【星宵】降るような星に

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月03日〜07月08日

リプレイ公開日:2007年07月07日

●オープニング

 梅雨が明けると、まるで拭き掃除でもされたかのように鮮明な星空が広がる。
 夜空に浮かぶあまたの星。
 目を凝らせば、千も万も見えてくるかのような錯覚に陥る。

「あいつは、この時期が好きだった」
 身なりの良い若い侍が、ギルドへと顔を出した。
 その場所は、清流が横を流れる竹林の近くだという。
 辺鄙な場所なのだが、そこは先の戦場のひとつだった。
「本当は、にぎやかなのが好きな奴だったから」
 そこで、宴を張って欲しいのだという。家の者や同僚には知られたく無いし、他にツテが無いのだと。
「誰でも構わないというものでも無い」
 町で暮らす人々を守るのが仕事の武士である。
 同じ痛みを知る者に、賑やかに送ってほしいのだと言う。
「貴方方は、ご自身が一国の主だと思うから。一人の戦人としても、尊敬に足る方々だと思うから」
 大柄なその侍は、深い笑みを浮かべて、軽く頭を下げた。人知れず鬼籍に旅立った、忍者の幼馴染を弔いたいと。

 そこは、すでに近隣の者達によって片付けられていた。
 山間の小さな平地。岩場に雑草が早々と生い茂り、瞬く間に戦跡を消していた。
 清流の音が聞こえ、渡る風が笹擦れの音を響かせて。

 貴方の願いはなんだったのか。
 貴方は何を祈るのか。

 降るような星に願いと祈りを託す、そんな夜に。

●今回の参加者

 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5979 大宗院 真莉(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5980 大宗院 謙(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec0972 雲隠れ 蛍(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

甲賀 銀蔵(ea8595)/ 甲賀 銀子(eb1804

●リプレイ本文

●それは好意に他ならなくて
 冒険者ギルドで侍の示した依頼に手を上げた冒険者に女性を見つけると、大宗院謙(ea5980)はすかさず側に寄って行く。これはもう、彼の身についた生業というか習性というか、そうしなくては彼では無いというか。すすすと近寄る足さばきはお見事としか言いようが無い。
「どうだい、一緒に行動しないか」
「はい?それはもう、同じ依頼ですから」
 声をかけられた、雲隠れ蛍(ec0972)は大きな目を見張る。ほわんと、答える仕草が可愛らしく、色っぽい。愛犬二匹が何事かとふたりを仰ぎ見た。
 もちろん、謙の言う一緒に行動しないかの言葉の裏には、様々な事が隠れているのかもしれないが、生憎蛍には通じていない。そうして、当然のように、ひんやりとした空気が謙に迫る。それはもうお約束なので、ギルドの受付や見知った冒険者達は見て見ぬ振りを決め込んでいる。
「いい加減にしてください」
 ぴりりとした歯切れの良い言葉と共に謙を襲うのは、雪礫。九十度扇。町中を考慮して射程約五丈。目視謙の他に障害物無し。
 たおやかな物腰で、穏やかな微笑を浮かべ、容赦の無い攻撃を仕掛けたのは、謙の妻。大宗院真莉(ea5979)である。
「あら、あらあらあら〜?」
 ギルドの受付に引っ張られて攻撃範囲から逃れていた蛍が、さらに大きく目を見開いて雪礫にダウンしている謙と真莉を見比べて、介抱して良いのか、戸惑っていると、あちこちから、外でやれ〜と、軽い笑いが漏れ聞こえ、放っておいて良いのかと、状況把握すると、ひとり頷き、警戒する愛犬達を撫ぜた。夫婦喧嘩は犬も食わないのだ。

 真莉の愛の雪礫を払いのけ、多少のダメージは食らいつつ、謙は依頼人に会いに出かけた。にぎやかなのが好きな友という事がひっかかっていたからだ。
 ギルドからという事で通される屋敷はかなり大きく、依頼人は、若と呼ばれていた。これは、上下に厳しい家臣が居るなら、黙ってはいないだろう。
 ここでは何ですからと屋内を気にする風で、散歩に誘われ、町外れの川縁をぞろりと歩く事となる。じんわりと暑い日中だが、日が暮れると僅かに涼しい風が吹く。して、どのような?と問う侍に、謙は繁華街関係の女性を連れてこようかと考えている事を話した。
「心配だろうが向こうもその手の専門家だから、安心していい」
「配慮、感謝する。だが‥」
「だが?」
 謙は繁華街の女性達をその道の玄人と考えている。だが、侍にはそう理解する男は少ない。この侍もそうかと、僅かに緊張したが、そうでは無かった。
「かの人達を移動させるとなると、人の目に付き易い‥。それに、かの人達を軽んじるわけでは無いが、お願いしたのは、冒険者の方々だ。理由は、依頼書に書いた通りでな‥」
「そうか」
「すまない。これは、わたしの我侭なのだ」
 より、にぎやかにしてくれようとしたのだろう?と、深い笑みを履いた侍に、謙も同じ深い笑みを浮かべて頷いた。飄々としてはいるが、謙とて侍。その矜持も十二分に知っている。
「良い星見となると良いな」
 雨も切れ、星を見るには良い天気となりそうであった。

●星の空を仰ぎ見て
 侍の指定した場所は、広くも無く、狭くも無い山間の開けた空間だった。甲賀銀蔵と甲賀銀子が事前にその場所に敷物を敷いたり、余計な岩や灌木をどけて、こざっぱりとした場所を作り上げていた。
 昼の名残の陽が暮れ、青い空が七色の残光を残し藍色に染め変えられる頃、空には降るような星が瞬いていた。
 配膳を手伝うのはリフィーティア・レリス(ea4927)だ。流れる滝のような銀髪がさらりと揺れる。レティスと呼ばれる、毛並みの良い狐とティルナと呼ばれる燐光を連れて歩く様は、御伽噺から抜け出た少女のようだが、れっきとした男性である。
「何処に運べばいいかな?」
「そうですわね、この辺りで‥」
 真莉の疾風が松之屋から仕出しの料理を運んでくる。簡単な弁当ではあるが、細かく区切られた折りの中には、味も種類も様々なつまみと、枝豆の塩ご飯が入っている。酒なども少々用意出来。
「綺麗なお花などで、雰囲気を明るくしたいですね。敷物などにも凝った方がいいですかね」
「お花、手折ってきました」
 華美に成り過ぎずに、季節の彩りがわかるようにと、真莉は心を砕く。野外である為、屋内のような装飾は不要だろうと、折りを並べたさらに真ん中に、蛍が摘んできた紫と白の菖蒲を無造作に一つに括り、置いてみる。真っ直ぐ筋の通った葉が、侍らしい。と頷いた。
 何か手伝おうと動こうとする侍を押し止め、謙はまずは一献と、酒を注ぐ。
「規則を守ったり、強かったりするだけでは人はついて来ない。人を惹きつけられる侍になれ。それが貴殿には足りない。友人も貴殿の成長をきっと期待しているであろう」
「そうであろうな。うむ、そうであろうと思う」
 からりと笑いながら、けれども真剣に話す謙に、侍はこくりと頷く。そんな侍を見て、謙は笑うと、とても楽しそうな顔をして、立ち上がり。蛍の側に行こうとするが、当然阻止される。
「まぁ、私は女性限定だがな」
「ここで魔法は勘弁してあげます」
 と、真莉の手から凍天の小太刀と呼ばれる、天すらも凍えさせると思えるほど冷たい藍色に光る刀身を持つ刃が飛んだのを、侍は目を丸くし、仲が良いが、刀はしまってくれと、笑い出した。こほんと咳払いすると、真莉は、母の笑顔を侍に向けた。
「ご友人は貴方の幸せを願っていると思いますよ。ですから、貴方はご友人の分まで立派に生きてください」
 頷いて、差し出される酒を飲み干すと、リフィーティアがにっこりと笑い立ち上がる。
「じゃあ、踊るよ」
 踊りは大好きなのだ。くるりと手を返せば、身につけた布が舞う。ティルナがそれに合わせるかのようについて来る。きらきらと光り、踊る銀髪がまるで月から降りてきた精霊のようにリフィーティアを彩る。華やかで、鮮やかなその舞は静かな星空を背に何時までも続くかに思えた。
 だが、終りはやってくる。最後のステップを踏んだ瞬間、リフィーティアはぐきっと足首を捻ったのを感じたが、悟られないように微笑むのは忘れない。いつも必ずついてくる不運にこっそりふうと、一息吐きつつ、ふうわりとお辞儀をするリフィーティアに、愛情の入った拍手が送られた。
 そうして、深々と更け行く夜にも終りを告げなくてはならない時刻が迫って。

●祈りと願いを
 今日は付き合ってくれてありがとうございましたと、侍は冒険者達に頭を下げた。
 そして、笹舟に、短冊を乗せて流すのはどうだろうと言う侍に、冒険者達は付き合って川辺に来ていた。小いさな川だ。
 さらさらと流れる川を見て、蛍は大切な人を思い馳せる。この戦乱の世の中で、飛び回る人の事を。無事蛍の元に戻って来る事を笹舟に祈る。争いなど無い世界で、恋人と共に寄り添いながら、誰もが静かに暮らせるようにと。自身も忍者の身ではある。いつ同じように任務の途中で命を落とすかわからない。蛍は静かに冥福をも祈った。とても複雑な心中は言葉には出来なかったけれど。
『身近な平和と彼の無事を』そう願い。
 笹舟は、くるりと回転しながら、川を下って行く。

『星空に 友を想いて 幸願い 天が願いを 聞くを望む』と、書いた真莉は謙の『世界中の女性と仲良くしたい』と書いた短冊を見つけて、軽く笑うと静かに怒る。
「本当に、あなたと言う人はっ」
「私は七夕など嫌いだ。一年に一度しか会えるのが幸せだとは思わない。幸せとは一緒の時間を一緒に過すことだ」
 怒る真莉に、笑いながら、謙はさらりと答え、ふいっと横を向き。
「まぁ、今は幸せの一瞬なのだろうな」
 僅かに照れているのだろうか、その顔は良く見えなかったが、真莉は、しょうがないとくすりと笑う。謙の気持ちは充分わかってはいる。
「今更、そんなことを云っても、何もでませんよ」
 言葉とは裏腹に、そっと寄り添う真莉の体温が謙に伝わった。

「何‥書こう」
 リーフティアは、短冊を手にしてしばらく悩んでいた。ごく個人的な事ならば、とっても、非常に、思い切り沢山ある。数え上げたらキリが無いほどの不幸な境遇。これをなんとかならないものかと溜息を吐く。それは、きっと。‥‥のせいだと仲間たちは口をそろえて言うだろうが、幸いというか、生憎と言うか、どうして不幸なのかとリーフティアは誰にも聞いていない。
 また少し考えて、少女のような自分の顔を思い出し、そっと頬に手をやって、また、はあと溜息を吐く。女性に間違えられないように男らしくなる事も願いなのだ。
「そうだな‥そーいうのはまた別なのかもな」
 短冊に書く願いは、そういうのでも良かったのだけれど、どちらかというと、そういう方が多いのだけれど。それを押して、リーフティアが思った事があった。
『みんな笑って暮らせるように』
 みんなとは、誰とは限らないのだけれどと、リーフティアは思う。それが一番良いのではないかなと。
 さらさらと川は流れ。
 笹の葉の舟が、くるくると回りながら、みんなの願いを乗せて流れる。
 見上げれば、降るような星空が。つかの間の平穏を見守っていた。