鬼灯

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月13日〜08月18日

リプレイ公開日:2007年08月22日

●オープニング

 鬼灯が揺れる。
 紅い実から、上手に種を取り出して、口に含んで、ぶぅと鳴らす。
 ぶぅ。びぃ。
 子供達が鬼灯を鳴らす。

 その鬼灯、近隣の野山では取り尽くされてしまった。戦乱が踏みしだいたと言って良いのかもしれない。鬼灯が無ければならないというわけでもないが、あの朱色の姿が無いと、何となく寂しい。
「無いなら無いでかましまへん。せやけど、楽しみにしてくれはる方もぎょうさん居ります‥」
 山一つ二つ越えた場所に鬼灯を作る農村があるという。それにと、商人は続ける。
「川が増水しましてな。橋流れてしもたんです」
 特に川幅が広いというわけでは無いが、雨が止んだら、そこに顔を出したモノが居た。
 水馬である。
 深い淵のあるその川の、淵が気に入ったのか住み着いてしまったのだという。
 川を渡ろうとすると、優美に顔を出し渡してやろうと近付いて、人を川に沈めてしまったのだという。沈められたのは、男の店の下働きの男だったという。
 ぐっと唇を噛締めながら、商人は場所を詳しく説明し、よろしくお願いしますと頭を下げた。

●今回の参加者

 eb5581 東天 旋風(34歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 eb7343 マーヤ・ウィズ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ec3500 久喜 笙(28歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec3583 蒼 流(24歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 ec3588 東天 舞(34歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)

●サポート参加者

西天 聖(eb3402

●リプレイ本文

「皆さん、こっちです」
 じりじりと地面を焼く日差しの下、東天旋風(eb5581)が仲間達を手招きした。
 水馬が人を引き込む。
「后空来るのじゃ。皆これが水馬じゃ、取得魔法にウォーターダイブがある」
 その話を聞き込んで、集まった冒険者達は西天聖の連れた水馬の元に集まった。水馬の取得魔法は様々である。確かに、水中に引き込むというのは、その魔法が近い。他にも持っているかもしれない。しかし、それは当たってみないとわからないだろう。何しろ、誰も戦ってみた事は無いのだから。
 じっと青い瞳を商人に向け、マーヤ・ウィズ(eb7343)は手早く確認を取る。持ち帰る鬼灯の数、渡河の手段。そうして‥。
「水馬の退治は確認出来ませんが、証拠が必要ですか?」
 商人の気持ちを慮る。その言葉に、商人は静かに首を横に振り、マーヤ達の無事を言伝ると、荷車はあるので、邪魔になら無いなら使って欲しいと申し出がある。運んで欲しい鬼灯は、村に行けば荷造りしていてくれるはずだからと。渡河には、水馬さえ居なければ、舟を出す者が居るから、尋ねて欲しいと伝えられ。
 蒼流(ec3583)は、美しい水のような馬を見送り、小さく息を吐いた。水馬ははじめて見る。この美しい馬の水怪は、この国にも古くからいるのだろうかと考える。水中が得意な流は、最初、囮になるつもりであった。だが、この国の言葉がよくわからない。多国籍の人種が入り乱れるギルドなので、気がつくのが遅れたのだ。しかし、幸い、流の言葉を解する者も居る。
「不覚をとりました‥」
「大丈夫ですよ。頼りにしてますから」
 にこりと、東天舞(ec3588)が微笑んだ。水遁の術を駆使し、水中にもある程度身動きの取れる彼女は、旋風の妹だ。と、いっても本当の妹というわけでは無い。淡い恋心を抱く彼の頼みに、舞は二つ返事で参加を決めた。何処と無く心配気な旋風の視線に、舞はやはり笑顔で返す。
 人の輪にいまひとつ馴染めないのか、久喜笙(ec3500)は、自ら表立つ事を良しとしない。彼は、じっと依頼主と仲間達の話を聞く。

 そして、照りつける陽射しの下、問題の川へと辿り着いた。
 岩場をぬうように、とうとうと青碧の川が流れる。吹き渡る風は川風の涼を運ぶ。
 そ知らぬ振りし、舞が川に近付く。河の神の加護を受けるという、河伯の槍を身につけてはいるが、見た目はたおやかな少女だ。どう出るか。そんな不安もあったが、対岸を見て途方に暮れた様子で動き回ると、川向うから水馬が現れた。遠くに居るのに、あの迫力はどうだろうと、舞は小さく溜息を吐く。野生の水馬は、こんなにも力強いのかと。間近で見知っている水馬とは、迫力が違う。感心して見ている舞に泳ぎ近付くと、その、問題の水馬であろう精霊は舞を見た。
「乗れ」
「!」
 もちろん、水馬に乗るつもりでいた。だが、それはあくまでも、自らの意思で乗るつもりだった。だが、抗い難いこの言葉は。
 水馬は言霊を放つ。短いその言葉に命令を乗せ。水馬は凶悪だ。会話で先制を打ち、抗うには、僅かに力が及ばなかった。ふらふらと水馬の背に乗ってしまう。
「‥様子がおかしい」
 舞をとりわけ気にしていた旋風が、異変に気がつく。だが、時すでに遅く。
 ざばん。
 水馬は舞を背に、青碧に光る川に沈んでしまった。
「舞殿っ!」
 舞が水馬と沈むと、それを追うように、流が飛び込む。最初からその手はずだったが、流も、何かおかしいと感じていた。
 冷たい川の水が流の身に纏わりついた。何事も無く、ただ水中に身を投じていれば、これほど美しい川も無かったろう。陽射しがきらきらと川の底まで映し出す。
 水馬は、深く、深く、沈んで行く。水遁の術を事前に使っていなければ、どうなっていたか。一向に攻撃の気配を見せない舞。離される距離。
「汝、何人の者をその様な手段で殺めた!‥‥舞殿っ!舞殿っ!」
 水中の呼びかけは、果たして、水馬に届いたのか。
 追いかける流を邪魔だと思ったのか、それは定かでは無いが、水馬の動きが止まる。
 このまま舞を乗せて逃げ切られてしまうのかと焦っていただけに、対峙してくれるのなら、ありがたいと流は龍の彫刻が施されている、昇竜と呼ばれる、六尺弱の錫杖を構えた。水中に乱舞する光に、錫杖の先の金色の輪が光る。
「水神の末といわれる河童の私が退治します」

(舞‥‥!)
 旋風は、く。と、唇を噛締める。舞に頼まなければならなかったのが悔しいのだ。ここで、下手に飛び込んでも、戦力になるかどうかわからない。だが、地上でなら、出来る事は沢山ある。
「マーヤさん、水馬が川から上がってきたら川に入らないようにしてもらえますか?」
「いいわ。どうされるのかしら?」
「これが少しでも役に立つと思います」
 旋風が手にしたのは、ダーク。そう名をつけられた短剣は、柄に古めかしい文様が刻まれている。この短剣を地面に突き刺して、祈りをささげる事で、僅かながらの結界を張る事が出来る。その結界の中では、エレメントは動きが鈍くなるのだと、説明する。
「了解よ。‥そうね」
 本来なら、むやみやたらと木々を打ち倒すのは良い事では無いと理解しているが、場合が場合だ。手順通りのはずなのだが、万が一を考えて、木を倒し、橋にする事にした。マーヤの知識にある精霊の水馬は、言霊を使う。ひょっとしたら、舞はその言霊にとらわれたのでは無いかという不安がぬぐえない。
「出来る限りの手段を考えませんと」
 詠唱を終え、淡く光るマーヤは重力波を飛ばし、木に衝撃を与え、川を渡す橋とする。いざとなれば、そこを走ってでも戦闘に参加するつもりであった。
 笙は、仲間達の行動をじっと観察する。どうやら、出来る事は今の所無い。岩場の影に、そっとその身を潜ませ、自身の力を求められるのを待つ事にした。

 水面に、紅い花が浮かぶ。
「舞っ!」
「流さんっ!」
 蹴られたか、浮かび上がった流の肩から、血が滲む。 
 背に乗っていた舞は、振り落とされ、蹴り飛ばされ、酷い怪我をしていた。その変わり、意識ははっきりとし、手にした槍を果敢に構えていた。水馬も無傷では無い。だが、深手を負っているわけでも無い。浅く切り裂かれた様子が見てとれるだけで。
 がっ!と身体を揺すり、口を開くその姿は、見知った西天の水馬、后空とは違う。圧倒的に悪意が迫るのだ。
「旋風さんっ!」
 マーヤがすかさず動く。神楽鈴が涼やかな音を立て、重力の魔法が水馬を襲い、その姿がぐらりと傾いだような気がした。
「これ以上好きにはさせんっ!」
 旋風が疾走の術を使う。その、煙と同じく、水馬も淡く光った。
「いけませんっ!何かきますっ!」
 水馬は、精霊魔法を何種類か使う。今までは、抵抗する者が居なかったから、使わなかっただけで、ここにいるのは、抵抗し、牙を剥く冒険者である。
 氷の吹雪が、旋風とマーヤを襲う。
 立ち泳ぎしながらでは、思うように槍を振るえない舞と流は、それでも必死で魔法を阻止しようと切り付けて。
 ざばあっ。
 水馬は、マーヤと旋風の居る方向へと走り出す。ぶるんと、怒気をふるい、蹄を上げ。その速さを止めるに至らず、したたかに打ちつけられた。
「ぐっ!」
「きゃあっ!」
「マーヤ殿っ!」
「旋風兄様っ!」
 水馬を追うように、舞と流は傷ついた身体を引きずり、岸に上がり、足蹴にされるマーヤと旋風に合流しようと走り出す。だが、水馬はそのまま走り去った。
「立ち‥去ったのか‥」
「お怪我はっ?」
「大丈夫だ。舞。舞は大丈夫か?」
「平気です」
 酷く痛むあばらを押さえ、立ち上がる旋風に、舞が駆け寄る。首を横に振りつつ、マーヤも起き上がった。酷い怪我を負ったが、回復の手段は各自万全でもある。
 気まぐれに遊んでいたのを邪魔されたのを邪魔されて腹立たしかったのか、水馬の心理までは掴み取る事は出来なかったが、とりあえず、川は渡れるようになったのだった。
「退治は‥出来ませんでしたわね」
 水馬の去った方角を眺め、マーヤが青い瞳をくゆらせた。
「逃げたいと思ってもらって、良かったです」
 舞も、同じように視線を向ける。少人数での依頼だ。上手くいけば、退治も出来るだろうが、相手は速さと魔法を駆使する水馬‥精霊なのだから。狙いどころは良かったのだが、いかんせん、人数が足らなかったのは彼等のせいでは無い。かなり手傷を負わせたのだ。これに‥懲りてくれると良い。そのまま‥儚くなるのかもしれないが‥。
「では、行きましょうか」
 回復薬を飲み、ふうと一息吐いた流が、止まっていた空気を動かした。
 
 鬼灯の村では、今か今かと、冒険者達を待ち侘びていた。ぼろぼろになった姿を見て、目を丸くするが、皆、大丈夫だからと、村人に笑いかけた。
「鬼灯市‥というのでは無かったな」
「でも、綺麗です」
 ここは、作る村だからと、旋風と舞に、申し訳無さそうに言う村人は、でも、市では見れませんよと、一面に延びる鬼灯の畑を見せてくれた。手入れをされ、同じ大きさに育てられる鬼灯の一枝が、朱色の火を灯し青空の下広がっている様は、確かに市では見れない心地良さがあった。
 川を渡る際に、向こう岸まで持って渡れないのならいっそ投げて渡してしまえと笙は思っていたが、ちゃんと渡せるなら、それに越した事は無い。仲間達は抜かりは無かった。マーヤが手配していた舟がつき沢山の鬼灯は、無事商人の元に届けられた。

「うふふ♪良かったですわ」
 待ちかねていた人々に、鬼灯はひとつ、またひとつと手渡される。葉を丁寧に取り、鬼灯の朱の袋が迷わぬ提灯の変わりなのかもしれない。
 ぶぅ。びぃ。
 こぼれた朱の袋から、まあるい鬼灯の実を取り出した子供達は、丁寧に実の中の種を取り出し、口に含んで音を出す。
 のんびりとした風景に、マーヤは穏やかな微笑を向けるのだった。