夏の海岸線

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月13日〜08月16日

リプレイ公開日:2007年08月19日

●オープニング

 じわりと暑い夏が来た。
 海に山に川に、それぞれがそれぞれの嗜好を持って、夏の暑を楽しむ術を知っている。
 毎日遊んでいたら飽きてしまうけれど、たまには仕事を忘れて水に戯れたい。川の深い翠の淵も深として美しく涼しい。早瀬の水飛沫の白さも心地良い。
 しかぁし。と、呟く壮年の男がギルドに顔を出していた。
 筋骨、隆として。巨躯を揺する男は、学者だと名乗る。擦り切れた手ぬぐいを額に巻きつけ、ビクを腰にぶら下げて、蓑を尻に括り付け。不精髭はのび放題。彼に言わせると、これでも手入れはしているのだとか。
「夏場は海で遊ぶ奴が多くていかんのだ」
「‥暑いんですから、水が恋しいのは当然じゃないですか」
 けしからんと、男は唸る。
「おかげで、夏には採取が出来ないんだ」
「はぃ?」
「夏場は、夏場で、海岸線に面白い漂流物が上がってな。宝石にはならんが、珊瑚の欠片とか、蜻蛉玉とか、陶器の欠片とか、かぼちゃとか、珍しい流木とか、な」
 見て歩くのが男の趣味なのだという。
「ところがだ!夏場はどの浜辺も綺麗に片付けてしまうんだぞ!許せん」
「‥観光客はどの漁村でも大事な収入源ですよ‥」
「おう、そこでだ、浜辺掃除を買って出た」
 丁度台風がひとつ通り過ぎた後である。夏の初めに片付けた浜辺には、再びそこかしこに漂流物が散乱しているのだという。これを掃除すれば、村人も日々の仕事が減り、大変助かるじゃないかと、男は笑う。よく焼けた顔にきらりと白い歯が眩しい。
「丸一日海水浴の浜辺が貸切と考えれば、悪い話では無いぞ?それにな、台風一過の海では時折怪物が上がったりするしな」
「あ。なるほど」
「俺は、俺の好みの漂流物が拾えたらそれで良いから」
 一通り片付けたら、謝礼の一端として、村人が冷えた瓜やら、枝豆を振舞ってくれるという。早く片付ければ片付けるほど、海で遊ぶ時間も長くなる。浜昼顔の咲き乱れる場所もある、とても綺麗な海岸なのだとか。
「海水浴行きそびれてうだってる人〜っ」
 暑さもそろそろ下るだろう。ならば、暑いうちに海に波に戯れておかないと。豆絞りの手ぬぐいで、そっと額をおさえつつ、受付が海水浴依頼‥もとい。浜辺の掃除依頼を張り出した。

●今回の参加者

 ea1401 ディファレンス・リング(28歳・♂・ウィザード・パラ・ノルマン王国)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb4673 風魔 隠(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec2130 ミズホ・ハクオウ(26歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec3562 不明 一矢(30歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

小 丹(eb2235)/ メイ・ホン(ec1027

●リプレイ本文

 朝の海は、まだひんやりとした海風が吹く。ミズホ・ハクオウ(ec2130)は、大きく伸びをした。寄せては返す波の音が身体にひびき、しょっぱい風の香りが纏いつく。それもとても心地良いが。
「やっぱり夏は海よね〜、私はどっちかってゆーと色気より食い気だけど‥」
 高く結わえた金髪を揺らして、とっとと終わらせましょうと、元気よく浜辺掃除に乗り出し‥ないすばでぇの桜を見て、思わず自分の胸を見た。
(はうっ‥負けてる)
 がんばれ女の子。
 そんな視線を知ってか知らずか、夏の海を堪能するっ♪と御陰桜(eb4757)は、うきうきと浜辺に足を運ぶ。しかし。掃除をしなくては、素敵な砂浜も、見渡す限りの青い海も漂流物というゴミに阻まれて堪能が出来ない。しかたないわねっ。と、軽く肩をすくめると、いつもに増して豊かな胸が揺れた。それもそのはず、この国ではめったにお目にかかれないような姿をしていたからだ。彼女が夢に見たおぼろげな記憶で着込んだのは、桃色と黒のヨコシマが走る‥違う。横縞模様の小さな布が胸まわりと腰まわりに張り付いているかのような姿。
「海辺育ちとしては汚い浜は気分がよくないからね」
 仕事だとはいえ。と、カイ・ローン(ea3054)は桜の露出した姿に目のやりどころに‥嬉しくて困る。
(仕事込みとはいえ女性と海。ありえないだろうけど俺も男なわけで、ひと夏の思い出を期待して胸をときめかせてしまうのはしょうがない訳で)
 微妙に動作がぎこちないのは、気のせいでは無いかもしれない。がんばれ。男の子。
 用事が無ければ一緒に来たかったというメイ・ホンの見送りをふと思い出す。
 様々な思いを秘めて‥その前にはまず掃除である。
 いい天気ですねと微笑むのはディファレンス・リング(ea1401)だ。砂の色と泡立つ並みの白を混ぜたような突起のある大振りの貝を手にしようとすると、ひょこりと顔を出したヤドカリがすたこらさっさと逃げて行く。妙な角度で光波際には海月がふよんふよんと浮いていて、これも掃除対象かなと、借り受けた籠に放り込む。
「掃除といっても‥‥なんか楽しいですね♪」

 夏の漂着物は得体の知れないモノがいっぱい。トマス・ウェスト(ea8714)は、嬉々として砂浜を物色する。海岸線掃除は二の次である。もちろん、掃除する心積りはある。しかし、何よりも心躍るのは解体。
「あったね〜」
 掃除をしつつ、うきうきと全身で表し、近寄っていったのは、鯨の子だろうか、かなり大きい。打ち上げられて間が無い。これならば、保存食にもなるだろうと、早速腐敗を防ぐ魔法をかける。魔法が解ける頃には、解体も終了し、肉として捌いて食用に流用出来るだろう。
「けひゃひゃひゃ、けひゃひゃひゃひゃ、けひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
 ざっ。と、音を立てて切り開き、内容物の確認を始めるトマス。実に楽しそうだ。と、がつんとに何かが当たった。骨では無い。
「何だろうね〜これは〜」
 まるで見た目は骸骨である。だが、よく見れば、骸骨のようなモノである。薬としての骨しか興味は無かったが、その形が何となく気を引いた。何しろ骨っぽい。
「‥それって、食べれるんですか?」
「ん〜こっちは食べれるはずだがね〜」
 ミズホが、嬉々とした声に振り向きもせず、鯨肉を指差すと、ざくざくと解体を続ける。時には目を見開き、時にはまた笑い声を上げ。浜辺の解体を満喫したトマスであった。

 ざばあぁあああん。
 不明一矢(ec3562)を突然の波が襲う。掃除のされていない波打ち際は危険がいっぱいであった。
 がぃいいん。
 鈍い音が響く。屈み込んで陶器の欠片や、木屑を拾っていた一矢の頭に木片が激しく打ち付けた。
 ちかちかする目とぐらぐらする頭を振りながら、寄せては引く波に攫われかかっりながら身体を起こすと、ぶつかった木片と目が合った。‥ような気がした。なんとなく、その木片が、人の形をしているヒトガタに見えたのだ。陰陽師であれば、たとえ木片でもヒトガタを放っておくわけにはいかない。呪いの有無はさておき、ヒトガタには念が籠りやすいから。
 波を浴びながら、そのヒトガタに手を伸ばす。
「手を貸してくれ」
 誰かに呼ばれたような気がして、あたりを見回す。仲間達があちらこちらで清掃作業や解体に勤しんでいる姿からは、一矢を呼ぶ声を発したと思われる人物は居ない。
 水際に近付くのは凶。そんな占星術を思い出す。昨晩、いつものように何気なく占いをしてみたのだが、よりによって海辺の清掃依頼に出かけるのに、そんな不吉な卦が出たのである。だがしかし、卦は卦。気をつければなんとかなる。
 ざばん。
 また、大きな波が来た。立ち上がるのが一歩遅く、また、一矢は波に飲まれる。
 その途端、取り落とした木片のヒトガタから、何とも禍々しい靄が、弾けるような音と共に立ち昇る。
 ガハハハハと、下卑た笑いが響き渡り、大入道のような形に靄が膨れ上がった。
「物の怪かっ?!」
 一矢は小柄を抜き放って切り掛かった。波が何度も一矢と物の怪を洗う。
 これだけ大騒ぎをしているのに、仲間達は何故駆けつけないのだろうと、じりじりと後ろに下がる。その時、一矢は妙な事に気がついた。同じ言葉しか物の怪は言わない。後退する一矢に迫る事も無い。
「ひょっとして‥」
 物の怪を警戒しつつ、ヒトガタを海水から上げるため屈み込む。物の怪は動かない。持ち上げると、物の怪はその姿を消した。
 誰かが近付くと反応する、水盆か水路かに仕掛けられた呪なのかなと考えていた所に。
 ざばああああああんっ。
 大波が一矢を襲った。がいぃいんという鈍い音。
「大丈夫?」
 あちこちくるくる見て回っていたミズホが覗き込んでいた。
「え‥物の怪はっ?」
「物の怪?」
「ガハハと大笑いした‥」
「?そんな声聞こえてないよ?」
 確かに一矢は、木片を握り締めていたが、ヒトガタというわけでは無く。波に攫われた木にしたたかに頭を打ちつけた際に見たユメマボロシであったのを理解するのはもう少し後。
 そして、もうひとり、村側の流木に頭をうちつけて夢うつつの人が居た。突風が吹き、その突風に煽られた木片が襲ったのは風魔隠(eb4673)である。
 浜辺のゴミ拾い!海は一体誰のもの?!、の巻!とか段!でござると、鼻歌交じりに掃除をしていた。遠くまで見渡せる波打ち際の海辺を見ると、何となく正義の人が白馬に乗ってやってくるのではないかとも思える。
 彼女の乙女心を刺激した白い砂浜に走る幻想の為、せっせと掃除をしている隠だが、大きな塊を見つけて目を丸くした。どうやら人らしい。もしや、夢に描いたかっこいい正義の人なのかもしれない。素敵に踊る人なのかもしれない。わくわくと顔に貼り付けて倒れ伏した人を起こす。
 声にならない悲鳴が隠の中に響き渡る。
 どろんとして、正体のわからない姿の人なのかそうでないのかわからないモノが起き上がる。
「‥‥海へお帰り‥‥」
 ゆっくりと歩いてくるその物体に、隠は涙目で手裏剣を構えた。
「帰れと言ったでござる!」
 大声で大騒ぎをしているのに、誰も助けに入らない。やがて、隠のすぐ近くまで来たその腐臭放つモノに、目眩を起こし‥。
「何やってんの?」
 適当に掃除を手伝いつつ、何はともあれ遊んでおかなくてはと動き回る桜が、倒れている隠の頬をつついていた。突風注意。稀にこんな事もある。隠が得体の知れないモノを見たのは全てユメマボロシであった。
 
 海風に揺れ、岩場に鮮やかな色を落としている浜昼顔にミズホは感嘆の声を上げる。連なる花はまるで海辺の額縁のようだ。丸い木の実のようなものを見つけた。ミズホは見た事も聞いた事も無いだろう。亀裂が入り、干からびてはいたが、それは椰子の実だった。拾い上げるところりと落ちたものがあった。
 じりじりと太陽は昇っていくが、冷たい海水が寄せて、ディファレンスの素足を押し、足の周りの砂を海に引いて行く。足に纏わりつく幅広のワカメを面白そうに拾うと、その先に大きな流木がついており、おやと、引っ張った。手に抱えられるぐらいの大きさのその流木には、ごつごつと穴が開き、沢山のワカメが絡みつき、小さな洞窟のようになっている。これは一度集積場所に持っていかないと次が拾えない。よいしょとその流木を拾おうとしたら、大小ふたつの輪がワカメと流木に絡み付けられていた。海水と泥でどんなモノかはわからなかったが、何しろリングである。くすりと笑い、手に取った。
 岩場の下を掃除していたカイは、引っかかっていた亀を見つけた。波にあおられて岩場に嵌ったのだろうか。よく見れば、その亀は、さらに岩の亀裂の奥に行こうとしている。なんだろうと見れば、亀の甲羅のようなものを見つけた。どう見ても、それには命が宿っているようには見えなかったのだが、もがく亀はその甲羅に到達したいようで、手を伸ばし、取り出せば、亀はもがくのを止めた。亀裂から持ち上げ、怪我をしている場所を応急手当する。じっとされるままになっていた亀は、カイの取り出した甲羅を眺め、納得したのかどうなのかわからないが、ひとつ首を振り、海へと戻って行った。
「‥何だったのかな」
 残ったのは亀の甲羅のような‥。
 片付きはじめた海辺を、桜は満喫する。ざばんと海に飛び込めば、じりじりと焼けた肌に海水が気持ち良い。波に連れて行かれそうになって手を突けば、そこには夏の欠片が。

 ありがとう、助かった!と、依頼人が冒険者を手招きする。
「ん〜いい風、来てよかったわ〜やっぱ人生息抜きも必要よね」
 伸びをするのはミズホだ。
 掃除も終り、夏の日差しを浴びて、波間に揺れて。沢山遊んだ冒険者達に、村人達は冷えた黄色い瓜と茹で上がったほこほこの枝豆と、じゅうじゅう音を立てている浜焼きを振舞った。海辺はもう橙色に染まっていた。
 帰還してから楽しい夢を見た者は多い。夏の‥思い出の。