和尚様のお願い

■ショートシナリオ&プロモート


担当:いずみ風花

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:08月27日〜09月01日

リプレイ公開日:2006年09月02日

●オープニング

 江戸から徒歩で二日ほどかかる、そこそこ大きな村のそこそこ大きな寺で、ちょっとした押し問答が繰り広げられていた。
 小坊主が、和尚に泣き付いたのだ。
「お化けが出るんですぅ!」
「たわけ!坊主が怖がってどうする!」
「和尚様は、夜のお使い行ったこと無いから、知らないんですよぅ!」
「たわけ!ワシが使いに出たら、出先が気を使うわ!」
「お願いします!一泊させて下さいっ!」
「たわけ!使いに行った先でお世話になってどうする!」
「私だって命は惜しいです!」
「ふーむ」
 最初は、小坊主が、隣村へのお使いに出るのが嫌で、煙に巻こうと思っているのではないかと、和尚は考えていた。だが、半べそをかいて、手を握り締めている小坊主の姿に、少し考え直す事にした。
 幸い、今は盆である。
 やってくる檀家の方々に、小坊主の怖がる、隣村との間にある峠の話しをそれとなく聞くと、出るわ出るわ。
「あら!和尚様、ご存知無かったの?冷たいモノが首筋に触れて、がっくり倒れそうになって、命からがら帰ってきたそうですわ」
「ええ、知ってますよ和尚様、かたかたと、骨の鳴る音に、慌てて逃げ帰って来たんですもの」
 どうやら、日が暮れてから、明け方まで、峠に怪異が起っているようである。
「お盆ですものね。そうだ!和尚様!和尚様が拝んで差し上げては?」
「む」
 和尚は、光を反射する頭をぺちんと叩いて、顎鬚を引っ張った。
 確かに、寺は管理しているが、退魔は管轄外だ。
 旗色が悪くなった和尚は、こっそりと、冒険者ギルドへと、噂の聞き取りを行った、詳細な文を送った。

 峠に夜起こる怪異を鎮めて下さい。出来るならばこっそりと。

●今回の参加者

 ea2396 ティアリス・レオハート(33歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea8763 リズ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9327 桂 武杖(40歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb2408 眞薙 京一朗(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb4629 速水 紅燕(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5002 レラ(25歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb5817 木下 茜(24歳・♀・忍者・河童・ジャパン)
 eb5862 朝霧 霞(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

マグナ・アドミラル(ea4868)/ アド・フィックス(eb1085

●リプレイ本文

●和尚の書簡
「あの‥‥が、頑張ります‥‥」
 リズ・アンキセス(ea8763)の、伏せ目がちな挨拶を、落ち着いた雰囲気のある朝霧霞(eb5862)が、ゆったりと微笑み返す。
「京の侍、朝霧霞と申します。よろしくお願いします」
 大柄な霞だったが、そこかしこに、可愛らしい物が見え隠れし、落ち着いてはいたが、可愛らしい雰囲気も滲ませていた。
「遅参申し訳有りません」
 走ってくるのは、木下茜(eb5817)だ。
「和尚殿の書簡は、皆、目を通したと思うが」
 確認を取る眞薙京一朗(eb2408)に、レラ(eb5002)が頷く。
「さまよえる霊達‥‥ですか。本来いるべき場所に帰れないというのは可哀想ですね‥‥では、無事に送り返して差し上げなくてはいけないですね‥‥」
「討伐は深夜、峠を往く者が途切れてからで良いかな」
 京一朗が皆に聞く。
「出来るだけ、深夜帯に退治した方が良いでしょうね」
 茜も、ようやく、書簡を読み終わると、緑の瞳を大きく見開いて頷いた。
 和尚の書簡には、村人が出会った怪異が、こと細かく書き記され、それにより、出現する怪異の推測が立つのだった。
「あの‥‥たぶん、冷たい‥‥感触の‥‥は、怨霊‥‥だと思います‥‥カタカタ鳴るのは‥‥怪骨‥‥」
 人が苦手なリズだったが、仲間には馴れたいと思っている。なので、一生懸命、自分の知り得る知識を伝える。その、リズの言葉を、仲間達は、聞き漏らさないように頷いて聞いてくれていた。彼女の知識は仲間内で一番確かなものであったからだ。
「聞いた感じでは狙って攻撃するよりは力技でねじ伏せたほうが良さそうだ」
 怪骨と、怨霊退治。桂武杖(ea9327)は、呟くと、腰に佩いた刀を、そっと撫ぜるのだった。

 
●怪骨と怨霊
 速水紅燕(eb4629)は、峠で聞き込みをしようと思っていた。仲間の為に、一番新しい情報を手に入れたかったから、結果として、ひとり、先行することになってしまっていた。
 だが、峠に着いた頃には、もう日も暮れかけており、道行く者の影すらも捕まえることが出来なかった。ここは、これから、噂の時間帯に入るからである。
「嫌な空気になって来たわ」
 紅燕は、僅かに残る夕焼けを赤い右目に受けて、眼を眇めた。
 日が落ち始めると、峠近くの温度が、急激に下がったかのようだった。山間なので、日暮れれば、気温は下がるものなのだが、紅燕の感じたように、嫌な冷え込みが足元から寄ってくる。
 慎重に坂を上り、峠にさしかかると、かたり。かたりと、乾いた音が響きはじめた。紅燕の馬が、酷く怯えた嘶きを上げる。興奮する馬の手綱を持ったまま、戦いは出来ない。仕方なく、馬を放すと、来た道を、駆け去って行く。あとで捜してやれば良いかと、紅燕は、音のする方を警戒しながら、じっと見た。
「出よったか?」
 紅燕の身体が、淡く赤く、先ほどの夕焼けのような色に発光する。
 峠の向こうから、夜目にも白い怪骨が、二体、かたかたと歩いてくる。一体は、その手には生前身に付けていたであろう、ぼろぼろに崩れた防具と錆びた刀が握られていた。
 紅燕が何度目かの赤い発光を終える前に、怪骨達は、彼女にその錆びた刀を振り下ろした。
 隙だらけの動きではあるが、二体同時に襲い掛かられてはたまらない。ざっくりと、錆びた刃が、紅燕の肩を切り裂く。かくり。と、開いた口が、笑うかのように彼女に迫った。

 馬が駆けて来た事によって、冒険者達は、誰かが、怪骨か怨霊に出会ったのを知った。駆けて来た馬の怯えは、同行する動物達にも伝わり、方々へと逃げていく。だが今は、それ等を探すのは後回しにしなくてはならないだろう。
 襲われている人が居るのだから。
 峠まで間に合うか。
 濃紺の夜空には、細い三日月が浮かぶ。
「無事か?」
 最初に辿り着いたのは、先頭に居た武杖である。淡くピンクに発光し、腰の刀を抜刀する。
 新たな獲物に、喜んでいるのか、怪骨は、一瞬その動きを止めて、かくりと口を開ける。その怪骨に、武杖の刀が薙ぐように打ち込まれる。ずっしりと硬い感触が武杖の手に伝わった。刃毀れを考えて、峰打ちにしているが、十分に手ごたえはあった。
 がしゃり。と、装備の無い方の怪骨が崩れ落ちる。完全に倒れたともいえず、まだ、かたかたと骨は鳴る。
 レラが、刀を振り上げる怪骨の腰骨を狙い、抜刀する。その動きで、長い髪が、ざあと流れる。
「‥‥骨ですので、腰骨を破壊すれば起きあがれないと思いますが‥‥」
「そうですね。足を狙うか、頭を狙います」
 茜が、レラに頷くと、河伯の槍を軽く振った。水中では無いが、そこそこ打撃の攻撃は効くだろう。
「こちらです!」
 茜が、レラから注意を逸らせようと、大きく槍を振るう。
 それに気をとられて、大振りの錆びた刀が、茜に向かった。その隙に、レラの一撃が、ぎちっぃ。と音を立てて、怪骨の腰骨に打ち込まれた。怪骨は、ぐらりと傾いだが、僅かに力が及ばない。突く事をせず、薙ぎ払うように河伯の槍を打ち付ける茜だったが、打ち倒すまでにはいかず、口元を引き締める。
「まかせろ」
 茜とレラの合間をぬって、武杖がその大きな身体から、懇親の一撃を再び打ち込むと、鈍い音が響き渡り、怪骨は倒れた。
 京一朗とリズと霞が、追いつくと、霞が、崩れ落ちた怪骨が起き上がらないよう、確認の意味を込めて止めを刺した。これで終わりでは無い事を、皆知っているのだ。
 その、緊張した気持ちに呼応してか、また、一段と冷たい空気が辺りを包んだ。
「くるぞ」
 かすかに聞こえる、かたかたと骨の鳴る音を聞き取り、警戒していた京一朗が、背後を確認しつつ声をかける。峠の向こうから、再び、二体の怪骨が現れる。今度は、二体とも獲物は持っていないが、その空洞の眼窩は、冒険者達を捕らえているかのようだった。
「上だ!」
 陣形を整えていた冒険者達の真上に、怨霊は現れた。
 峠では、人も霊も、何もかもが迷う。
 迷い、何処にも帰れない、この怨霊を還してやらなくてはならないだろう。濃紺の夜空に浮かぶ、青白く燃える炎は、怒りと悲しみに満ちているようだ。
 リズが、道返の石を取り出し、詠唱を始める。だが、真上に現れた怨霊は、炎を震わせ、リズに襲い掛かる。
 倒れていた紅燕が、その身を炎の鳥に変えて、怨霊めがけて飛び掛る。赤い炎にあおられて、ぐらりと揺れて高度を下げた青い炎は、京一朗の霊斧に打ち込まれ、一瞬炎を大きくしたが、今度は、腰の据わった霞の刃を受ける。
「迷っては、いけませんよ!」
 震える青白い炎は、一端、上空に上がると、再び急降下を始めた。狙いは、二体の怪骨と戦う小さなレラだった。怪骨と戦いながら、怨霊を気にしていた茜だったが、その手の武器では、怨霊に効果的な一撃を与えることは出来ない。
「っ!レラさん!」
 怪骨も、かなり弱ってはいたのだけれど、まだ、二体とも崩れ落ちる事は無く。
 道返の石の詠唱を、リズは諦めていた。結界を張るには、その詠唱は長くかかりすぎるのだ。自分を守る為に、仲間が危険に去らされては、意味が無い。
「‥‥だ、駄目よ‥‥」
 淡い緑色の残光が消えるその手から繰り出されるのは、空に浮かぶ月の形の刃である。狙い違わず、吸い込まれるように青い炎に三日月の刃が刺さると、青白い炎は、四方八方に散るように消えていった。無事、還ったのであろう。
 一方、鈍い音が何度か響くと、二体の怪骨も、その形を保つのが難しくなったのか、からからと、地面に落ちて行く。
 レラが、刀をしまうと、手首を回す。技も必要だが、力もいったのだ。それは、茜も同じことのようで、二人は痛めた手首をさすりながら、顔を見合わせて、くすりと笑う。
「終わったかしら‥」
 霞が静かになった、辺りを見透かすように目を細めて辺りを見回す。
「大丈夫そうだ」
 惑いのしゃれこうべを取り出して、周囲を探っていた京一朗が皆の下へと戻ってくる。この辺りには、もう彷徨う怪骨や怨霊の気配は無いのだと。
 怪我をしている者も居たが、おおよそ、大事無く、冒険者達は、夜が明けるのを待つことにしたのだった。

●和尚への報告
「ぶ、無事に、一件落着だと‥‥いいです‥‥」
 リズが、ほうと、寺の近くの木立の中で息を吐く。
 なんとか、仲間内にはなじむ事が出来たが、和尚に報告ともなると、知らない人にもたくさん会う。それは、まだ早いと言われているし、やはり緊張するので、リズは報告が終わるのを待っているのだった。

 その頃、寺には華やかな一団が面会を求めていた。冒険者達が、武具のお祓いに来たのだという。
 そこそこ大きな村なので、冒険者を見た事も無いというわけではないが、やはり物珍しいのか、時折、誰かが覗いては帰る。
「誠に。ううむ。誠に」
 和尚は、ひげをひっぱり、頭を撫ぜ、唸りまくる。冒険者達の訪問が、無事、怪異の解決となったのを察したのだが、いかんせん。人目がある為に、おおっぴらにお礼の言葉が出ない。
「あまり無茶はなさらぬ様」
 武具のお祓いと称した京一朗が、こっそりと耳打ちする。
 和尚は、軽く咳払いすると、京一朗にだけ聞こえるように「すまなんだ」と、呟いた。
「機を見て逃げるのは間違いじゃない、自分の限界もみないで進むのは長生き出来ないだろうからな」
 誰に言うとも無く、穏やかに微笑むのは武杖である。無理な事は無理だと、承知し、出来る事と出来ない事を、きちんとわきまえている人は、個人的に好きなのだ。
 そんな武杖に、眉をあげて答えると、和尚は、立ち上がった。
「すまんが、経文をあげに行く場所があってな。皆さんに、共を頼んでも良いかの?」
「喜んで」
 そう、口々に言う冒険者達に頷く和尚を見て、柱の影からこっそりと、小坊主が尊敬の眼差しを向けていた。

 こうして、無事、怨霊と怪骨は退治され、そこそこ大きな村の、そこそこ大きな寺の和尚の面目は立ったのであった。