秋の味覚狩り

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月18日〜09月22日

リプレイ公開日:2007年09月26日

●オープニング

「山葡萄に、アケビに、栗。茸取り放題」
「その変わり、松茸を探せって言うんですかっ?!」
「この通りでさあっ!」
「私を拝まれても‥」
 江戸から少し離れた料理自慢の旅館がある。その旅館には、少し声の大きなおっちょこちょいな下働きの男が居た。あいも変わらず大きな声で、頼むからっ!と、受付を拝んでいる。
 旅館の地所に、一山ある。その一山では質の良い松茸が採れるという。
 だが、やっとの思いで手分けして取ってきた松茸が全滅したのは、男だけのせいでは無い。
 たまたま、外の井戸の前で松茸のゴミをとって、軽くふきんで拭いている時に、たまたま、お客さんの馬を連れた新人がやって来て、たまたま、馬の手入れの講釈をひとくさり喋っていたら、たまたま、馬の排泄物が‥‥‥。
「団体さんがおみえになるまでに、何とかっ!なんとかこのとおりでっ!」
「どうして、飲み水の井戸に馬連れて来るんですか」
「新人だったんですよぉっ!裏に連れてけって、初めて言われたらしくて、どっちか聞かずに、当たりをつけた方に来ちまったみたいでして!」
「‥貴方みたいですね」
「へい!‥じゃなくてですねっ!松茸以外の味覚でしたら、そらもう手に余るほどありますから、何だったら炊き込み飯のおにぎりもつけますしっ!」
 どうやら、このおっちょこちょいな下働きの男、仲間からはしょうがないなと、それなりに愛されているようで、ざらりと出した依頼料は一人では出せない金額だった。
「女将さんにバレる前に何とかっ!」
「‥バレてると思いますが‥」
 受付は、大声の男に苦笑しつつ、聞こえないように呟いた。そうして、依頼書を作成しつつ、何事かと顔を向ける冒険者達に声をかけたのだった。
「秋の味覚食べに行く人〜っ」
「違いますって!松茸探して欲しいんでさあっ!」
「松茸が食べれないのは業腹だけど、他の秋の味覚食べに行く人〜っ」
「勘弁してくだせぇっ!」

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2563 ガユス・アマンシール(39歳・♂・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea5979 大宗院 真莉(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7242 リュー・スノウ(28歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb2545 飛 麗華(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3367 酒井 貴次(22歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb6966 音羽 響(34歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec3613 大泰司 慈海(50歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●秋の味覚の収穫
 秋の深まった山は、渡る風もひんやりとしていた。だが、徐々に高くなる陽は、まだ充分な暑さをも届けて。
「依頼人殿、それでは松茸を入れる籠を貸していただけるかな」
 問題の料理旅館の裏手で、ガユス・アマンシール(ea2563)をはじめとする、冒険者ご一行様が、にこやかに出迎えてくれる女将さんから採取の為の籠を借り受けていた。ぅえ。とか、ひしゃげたようなうめき声を上げる依頼人には、冒険者達は密かに合掌していたりする。しかし。依頼人がどう女将さんに料理されるかはさておいて、まずは秋の味覚狩りを満喫しなくては。
 ギルドにこだまする秋の味覚食べに行く人〜っの、声に、良い返事で手を上げた大泰司慈海(ec3613)は、にっこりと笑うと依頼人の男に、自分の籠を、はい。と手渡す。挙動不審で女将と慈海を交互に見比べると、女将はひとつ溜息を吐いて頷いた。
「連行ね♪」
 元気出して行こう?と、慈海は男の肩をぱむぱむと叩き。

 秋の陽射しを浴びながら、のんびりと山を歩くのは瀬戸喪(ea0443)だ。
「ばれちゃってましたね」
 くすりと、顔面蒼白の依頼人を思い出す。松茸も興味が無いわけではないが、特に探さなくても良いかと思うのだ。何しろ、ばれている。少し分け入ると、蔓があった。甘い香りで、その先にあるものが予想出来る。
 薄い紫に染まる山葡萄をいくつも籠に入れると、山葡萄の向うに、やはり淡い紫を、乳白色の温泉に溶かし込んだかのような色合いの実を見つける。アケビだ。ぱっくりと割れた大人の手の中に入るほどの大きさのアケビは、淡い紫の皮の中に、とろりとした白い実がこぼれそうに見える。黒い小さな種が、沢山実の中に見える。アケビを選んだのは喪だけであり、不思議な食感の果物が饗されるのは喪のおかげであった。
「この白いのが甘いんでしたっけ」
 くすりと、笑うと喪は聞いてきた通りに、その白い実を口にする。ねっとりとした食感と、ほんのりと淡い甘さが口に広がった。スイカの種を出す要領で、細かい種は出し、空を仰いだ。真っ青な高い空に、白い雲が僅かに流れて行き。

「ばれてしまっていると思いますが、失敗を怒らないでやっていただけますか。失敗を隠そうとしたことを怒って、それを何とかしようとした彼と彼らの仲間の努力を褒めてあげるのがより成長につながると思います」
 籠を受け取りながら、女将に真摯な態度で告げる大宗院真莉(ea5979)は、こうして手伝ってもらえるという事ですしと、女将が笑うのを見て、何も心配する事は無いのだと悟った。では行ってきますと、籠を背負い。
「山の散策とは楽しそうですね」
 そう、微笑んだ。おいしいものも食べれるとは、至れり尽くせりだと、籠を背負う手に力が入る。まだ、本格的な秋には程遠く、紅葉が山を染めるには時期が早かったが、小さな紅葉はほんのりと色をつけており、なんとなく手に取った。
 僅かに開いた半目をさらに細め、やはり、僅かに色をつけはじめた山を瀬崎鐶(ec0097)は眩しそうに見た。
「‥‥桔ちゃんも誘えばよかったかな。後悔先に立たず、だね」
 清々しい空気を吸い込み、やわらかな腐葉土を踏みしめて、足の向くまま、気の向くままに歩きながら思うのは、恋人の事。つい一人で来てしまったが、一緒に来たら楽しかったかもしれないと思いを馳せる。木々につたう蔦から下がる葡萄。はじけた栗。
「‥‥こんな場所で、御茶飲むのもいいかもしれない‥‥ 絵を学んでおくべきだったかな‥‥」
 灌木を掻き分け、調べたり聞き込んだりした場所を丁寧に探すと、様々な種類の茸を籠に入れ、かなりの収穫になった。

 一方。松茸をと願う者も居る。秋の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んでいるのはリュー・スノウ(ea7242)だ。
 個人が出すには決して安くは無い依頼料。それを好意で出してくれるという店の人の気持ちを思う。大事にされている人なのだろう。ならば、ちょっと頑張ってみようと思うのだ。松茸と言う茸について、調べられるだけは調べれば、リューにとっては収穫したも同然である。フロストウルフのぽちを撫ぜると、微笑んだ。
「目指すは松茸‥と欲張ってみましょうか」
 森の民でもあるリューは、嬉しげに山を見た。
「松茸というくらいだから松の木の近くにあるのか‥?」
 事前に聞き込んだ、松茸の生息する場所を九竜鋼斗(ea2127)は反芻する。
「うむ。松茸、秋にアカマツやコメツガ、ツガなどの林の地上に生える。まれにクロマツ林にも生えるか」
 ガユスの豊かな知識から導き出される松茸の生息場所。
 よほどの事が無ければ、松茸などは取りに山には入らない。しかし、今回の依頼を聞いたら、後学の為にやってみたいものだと思ったのだ。何よりも、依頼人が気の毒な顔をしていたのを思い出す。
「書物からの受け売りが何処まで通じるか。やるしかないな」
 知識も下準備も充分な彼等だったが、収穫した後の山の中では、そうは見つからず。それでも、どうにか予約客以上の松茸の収穫を得る事が出来たのだった。
「うーんと‥」
 松茸に挑戦中の酒井貴次(eb3367)は、占いの道具で首を捻っていた。地図が無いのだ。大体こんな山と書いてはもらったが、何しろ松茸は菌糸類である。その範囲は広く、しかりとダウジングペンデュラムは場所を指し示さない。
 しょうがないので、籠を背負い、仲間の後についていく。松茸が取れないのなら仕方が無い。葡萄も栗も、美味しいのだから。
「一緒に行くよ〜♪」
 同じように、松茸狩りを、軽くがんばってみようかと思っている慈海は、依頼人の男と一緒ににこにことついて行く。だがしかし。知識を得ては居たが、松茸は容易には見つからず。その変わり、ふたりは沢山の栗を手にする事になる。
 
 栗を収穫してきた飛麗華(eb2545)は、早速厨房を借りて下拵えを始める。調理の腕が振るえるのが、嬉しくて仕方ない。ざっと米をとぐと、水の変わりに出汁を張り、綺麗に剥いた栗を入れる。山菜や茸を入れても良いのだが、ここは栗の甘みと出汁の味で引き立てたい。大きな釜を借りて、火加減に細心の注意を払う。
「おいしい栗ご飯を作りますよ」
「私は栗きんとんを作りますわ」
 どうやら、舌に残る栗きんとんの味があるようで、音羽響(eb6966)は大量に収穫してきた栗を厨房にざらりと出した。竹の長い割り箸で器用にイガ栗を拾い集めたのだ。イガから大きくてつやつやした栗を出すと、旅館ならではの大きな土鍋を借り受ける。土鍋で煮る栗は柔らかく早く煮える。
「あら、まぁ。困ったものですけれど、そのご様子ですと、皆さん、お見通しのようですね」
 とほほの顔をしている依頼人に笑いかけ、栗剥きを手伝ってもらい、柔らかく煮上がったら、今度は裏ごしだ。流石料理旅館。職人達が腕を振るった木枠である。大鍋いっぱいうらごしすれば、栗の旨味を損なわない、僅かな塩と砂糖で味を調えながら、練って行く。練り上がれば、奇麗な布巾で絞られた、可愛らしい茶巾絞りの栗きんとんの出来上がりだ。

●秋の味覚をお腹いっぱいに
 収穫を存分に楽しんだ冒険者達は、旅館の中庭に秋の味覚を積み上げた。
 紫色にたわわに実る小粒の葡萄を目の前にして、じっと考え、酷く真面目な顔をして、鋼斗がぽそりと呟いた。
「こんな話を知っているか? ある武道を嗜む者が友人に聞いた。『私の好きな物を知っているか?』すると友人はこう答えた。『…葡萄か(武道家)?』ってな」
 途端にその場に居た者達は、真っ白な吹雪が見えた。ような気がした。
「ええっと、兄さんっ?!」
 僅かに凍った空気をわたわたと依頼人の男が消そうとするが、鋼斗は涼しい顔だ。駄洒落とは、つまらない事に意義があり、冷えた空気はドンと来いだったらしい。
 ホウキタケを沢山取ってきたのは鐶である。松茸の生息する山には必ずこの茸の姿がある。旦那と女房のようなものでと、女将が笑う。初茸、平茸、青老茸。初めての茸狩りならば、この手の茸を手にするのが一般的だろう。湿った茸で食用に適する茸も多いが、素人さんは中々手を出さない。ああ、これは駄目と、はじかれたのはツキヨタケにコテングタケ。僅かに毒性があるが、見た目は美味しそうな色合いだったりする。
「流石に‥赤いのは取らなかった‥」
「ああ、そりゃきっと紅天狗茸でさあ」
 そうかと頷く環。さあさあと、女将がそれぞれの手に少し大きめの包みを持たせ、この馬鹿に教えておきましたからと送り出す。この馬鹿‥依頼人は、お茶の入った竹筒を沢山抱え、冒険者達を先導する。
「これは‥見事な」
 ガユスは、案内された見晴らしと陽当りの良い高台で目を細める。乾いた草が自然の絨毯のようであり、小さな蝶がちらちらと飛んでいる。
 ひろげられた弁当は、栗ご飯のおにぎりに、沢山の茸のおにぎり。欠かせないのが鮮やかな黄色の玉子焼き。夏の名残りの川魚の佃煮。栗きんとんもちゃんと入って。アケビには木のスプーンが添えられて、器の中で上品に鎮座する。
「秋は食べ物がおいしいです」
「甘い‥」
 外で食べるとまた格別に美味しい。遠くまで見える山並みを見ながら、真莉が微笑み、初めて食べるアケビにリューが手を口に当てて嬉しそうに目を細め。喪は茸のおにぎりを一口食べて、同じ味付けのはずなのに、何種類もの茸の味が広がる様を楽しんだ。黄色い大粒の栗がごろごろと転がるおにぎりにかぶりついたのは貴次で。味わい深い出汁と、ほんのりと甘い栗に、笑い出しそうになる。いいよねと、慈海は酒を飲める者に注いで回る。おにぎりと酒はどうしてこんなに美味しいのだろうと嬉しそうに笑う。環は静かに御代りと手を伸ばす。腕をふるった麗華が満足そうに頷いて。響は、栗きんとんを嬉しそうに口にしたのだった。
 吹き抜ける秋風と陽だまりの中、秋の味覚狩り‥もとい。依頼は美味しく‥つまり、みんな幸せになったのだった。