舞扇

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月16日〜05月19日

リプレイ公開日:2007年05月24日

●オープニング

 源徳敗走。
 その知らせは京の町にも届いている。流れてくる冒険者の数も半端では無い。飄々と町を行く冒険者は、何処にも寄って立つ者では無い。
 ある時は町を守り、ある時はその意志により、参戦をしない。基本、弱い者の味方ではあるが、どの城主にも属さない姿は、時として憧憬の対象ともなる。
 京は不安に揺れている。

「なるべく華やかに、お願い出来ますやろか」
 神皇家主催の園遊会に是非冒険者の手が借りたいというのだ。
「神事に、混ざって大丈夫ですか?」
「にぎやかしに人手は多いほどええやないですか」
「ああ、なるほど」
「御前に出るいうほどの事やおへんし、神事いう事やおへん」
 下賀茂神社から上賀茂神社までの間を扇を翻しながら練り歩くとの事、意外に距離のある事なので、冒険者の体力を買われたようだ。
 不安な世情をこれで全てが払拭は出来ないかもしれない。
 けれども、町の人々が少しでも楽しい心持ちになれば、気運というものは上がるものなのだ。
 沈んでいれば、そのまま陰の気が満ちる事になる。それは、避けたい。
「綺麗所はんの姿、見せてもらえまへん?」
 扇はこちらで用意しますし、衣装もご用意致しますと、御所の祭りを盛り上げる為あちこち駆けずり回っている役人が幾分疲れた顔で微笑んだ。

●今回の参加者

 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7864 シャフルナーズ・ザグルール(30歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea9399 ミヒャエル・ヤクゾーン(51歳・♂・ジプシー・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3917 榊原 康貴(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb4021 白翼寺 花綾(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ec2195 本多 文那(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec2526 ツバメ・クレメント(26歳・♀・ファイター・シフール・ノルマン王国)
 ec2719 トゥ(36歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

白翼寺 涼哉(ea9502

●リプレイ本文

 扇舞を一目見ようと、京の町の人々が、その道筋に、ぽつりぽつりと現れる。華やかな催し事は、多いほうが良い。しかし、ざわめく界隈は、善良な町人ばかりでは無い。今、この国はその支配権を巡り、各国の思惑が千々に乱れ、腰に刀を差す、主君無き者、思想無き者が、ただ騒乱を助長する為に浮ついた行動へと走り易かった。
「催しはまだですが、何かお探しですか?」
 御神楽澄華(ea6526)と榊原康貴(eb3917)は、事前に舞扇の順路を下見も兼ねて、怪しい者が居ないか確認をしていた。人込みに紛れられては分からないが、警戒は無駄では無かった。ちらちらと道を見ながら小声で話す浪人風の男達は、声をかけられると、口ごもり、澄華の前から逃げていく。家の影などに油などの危険物は無いか、細かく調べた澄華と康貴は、この舞扇を仕切る役人に笑顔で迎えられ、その手に扇を持たされた。もうすぐ、出立の時刻が迫っていた。
 長い黒髪をさらりと揺らし、山本佳澄(eb1528)が戻った二人に、にこりと柔らかく微笑んだ。
「警戒も必要ですけれど‥」
 出発地点で、華やかにさんざめく冒険者達を眺めて、また微笑むと、軽く音を立てて扇を開き、その白魚のような手で、くるりと扇を翻した。
「楽しくしたいですね」
 ひらり、ひらり。
 あちこちで冒険者達は扇を広げて、春の空気を掻き回す。
 白翼寺花綾(eb4021)は、紅宝玉と藍宝玉のような大きな瞳をきらめかせる。
「白拍子踊るか?」
「桜色の白拍子様ってどんな感じですっ?」
 白翼寺涼哉に、薄く愛らしい化粧をしてもらい、花綾はきらびやかな冒険者達を眺めて、小さくはぅと溜息をつく。これは愛らしい巫女さんだ、持っているものでごめんなさいねと、役人が花綾に扇を手渡す。手渡されながらも花綾は同じような巫女姿の冒険者に心を奪われてぼうっとなる。
「はうぅ〜巫女様がいるですぅ〜」
 頴娃文乃(eb6553)が、そんな花綾を見て笑いながら、祝福の魔法をかける。
「こりゃまた、かわいいさんだねぇ」
 豊かな胸がゆさりと揺れて、巫女装束なのに、とても艶かしい。きゅっと口角が上がった笑みに、花綾は綺麗ですぅ〜と、心はまだ春の空に飛んでいる。
 シャフルナーズ・ザグルール(ea7864)が、しゃらしゃらと神楽鈴を鳴らし、役人に貸し出してもらった装束の裾を捌いている。
「着てみたかったのよね」
 白拍子の姿が良かったのだが、それでは裾が長すぎる。長いと行列には向かないから、下は袴を借りる事にして、とても嬉しそうだ。貸し出しの衣装は今回限りという条件で、役人達が用意した。多少の無理なら聞きますとも。と、同日時に行われるはずの歩射が中止になった為、行列を盛り上げたいという、気合の入った姿がみられる。
「こちら風の動きってどうやるのかしら」
「神事というほどの事でも無いですし、好きに動けば大丈夫でしょう」
 澄華は踊りはからっきしだ。だが、佳澄も言っていたように、楽しく盛り上げたい。はっきりとした大きな動作が多いが、剣の型をニ・三おさらいをする。ひらりと、七色にヴェールが美しく揺れた。
「それは、踊りみたいよ」
 踊るという事がとても好きなシャフルナーズは、澄華の流れるような所作に軽く手を打つ。踊りも武術も、その根は同じ体術なのかもしれない。
「かわいいー♪」
 山本の愛馬静香と、ツバメ・クレメント(ec2526)の幼い駿馬カザハナ、ミヒャエル・ヤクゾーン(ea9399)の優れた驢馬バブルスが、その声に顔を上げた。ひらひらと紅に染めた絹の衣装をなびかせて、本多文那(ec2195)は、冒険者達のペットを撫ぜたり触ったりして、満面の笑みを浮かべていた。自身も、重次という、ふわふわとした小さな塊を連れていたが、きらきらと光るそれは、きらびやかな冒険者達の中の効果のようにしか見えない。ひとりで街中で動いていれば、何事かと思われたかもしれないが、この中では比較的目立たなかった。同じように、問題があるようならば、棲家に置いて来ようと思っていた文乃の重張という不思議な雪玉も、小さく、やはりお祭りの効果の一端のように思われているようだ。ふさりとした尻尾を振るボーダーコリーの久虎は文那に撫ぜられ、悪い気はしていない。ひらひらと舞うように飛ぶ澄華の出雲は銀色の羽を閃かせて幻想的な空間を作る。康貴の子猫の忠世、ひよこの元忠も、あまりの愛らしさに触らせて貰いに文那は目を輝かせて寄って行く。シャフルナーズの猫アイーシャは、やれやれといった顔で姿をくらました。
 華麗なステップでくるりと回るミヒャエルは、依頼を出した役人に、しゅたっと手を出し、何度目かのターンを決める。
「オ〜、ボクがギルドに顔を出さないからって、わざわざボクの為に依頼を用意してくれたのかい。ボクってなんて罪なんだろう」
 もちろん、違う。
 だが、その卓抜した動きに、一目もニ目も置かなくてはならない事は、素人目にもわかった。複雑ではあるが、感心している役人の顔を、ミヒャエルは見ているのか見ていないのか。
「ボクのナイスでビューチホーな踊りで都の人達に笑顔の花を咲かせるのさ〜」
 指をパチンと鳴らすと、また、くるりとターンを決めた。
 そろそろ、出発のお時間ですと、別の役人が立ち並ぶ冒険者達に、笑顔を向けた。賀茂神社の下社の前から、上社の前まで。何処から人が出てきたのだろうかというぐらい、両脇には興味津々。わくわくと顔に書いた人々がいた。
 パチンパチンと指を鳴らしながら、聞きなれない軽快な歌を歌い、真っ先に列の前に躍り出たのはミヒャエルである。奇抜な声と共に滑るように後ろ向きのまままるで空を飛ぶかのような足捌きで登場した。流れるような動きは止まらず、あぜんとしている人々と仲間の視線をものともせず、くるりと反転すると、右手を高々と天へと突き出し、左手は股間に当てるかのようにして腰を突き出した。突き上げた手の上には辺りを照らす光玉。真昼間だった為、効果は微妙だったが、彼の奇抜な行動ですっかりその光玉は上手く祭りの効果扱いになったようだ。
「ポォォ〜〜ッ!」
 奇声に人々は目を見張る。満足気にミヒャエルは、しゅたっと薔薇を取り出すと、優美な手の動きで薔薇を口にくわえた。麗しき薔薇。女神の祝福を受けたとされる魔法のかかった一輪のこの薔薇の力を加えたミヒャエルは珍しいものの大好きな人々の喝采を浴びながらいつの間にか手にした扇を振りつつ、華麗に踊り、歩き出した。 
 トゥ(ec2719)は、きらきらしい冒険者にも目を見張るが、ナイスでビューチホーなミヒャエルには丸くなった目をさらに丸くして感心しきりであった。蝦夷から出てきたばかりのトゥにしてみれば、刺激的であった。だが、見てばかりもいられない。
「こっちには、いろいろ面白い事があるんだね」
 トゥが踊るのは、生まれた地の民族舞踊。そろえた手に扇を持ち、みんなの踊りを見ながら、ゆっくりと進む。かわいらしい姿が、人々の目を和ませる。
 その背に自身の身長とそう変わらない刀を括りつけ、彼女にとっては大きな扇を持ち、ツバメは、ミヒャエルの前をゆっくりと飛んでいた。真っ青な風のようなツバメの髪が春の風になびく。きらきらとした澄んだ青い瞳が油断無く辺りを窺う。少し重いかもと背中の刀を見る。武器は持たない方が良いかもしれないと言っていた人がいたようにも思うのだが、初依頼という事もあるし、何しろ、サムライは刀を手放さないものでは無いのかと思うのだ。サムライに憧れる彼女は、一生懸命扇を振り回す。振り回す度に、ふらふらっと自分が揺れるのは御愛嬌だ。空の色のような羽を羽ばたかせて舞扇の先触れをするツバメに、頑張れよと、街道脇から声と拍手が飛ぶ。
「頑張ります!」
 重いのも何のその。扇を振りつつ、笑顔で空を飛ぶ。
 目にも鮮やかなのはあちこちに顔を覗かせる木々の新緑。
 萌え出でたばかりの新芽の色は、鮮やかな緑。
 その緑を祝福する言霊の、鈴を鳴らしたかのような歌声が響く。花綾だった。花綾はこの季節が大好きだ。
 両の手に扇を持ち、ひらひらと揺らしながら、伸びやかに歌い歩く。その歌声に街道脇の人々は目元を綻ばせ、うっとりと聞き惚れる。
 笑顔で扇を振る文乃の後に、大胆に足を上げ、調子の上がってきたシャフルナーズがいた。珍しい踊りに人々は喝采を送る。豊かな髪を揺らして何度も見事な回転をして、背中を仰け反るように倒しながら袴に隠されたしなやかな足を空を蹴るように上げれば、ちらりと見える袴の奥。顔を赤くする少年に、艶やかな笑みを浮かべて片目を瞑れば、少年はますます顔を赤くし、シャフルナーズは嬉しげに裾をたくし上げるとくるりと回って踊って歩く。
 陽の光りのような鎧に、錦の陣羽織という、きらびやかな姿で、康貴は列の最後尾からいつでも飛び出せるように油断無く目を配りつつ扇を翻す。普段は強面の康貴だが、この列に並ぶのならば、愛想はいるだろうと、一生懸命笑いの形に顔を作る。なんとか成功してはいるらしい。康貴と佳澄と文那、先を行くツバメの武装は、華やかな舞扇の行列の中では微妙に目立つ。人々は武装はほとんど気にしていなかったが、街道脇でこそりと移動する者達にとっては、ありがたく無い武装だったようだ。武装している冒険者にちょっかいをかけるほどの胆力のある輩は幸いにして居なかったようであり、舞扇は無事に上社へとその舞踊りが進んで行く。
「大丈夫か」
「‥大丈夫‥じゃない‥かも‥」
 出発前に、仲間のペットを触りまくり、撫ぜまくり、かわいいを連発していた文那が、康貴に声をかけられ、幾分か疲れた顔を向けた。はしゃぎ過ぎたようである。
「あと少しですわ」
 佳澄がおっとりと微笑む。そう、もうすぐ舞扇の道は終わる。
「あたいの新生活はこれから始まるよ」
 皆の笑顔を見て、何て楽しいのだろうと、トゥは笑う。祭りは大成功だった。