雀と豚鬼戦士

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月16日〜05月21日

リプレイ公開日:2007年05月24日

●オープニング

 それはまるで黒雲のような。
「嘘だろ…」
 たとえ無数にいたとしても、その姿はとても愛らしいものであり。庭先に降りるのを微笑ましく見てもいる。そんな鳥が。
 愛らしい鳴き声は騒音と鳴り響く。
 異常発生。
 ここまでになるのはどうしてだったのか。
 竹林は、百は下らない雀の群れが占拠した。
 気持ち気が立っているのか、近づく人に集団で襲い掛かる。迂闊に山にも入れない。
 雀が竹が大きくしなるほど居る。
 その竹林は、毎年朝掘りの筍を振舞う旅館の持ち物であった。
 このままでは、筍の季節が終わってしまう。
「筍ひとつで立ち行かなくなるほどの物ではありませんが、季節ごと、楽しみにしているお客さんに申し訳ないんです」
 それはお気の毒にと、報告書を作成しはじめたギルドの受付は、次に持ち込まれた依頼を見て、おやと首を傾げた。
 その依頼は、件の雀駆除の依頼の場所であった。
「鬼がさ‥うろついて怖いんだ」
 先の戦いでは、東から鬼が攻め上るという話が飛んでいた。そのせいだろうか。鬼の姿が多いような気がする。
「山から鬼?」
「怖くてさ、よく見えなかったんだ」
 山の多い国柄である。どうしても、山裾に村は広がる。小さな村は、山と竹薮に囲まれており、竹薮の方面もかなり気になるらしい。なにしろ、畑の被害も馬鹿にならない。
 このまま雀が居座れば、秋の収穫時期が怖い。
 どうしようかと悩んでいるうちに鬼が来る。
 鬼が先だと、慌ててギルドに駆け込めば、雀は別口で退治依頼が出ているという。村人は胸を撫で下ろした。
「助かった‥」
「では、同じ依頼として、出しますね」
 鬼と雀。
 何やら童話めいた絵面であるが、実際に顔をあわせれば、どれも非常に怖いものである。

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0276 鷹城 空魔(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

室川 風太(eb3283

●リプレイ本文

 豚鬼戦士が迫っているというのに、まずは雀の大群で前哨戦‥ならぬ、雲霞のごとき雀をかいくぐろうと、冒険者達の意見は一致していた。各々が出来るだけ早く到着するためにと用意した足回りのおかげで、さして差も無く、予定よりも随分と早く目的の場所に辿り着く事が出来ていた。
 だが、軽く汗をかいている者は居た。夜十字信人(ea3094)だ。
「いつも、ありがと♪」
 御陰桜(eb4757)の背負い袋には並大抵の量ではきかない量がみっしりと入っていた。それだけならともかく、彼自身の荷物もかなりかさがある。馬に積むでも無いそれは、両肩にずしりと食い込んでいる。良い鍛錬になるのだろうか。屈託の無い桜の笑顔を向けられて、信人も軽く微笑む。
「いつもの事だしな」
「だから好きよ」
「荷物持ちだからか?」
「嫌ねぇ!」
 軽口を叩きながら、も視線は問題の竹薮から離さない。耳につく、雀の声は、数羽ならばきっと愛らしいものであったろう。だが、酷く耳障りなその鳴き声は、不自然に竹薮がしなるほどの数から聞こえてくるのだ。
 ここ数ヶ月手入れがされていないにしろ、長年に渡り人の手の入った竹薮には、馬も充分入れるほどの道が出来ていた。一気に駆け抜ければ、雀の襲撃は最小限に抑えられるだろう。
「一気に駆け抜けるか」
「そうですね、まあ、何とか‥なるでしょう」
 戦闘馬を駆る西中島導仁(ea2741)と瀬戸喪(ea0443)は、愛馬に雀避けの細工を施す。
 近づく冒険者達に、ぶぅんと、ひときわ高く雀の集団の鳴き声が上がる。数羽づつが、竹薮から出たり入ったりしているが、まるで唸る一塊の生き物のようだ。僅かな刺激で、この雀の大群が冒険者達に襲い掛かるのは間違いが無い。
「その前に何とかなっちゃえば良いのよね?」
 桜の周りに煙が渦を巻く。
 春花の術。かすかに香の匂いが漂い、桜が雀の群れに手をかざした。かなり修練を積んでいる桜の術は、唸るような雀の鳴き声を僅かに収縮させた。ざざざざっと、竹を揺るがす音が響き、数十もの雀が竹を伝って地に落ちていく。
「やったかしら?」
「まだっぽいぜ」
 鷹城空魔(ea0276)が、桜を庇うように前に出る。あまり竹薮に近づくのも空魔は避けたい。集団で襲ってくる雀に火遁を浴びせたいからだった。空魔の火遁は威力が弱い。だが、火遁は竹薮を燃す事にも繋がる。それは、空魔の本意では無いのだ。
「今のうちに抜けるぞ」
 信人が声を上げた。わらわらと飛んでくる雀に渋面を作る。向かってくるのならば、舌でも切ってやりたい所だが、本格的な雀退治は後回しである。
 桜の術により数を大幅に減らしたとはいえ、濁った鳴き声を上げて襲い来る雀を手で払ったり、盾で払ったりし、あまり気持ちの良いものではないが、避ける事の出来ないほど大量に竹薮に落ちた雀を踏み、細かい傷をいくつかつけながら、冒険者達は雀の群れる竹薮を通り抜ける事に成功した。

「ちょっと痛かったね」
 ぱたぱたと、あちこちを払いながら、ミリート・アーティア(ea6226)が抜けてきた雀の御宿を振り返る。依頼書にある通り、雀達は竹薮から出てくる事は無いようで。歌でも歌って来たかったけれど、そうも言ってはいられないみたいだねと、軽く溜息を吐く。
 春の風に金色の髪を撫ぜられながら、チップ・エイオータ(ea0061)は避難の終了している小さな村落と、その向うに連なる山を見た。室川風太がギルド近辺で探ってくれた所、依頼に寄せる新しい情報は無かったが、がんばれよとの激励を胸にしまう。
 冒険者達は、村に入り、問題の山へと向かう。山へ向かう途中に、ミリートは呼吸を感知する魔法を展開する。ひとつ。ふたつ。みっつ。集団になった大きな呼吸は、確かにこの村を目指している。その数十二。陽の光りを受けて明るく茶色に光る瞳が仲間に敵の数を告げる。
 早めに着いたおかげで、いきなり豚鬼戦士と出くわす事は避けれそうだった。
 森の中、山の中での戦闘は木々が邪魔をし、思うように武器は振るえない。冒険者達は豚鬼戦士が出てくるのをじっと待つ事になる。
 やがて、がさりと茂みをかきわける音がする。
 来る。
 暗い森の中から、ぬうと出てきた豚鬼戦士に向かい、導仁が愛馬獅皇吼烈の上から、啖呵を切った。
「やいやいやいやい!!手前ぇら、好き放題も大概にしろよ!!罪のない人々を恐怖におとしめやがって‥‥俺達が裁いてくれるわ!!」
 導仁の体からは淡い桜色した光が僅かに光る。彼の大声に、何体かの豚鬼戦士は気を引かれる。
「屍山血河の夜十字だ。‥黄泉路へ逝きたい奴は前へ出ろ‥」
 かちりと鯉口を切る信人は、その刀身に力を込めて、見えない刃を現れた豚鬼戦士に飛ばす。同じように、見えない刃は、山下剣清(ea6764)の刀からも唸りを上げて豚鬼戦士に傷を負わせる。
「気合入れておかないとねっ!」
 同じ頃、ミリートは努力と根性を上げる魔法を展開し、歴戦の冒険者達は戦闘の準備構えは抜かりなかった。
「さ〜て、どれだけなびいてくれるのかしら♪」
 桜の手からは、再び春花の術が放たれる。最初に顔を出した数体の豚鬼戦士は、その甘い香りの術に足元をぐらりと揺るがせる。
「いくよっ!」
 びょう。
 間髪入れずにチップの手から、続け様に矢が射掛けられる。ミリートも僅かに遅れるが、何本もの矢を豚鬼戦士に打ち込んだ。地を揺るがすような咆哮を上げ、冒険者達の待ち伏せに、豚鬼戦士達は戦槌を振り回し、突進をかける。
「前で戦うだけしか出来ないともいいますが」
 薄く笑うと、喪は薄緑の刀身を閃かせ、戦槌をかいくぐると、豚鬼戦士の腹にざっくりと一撃を入れる。とんでもない事だ。喪の動きは豚鬼戦士には捉え難い。ざくり、ざくりと、深く、浅く、戦槌をかわしながら、舞うように刃が踊る。
「っし!」
 空魔が何体もに増える。分身の術だ。実態の無い空魔が本体と同じ行動で、混戦中の豚鬼の目を霍乱する。
「いけいけ〜♪」
 混戦になれば、桜の術は味方まで巻き込む。それを熟知している彼女は、やるべき事はしたとばかりに、後方へと下がり、仲間の応援を始めた。愛らしいが凶悪な胸がゆさりと揺れる。
「っ!逃げられっぜっ!」
 龍叱爪を振るいつつ、混戦の最中に居た空魔は、山際の豚鬼戦士数体が、分が悪いとばかりに踵を返すのを捕らえる。滑るように足を運ぶ喪が、逃げる豚鬼の背後から切りつけその足を止めた。的確に矢を射るために移動していたチップが、そこに追いつく。
「これでサヨナラ!Bye-byeだよ!!」
 ふらつく豚鬼戦士をミリートの矢が射抜く。
 豚鬼戦士にとっては運が悪かった。十二もの数でやってきたのに、そこに待ち構えていた冒険者達の連携の前には数が足らなかったとしか言えなかったのだった。圧勝であった。
 
「で、雀だよね」
 チップはまだ沢山いる雀を見て溜息を吐き、剣清も腕を組んで見上げる。
 竹薮に残る雀は半数以下だった。とりあえず、地に落ちた雀を落穂拾いよろしく、回収し、手持ちの網の中に閉じ込める。その間にも、地味に襲ってくる雀を、ちまちまと冒険者達は打ったり、術にかけたり、罠をしかけたり。実に地道に退治していった。
 何時終わるかもしれないこの攻防戦に、チップが、何匹目かの雀を捕まえて、仲間達を見回した。水を用意すれば、余程の事は無いと思うのだ。
「燻そうか」
「火を使うのはどうでしょう?筍に影響が無いとはいえないと思いますが」
「おいらもそう思うよ。でも、燻すぐらいなら大丈夫じゃないかな」
 喪の懸念は皆の懸念でもあった。火は最後の手段にしたかったのだ。その時、ふいに雀の攻撃が止んだ。
 残った僅かな雀達は、憑き物が落ちたかのように、散り散りに四方に飛んでいく。一定数が減った為、興奮状態が解除されたのだとは、冒険者達には知る術はなかったが、とにかく、雀は竹薮から居なくなった。
「何だったんだろうなぁ」
 空魔が飛び散る雀を見ながら、呟いた。豚鬼が凶暴なのはわかるけど、雀もだったなんてと。
「良いじゃない?‥それよりも‥」
 ぱあんと、空魔の背中を叩くと、桜は静かになった竹林を見回して、笑みを浮かべた。この時期の筍の美味しさは他に変えがたいモノがあるのだ。
「美味しい筍食べたいの、オ・ネ・ガ・イ♪」
 竹薮の確認にやってきていた旅館の主人は、桜の鮮やかなおねがいに、嫌は無く。
「これ、稲荷神社の参道とかの店に売っぱらえば、結構お金になるかもしれないぞ」
「あ、そりゃ良いですね、旦那」
 捕獲されたままの雀を見て、導仁は徐々に戻りつつある村人の元へと雀を運ぶ。獣肉を食べる者はあまり多くは無いが、居ないわけでも無い。どうやら導仁は、食べれそうなものは、捨てては置けない性分なのかもしれない。
 おぼつかない手で、雀の下ごしらえを手伝う、見た目は立派な武家の導仁を、村人達は、目を丸くし、途中からはとても親しみを込めて、声をかけつつ、みんなで雀をこんがりと焼く事に成功した。
 村の別の場所では、旅館の主人が少し大きく成り過ぎてはいるが、掘ったばかりの筍を、炊き上げている。流石に朝掘りとはいかないが、これはこれで、非常に美味しい。筍は時間が勝負。半日もおけば、見る間に育ってしまうのだから。
 木の芽を散らした筍ご飯に、筍の山菜含め煮などを冒険者達は舌鼓を打ってご相伴に預かる事となった。
「美味しい〜っ♪」
 桜が、幸せそうに声を上げる。
「旨いもんだな‥雀が美味いのは、米食って適度に太った秋頃だと言うが」
 食べる物は、雀まで、きっちり味見をしている信人は、美味しそうに食べる桜を見て、嬉しげに目を細める
 こうして来てくれる人が居るから、安心はしてるんですと、村人も旅館の主人も笑うのだった。
「依頼であれば僕は何だってやりますけどね」
 喪がにこりと少女のような笑顔を返した。
 そう、動乱収まらないこの時節だが、国情に関係なく、庶民は冒険者を待っている。