風祭りの夜

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:09月18日〜09月23日

リプレイ公開日:2007年09月25日

●オープニング

 毎年決まってこの時期には、嵐が来る。
 強い雨風は、せっかく実った稲や、農作物に祟る。
 だから、嵐が来ないよう。来ても、被害が少ないようにと、祭りをするのだという。村の辻毎には、小さな石に渦巻きの紋様が刻まれている。この村は、風の通り道。毎年生半可な暴風じゃないという。
 家の棟木の両端に風切り鎌を外向きに立て、神社から出た獅子が、獅子舞を踊り村中を練り歩く。獅子は、辻毎の渦巻き石の前で、ひと踊りし、風車を立てて次の石に行く。そうして、拍子木を打ち鳴らし、鈴の音を響かせて、一日中村の辻という辻を回り、神社に帰るのだ。
 雄獅子と雌獅子が神社を出て、左右に分かれる。左が雄獅子で、右が雌獅子。どちらが早く村の渦巻き石に風車を挿し終り神社に戻ったかで、今年の風の行くへを占うと言う。
「去年が酷い被害でなぁ。今年は、ゲン担ぎに冒険者さんに獅子舞やってもらおうじゃないかってな」
 戦乱の中、己が腕一本で渡り歩く冒険者達は、憧憬の対象である。照れくさそうに笑う老人は、丁度月見にも良い時期だから、子供等とススキを取ったり、団子を丸めたりしないかと言った。
「お祭りと、お月見ですか」
「最近は、ぎすぎすしとったから、こう、華やかなんがええと思ってな」
 ススキと秋の草花を取る場所は川岸になり、水かさが増えているから要注意だと、また照れくさそうに笑った。
 高くなった秋の空と、乾いた清々しい空気。秋の香りを胸いっぱいに吸い込んで。祭りが始まるのだった。

●今回の参加者

 ea8729 グロリア・ヒューム(30歳・♀・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb1795 拍手 阿義流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1798 拍手 阿邪流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 ec2195 本多 文那(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec3813 梁 珀葉(22歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

アラン・ハリファックス(ea4295)/ 朴 培音(ea5303)/ リチャード・ジョナサン(eb2237)/ ユナ・クランティ(eb2898

●リプレイ本文

 獅子舞が神社から出るのは、神様を乗せて行くからだ。
 神様を乗せて、村をまわり、神様の息吹をあちこちに置いて行く。そんな意味もある。
 
 集まってくれた冒険者達を見て相好を崩す村人達。
「あんまり冒険者を買被らねぇこった‥‥子供達によ‥‥妙な憧れ抱かれても困るからな」
 諸手を上げて歓迎する村人達の中で、依頼を持ってきた老人を見つけると、黄桜喜八(eb5347)は、前を歩く仲間達や、寄ってくる子供達を眺めながら、ぽそりと語る。
 自身が冒険者になって思う事があった。あちこちの国を流れて定職に付かず、その身一つを頼りに生きる。刃傷沙汰も半端なくある。身体だけではなく、心にも、痛い思いを沢山するのだ。所詮‥やくざ者。そんな言葉に、それでも、やっぱり冒険者さんというだけで、わくわくするものですよ。このじじいもねと老人は笑う。
 しょうがねぇなと、喜八はつられて笑う。
 太鼓の音が、神社のあるという方向から響いてくる。その響は、音として耳に入るだけではなく、身体に心地良く響く。それだけでも厄払いの意味があるのだろう。
 
 明王院未楡(eb2404)と明王院浄炎(eb2373)夫妻は、共に考える事は同じのようで、仲良く村に先乗りをしていたふたりのおかげで、特に説明を聞くまでも無く。
 雌獅子の組で、歩きながら、子供達に、お祭りを教えてもらっているのは本多文那(ec2195)だ。何しろ、お祭りは毎年行われる。そうしたら、たとえ十歳の子でも、かなり年季の入った先輩という事になる。自慢気に話す子供の話を、うんうんと、文那は楽しそうに聞く。首の長いトカゲ正信は、さすがにまずいと、年寄り達が預かった。次は連れてくるわけにはいかないだろう。
「うん、そうだよ。神様が獅子に乗ってるから、下に下ろしちゃ駄目なの」
 それにしても、獅子頭は重い。冒険者ならともかく、一日持っているのはかなりのものだろう。
「ずっと持ってると疲れるだろ?」
「辻石の上に置いてね、お休みしてもらって、また動くんだ」
 下においてはいけないが、御宿代わりに数箇所ある辻石の上を借りるのだろう。それなら、休み休み進める。拍子木を打ちながら、文那が頷く。足は遅くなるだろうが、疲れが溜まる事も無い。だが、今回は雄獅子も雌獅子も、冒険者が担ぐ。勝負なのだ。やるからには勝ちたいとも思うけれど。お祭りは、参加するだけでわくわくする。文那の笑顔に、子供達も笑顔を返し。
 吹き込む秋の風は、思ったよりも強く、風車を勢いよく回す。梁珀葉(ec3813)は、からから回る風車を、さらによく回るようにと風向きを気にして渦巻きの紋様が、ひとつ彫られている辻石の前に挿す。
「こういうお祭りで、災害や、それによって人が悲しむことが無くなればいいと思うんだ」
「お姉ちゃん上手に挿すね」
「そう?」
 真剣な顔をしている珀葉の、見事な銀髪や空の青をうつしたかのような瞳が綺麗で、子供達はわらわらと寄って来て、話しかけたがり、触りたがる。この村では、珍しいからだ。嬉しげな子供達の顔を見て、がんばらないといけないねと、少し接触の多さにどきどきしつつ、笑顔を返す。
 鮮やかな緋の髪を豆絞りでたばねられたグロリア・ヒューム(ea8729)は、獅子頭を被る。中が大きくくり抜かれた獅子頭は、顎が上下に動き、その口から前が見える。拍子木の音より僅かに低い音が、口を開閉する度に鳴り、その音も祭りの音として調和し、空に溶けていく。事前に教えてもらった踊りは素朴な足踊りであったが、グロリアが踊れば、これが同じ踊りかと思うような、華やかな雌獅子の舞になる。ふわり、ふわりと背に舞う布を子供達と未楡が阿吽の呼吸ではためかせれば、獅子が本当に降りてきたかのような錯覚さえも覚え、覗きに来ている村人から、やんやの喝采が上がる。
 そして、丁度村の半分に差しかかるという所で、僅かに早く回ってきているような雄獅子がすれ違った。拍子木の高い音が誇らしげに響くのに、珀葉はひとつ深呼吸をし。
「雄獅子には負けないからな!」
 そう声をかければ、雄獅子からも返事があがる。
「雌獅子に負けたくねー」
 雄獅子頭を開け、拍手阿邪流(eb1798)がにやりと笑うと、獅子頭を大きく振って、がくがくと鳴らせば、その荒っぽさに、声を上げて笑いながら、子供達は大げさに怖がって散っては、もう一回やってと寄ってくる。
「驚かねーなー」
「子供は、こういうものが好きだからな」
 赤ん坊なら別だがと、浄炎が荒っぽい阿邪流の動きを勇壮に見せようと、緑に染め抜かれた布を楽しげにはためかせる。舞に関しては、僅かに雌獅子が上といった所かと、優美に練り歩く雌獅子を見送りつつ思う。もう一点、雌獅子が上の事があった。
 溜息を吐きながら、拍手阿義流(eb1795)が 風車を回った辻石の前に、挿していた。
 精霊が気になる阿義流は、何度目かの痛手を受けていた。飼っていた蜥蜴のセイリンの成長を楽しみにしていたのだが、どうやら彼の思うような成長を果たさなかったようなのだ。
 はぁ。
 何度目かの溜息が漏れる。
 依頼での失敗も胸に堪えていた。何もかも、ついていない。そう思えて、また、溜息を吐く。気晴らしにと、弟阿邪流が誘ってくれた祭りではあるが、祭りの空気に乗れず、ひとり空間を別にする自覚はある。だが、どうにもならないのだ。
 そんな兄阿義流を見て、阿邪流もしまったなと、心のうちで溜息を吐いていた。祭りのにぎにぎしい気にあたれば、少しでも気が楽になるのではないかと思ったのだが、どうやら裏目に出まくっている。
 ───兄貴、かなりウザってぇ!
 どこか気の抜けた笑みで、あらぬ方向を向いて風車を挿す阿義流に、阿邪流は、心の中で叫ぶのだった。
「ま‥‥あれだ。足回りでは負けねぇだろ‥‥」
 喜八が、拍子木を叩きながら、ぽそりと呟いた。
 踊りなどは完全に負けていた雄獅子だったが、その速さでは、雌獅子を上回り、今年の勝ちは雄獅子となったのだった。

「川から『ゴロンゴロン』って大きな音が聞こえる事がある‥‥知ってるか?‥‥ありゃ〜岩が水に流されて転がる音だ」
 増水した川縁に、ススキが群生している。
 つやつやした銀色の穂は、もうじき綿をふき、ふわふわの頭になるのだろう。それを上手に取りながら、喜八が子供達に川の怖さを教えている。穏やかな水も、場合によっては酷く危険になる。喜八ですら川に入らないと聞けば、子供達は顔を見合わせ、ぜったい近付かないと口々に言う。
「いざと言う時、何を成せるか‥その時こそ、その者の勇気が判るものだ」
 浄炎が、子供達に、冒険者の心得を語る。無謀さは勇気では無い。冒険者も万能では無いからだと。成す責任に伴った行動をと語れば、子供達は大きく頷き、それを見て浄炎は笑顔を見せ。
「大きな木に小さな花ね‥」
 グロリアが、摘むのは萩の花。大きな木であっても、控えめな花である。小さな蝶のような赤紫の小花がしなるように枝に咲いている。花を摘みながら、増水した川を子供が覗き込まないかとよく視線をめぐらし。
 昇ってきた月を見ながら、珀葉は、ふらりと仲間から離れて、銀色に光るススキの穂を眺め、せつなくて、泣きそうになっていた。秋の空気は物悲しい。暑いくらいの昼から、いきなり涼しさを伴う夜に変わるせいだろうか。もう、祭りが終わったかのような気分になって、目頭を押さえる。
「おねえちゃん、どうしたの?」
「う‥どうもしてないよ?」
「ほんと?」
 あっちいって皆で飾ろうよと、ススキを手にした珀葉は、半べそかきながら、子供達に手を引かれ。小さい手のひどく暖かい事に涙がぽろりとこぼれて落ちた。
「これどうすれば良い?」
「そうですわね。では、こちらへ‥」
 未楡が手伝う様を見て、文那もそそっと手を出す。あまり、慣れない事だけれど、ちゃんとお手伝いはしておきたいと、団子の乗った三方を月のよく見える場所へと運んでいく。
 絹被ぎに、豆腐。丸いものと、白い物が善に盛られ。摘んできたススキと萩が、あちこちに飾られ。未楡は、せっかく呼んでもらったのだからと、秋刀魚を刺身にして、塩を振り、僅かに油をからめ、スダチを絞り。見たことの無い手法に、村の女達は喜んだ。それよりも先に、僅かだが、身なりを整えてもらったのが、とても嬉しかったらしく、未楡さん、未楡さんとあちこちで嬉しげに呼ばれていた。
 無事月見の準備も終わりかけの頃、喜八が風呂を焚いてもらっていた。その手にするのは、握り拳位の大きさの黒く湿気を帯びた魔法の石。どうやら、これを握って湯につかれば、温泉気分を味わえるとかで、男達は子供等をかかえつつ、入れ替わり立ち代りお礼をいいつつ湯気の下、僅かな温泉気分を楽しんだ。
「お月さんの邪魔しちゃなんねー‥」
 夜空に上がったのは、僅かに黄色を帯びたまん丸の月。満月の光が煌煌と村を照らす。燐光のアオイと、金色の羽根持つりっちーを手元に呼び寄せ、月を眺め。
 阿邪流の連れた赤い羽根持つヨウヒの口調は阿邪流だったりした。それもご愛嬌である。ご愛嬌にならないのは阿義流で、月を眺めながら妖精を連れた二人を哀しげに見たりもしていた。
 
 座がひと段落した、静かな縁側で明王院夫妻は静かに寄り添って月を見ていた。冷え込む夜風から未楡を守るように、自分の半纏を彼女にかける。
「疲れたか?」
「いいえ?楽しかったですわ」
「そうか」
 横に居るだけで安心する、この人が居てくれて良かったと、未楡はかけられた温もりに微笑み。
 ねぇ?と、未楡に微笑まれると、浄炎は少し困った顔をしたが、その懐に深く彼女を抱き込んだ。
 鈴虫の声も響く、静かな夜。満月の月影の中、ふたつの影はやわらかな口付けと共にひとつになって、穏やかな影を落とし。
 秋の風が、村を渡って行く。
 獅子舞は、神様の息吹をあちこちに置いて行く。月が、神様が、村をそっと見守るのだった。

●ピンナップ

明王院 未楡(eb2404


PCツインピンナップ
Illusted by 響 零