飛び込むか、食べるか。それとも?
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:いずみ風花
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月17日〜07月21日
リプレイ公開日:2006年07月22日
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●オープニング
雨が上がれば、暑くなる。
夏の日差しを浴びて、海辺の村の子供達は岩場から海へと飛び込む事が日課になる。
しかし、今年の夏も、あれが出た。
ふよふよとした丸いでかい物体が、まだ夏は始まったばかりだというのに漂って来ているのだ。
半透明のその物体は、一匹だったが、この辺りに良く出るソレは人間の大人より大きい。
覗き込んでいた子が、うっかり飛び込み、海月の上に乗ってしまう。慌てて海から上がろうとしたが、足に触手が触れ、赤紫に腫れ上がってしまった。ここまでは、よくある夏の風景。
「俺は、アレの上に乗ったぜ!今までそんな奴、居ないだろ!」
だが、飛び込んだ子が、自慢をしたからさあ大変。大人達の目を盗んで、飛び込み、腫れを作る子供が続出した。海の子供は、捕まるようなヘマはしていないが、いつ大惨事になるかもしれない。
何より、その岩場は子供が飛び込むには高すぎる。
気が付いて、漂っていた巨大毒海月は、すぐに漁師達が片付けたが、何時また岩場の近くに現れるか分からない。たかが海月と言えど、刺される場所によっては死ぬ事もある。事実、過去に子供が死ぬ事故もあったらしい。
かといって、忙しい親達が、子供等を始終見張っているわけにはいかない。
「なんとか、あの岩場からの飛込みを辞めさせないとな。良い機会だ。あいつらに、お灸を据えて貰おう」
漁村の村長は、危険な岩場に子供達が近づかないよう躾けてもらう言付けを持たせて、若い衆を一人、冒険者ギルドへと走らせたのだった。
話を聞いた冒険者ギルドの受付は、子供の躾は親の仕事だろうにと眉を吊り上げたが、子守りでも仕事には違いないと思い直したか、この依頼書を壁に貼り付けた。
●リプレイ本文
●子供達との攻防〜初戦
「飛び込む事によって子供達の自慢合戦が行われているというのならば、それに代わるような遊びを提供できれば良いかな。毒海月のいない所での釣りや銛などは安全だし、釣った獲物の大きさを比べあえば十分に自慢合戦と成り得るだろう?」
ルカ・レッドロウ(ea0127)が村を見つけて呟いた。近くに居た御陰桜(eb4757)は、軽く肩をすくめて笑う。
「子供達に危険な岩場での飛び込みをやめさせる事ね。個人的には海で遊びたいだけなんだけどね‥」
小さな漁村が、突然にぎやかになる。冒険者の姿は珍しく、とても目立つ。大人はもとより、子供達がその姿に注目しない訳も無く。
ユリアル・カートライト(ea1249)の優しげな風貌に、小さな子達が集まってくる。
「お兄ちゃんは、どっから来たの?」
「江戸だよ」
わあわあとまくしたてる、小さな子達の興奮が収まるのをしばらく待たなくてはならなかったが、慣れてくると、ユリアルの落ち着いた声や話に、集中して聞く事が出来ていた。海月に関する注意は、本当に真剣に聞いていて、手ごたえは十分だったが、肝心の悪がき達は、何処に雲隠れしたのやら、話をしようにも、見つけることが出来なかった。
デュラン・ハイアット(ea0042)の、ひときわ目立つ姿を追って、数人の子供が後をつけていた。道端の野の花を摘みながらデュランは真摯な顔を作っていた。岩場に近づけない様にするには岩場を特別視させる事だと思うのだ。当然、気にしないでいたが、後をつけられているのは承知している。
祈りを捧げる様に岩場に花を置き、手を組むと、見るからに根性の座っていそうな男の子二人が、警戒しながらデュランに寄ってくる。それを、気配で確認すると、子供等に目を合わせないよう、語り始めた。
「あれはまだ私が駆け出しの冒険者だった頃の話だ‥」
話も佳境に入ると、男の子二人は、デュランの近くで、座り込んで聞いていた。
「‥そして、その仲間はこの岩場で命を落としたのさ。村の大人達は事情があってこの事は外に漏らさないようにしているがね‥」
軽く溜息をついて、首を左右に振るデュランの姿に、男の子二人は顔を見合わせた。
静月千歳(ea0063)は、村長と話し込んでいた。問題の岩場を『特別な場所』としてでっち上げる為だ。
「海の神様を祭る神聖な場所とか、水死者の霊を弔うための場所とか‥‥」
「そりゃかまわんが、多分そんなこっちゃあ、奴らには効かないと思うねぇ」
「え?」
「聞いとるし」
「ええええっ!」
冒険者は目立つのだ。村長に話をしにいった時点で、静月は悪がきの一人に見張られていた。脱兎のごとく走り去る少女の後姿に、村長に呼ばれて集まってきた大人達は、申し訳なさそうに静月を見て、頭を下げた。
夜十字信人(ea3094)は、特に誰に何を言うでもなく、むっつりと一人、岩場の近くで釣りをしていた。夜十字も、二人見張りがついていたのに気がついていたが、あえて見張られるままに釣りをする。そうして、日も暮れかかる頃、つり道具をしまいながら、誰に聞かせるともなく話始めた。夕闇迫る中の、低い話し声は、なんとなくおどろおどろしく。
「‥‥以前、毒海月の生息海域で座礁した船の生存者救出の任務に行ったことがあったのだが‥‥」
見張りの二人の男の子は、次第に、岩陰から身を乗り出し、夜十字に近寄っていく。あまり、正面に子供を捉えないように、夜十字は話し続けた。
「‥‥毒海月は船の中にまで進入していた。突入した俺たちがそこで見たのは‥‥」
こくりと、生唾を飲み込む音が聞こえて、夜十字は一息吐いた。
「ふむ。今日は日が悪いな。出直すか」
そう言うと、つり道具を持って、立ち上がる。ええ〜とか、うそ〜とかいう声を後ろに聞きながら。
●子供達との攻防〜終戦
翌日の朝早く、レンティス・シルハーノ(eb0370)は子供達が来る前に問題の崖で釣りをしていた。昨日は、さっぱり姿を見なかった、崖から飛び降り組みが、5人揃って現れた。
どの子も、強気な顔をしているが、先頭きって歩く少女の他は、どうも及び腰なのを見て取った。
少女は、釣りをしているレンティスに、ふん。と鼻で笑うと、お構い無しに準備運動を始めた。
その姿を見て、レンティスも、ふふん。と鼻で笑う。
「何よ!正体バレてるんだかんね!飛び込み辞めさせようって頼まれたんでしょ!」
「‥‥まだ子供だな」
「なんですって!」
「よそうよ。真ちゃん。毒海月は、危ないの本当だし」
「そうだよ。ここで誰か死んじゃってるのも、本当だろ?知らない怖いこともあるかもしれないじゃんか」
デュランと夜十字の話は、男の子達の心の何かに触れていたようだが、納得していないのはただ一人の女の子、真だった。
「あんた達は、騙されてるのよ!」
「海で本当に凄いのは如何に美味しい獲物を獲るかだぜ?飛び込みなんぞ度胸さえありゃ誰でも出来る。海の生き物との知恵比べに比べたら如何にもちゃちな競争だな」
まあ、見てなさいと、立ち上がったレンティスの大きさに、子供等は、あんぐりと口を開けた。そんな子達に、笑いかけると、準備運動の済んでいるレンティスは、軽い助走をつけて崖から飛び込んだ。
「レンティスさん、頑張って〜」
気がつけば、ほとんどの冒険者達が子供等の背後に居た。レンティスに声をかけるのは、御陰だ。静月が、何かを期待するかのように、夜十字を見る。
「信人さんは飛び込まないんですか?」
「千歳‥」
夜十字は、その表情を微妙に変えて、友人を見た。
ユリアルが、子供等に近づいて、その目線まで腰を屈めた。
「海という危険な場所で生きるのは、冒険者とも似ていると思う。だけど、本当にそうなのかな?モンスターと戦う時、冒険者は相手を知ることを重要視する‥そうでなければ命を落とすから。海も同じ、知らずに挑めば波に飲み込まれる‥」
柔らかく、けれども真剣な表情で話すユリアルの言葉は、ゆっくりと、子供達に染みて行くようだった。
崖下から声がするのを見れば、レンティスが、大きな縞鯛を手にしている。飛び込んだついでに取ってきたようだ。子供達は、歓声を上げる。
「もう、飛び込まない?」
とどめとばかりに格の違いを見せられ、子供等は、こくこくと頷いた。
静月が、筆記用具を取り出して、にっこりと笑った。
「一筆書いてもらいましょうか」
文字を書くのがままならない子達に、名前を教えながら、さらにとびきりの笑顔で続ける。
「言い忘れましたが、こう見えても私は筋の者の一家の相談役もしているので。約束を破ると怖いですよ?」
こくこくこくこく。振り子のように頷く子供等に、今度はやさしく笑いかけた。
「さ〜遊ぶわよ〜」
御陰の声が岩場に響いた。
●海辺の攻防?
子供等に案内された、魚が良く釣れ、遊ぶ為の砂浜もある小さな入り江には先客が居た。
「お姐さんは君達には真似できないくらい、大きい魚を釣るんですよ」
香月八雲(ea8432)が、自慢げに釣った獲物を見せる。
「崖から飛び込みなんて誰でも出来るけれど、大物を釣る事はよっぽど海に慣れた人にしか出来ないんです」
そう、嬉しそうに話す香月は、見るからに、海に不慣れそうな、人のよさげで。けれども、その獲物は、子供等がいつも釣る魚より、僅かに大きかった。先ほどの、レンティスが飛び込んで捕まえた、魚は、遥かに大きな獲物だった。
「よそ者に大きな顔されちゃたまんないわね!」
真が頬を膨らませると、しゅんとなっていた男の子達も息を吹き返す。
「俺もやるぞ!」
ルカが、真剣な顔をして釣り竿を持って走ってくる。
「負けないです」
「何?俺だって、負けないからな!」
子供と競争を始めたルカと香月を見ているのはユリアルだった。普段遊んでいる場所だといえども、目を配るのは必要だろう。
「そ〜れ」
小さな子達と、波と追いかけっこしているのは、御陰だ。静月と水を掛け合っている。
ざばん。と、波を蹴立てて顔を出したのは、ユリアルのペットのヒポカンプスである。その馬のような、魚のような美しい姿に子供達は歓声を上げて、海に飛び込んだ。
「くそ〜。俺の負けか?」
「よくやったよ、兄ちゃんもさ!」
「!お前達もたいしたものだ!」
釣りの量と大きさで、なんとなく負けてしまったルカは、本気で悔しそうだったが、小さなくせに、一人前の事をいう子等と、その健闘を称え合う。
ヒポカンプスに乗せてもらって、大はしゃぎの子供等の顔を見て、微笑むと、浜焼きの仕度をしている香月の方へと歩いていく。
刺身に浜焼き。
新鮮な海の幸は、子供等と、冒険者達のお腹を満たしていく。
「子供達は未来への宝だよ。そう、将来は私の役に立ってもらわねばならないからな」
不穏な事を言いながら、浜焼きを手にし、涼しい場所へと歩いていくのはデュランだった。豪奢なマントが夏の日差しにきらりと眩しかった。
●内緒の話
散々遊んで、食べて、海から上がった後の事。
香月と御陰は、気になっていた真と夕暮れの海辺で涼んでいた。
お湯を使わせてもらい、淡い色彩の紫陽花が、ほのかに浮き出る浴衣の御陰を、目を丸くして見る真の頭を撫ぜる。
「真ちゃんっはおしゃれとか興味ないのかしら?」
「‥そういうの‥考えた事無い‥」
昼間の元気さは何処へ行ったのやら。女性二人を交互に見て、溜息を吐く真の髪を、御陰は持っている櫛で丁寧に梳く。御陰から、ふわりと良い香りが、真に届く。
「真ちゃんは、好きな子居るの?」
香月が、顔を覗き込むと、真は真っ赤になった。
「誰?誰〜っ!」
「ほ〜ら。可愛い」
御陰は、満足そうに頷いた。櫛を入れて、綺麗に結われた顔の赤い真は、飛び込みなど、もうしないような、そんな雰囲気もあって。
平穏な波の音が入り江に響いていた。