でも、そんなの関係ねぇ‥だろ?

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月23日〜08月28日

リプレイ公開日:2007年09月02日

●オープニング

 暑いと何もかも嫌になる。
 普通にだらだらしているのならば何も問題は無い。
 だが。
「‥依頼投げたら駄目でしょ」
 ギルドの受付の前で屍になりかかっているひとりの見覚えのある剣士を見つけて、ギルド職員ばかりか、朝早くから依頼を求めてやってきた冒険者達が、ぐれていじけている彼を小突き回した。
「他の仲間は?」
「国に帰っちゃいました」
「‥ものっすごい信用がた落ちの事しでかしましたね」
「俺はちゃんと報告に来たっ!」
「そんなの関係ねぇっ!」
 口々に言われ、よってたかってぼこぼこにされそうな剣幕の冒険者達に、必死の形相で剣士は唸る。
「だって、想定外だったんだもんっ!」
 まだ若い、駆け出し冒険者の剣士が半べそかきながら、受付に訴える。依頼書と内容が違ったと。
「‥ぇ」
 今度は視線が一斉に受付に向かう。
「ちょ。ちょっと待って下さいよっ?ムンスさんの依頼は確か、小鬼退治。海辺に現れて、海水客が逃げたからっていう」
 海辺の洞窟を拠点にして、六体の小鬼が海の家を襲っては引き上げるという被害が出ていた依頼である。初心者冒険者が最低人数で依頼に出かけても楽勝のはずだった。
「小鬼だけじゃなかったっ!」
「‥‥ぇええっと」
 どうやら、小鬼の居る洞窟には海草と見紛う緑色の大磯巾着が生息しており、迂闊に足を踏み入れるとがっつりやられるというのだとか。何の対策もしていなかった仲間達は命からがら逃げ延びて。一番下っ端のムンス君が報告に寄越されたようである。
「でも、そんなの関係ねぇっ!」
 やれやれと言った声が、ギルドの中に響き渡る。
 依頼書に書いて無い事は起こらない。だが、まれにそういう事もある。
「あっ!剣士さんっ!」
 真っ黒に日に焼けた海の兄さんが揉めているギルドにひょっこり顔を出した。ムンス君の受けた依頼の依頼主である。ごめんごめん、大磯巾着までは知らなかったから、もう一度お願いだと、どうやら村で協議して追加報酬を持ってきたらしい。
「じゃ、お願いしますね〜。行き先は海ですよ〜」
 まだ暑は夏い。違う。まだ、夏は暑い。
 ぱむぱむと漁師の兄さんに肩を叩かれているムンス君に、しょうがないなぁという視線が集まった。

●今回の参加者

 eb6966 音羽 響(34歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb9694 黄 咲華(32歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec3065 池田 柳墨(66歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ec3613 大泰司 慈海(50歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ec3671 ルイス・ジョルジョーネ(20歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

水之江 政清(eb9679

●リプレイ本文

●浜辺の茶屋
 がらんとした海。
 海は海であるから、がらんとするはずもないのだが、浜辺に並ぶ茶屋はほとんど閉まり、開いているのは一軒だけ。海水浴目当ての客の姿もまばらだ。それもそのはず、小鬼が出たのだから仕方ない。
「‥‥忙しい所にごめんなさい。小鬼に襲われた時、何をされたのか聞きたいんだけど、時間いただけますか?」
「うわっ!‥て、お嬢さん‥」
 僅かに開いている浜茶屋の簾の影に、ちんまりと正座して、小首を傾げているのは瀬崎鐶(ec0097)だ。あまり表情の無い鐶は、大きな人形のようだったが、僅かに、茶色い三編みが動く度に揺れ、女の子だと納得される。
「‥あの‥」
「ああ、小鬼な。良いよ何でも聞いてくれ」
 冒険者だと分かると、浜茶屋の兄さんは、まずは食べて行きなと、嬉しそうにスイカを鐶に手渡した。ありがとうございますと、鐶は深々と頭を下げて、美味しく頂く。そうして、聞きたい事といえば。
「‥‥小鬼は店内で暴れるだけ‥だよね?」
「いんや。暴れるっていうよりも、食べ物物色に来たみたいだな。洗いざらい持って行ったぞ。スイカや瓜や枝豆や酒。梅干の入った握り飯にあぶらげの乗ったうどんに、冷たく冷やしたお茶に至るまでごっそりだ!」
 そう言われてみれば、浜茶屋には破壊されたような後は無い。
「今頃宴会でもしてるのかもな。まあ、そういう事で、食べ物があるうちは、被害は食べ物だけに限られるのかもしれないな」
「‥‥丈夫で、長い棒とか、売っていませんか‥‥」
 棒なら、浜茶屋を作った時のあまりが沢山あるから持って行くと良いと、手渡され、鐶はぺこりと頭を下げた。
 碧の髪を海風に吹かれつつ、ふわりふわりと黄咲華(eb9694)浜辺上空を飛ぶ。鐶とは別の海辺の兄さんに話を聞いていた。
「食べ物だけネ?」
「食料庫だと思ってるんじゃないかな、三日と空けずに来るから、今日あたりやってくると思うぜ」
「じゃあ!食べ物でおびき寄せしたいのだけどネ?」
「おう、かまわないぜ。どうせ只で持っていかれちまうんだ。退治に使ってくれるんなら、皆にも声かけるから!」
「きっぷがいいネ!」
「では、浜茶屋に隠れて、目の前に食べ物を置いて、待ち伏せいたしましょう」
 おっとりと音羽響(eb6966)が微笑む。
「来てもらえるのならその方がよろしいわ」
「すげーです」
 乗り込んで退治しか考えていなかったようで、見習い剣士のムンス君は、手際に目を丸くしている。
「小鬼らは複数じゃが、わしらが十分に油断さえしなければなんとかなる相手じゃろう」
 年輪を刻んだ深い笑みを浮かべ、池田柳墨(ec3065)が呆けているムンス君の頭をぐりぐりと叩く様に撫ぜた。
「ここで待ち伏せてかまわないのかのぅ?」
「隠れる場所があるのは浜茶屋ぐらいですし」
 響の示した待ち伏せ場所で、万が一、観光客など、海に楽しみに来ている人に当たっては大変だと柳墨が波が打ち寄せる浜辺を見るが、がらんとした海がある。
「退治の札でも立てておきます」
「手が足らないなら言ってくれ?」
 海の兄さん達は、手分けして小鬼退治の立て札を立て、お客を説得する為に移動を始める。柳墨の呼びかけにも、大丈夫っす!退治よろしくと手を振り返し、走り出す、なんとも身動き軽い兄さん達であった。
「やっぱり、夏は海だよね!」
 背が高く髭を生やした壮年の大泰司慈海(ec3613)は、どこか憎めない愛嬌のある表情で、にこやかに海を見る。大好きな海が最初の依頼なんて、なんてついてるんだろうと、そんな思いが可愛らしい動作になっているのかもしれない。退治後は海を満喫!寄せては返す海の青さに、何度も波間を見て笑う。もうひとり、酒場には居たような気がするのだが、残念な事に、どうやら浜辺には辿り着けなかったようだ。
 そうして、小鬼おびき寄せ作戦が開始された。

 人気の無いがらんとした海。せっかくの太陽が虚しく砂を焼いている。寄せる波間に飛び込めば、どれだけ気持ちが良いかわからないのに。そんな溜息が漏れるほど、じっと待っていた冒険者達はほどなく目的の小鬼達がやってくるのを目にした。
 のんきに歩くその数は六体。手に棍棒を持ち、下卑た笑いを響かせながら、何の警戒もせずにやってくる。先頭の一体が、浜茶屋の前に山盛りにしてある食べ物と飲み物を発見して、笑い声を高く上げる。
 そうして、さあ、手にとろうかというくらいに近付いた所で、浜茶屋の中、裏手から、冒険者達が満面の笑みを浮かべて現れた。
 一瞬、何が起こったかわからない小鬼達の行動が止まる。
 そこに、柳墨の長棍棒が、深い踏み込みと共に突き入れられる。すると、ようやく小鬼達は、攻撃されている事に、怒りの声を上げて棍棒を掲げて反撃を開始する。
 砂を蹴立てて、砂浜へと走り込み、小鬼を挑発するのは慈海だ。愛嬌のある表情に、僅かに鋭いものが入る。
「鬼さんこちら♪てね」
 十手を構え、振り上げた日本刀を叩き下ろすように、重い一撃を小鬼目掛けて打ち込んだ。
「移動はさせませんわ」
 淡い光を纏わせながら、詠唱を終える響は、拘束の魔法を放つ。
「‥‥!」
 霞刀と呼ばれる軽い日本刀を構えて仲間が何体も相手にしないようにと、小柄な鐶が刃を翻す。補助に回るつもりのその一撃は易々と小鬼に入り、ざっくりと深手を入れて。
 空中から得意の一撃を入れようとした咲華だったが、手にしていたのは小太刀である。得意の一撃とまではいかないが、充分小鬼に対しての脅威にはなる。油断している所へ、空中から刃が振ってくる恐怖は、小鬼達の行動を鈍らせ。
 ムンス君もその攻撃の中、邪魔にならないようにと、剣を振るい。
 多少時間はかかったものの、小鬼達は退治されたのだった。

●大磯巾着をどうにかしよう
 小鬼の始末はまかしとけ。と、海の兄さん達は歓声を上げた。ほとんど被害を出さずに小鬼を退治してもらった礼を口々に言う。
 しかし、まだ退治は終了していない。洞窟の前には大磯巾着が待って居るのだから。
「まず、先発隊には悪いけど、大磯巾着の位置が判明したネ‥‥そういえば、アタシ飛べるの忘れてたヨ」
 咲華がふわりと舞い上がる。先発隊は足をとられたという。場所はムンスが知っていた。大体の当たりをつけてみると、確かに、でろんとした昆布が伸びている。ぱっと見にはどうみても昆布だ。
「海から近付くのが良いか、浜辺から近付くのが良いか、どっちがいいかなぁ?」
「岩場が邪魔しますから、浜辺からの方が良いですよ。岩場は足場悪いですから」
 慈海は海の兄さん達と、さらに綿密な場所の確認をし、包囲網を狭めて行く。鐶と響は、長い棒を手に入れ、それで慎重に磯巾着の居る方向へと向かう。万が一砂に隠れていてもこれで大丈夫。
「しかし、よくもまあこんなに成長したの。どれだけ栄養与えたらこうなるのじゃろうか」
 長棍棒を持つ柳墨は、やれやれといった風に手をかざす。昆布にしか見えないその大磯巾着に、打撃武器が何処まで通じるかとの懸念があったが、それよりも何よりも、でろんと延びたその姿に、何とも言えない脱力感を覚え。
「石落として見るネ」
 空中から落とされる石は、大磯巾着の中にぽとりと落ちた。
 ざわり。
 触手と見られる昆布が砂を巻き上げうねる姿に鐶はそれでも薄く半目を開いた表情の無い顔でぽつりと呟く。
「‥‥うわ」
「結構のびそうですわね」
 いっぽう、ぱらぱらと落ちる砂を眺め、響が小首を傾げ。だいたいの触手の伸びは空中にのびて立つ、昆布の長さで間違いは無いだろう。攻撃と魔法の間合いを各々が目に焼きつける。
「松明に火をつけて投げつけて、そのあと油も投げて燃やしちゃうのはどうかな?海の近くだから延焼することもないしね♪」
「!」
 確かに周囲に可燃物は大磯巾着しか無い。慈海は松明に灯を付けて、大磯巾着目掛けて投げた。ぱちぱちとはぜる火の粉が僅かに弧を引いて、大磯巾着に向かったが。
 うねる触手に、叩き落とされる。砂の上に落ちた松明は、湿気もあいまって、すぐに火が消えてしまう。
 表情を動かさない鐶が僅かに立ち止まる。だが、鎮火した松明を見ると、また、棒を持ち直し、ゆっくりと歩を進め。
「行きますか♪」
 慈海が日本刀を上段に構えて切りかかると、鐶と響が長い棒を投げ与え、その隙に鐶の霞刀も翻る。刀をかいくぐり、のびてくる触手を柳墨の大根棒が跳ね除けると、決死の顔したムンス君も攻撃に加わり。やはり、時間はかかったが、なんとか触手を全て切り落とす事が出来た。空中からぱっくり開いた口を見て、咲華が声を上げる。
「すごいネ!」
 触手を切り取られ、あらわになった鋭い歯に、一斉に攻撃をしかければ、昆布もどきの大磯巾着の脅威は取り除かれる事となったのだった。
 
●行く夏の海
 小鬼達の洞窟の中は、食い散らかした後で汚れていたが、他に小鬼が居る気配も無く。
「う〜み〜♪」
 舟を出してもらった慈海は、早速釣り糸をたらす。真っ青な海と、抜けるような青い空に僅かに目を細めて、にっこりと笑った。海風をたっぷりと吸い込んだ所で、竿にぴくりとあたりが入り、さらに笑みを深くする。皆で後は浜焼きでもしたら美味しいかもしれないと、銀色の腹を見せて釣りあがった魚を魚籠に入れるのだった。
 
 僅かに秋の気配はすれど、夏の思い出を作るのはまだ間に合う。
 浜辺には、退治終了の看板を見て集まってきた観光客の歓声がざわめきとなって空に溶けていった。