頼んだから。秘密の抜け道。

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月09日〜04月12日

リプレイ公開日:2007年04月17日

●オープニング

「こないだはごめんやし」
「おう。ほんま、悪かったと思うとる」
 小さな男の子達が数人、細い路地で、身なりの良い侍を取り囲んでいた。山南啓助である。 
「さて?そうであってもらえたら嬉しいのですが」
 成りは小さくても、京都の子供たちはいっぱしの大人顔負けの話術を駆使する。取り囲んでのもってまわった謝罪の言葉の後には、何が出てくるのやら。
 それではこれでと立ち去ろうとする山南の袖をがっちり掴んで、満面の笑顔を浮かべて離さない。
「あんな、俺たちの秘密の抜け道、教えて欲しいと思わへん?」
「‥‥聞きましょう?」
「せやから好きや」
 笑う子供達の顔には悪意は無い。しかし、計算高さはみっちりとその笑顔の裏に張り付いており。それが透けて見えるのは子供故だが、いずれいっぱしの京都人になるに違いない。
「何や、布切れ見つけてん」
 差し出されたのは釘にひっかかったと見られる藍染の布。何処にでもある布だが、酒の匂いが染み込んでいた。
「それで‥」
「あっこの大通りから長屋裏通って、向うの大通りへすとんと抜ける抜け道や。ここから普通に歩くとぐるっと何軒も越えて回っていかなあかんやろ?抜け道通ると、半分の時間もかからへんのや。町外れまですぐやで!」
「大人が通れる道という事ですね」
「通れへんで。せやけど、小さい大人はんやったら、通れるやろ?」
「なるほど‥他に通じているとかは」
「あらへん。みっちり塀と塀の隙間や。猫とか犬とかと道譲り合いながらこっそり、すばやく抜けるんがかっこええやんか!せやさかい、頼んだで!山南はん!」
 後は任せた。宜しく頼む。また、そんな状況に持っていかれたのか、それを楽しんでいるのか。子供達が手を振りながら去っていくのを見て、しょうがありませんねと、山南は苦笑した。
 一区画分の時間短縮は見事なものだが、それを使うのが子供と猫と犬。大人が通れないのでは話しにならない。やはり、新撰組にこのまま持って行くのは失笑を買うだけだろう。
「暇‥ですしね」
 山南は、暖かくなってきた京の空を眺めると、冒険者ギルドへと足を向けるのだった。

 子供達の抜け道近辺を聞き込みし、必要とあれば、そこを夜に通過する者を捕縛します。

●今回の参加者

 ea4236 神楽 龍影(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb4021 白翼寺 花綾(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●抜け道
 穏やかな春の陽気に誘われて、ひらひらと白い蝶も舞うような昼下がり。とろりとした雰囲気の漂う京の町だったが、そんな穏やかな姿の裏には様々な顔がある。
「今度は抜け道ですかー。僕も昔を思い出しますよ〜」
 井伊貴政(ea8384)が柔和な顔で細い路地を覗き込むが、その路地は、本当に狭くて、通常の大人と呼ばれる体格では、半身も入らない。長身の貴政なら尚の事、顔を挟むのがやっとである。
「どら。うちやったら何とか行けそうか」
 ふわりと明るい茶の髪を春風に揺らし、将門雅(eb1645)が機敏な動きで路地を覗き込んだ。
 狭い。
「あかんかっ!」
なんとか抜けれるかと思ったのだが、小柄な雅をしても、入れそうに無い路地である。途中まではいけそうだが、壁になっているかのような場所を通過するには、さらに小さくなくてはならないだろう。
 のそりとした茶虎の猫が、集まる冒険者達を邪魔だと言わんばかりに見ると、長い尾を揺らして、ここは我道と言う足取りで進んで行く。
 ぼうと、淡く銀の光を纏わすと、白翼寺花綾(eb4021)はそっとその茶虎の猫に問いかける。
「この道に、こわい人が来るようになったのはいつですかっ?」
 ぴくりと耳を動かすと、面倒くさそうに茶虎の猫は、ぅなぁと鳴いた。
「怖か無いが、子供の他は最近だ」
「最近?」
「最近は最近だ」
 それ以上言う事は無いとばかりに、茶虎の猫は、ぐっと腰を屈めると、塀の上まで上手にデコボコを利用して飛び上がる。猫にとって、時間の感覚は大雑把なものだったようだ。
「うにゅ。怖い人が通るようになったのは、最近みたいなのですぅ〜」
 困った顔の花綾の頭をひとつ撫ぜると、明王院浄炎(eb2373)は花綾の忍犬かすがを見て、また頭を撫ぜた。馬や猫や犬ならば、街中何処でも居る。かすがも犬には違いないが、大きさは微妙だ。万が一を考えて、後ろでじっと見ている子供達へと軽く押しやる。
「みんなと仲良く遊んでおいで?」
「はいっ!うーにゅっ、久しぶりですぅ」
 大きな目をキラキラと輝かせ、花綾は久しぶりに会う友達の中へと駆けて行った。花綾。と、口々に呼ばわる子供達は、ひとつの元気の塊となって走って行く。
 すいませんね。と言う山南啓助に、浄炎は、保護者だからなと軽く笑い、酒場や酒屋へと聞き込みに消えて行った。
「抜け道を通れそーなくらい小柄で、付近が行動範囲の素行のよろしくない人、ですかね〜」
 小料理屋でも酒は出る。聞き込みに行って来ましょうと、貴政は穏やかに頷き浄炎の後を追う。
「まいど〜。万屋『将門屋』店主、将門雅や。兄貴が隊士やし新撰組とは何度かやり取りしよるから入り用ならゆうてな」
「これはどうも。先日はお兄さんにお世話になりました。よろしくお伝え下さい。‥そうですね‥何かの折があればぜひ?」
 雅は、明るく挨拶をする。そんな雅に山南は愛想よく返事をする。しかし、確たる言葉は返らなかった。けれども、せっかくなのだからと、雅は満面の笑顔でもう一度、『将門屋』を忘れんといてなと、笑った。
「こんな事件ばかり取り扱っておって、本職は宜しいので御座いますか?」
 碧い目を山南に据えて、神楽龍影(ea4236)は率直に疑問を口にする。それはそうだろう。今の京での新撰組の役割は小さいとは言えない。様々な問題も付随して起こっている。
「本職‥ですか。そうですね、これも私の職の内‥という所でしょうか?」
 穏やかに笑う山南の真意は測りかねる。世情に感心が無いなどとは、新撰組に居る限り、ありえはしないとも思うのだが、随分と暇そうにも見える。
 よろしくお願いしますとひとまず立ち去る山南の背を見ながら、本人がそれで良いというのなら、それで良いのだけれどと、言葉には出さず、龍影は形にならないもやもやを飲み込んだ。まずは、この依頼を成功させなくてはならない。

●酒を出す場所
 その抜け道の近辺には、酒場が数件あった。
 手近な酒場の暖簾をくぐり、浄炎はその巨躯を小さな椅子へと滑り込ませる。
 らっしゃいと、店主の声に冷や酒一本と、軽いつまみを注文する。日暮れの酒場は徐々に憩いを求めて集まる様々な職種の男達と女達で軽い喧騒が響く、独特の空間となる。怪しい客は居ないかと、目配りしつつ、自身も怪しまれないように、大きな手は小さな猪口に酒を注ぐ。春の宵には冷たい酒が喉に心地良い。酒場が暖まってきた頃合を見て、浄炎は店主に聞こえるように、ふうと溜息を吐く。
「心配事かい兄さん?」
「子供達の遊び場や抜け道を、子供ぐらいの背丈のちんぴらがうろついてるって聞いてなぁ」
 そんな浄炎の溜息を吐くような言葉に、座っただけで、決まりの酒とつまみが出てきていた、常連とおぼしき男が相槌を打つ。
「そりゃ心配やな」
「ああ、子供は子供でそういうのは親には言わないもんだしな」
「そりゃそうだ。ガキ共にゃ、ガキ共のきまり事のある世界があるし」
 浄炎は、店主にもう一本酒を頼むとその常連に勧めて、なおも溜息を吐く。
 常連の男は、眉間に指を当てて、何かを思い出すような仕草をする。浄炎は無言で、男に酒を注ぐ。ああ、悪いと、男は酒を飲み干すと、額をひとつはたいた。
 時刻は丑三つ時。
 酔っ払いが千鳥足で家路を急ぐか、京の見廻りの提灯が揺れるか、そんな人気の無い時間帯に、胸に酒を抱えた小さな姿が町外れへと走る姿を見たという。

●捕縛
 聞き込みの成果は上々だった。藍染の小柄な男は、他にふたりつるむ仲間がおり、町外れの小屋で夜毎酒を飲み、管を巻いている。どの男も、成人とはいいがたかったが、子供でも無く。時間帯までしっかりと聞き込めれば、あとはもう現行犯で捕まえるだけである。
 浄炎が罠を張り、貴政と抜け道の出口、町の外の方で固め、雅が町の方側でちいさなちんぴらがやって来るのをじっと待つ。万が一を考えて、龍影が油断無く辺りを巡回する。
 そうして何も知らずにやって来たちんぴらは、パラの青年だった。藍色の着物は、かぎ割きがぞんざいに縫われ。
 走り抜けようとする度に、酒はたぷんと揺れて、僅かにこぼれてちんぴらの着物を濡らし。
「これは大きな鼠ですねー。しかも酒臭いときてますよ〜?」
 抜け道を抜けた場所で、パラの青年はぴたりと足を止める。にこりと笑う貴政と、無言で立つ浄炎。状況は悪しと、踵を返してまた抜け道に戻ろうとする所に、浄炎の投網が絡みつき、あっという間にお縄になったのだった。

●子等
 町外れに抜け、ちんぴらがたむろしていたその場所は、小さな桜が満開だった。はらはらと散る桜の花弁が美しい。
 秘密基地に続き、抜け道。子供達に良い様に使われているようで、龍影は多少叱っておこうかと、強面を作る。鬼面を被って、ずいと前に出るが、子供を叱るには、充分な経験は無かったようで。どう言っていいやら口ごもる。
「これ、宜しう御座いますか‥その‥えぇと‥」
「綺麗な顔の兄ちゃん、似合わんで?」
「そ、そう、山南殿がぴしっと言い聞かせぬからに御座います!」
 そんな慌てふためいた龍影の言葉に、微笑む山南と、はやし立てる子等に、花綾が真剣な顔で詰め寄った。
「何故えらい人を困らせるですっ?」
 花綾の言葉に、子供達は顔を見合わせた。
「山南はんは別に困っとらへんやろ」
「だって‥」
 子供等にしてみれば、山南は、ただ山南なのだ。花綾の頭には、山南は新撰組という名前のえらい場所の人だという思い込みがある。大人に怒られるのは怖い事である。怖い組織の人ならば、きっと怒らせたらもっと怖い。そんな追い立てるような気持ちから発せられる言葉だったが、子供等に一笑されて戸惑う。心配無いと、頭を撫ぜられ、そんなものかと、花綾は大きな目をさらに丸くする。
「危ない事はしない。何かあったら僕達か山南さんに知らせる。これは守って欲しいものですねー」
「せやから、俺等、山南はん捕まえたんやんか」
 にっかりと笑う子等は、あっさりと山南に丸投げしている辺り、京という場所で生き抜く勘は十二分に働いているようである。済ました顔の子等を見て、貴政はやれやれと笑う。
「それもそーですね〜」
「どうしても、どうもならんようになったら大人の出番やしな。この抜け道で遊ぶくらいやったら問題ないやろ?なぁ?」
 山南が頷くのを見て、雅が笑って子等に軽く胸を張る。
「まぁうちやったらこの抜け道使わんでも屋根越えるんやけどな。屋根の上を通るんに猫と譲り合いするんもええで」
「げっ!何や姉ちゃん!ひっきょうやな!」
「ふふん。羨ましかったら、はよう大人になり!」
「なったるし!」
 子供達の限界を超えなければ、好きに遊んだら良いと雅は思うのだ。生死が絡むような危険は、山南を捕まえるあたり、充分回避はしているようなのだから。そんな子等を良い面構えだと、雅は笑う。
「兄ちゃん‥またええ匂いするな」
「あー。わかりました〜?」
 ひくりと鼻を鳴らす子に、貴政が懐から出したのは、桜餅。桜に染まった少しつぶのあるもちっとした皮を塩漬けの桜葉が包み、中にはこし餡がみっちり詰まっている。
 わあともきゃあとも言う歓声が上がり、子等は口々にお礼を言って桜餅をほおばる。
 こんな遊びもあるぞと、浄炎が合戦を模した複雑な遊びを、桜餅に舌鼓を打ちながら嬉しげに教えている。
「山南さんも如何ですかー?近しい方へのお土産分くらいなら余裕ありますー」
「近しいか‥いや、ひとついただきます」
 貴政の言葉に、ふと遠い顔をしたが、すぐにまたいつもの顔に戻ると、山南は皆と一緒に桜餅を楽しんで。
 おやと、貴政は思ったが、美味しく食べてもらえたらそれで良いと、口いっぱいにほおばる子等を見て微笑んだ。
 とりあえず、子等の秘密の抜け道は、秘密では無くなったが、冒険者達のおかげで、その存在を許される事になった。
 はらり。風に乗って、桜の花弁が舞う。
 京の町の桜はもう終わる。