なんか居る。

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月15日〜07月20日

リプレイ公開日:2007年07月24日

●オープニング

 暑くなってくれば、子供達は水辺へと向かう。
 川の多い地域、海の近い地域。
 それぞれに、歓声が上がり、大きな子が小さな子の面倒を見ながら、陽射しを浴びて子供が飛び込む水の音が響き渡る。
「‥何だよあれ!」
 子供達は橋の上で、いつも飛び込む川面を眺めていた。青碧に色をつける、適度に深いその川は、飛込みには丁度良く、少し泳げばすぐ岩場に手掛かりがあり、流された先は、段々と浅瀬になっているという、割合安全な川だった。もちろん、順番を守り、飛び込む先に誰も居ないかとか、細かい約束事は守らなくてはならないし、万が一の事は充分考えなくてはならなかったが。
 この川は、村から少し外れた場所にある。夏が近付かなければ、子供達は近寄る事の無い場所だ。春には春の、秋には秋の、冬には冬の遊び場がちゃんとある。
「こりゃ‥‥」
 ぶうぶうと文句を言う子供達に引きずられて、村の長老がようやく腰を上げた。親達は、田と畑の世話で忙しく、山の中の川まで見に行く事は出来なかったからだ。
 川には、黒くぬめる肌を持った、大きな生き物が居た。
「半裂とは、また珍しいのぉ」
「感心して無いで!あれ、どかせないの?」
「おお、そうじゃった。誰も飛び込んではおらんな?」
 長老は、とても物知りだった。黒くぬめる、一丈ほどのその姿を見て、それが半裂という巨大な両生類だと知っていた。近付く者は何でもぱくりといってしまう、悪食な半裂は、中々にやっかいである。
「うん。何か気持ち悪いからさ」
「そりゃ良かった。そうじゃな。ギルドへ頼んで何とかしてもらうか」
 近付かなければ、害は無い。だが、この近くで飛込みが出来るほどの川は、ここ以外は無い。後は微々たる小川ぐらいで。それでは子供達が可愛そうだと、長老は頷いた。かっこよく飛び込む事の楽しさは、ここで生まれ育った長老も良く知っていたからである。

●今回の参加者

 eb3556 レジー・エスペランサ(31歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3751 アルスダルト・リーゼンベルツ(62歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb9659 伊勢 誠一(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec2786 室斐 鷹蔵(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

陸堂 明士郎(eb0712)/ リーシャ・フォッケルブルク(eb1227)/ 任谷 煉凱(eb3473

●リプレイ本文

●村の子供達
 その日は、からりと晴れた、良い天気だった。抜けるような青空には雲ひとつ無い。じりじりと暑くなる陽射しが眩しい。こんな日は、焼けた肌に水が気持ち良いだろう。
「退治が終わるまで、遊んでてくれな」
 レジー・エスペランサ(eb3556)の連れてきたボーダーコリーのヴィーに、子供達は歓声を上げた。ふさふさの黒と白の毛並みに賢そうな顔。群がる子供達の中から顔を出し、遊んでますと、言葉が使えたら言っているだろうヴィーをひとつ撫ぜると、レジーは足元を確認する。そう急ぐ事は無いとわかっているが、これも性分なのかもしれない。
 クロスケとよ、遊んでてくれよなと、黄桜喜八(eb5347)がイワトビペンギンを子供たちに押しやると、クロスケにも盛大な歓声が上がったが、そのまえに、嬉しそうに喜八に寄って来る子供も居て、これこれと、長老にたしなめられて、後でね。と手を振られる。
「はあ、こりゃ久し振りに会う人じゃから、勘弁してやってくれ」
「珍しいかい?」
「珍しいっちゃ珍しいが、たまに見かけるからな」
 この山深い近辺の河童種は人と仲良くやっているようであり、そうか。と、喜八も笑った。
「ふむ、橋から上流を見るとすぐなのですね」
「おじいちゃんも行くのっ?」
「大丈夫っ?かなり歩くよっ?」
 半裂の出現場所をよく聞いていた、伊勢誠一(eb9659)と確認し合うアルスダルト・リーゼンベルツ(eb3751)に、子供達はまことに失礼な、実に率直な言葉をかける。皺がある人は小さい子達にしてみれば、立派なお年寄りなのだろう。
「その程度の距離は歩けるわい。年寄り扱いはするでない」
 子供達の言葉を笑って受け流すと、さてと山を見る。久し振りに体を動かすのも良いだろう。熱気はあるが、それにも増して山の空気は美味いものである。
 愛馬と荷物を預かってもらっていた室斐鷹蔵(ec2786)が、すう。と、皆を横切る。長い銀髪がさらりと引かれるようになびく。いつもなら、河童種に並々ならぬ執着を見せ、ちょっかいをかけたがる彼だったが、喜八の姿は視界にあって視界に無い様である。
「半裂、美味しいと聞きましたが」
「そうじゃの。美味いぞ」
 長老に川の地形などを聞きながら、半裂退治の後に、あれは食べても良いものかと誠一は聞く。淡白な味だが、非常に美味いとか聞き込んで来たのだ。そんな誠一の言葉に、頷く長老は経験済みのようである。そこへ、うろんな目つきの鷹蔵が割り入る。
「これはまた奇遇じゃのう?まさか、うぬもそれが目当てとはな‥」
「あははは」
「半裂は食べると精が付くんだって?」
 僅かに人の悪い笑みを浮かべてレジーも声をかけた。
「ええと。まずは、退治に行きましょうか?」
 怪しい話の花が咲きそうな二人に、誠一は先を歩き出している喜八とアルスダルトに視線を向ける。そう、お楽しみは、まずは半裂を倒してからである。

●半裂のいる川
 半裂。それは、ぬめるような皮膚を持った巨大なサンショウウオである。大ぐらいで悪食で。半分にしても生きていると言われるほどの生命力を持つ所から、その名がついている。陸堂明士郎がギルドで聞き込んだのは半裂に関しての報告書である。幸いすぐに見つかり、アスダルドへと伝えられ。おお、それに間違いないと、村の物知りの長老も頷いた。
 囮をしかけると言う喜八に、鳥をやると、生きた鶏が手渡された。ばたつく鶏に縄をくくりつけ、混ぜろと、村長が囮を引く役を買って出る。
 その頃、慎重に岩場に近付いていたのはレジーとアルスダルトである。任谷煉凱に矢に仕掛けをつけるのを手伝ってもらい、準備は万端である。縄を岩場にがっちりと固定する。
(‥は。のびのびといやがる)
 レジーは岩場の上に身体半分を乗せ掛けて、川の流れに半身を任せている半裂を見つけて、苦笑する。
 ばしゃんと、小さな水音と共に、鶏のけたたましい声が響く。その声に引かれて、半身だけ川の中にいた半裂がのそりと動き出した。
(良し)
 喜八は、浅瀬に向かう半裂の後ろから、そっと近寄り、半裂が鶏に向かってその大ぐらいな口を開いた途端、煙と共に、大ガマがぽうんと現れる。その音にびっくりしたのか、半裂は慌てて水中に引き返そうとする。しかし、半ば岩場に上がっていたのがその生死を分けた。喜八の忍犬トシオと、アスダルトの忍犬愛染も大ガマの脇を固めるように半裂に吠え立てる。普通の犬より大きいとはいえ、水中では、半裂の口にかかっては一飲みにされかねなかったが、それよりも早い一手が、びょう。と、音を立てて半裂を襲った。
「射抜くのが、女性のハートじゃないのが残念さ」
 レジーの矢が、狙い違わず半裂を刺し貫き、矢尻に括りつけられたロープが空を飛ぶ。一本では振り切られたかもしれないが、その矢は立て続けに打ち込まれ。
「少しばっかり、避けて欲しいんぢゃぞっ!」
 手傷を負い、慌てている半裂にアルスダルトの魔法が決まる。アスダルトの声に、仲間達は魔法範囲からその身を逃がし。よろけた半裂はその背の黒さと裏腹な、鮮やかな色合いの腹を見せた。
「さて、思ったよりも上手く行きましたね」
 引き抜く刀の音と共に、誠一の霞刀が眩しく翻り、半裂に一太刀入れる。簡単にいったかに見えるが、抜かりない下準備があればこその手際である。
「眉間‥狙えるか‥」
 水を蹴立てて鷹蔵の長槍が半裂の頭目掛けて突き刺さり。水飛沫を上げて、それでも逃げようとする半裂に、誠一の刃が何度か入り、レジーの矢も、アスダルドの魔法も続け様に決まり、さしもの半裂も、ぴくりとも動かなくなるのにそう時間はかからなかった。


●川に飛び込む水の音と歓声と‥宴会
 どぼーん。
 ざばーん。
「案外、こういう緩やかな時間も悪くないのかも知れませんね」
 勢い良く、水飛沫を上げ、子供達は入れなかった数日の憂さを晴らすかのように歓声を上げて川に飛び込む姿を見て、細い目をさらに細めて誠一が穏やかに呟いた。
「クロスケの事をよ『飛べない鳥』とか言ってバカにする奴がいるけどよ‥」
 きゃあきゃあと、一緒に来た子供達は、つるんと川に入ったクロスケのまるで空中を滑空するかのような水中での動きに、目を見張る。喜八はそんな子供達の様子を見て、嬉しげに目を細め、さてと腰を上げ、クロスケもかくやの泳法を疲労する。と、負けじと子供達が追ってくる。
「無理すんな?」
 楽しげに声をかけると、ぶんぶんと頷く子供達の泳ぎを見て、そこはもう少し深く腕を掻くと早く進むとか、息の抜き方とかを教え。
 ぱしゃぱしゃと近寄るトシオと共に、涼やかで、色鮮やかな水中を満喫する。覗き込めば、クロスケが追いかけているのは魚群。半裂が居なくなったせいか、クロスケに追い立てられてきたのか、新緑の色を映したかのような色鮮やかな深い川底を銀色に光る魚を捕獲に潜る。
 飛び込み場所からかなり下流の岩場の上では、村の大人たちが群れていた。
 半裂を倒したというのだから無理は無い。
 その肉、の美味さは年寄りから、さんざ聞かされているのだから。手に手に酒を持ち、つまみを持ち。誠一の用意した酒はしまっておけと、地酒をがんがん注いでくる。
「喰らうとえらく精が付くという話じゃて」
 悪そうに誠一をつついて笑みを浮かべる鷹蔵に、そういう話は興味がありませんと、いつものようにさらりと答えるが、鷹蔵は納得はしていないようであり。
「なに?知らぬ?また悪い冗談を‥惚けるな。腹ごしらえが済んだら吉原にでも赴く腹積もりであろうが?」
「吉原?そりゃ良いな」
 その腹積もりだったのはレジーのようである。鷹蔵とレジーは含み笑いつつ、何やら以心伝心の風もあり。村の長老に飛んで帰るが良いさと、ばんばんと叩かれていた。
 ざくりと何人がかりかで割かれる半裂の身体の中‥正確には胃の中から、消化しきれていなかったのか、石やら、箱やらがばらばらと岩場にこぼれた。
「何ちゃろうの」
「あけてびっくり‥何とやらじゃ無いでしょうね」
 アルスダルトが箱のようなものを拾い上げて、開けてみると、中には銀に光るスプーンが整然と五本並んでいた。何時飲み込んだのかわからないが、その持ち主は、この近隣では聞いたことが無いと長老が言い、こういうのはお土産と言うんじゃと、冒険者達に手渡した。
「大量だぞ」
 喜八が子供達と抱えきれないほどの川魚を取って来る。とれたての魚の香りは新緑の香りに通じるものがある。町では考えられない香りだ。準備万端整えていた村人達は、半裂の肉も、とれたての魚も、長い竹串に器用に刺すと、起こした炭火でじりじりと焼いていく。
「む、これは‥」
「美味いのぉ。寿命が延びそうぢゃて」
 思いの他美味しい半裂の肉の味に、言葉を無くす誠一に、程よく焼けた魚の腹の苦味まで美味いと舌鼓を打つアルスダルト。
 子供達の嬉しげな声と、初夏の陽射しと、清々しい水音と、良い匂い。
 半裂は無事退治され、皆の胃袋へと収まり、子供達が競い合い飛び込む川は、いつもの顔を取り戻した。
 何やら怪しい相談をしていた者達は、江戸へと帰還するもそこそこに、何処かに消えていったとか。いかなかったとか。