暑い日はうなぎでしょう!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:いずみ風花

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 64 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月05日〜08月08日

リプレイ公開日:2006年08月11日

●オープニング

 川に棲むうなぎは、庶民のちょっとしたご馳走である。
 それが、夏場となれば、炭火で炙ったうなぎの香りはたまらない。
 夏場には、そんな良い匂いを漂わせながら、うなぎ屋台を引いてくる末吉が、今年の夏は現れない。
 さてどうしたものかと、見に行けば、どうやらうなぎを取る川に入ろうとすると、酷く痺れるのだという。
「俺は痺れたって、仕掛けを取りに行きてぇが‥」
 たくさんの仕掛けは沈めたままで、その中にかかっているであろう、うなぎが取りたい。けれども、川辺に近寄り、足を水辺に沈ませると、何かが気配を察知して電撃がやってくるのだ。
 憮然とした表情の末吉を、この春もらったばかりの嫁が睨んだ。痺れるだけならともかく、大事な亭主がどうにかなったらたまらない。
「末吉さんのうなぎが食べれないのは業腹だ。どうだい、ひとつ、うなぎ退治を願い出ちゃあ」
「そうだな‥あんまりお足は出せないが、退治してくれたら、自慢のうなぎの白焼き、ご馳走するぜ」

●今回の参加者

 ea1224 東儀 綺羅(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3526 アルフレッド・ラグナーソン(33歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb5002 レラ(25歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb5093 アトゥイチカプ(27歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5463 朱 鈴麗(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb5532 牧杜 理緒(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb5845 柊 葉月(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

クリステル・シャルダン(eb3862

●リプレイ本文

●そこにはやはり、食欲があった
 普段は食べられないうなぎを、ごちそうしてもらえる為に、がんばろうと思う牧杜理緒(eb5532)が微笑みながら、お辞儀をする。
「牧杜理緒よ、よろしくね。末吉さんはじめまして、今回はよろしくね。江戸のみんなの為、よりも、自分のお腹の為にがんばりたいかな」
「髪結の刈萱菫と申しますわ。よろしくお願いしますわね」
 綺麗に髪を結った刈萱菫(eb5761)がにこりと笑う。
「あたしは東儀綺羅、よろしくな。美味しい白焼きを食べること‥じゃなかった、うなぎを無事引き上げるんだよな?」
 東儀綺羅(ea1224)も、つい心に占めた食欲をぽろりとこぼす。だが、それはどの冒険者達にとっても共通する心情で。
「うなぎと言えば、ジャパンの方々の夏の楽しみですね。これが食べられないのは、無念の事でしょう、微力ながらお力になりたく手助けに参りました」
 アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)が深い藍の左目をくゆらせて微笑む。
「うなぎ‥‥ですか?地元ではあまり捕まえたことがありませんので、食べたことないんですよ‥‥ですから、今回初めて食べることになりますが‥‥」
 小さなレラ(eb5002)が、長い黒髪をさらさらと揺らして、頷いている。この上なく、和菓子の好きな柊葉月(eb5845)も、真剣な表情を浮かべた。
「私は甘党なれど、夏はやはりうなぎは食べたいわけで‥」
「うなぎは大の好物であるし、美味と評判の店の鰻なら是非食べてみたいものじゃ」
 愛馬を預けて急いでやってくる朱鈴麗(eb5463)。これで、うなぎ取りの為に集まった冒険者の全てが顔を合わす事になった。朱は、牧杜に通訳してもらいながら依頼の参加を告げる。
「何で痺れるのかよくわからねぇが、ひとつ宜しく頼んまさぁ!」
 電撃の原因を突き止めてもらえれば、豊かな川からうなぎはいくらでも取れるだろう。末吉は、冒険者の面々を見渡すと笑顔を返した。

●痺れる川の原因は
「水に入ると痺れると言う事ですわよね。と言う事は、水に入らずに仕掛けを取れば痺れませんわよね」
「でも、仕掛けを上げようとすれば水の中にある物を上げなくてはいけないので痺れてしまう‥‥厄介ですね」
 刈萱が今回の目的と、うなぎの収穫の方法を確認し、レラがそれに頷いた。
「筒状の仕掛けで鰻を捕っていらっしゃるの?」
 刈萱が、仕掛けの形の確認もした。末吉は、ひとつ頷いた。
「竹竿の下の方に、縄で筒の仕掛けが川底に着くように括ってある」
「釣り竿か何かで仕掛けを釣り上げるとか言う方法はいかがでしょうか? もしくは投網か何かで一気に引き上げるとか‥‥一応私も釣りの道具とかを購入してみましたけど‥‥」
「仕掛けひとつくらいなら、浮かせるのは出来るかも知れねぇなぁ。でも、網は駄目だ。竹竿があるから、妙な具合にひっかかる」
 川底で、どのように仕掛けが転がっているのかも見えないのだから、仕方が無かった。
「棒の先に縄を引っ掛けて仕掛けを引き上げられる様にした道具を作ってもらうというのはどうかしら?」
 仕掛けを取るための仕掛けを、刈萱が提案するが、それを使うならば、結局船に乗らなくてはならず、船に乗れば、道具など無くても引き上げる事は簡単なのだと、末吉が笑った。
 東儀が、末吉の仕掛けを詳しく聞き、場合によっては、壊して良いかと訪ねると、末吉は困った顔をした。
 竹筒の仕掛けも末吉が作っている、特別大きな自作の品だという。ひとつ作るのに、三日ほどかかるという。うなぎを収穫出来ない日数が、もう随分過ぎている。この上収穫が減るのは、仕方が無いといえ、避けたほうが良さそうであった。
「仕掛けを入れる、木の箱とかありますか?」
 牧杜が、念には念を入れて運んだ方がよさそうだと、箱の有無を聞く。
「仕掛けは三尺余ってとこだ。仕掛け自体で、箱ほどの強度があるし、竹ごと引いて浅瀬に来れるさ。その方が重くない」
「わかりました。痺れる原因‥‥どうも、雷電うなぎらしいんです。そうして、どうやら、それが仕掛けのひとつにかかっているのでは無いかなと、思うんです」
 東儀は、あたりをつけていた話を末吉に告げた。

●雷電うなぎを探せ
 雷電うなぎとわかれば、対策は立てやすい。水に入らなければ良いのだ。
 船に乗るまで、一度二度ほど電撃がやってきたが、それをどうにか撥ね退けると、数人が船に乗った。牧杜が、慎重に船の櫂を取る。
「あ。ありました」
 竹に墨で書かれた上に、漆で消えないように補強してある竹が末吉の竹だった。
 一方、慎重に水に足を乗せ、船に伴走するのは、柊である。覚えたての水走りの術なのだが、きちんと水上を歩けている。どうやら、やはり雷電うなぎは水の中に入らなければ、そう怖いものではなさそうである。
「どれに入っているのかがわかれば、良いのだけど‥‥電気が光って見えるとか」
 東儀が、水底を覗き込む。牧杜は、刈萱が引き寄せる竹竿の下から、浮かんでくる仕掛けをじっと観察する。
「重そうな仕掛けに要注意かな」
「ああそのようだな」
 柊が、電気を通さないよう布を何重にも巻いた手で、刈萱を助ける。
 そうして、岸に寄せる船から、柊は竹を受け取り、陸に上がった。竹竿の下の方に括られている縄には、長さのまちまちな縄が、仕掛けがかさならないように繋いであった。一番手前の仕掛けを、柊が開けると、六匹の鰻が草むらに躍り出た。
 アルフレッドと朱が淡く白い光につつまれると、うなぎは、丁寧にその光に絡めとられていった。
「水の中で無い限りは、大丈夫と思いますけど‥‥」
 レラが、うなぎを検分するが、どのうなぎも変わらないようである。
「では、これと同じようなうなぎには、魔法はかけなくても良さそうですね?」
 どれだけのうなぎが出てくるかわからない。魔力は温存しておいた方が良いと、アルフレッドは、大人しくなったうなぎをよく調べ、預かった樽の中にそっと入れた。
「ぬるぬるしますねっ」
 レラも朱も、草むらに散らばったうなぎを手にして樽に向かう。動かないうなぎは、多少の悲鳴と共に、樽に収められた。
「次開けますよ」
 柊が、次を開けようとした時、一番長い縄で括られていた仕掛けが、大きく跳ねた。心持ち、放電音がしないでも無い。
 次の竹竿を引き寄せに向かう船に乗っていた何人かが、川に下りて駆け寄った。水しぶきが上がるが、もう、電撃はやって来ない。
「その仕掛けか‥」
 朱が、溜息を吐く。
「雷電うなぎは巨大らしいから!」
 東儀が、仕掛けに近寄る柊に向かって叫ぶ。皆の顔を見渡し、頷くと、柊は小刻みに震える仕掛けの蓋を開けた。

●いただきます
 船に乗った者達は、どうしても川に入らなくてはならず、朱が、越後屋手拭いを貸していた。
「濡れたままでは風邪をひいてしまうからのう。夏だからといって甘く見ると後悔するぞ?」
 夏風邪をひいたことでもあるのだろうか。真剣な顔で、手渡す朱の通訳をしつつ、牧杜も漏れなく手拭を貸してもらって微笑んだ。
 さて、問題の雷電うなぎは、冒険者達が想像するほどの大きなものでは無かったが、やはり、普通のうなぎとは違い、その太さは見たことも無かった。
 無事、全部のうなぎを収穫して帰ると、末吉は満面の笑みで冒険者達を屋台に座らせ、屋台からはみ出る者は、備え付けの椅子やらを出して、ちょっとした宴会が始まった。
 炊き出しのご飯の準備や、お椀やら箸やらをそろえている、アルフレッドは、その育ちのよさそうな風貌とは裏腹に、まめに裏方を手伝っている。
「ふむ、痺れうなぎ‥‥美味いのか??」
 東儀がうなぎを眺めて呟くと、牧杜が朱の言葉を伝え、微笑んだ。
「せっかくじゃから雷電うなぎも是非調理しておくれ。食べ比べをしてみたいのじゃ」
「できれば、雷電うなぎも捌いてみてほしいな、美味しいかどうかはわからないけど」
 牧杜も、食べてみたかったのだ。レラも、炭火の上に落ちる油の香りに、気もそぞろで、落ち着かず、きらきらと大きな青い瞳を輝かせて覗き込んでいる。
「さて‥‥うなぎの料理とは一体どのような物なんでしょうかねえ聞いた話によりますと、魚とは思えない脂ののった美味しいお魚だと聞きましたが‥‥」
「お江戸の料理と言えば、うなぎですわよね。豆州にまで聞こえている評判、一度は食べてみたいですわ」
 刈萱が、ほつれた髪を撫でつけて微笑む。
「たくさん食べてくださいね!」
 とんとんとんと、目の前の皿に並べられる、じゅわじゅわと油の浮いた、うなぎの白焼きが二種類。どの皿にも、倍はあろうかという大きな白焼きが一切れと、丸々一匹分のうなぎが、どうだ!といわんばかりに乗っていた。ほかほかご飯も用意され。
「ちなみに‥山葵は付けてくれるよな?白焼きに山葵がないと興ざめだからなぁ〜」
 東儀が、嬉しそうに声を上げた。青い目が僅かに細められ、末吉の出す薬味と醤油に笑顔で頷いた。
「美味しいです」
 ぽたりと落ちる、うなぎの油に、柊も、嬉しそうに舌鼓を打つ。みんなで食べるのを楽しみにしていたかいがあったというもので。
「こ!これがうなぎですかっ!こんな美味しいものがあるのですねっ!」
 うなぎを一口食べて、幸せに浸っているのは、アルフレッドである。思いつく限りの美辞麗句を並べて、末吉に感動を伝えていた。末吉も、美味しそうに食べる冒険者達に、とても嬉しそうだ。
「うむ、大変美味じゃ。さすがに評判となるだけの事はあるのう。雷電うなぎの方は普通のうなぎよりも大味ではあるが、身がしまっていて悪くない」
 ふと気がつくと、朱が、もくもくとうなぎを平らげていた。綺麗な箸使いで、ゆったりと食べていたはずなのに、誰よりも早く完食していて、末吉と、他の冒険者の目を丸くさせた。視線に気がつくと、朱は、満足げに微笑んだ。
「ご馳走様じゃ」