのかと、旅路へ向かう人々は、一端その足を止め、頷くとまた町へと戻って行く。
 そうして、霞は最初にきよを見つけた。
「きよさん?」
「‥はい?」
「この道を少し行った所で小鬼が出るの」
「小鬼っ!」
 ざあと、血の気が引いた顔に、霞は頷く。その背後に、旋風が追いついた。やわらかな物腰で、穏やかに微笑み、きよに少女の願いを話す。
「私達はギルドの依頼で此方の方に用があるのですが、少女から貴女に伝言を言付かりました。兄は先ほど帰ってきたそうなのですが、小鬼が街道に出ると聞いたらしく心配されていました。私は小鬼退治のついでに少女に願いもかなえる為に貴女を探していたのです。戻って少女を安心させてください」
「少女って‥」
「目を真っ赤に腫らして、ギルドで貴女を助けて欲しいと泣いていたわ」
「ああ!ああ、そうなのね?ありがとうございます。あの、本当に、あの人は無事なの?」
「ええ」
 得心がいったようなきよの顔を見ると、旋風はまた微笑んだ。
「では、私はこれにて」
「ギルドに行ってあげてね」
 霞も深く頷くと、馬を走らせて行った。

 先行する旋風と霞の後を追うように、マーヤとラーズは先を急ぐ。
 霞に言われて戻る者達や、小鬼を見て引き返す者は何人も居た。
「小鬼に会いませんでしたか?小鬼のいる場所とか、途中の茶屋の主さまの行くへをご存知の方はみえませんでしょうか?」
「すまないなぁ。小鬼見ただけで怖くて引き換えしてきてるから、あんた、退治に行ってくれるんか?気いつけてな?」
 小鬼の場所は、依頼書にあるように、茶屋付近としかわからず、主の姿も無かった。もう京の町へと戻っているのかもしれない。
 ラーズは、足早に京へと向かう人の中に、きよを見つける。
「きよさん」
「あなた方も、冒険者さん?」
 霞と旋風に会っていたきよは、すんなりと、外国の香りのするふたりの前に立ち止まる。ラーズは、こくりと頷いた。泣き腫らした目の少女の姿が浮かび、きよに、軽く優美な一礼をする。
「少女を大切にして上げてください。‥お願いがあります、あの子は小鬼が出るとは思っていなく、きよさんに彼女なりのお祝いをしたかった様です」
「ええ、わかります。あの子はそういう子ですから」
 きよは、ふたりにお礼を言うと、ギルドへと向かうからと、足早に去った。その後ろ姿を見て、マーヤもほうと、安堵の溜息を吐いた。
「よかった」

 先行する霞と旋風は、後から来るラーズとマーヤを待っていた。何しろ、人数が少ない。ひとりでは戦いは厳しいだろう。
 体力のある自分が盾になろうと、霞は十手と、微塵と呼ばれる小太刀で武装する。
 山間から、急に開けた場所に茶屋はあった。こちらからの姿は茶屋の小鬼達には見えにくい。江戸から来る方角は、開けているから、遠くから茶屋に小鬼が居る事を知り、早々に引き返す姿も見えて。
「表には六匹ほどですけれど、中までは見えにくいですね」
 旋風が、見える範囲で小鬼を確認し、地形を確認する。茶屋には防風林にか、数本の木が立っており、それが目隠しになるかもしれない。
「勝手口もありそうですわね」
 茶屋なのだから、表と裏の勝手口はあるだろうというマーヤの予想通り、表の広い茶屋の入り口と勝手口にわかれている、十畳ほどのちいさな茶屋であった。
 裏手には旋風が忍び、ふわりと淡く光を纏うと、ラーズはその姿を消して、茶屋へと歩いて行く。茶屋の中から戦闘に加わる為だ。それが、戦闘開始の合図となる。
 茶屋の外に六匹。中に四匹。
 ラーズは、小鬼に当たらないように忍び入る。なんとか中に入る事が出来た。
「大丈夫かしら」
 霞は、油断無くいつでも出れるように茶屋を窺う。表に出ている六匹しか、外で待機する冒険者達には見えていない。
 ラーズは、思いの他多い小鬼に、軽く溜息を吐く。しかし、ここが勝負の分かれ目である。
 不意に現れたラーズに、小鬼達は驚愕の叫び声を上げる。何事が起こったのかと、外の小鬼も茶屋の中を覗きに行く。その背後から霞とマーヤが走り込む。マーヤが淡く発光すると、表に出ている、一直線上の小鬼達が転倒する。
「っ!」
 小鬼達が驚いた時間と、マーヤの魔法で転倒する時間とで、ラーズは小鬼の群れから脱出する事が出来た。破邪の剣と呼ばれる両刃の直刀を抜き放って切りかかると、茶屋の中に居る小鬼達は、外に出る者、ラーズに向かい、棍棒を振り上げる者と、混乱を生じさせる。
 慌てて外に出てきた小鬼は、旋風の術が空に舞い上げる。その風圧に、近くで戦うラーズと霞がぎりぎりの位置で耐える。
「させないわ!」
 襲い掛かる小鬼の棍棒を十手で受け流し、霞はその手の刀で小鬼を打ち倒す。思ったよりも接近戦になってしまった。だが、倒せない相手では無い。
「そこ!」
 マーヤの魔法が、逃げようとする小鬼を転ばす。二度三度と打たれる魔法に、小鬼は成す術も無い。茶屋の中では、剣は振るい難い。ラーズはじりじりと茶屋の外へと移動する。旋風が鬼神ノ小柄と呼ばれる短刀で、吹き上げられて落ちてきた小鬼と刃を交わす。冒険者達の攻撃は小鬼達を押していく。だが、どうしても、茶屋を背にして逃亡する小鬼までは手が回らなかった。対応する数が多過ぎたのだ。マーヤの魔法も、かなり遠くまで小鬼を打つ。
 しかし。
「一・二匹はしょうがないですわ」
 肩で息をする霞が、手が届かない場所まで逃げ去った小鬼を見て呟いた。
 全部とはいかなかったが、ほぼ全ての小鬼は退治する事が出来た。
 小鬼達は、何時、何処に現れるか見当もつかない。たしかに、拠点があるのだろうけれど。後から後から現れるのだ。
 冒険者達が居なければ、小さな被害は拡大するばかりだろう。
 茶屋は、また再建すれば良い。街道の安全は、こうして護られたのだった。