【鉄の御所】延暦寺裏手を守りぬけ！
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■ショートシナリオ担当：いずみ風花 対応レベル：1〜5ｌｖ 難易度：やや難 成功報酬：1 G 69 C 参加人数：7人 サポート参加人数：2人 冒険期間：07月23日〜07月28日 リプレイ公開日：2007年08月01日 |
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●オープニング
●討伐の勅令新撰組に酒呑童子討伐の勅令が下されたのは、７月下旬の事である。
「歳、討伐の勅が出るぞ」
その数日前、御所に呼び出された新撰組の近藤勇は、安祥神皇の近臣より近いうちに勅が下る事を知らされた。
「ようやくか、待ちくたびれたぜ。鉄の御所の鬼どもに、目にもの見せてやる」
土方歳三は不敵な笑みを浮かべる。鬼の襲来から約一月、激戦に参加した隊士達の傷も癒えて、戦いの準備は整っている。
去る６月末、突如として都に襲来した鬼の軍勢。
京都を守る侍と冒険者の活躍により、辛うじて撃退したものの、酒呑童子が率いる数百体の人喰い鬼に禁門まで侵入され、ジャパンの帝都はその防備の甘さを露呈した。
折しも、京都方と反目する長州藩の吉田松陰、高杉晋作らが滞在中の事件であり、少なからず交渉にも影響を与えたと言われている。
この時、守備勢の主力として奮戦し、多くの犠牲を出した新撰組は直後より酒呑童子討伐を願い出ていた。
「だが、俺達だけで戦うことになりそうだ。見廻組も今回は手勢を出すと言ってくれているが、正規の兵は動かせんそうだ」
「相変わらずだな、御所の連中は。鬼の報復も怖いし、負けた時は新撰組の責任にしようってことか。まあ、おかげで俺達が戦えるんだから皮肉だが‥‥」
比叡山の酒呑童子退治は筋目からいえば見廻組、黒虎部隊の管轄だ。或いは大大名が大軍を動かして討伐に当たるべきなのだが、そこには今の京都の複雑な政治事情が関係していた。
「悲観する事はない。あそこを本気で攻めるなら、かえって少数精鋭の方が成功率が高いと思っていた。都の警備も疎かに出来ないが、動ける組長を集めて討伐部隊を編成しよう。冒険者ギルドにも協力を要請しなければな」
そして、新撰組局長近藤勇より冒険者ギルドに酒呑童子討伐の依頼が届けられた。
●それに見えるは‥鬼の群れ
比叡山に座する延暦寺も鬼の手は伸びていた。
「大変ですっ！裏からも鬼達がっ！」
裏手は手入れのなされていない山林である。それを行軍するのはたとえ鬼でも整地された道を行くようには進めない。警戒を怠っていたわけでは無かったが、まさかという思いも捨てきれない。見張りに立っていた僧兵が数名、急の襲撃に命を落とした。瀕死で延暦寺に辿り着いた一人が、裏手からの攻撃を告げ、延暦寺は騒然となった。
新撰組の酒呑童子討伐は噂になっていた。今日か明日かと言われ、そのため比叡山は一種騒然とした空気を醸し出していたが、鬼の一部がそれに反応したようだ。延暦寺も守りを固めていたが、警備の薄い裏手をやられた。比叡山は延暦寺だけでなく、鉄の御所の鬼にとっても庭のようなもので地理は知りつくされている。
延暦寺の裏手には、戦闘が出来るほどの開けた場所は無く、うっそうとした山林が広がっている。山菜等を集めたりするだけの、細い獣道のような急な斜面しかない。そこをわらわらと、鬼達が攻め上って来るのた。
ただ、獲物を襲うだけの鬼では無い。整然と動く様は軍隊にも似て。
足元を固め、伐採しつつ進む日本刀や棍棒を持つ鬼。弓を持ち、その後を続く鬼。後列には僅かに体の大きな鬼が、槍や日本刀を持ち続く。
「ギルドへ走れ！人手を集めろ！」
表からも、鬼はやってくるかもしれない。その鬼に対峙するので僧兵は手一杯であるからと。
幸い、裏手に回っている鬼達の中に人食い鬼はいない。半日持ちこたえてくれれば、何とかなるだろう。
●今回の参加者
ea8203 紅峠 美鹿（30歳・♀・浪人・人間・ジャパン）eb2975 陽 小娘（37歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国）
eb3235 建御日 夢尽（34歳・♀・浪人・人間・ジャパン）
eb3974 筑波 瓢（36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン）
ec2195 本多 文那（24歳・♀・志士・人間・ジャパン）
ec2494 マアヤ・エンリケ（26歳・♀・ウィザード・人間・イスパニア王国）
ec2738 メリア・イシュタル（20歳・♀・ファイター・人間・エジプト）
●サポート参加者
サントス・ティラナ（eb0764）／ 頴娃 文乃（eb6553）●リプレイ本文
●騒然とする京延暦寺周辺は下手に近付けるような雰囲気では無いようである。延暦寺周辺だけでは無い。酒呑童子を打つ為、比叡山に新撰組、見廻組、京の町に集う冒険者達が入り乱れる。それを迎え撃つのは人食い鬼を始めとする鬼の軍勢。
しょうがないかと、陽小娘（eb2975）が、明るくサントス・ティラナを張り飛ばす。オーと大仰に痛がってはいたが、仲のよい夫婦なのだろう。
冒険者達は騒然とする京の街を抜けて、延暦寺を目指した。待ちかねたように山門に迎え入れられ、そのまま奥へと通される。広い庭で装備品などを確認された。何故と問えば、消耗品は後から補充するからと指揮を取る僧兵が深い笑みを浮かべる。それくらいはさせてくれと。さすが延暦寺というか消耗品の備蓄は心配ないようだ。
朝靄消えぬ、むせ返る様な植物の匂いと湿気が身体に纏わりつくかのようだ。
「やれやれ‥‥の動きは定まらず、天下は乱世の気運高まるって言う奴だな」
酒呑童子討伐。その話を聞き及び、あちらこちらから冒険者達は駆けつけた。筑波瓢（eb3974）もその一人である。右目の青紫の浄眼が眩しそうに細められる。呼吸を識別する魔法が展開され、広範囲の息吹が聞こえる。小さな息吹は論外だ。背後の息吹は延暦寺とこちらへ向かう冒険者達や生活する人々だろう。そうして、目の前に広がる山の中に。
一塊の荒い息遣いを感じとった。それは、こちらへ向かう鬼だと見て良かった。人より僅かに大きな息遣いと、大きな息遣い。鬼達にも様々な大きさや種族が居る。そのせいだろうか。
「二十近い‥」
「そうだね」
瓢に頷くのは本多文那（ec2195）だ。地面から伝わる振動を捉える魔法を唱え、その距離と数を計っていた。おおよその数は同じ。到達するまであと半刻ほどだろうか。
腕を組み、僅かに首を傾げる建御日夢尽（eb3235）の肩に、銀糸のような髪がさらりと揺れて落ちる。
「寺の裏手水際で阻止‥で良かったよな？」
鬼の方がどうしてもこの比叡山近郊の土地勘はあるだろう。下手に討って出れば危険度は増すに違いないと思うのだ。
そんな夢尽に、瓢が頷いた。
「ぎりぎりでは動きにくいだろう。少し下った場所で陣形を組んだらどうかと思う‥しかし、人の世に物の怪が跋扈するのは許せないな」
背の高い木々が、冒険者達を見下ろしている。そう、ここは鬼と人とがせめぎ合う混沌とした森の中であり、鬼達に僅かながらも地の利があるのは否めなかった。
「この京都を鬼共の好きにさせてたまっかよ！！」
鮮やかな緋の髪を僅かに吹く風に揺らし、紅峠美鹿（ea8203）が新緑を映す碧の目を細めてからりと笑う。眼下の細い獣道を上がってくるというのなら、正面から迎え撃てば良いだけだ。延暦寺は守らないと。腰に刷いた太刀の柄を確かめた。
戦の空気は、突然変わる。
緊張感が無いわけでは無い。張り詰めた冒険者の幾人かには、押し寄せる鬼達の圧力を感じていた。
「さぁ、外道の輩よ。この先は通すわけにはいかんぞ」
布陣を終えた仲間達を見ながら、瓢が誰に言うとも無く呟いた。
●山中の攻防
先手を取ったのは、冒険者達だ。
「天地万物の理を変化、動くことを『禁』！」
植物を意のままに動かす魔法を展開する瓢は、木々の間にちらちらと姿を見せ初めた茶鬼の足を取る。だが、その足止めは長くは続かず、次々に突破される。茶鬼の下卑た笑い声が鬨の声に変わった。無論、その技は足止めが出来れば良いのだ。その僅かに空いた間にマアヤ・エンリケ（ec2494）の詠唱が終わる。その魔法は吹雪。冷たい雪礫が扇状に茶鬼を襲う。その吹雪に煽られて、金の髪が僅かに揺れる。
「少しぃ涼んでいくぅー？」
くすりと笑うマアヤの攻撃が終わるか終わらないかのうちに、メリア・イシュタル（ec2738）と文那の手から、びょう。と、音を立てて矢が放たれる。弦の音が止まないうちに、二射、三射と茶鬼に吸い込まれて行く。山道の上から射掛けるという事もその矢に僅かに力を与えているのかもしれない。
「行かせま‥せん」
宝石のような青い瞳を、ひたと鬼共から離さずに、メリアは短弓をきりきりと引く。接近戦は向かない。この弓ひとつで、何とか防衛の一石になるつもりである。肌より白い絹糸のような髪が弦に取られメリアの頬を撫ぜる。その度に、茶鬼に矢が食い込んでいった。
味方の矢と魔法で、前衛組みはしばし、その足を止める。何本もの矢を打ちつくした文那が、ライトロングボウを地に置くと霞刀と呼ばれる日本刀を取り出す。
「っ！」
茶鬼のあらかたが遠距離攻撃で地に倒す頃、その後ろから現れた犬鬼の弓が、冒険者達を襲った。
「犬鬼の鏃には、毒があるよ！気をつけて！」
固まって動く茶鬼を数体を、鬼さんこちらと、引き付けて、本隊から離そうとしていた小娘が声を上げた。五体以上いる犬鬼の手には全て弓が握られている。懐に入ってしまえば、弓の攻撃は思うようにはいかないが、残った茶鬼数体が犬鬼の前に陣取っている。
さらに僅かに響く地響きは、犬鬼の背後から、槍を持つ茶鬼戦士、日本刀を持つ茶鬼戦士の二体が、冒険者達を射すくめるように目を輝かせ、引き上げられた口角で笑みを作りつつやってくるのだ。
魔法と弓矢の攻撃が一段楽したと見るや、太刀を振るって、犬鬼に迫る美鹿だったが、やはり茶鬼に邪魔をされ、うまく近づけないでいた。
「オラオラァ！喰らいやがれ！ソードボンバァァァッ！！」
細い獣道で太刀は上手く振るえない。切り結ぶのは最後の手段。衝撃波を飛ばし、茶鬼とその合間から見える犬鬼に見えない刃を打ち込んだのだが、その反面、鬼達からの距離はどうしても近い。
どどどど。と、音を立てて、犬鬼の矢が美鹿を、文那を襲う。
弱った茶鬼を狙い、日本刀が森の中では上手く使えないことを懸念していた夢尽は、油断無く一体づづ確実に仕留めていた。そんな彼女にも、犬鬼の矢は迫る。色鮮やかな着物は、森の中ではかっこうの的になった。
「しゃらくせぇっ！」
肩に当たった犬鬼の矢を引き抜くと、よろける足で数歩下がる。その下がる間に、また、矢が襲う。細い、獣道である。一度に攻撃をしかけられる相手は少なくなるが、同じように、味方の攻撃も制限される。と、左右から犬鬼のものとみられる矢が飛来する。見れば、数体に減った犬鬼達は、左右に分かれて森の中を進み始めているでは無いか。進行は遅くとも、弓矢の射程は長い。
そして、その後ろから──茶鬼戦士が大股で獣道を上ってくるのだ。
「次からぁ次にぃ超うざいってかんじぃ」
マアヤが軽い感じで言い放つ。その終りには呪文の詠唱も入り。水球が犬鬼を襲う。
「天地万物の理を変化、呼吸をすることを『禁』！」
茶鬼戦士の前に、わらわらと現れたのは茶鬼の増援であった。数体を囲むようにと瓢の魔法が展開される。酷く苦しそうな茶鬼は、手にした棍棒やら、日本刀を取り落とし、がっくりと膝をつく。真空の魔法を使われてはたまらない。
「はっ、残念だったな。そのままあの世へ逝け」
膝をついたところを、美鹿の太刀が屠るが、斬撃は美鹿にも振り下ろされる。茶鬼戦士だ。
「くっ！」
受け止めると、手が痺れるほどの衝撃が伝わる。
「後ろっ！」
小娘が月桂樹の木剣で茶鬼の棍棒を跳ね上げた。が、その間に犬鬼の矢が足に当たる。引き抜こうとするが、茶鬼戦士の槍がうなりを上げて襲う。
「それは、受けないよっ！」
身を翻す小娘だったが、攻撃はそれだけでは無い。空を切る音に反応するが、刺さった矢傷で僅かに遅れて日本刀の一撃がわき腹を掠めた。
「陽殿っ！」
夢尽が回復と解毒をし、駆け寄ってくると、小娘に襲い掛かった茶鬼戦士のニ撃目を日本刀で受けた。びりりと腕に来る衝撃に、思わず刀を取り落とす。
「させません」
メリアの矢が茶鬼戦士の頭を掠め、ふらつかせた。その隙に、小娘と夢尽は、態勢を整える。
「ネチネチウザイんだよ！ぶった斬る！！」
犬鬼の毒矢に、いい加減腹を立てた美鹿が、獣道から外れて犬鬼を追うが、犬鬼は、わずかに早い。だが、矢を番えたまま下がったのが美鹿に追いつかれる事になった。太刀の一突きは、犬鬼から弓矢を取り落とさせた。
「一端下がって下さい！」
瓢はもう魔法を展開するほどの魔力が無い。怪我の深い小娘に声をかけた。
「がんばってください、後もう少しです！」
何度も矢を受け、ようやく犬鬼を退治した彼等は、ようやく茶鬼戦士に多方向からの攻撃を仕掛ける事が出来るようになった。
茶鬼戦士の咆哮が響く。
「っ‥まだ来やがるかっ！」
美鹿が呻いた。それは、冒険者達の呻きでもあった。
その時、法螺貝の音が鳴り響いた
裏門から、僧兵が何人か、増援にかけつけたのだ。表にはまだ余裕があり、おかしいと感じた最初にあった僧兵が人を割いてくれたのだ。割いたといっても、その数は冒険者達の半分で、人数不足である事は間違い無いようである。
「行くわよー」
マアヤの水球が茶鬼戦士の足元を揺るがせて。
●合戦の声止まず
冒険者達の活躍で、鬼達は延暦寺裏手にとりつく事は出来なかった。
延暦寺の境内で手当てを受けたり、消費した矢を分けてもらったりもした。
「終わらない‥みたいだね」
ざわめく戦闘の気配に美鹿は鉄の御所の方向を眺めた。
「‥とりあえず、ここは守れたから良しとしなきゃ！」
小娘が軽く肩をすくめる。髪をかきあげながら、やれやれといった風で、夢尽も鉄の御所の方角を向いた。共存しているとはとても言いがたいが、今頃である。
この国の動乱はまだ収まらない。
そんな燃えるような夕日が稜線を浮き立てるのだった。
