川原にて。

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月29日〜12月04日

リプレイ公開日:2007年12月06日

●オープニング

 秋の日の陽だまりの中、のんびりとお弁当を持って、散策に出かけるのは楽しい。日が暮れるまでお気に入りの場所で遊べば、それだけで元気が出るというものだ。
 そんな川原が複数の村の丁度中間ぐらいの場所にあった。その川原は、石投げに適した石が沢山あり。
 平たくてすべすべで、よく水を切る石。
 水飛沫を上げて飛んで行くのを見るのが好きだ。思い切り投げて、叫ぶのが好きだ。十連続とかしたら、最高だ。子供だけではなくて、大人も、憂さ晴らしをしにその川原ではよくお弁当を持参して、のんびりしがてら石投げをする親子連れが多かった。
「小鬼‥何所にでも出ますね」
「十体の小鬼が、その川原に居座ってるんです」
 小鬼達は、川原のど真ん中で焚き火をしたり、釣りをしたりしている。どうも、その場所が気に入ったみたいなのだ。
 その川原の土手には柿もたわわに生っている。そろそろ、終りがけという事もあり、十分に熟した甘い柿は、鳥につつかれるというよりも、小鬼に収穫されてしまいそうだ。
「癪に障るじゃないですか」
「憩いの場所は、妖にも憩いなんですかねぇ」
 そうかもしれない。
 近隣の村から、退治して欲しいとの依頼が入った。
 殲滅をと。

●今回の参加者

 ea1768 ネリネ・オペディルム(25歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb5093 アトゥイチカプ(27歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 ec2494 マアヤ・エンリケ(26歳・♀・ウィザード・人間・イスパニア王国)
 ec2524 ジョンガラブシ・ピエールサンカイ(43歳・♂・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3065 池田 柳墨(66歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ec3984 九烏 飛鳥(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

七瀬 水穂(ea3744)/ 渡部 夕凪(ea9450)/ 本多 文那(ec2195

●リプレイ本文

●柿木のある土手の上から
 ぽかぽかと暖かい陽射し。今年の秋は長い。紅葉も未だに赤や黄の深い色合いを森に広げて。吹く風も僅かに涼しくはあるのだが、厳しい寒さとは裏腹である。森に囲まれた場所のせいかもしれない。
 しかし。暦の上ではすっかり冬。木枯らしは何所。そんな呟きが思わず出てしまう。
「何所の南国やね〜ん‥‥」
 ううん。と、首を傾げる九烏飛鳥(ec3984)は、秋の陽だまりの中、のんびりと散策‥に最初は頷いたが、あれ?と暦を確かめた。確かに、暦の上では冬なのだが、暖かい。深く突っ込んでは駄目かと、まあ、ええかと、一人納得している。
 そんな飛鳥に、マアヤ・エンリケ(ec2494)が蜂蜜のような豪奢な金髪をかきあげると、豊かな胸を揺すって笑う。
「ま〜、いいんじゃな〜い?良く無いのはぁ、小鬼なのよねぇ?」
「そらそやな」
「ゴブリンの癖に皆の憩いの場に居座るなんて生意気だわ‥‥おしおきが必要ね‥‥フフフ‥‥」
 怪しげな含み笑いが聞こえて振り返れば、小さな魔女ネリネ・オペディルム(ea1768)が、それっぽく口に手を当てて笑っていた。ふわりと流れる銀髪が可愛らしいのだが、その表情は、何というか魔女っぽい。宝石のような青い目が楽しげに眇められた。
「全ては理想の実現のため」
 これ以上は詳しく話せない。だが、一つだけいえる事があるとすれば‥‥と、ネリネとはまた別の意味合いで不可思議な笑みを浮かべているのはジョンガラブシ・ピエールサンカイ(ec2524)だ。擦れた雰囲気のジョンガラブシは、ぱさりと朱の髪を指で梳いて跳ね上げると、何かを思い起こすかのように目を閉じた。顎の角度は多分四十五度斜め上向き。その言葉の続きは本人にすらわからないのかもしれない。
 遠くに行ってしまったジョンガラブシを穏やかに眺めつつ、池田柳墨(ec3065)が、小鬼殲滅の人数を補うための罠を作りたいからと、本多文那が、マアヤと小鬼の特徴を語り合うのに耳を傾ける。
「僅かに早い」
「そ〜ねぇ、本気出して逃げられたらぁ。困るのよねぇ」
 小鬼。その種は何よりも、足が速い。戦闘時のマアヤと飛鳥と同等の速度を持つ。上手く足止めをしなくてはならない。
「川は、逃げるにはあんまり向かないよね。逃げても動きがその分鈍るし」
 追うのも、他より楽だと、アトゥイチカプ(eb5093)が小鬼が陣取るという場所を確認する。川原を挟んで左右に森。川はこの際置いておいて、土手から陽動攻撃し、左右に散ったらそこを討てば、余程の事が無ければ大丈夫じゃないかなと。

●穏やかな日差しと裏腹に
 釣り糸を垂らす小鬼。何やらギャッギャと歓談しているかのような小鬼。焚き火跡から、僅かに煙が立ち昇る。ごろりと転がる小鬼も居て。
「ものすごくくつろいでるわ」
 僅かに眉間に皺を寄せ、憮然とした表情のネリネが呟く。
「あれやね小鬼は弱いもの虐め好きやけん、あといかちょぷ‥‥あといちかぷ?‥呼びにくいがなっ!‥‥アトゥイチカプとかはめっちゃ狙われそうやわ。囮にばっちぐーやで」
「ん、俺もそう思うよ、油断してくれたらしめたものだからな」
 川風に明るい赤い髪を揺らし、飛鳥が小鬼に思い当たる事を言いつつ、アトゥイチカプにからりと笑い、手を振れば、アトゥイチカプも、おう。といわんばかりに手を振り返して、土手を下って行く。土手へと小鬼を誘き寄せるのだ。土手側には、魔法の使い手であるネリネと、マアヤ。彼女達の護衛にと、飛鳥が残る。
「せいぜい怯えて見せるとしよう」
 柳墨も残る三人に笑みを向けるとアトゥイチカプと共に、川原へと降りて行く。
「がんばろうな、お父さん」
「お父さんか」
「親子連れに見えないか?」
「見えなくも無いか」
 気弱な冒険者を演じようと思っていた柳墨は、近所の親子連れに見せようと笑うアトゥイチカプに、まあ、それも一計であるがと頷いた。僅かな行動の齟齬はあったが、囮をしようという気持ちは一緒である。今回は何とでもなるだろう。
 おそるおそるといった風情で錫杖、破戒を構える柳墨の後ろから、石を拾うと、えい。とばかりにアトゥイチカプは焚き木の小鬼へと投げれば、柳墨が大げさに怖がって見せる。
「ばーかばーかばーか!」
「怖い怖いっ!」
 下ってきた男の二人連れには、小鬼達はもう気がついており、ざわざわと集まってきていた。
 土手の上には女が三人。丸見えで立っている。動こうとしない彼女達と、気弱な風情の男二人。小鬼達は、ひとかたまりになると、得物を手にして、嫌な叫び声を上げた。派手なペットも見えない。駆け出しの冒険者達と小鬼達は踏んだのだ。何より、こちらには倍以上の数がある。
「来たっ!」
 まんまと釣られた小鬼達の集団に、アトゥイチカプは笑みを浮かべると、後退を始める。逃げる先は、仲間の下。しかし、彼女達が魔法を使いやすいようにと範囲から外れるようにと僅かにそれる。
 小鬼達が簡単に逃げられず、こちらの回避しやすい場所はと柳墨は視線を巡らす。しかし、川原と土手しか無い場所である。とりあえずは、魔法の回避には充分な場所はあるが、それは小鬼が逃走に容易い条件でもあった。
「季節柄ぁぴったりのぉ吹雪なんてどぉ〜?」
「凍えてしまえ‥‥アイスブリザード!」
 わらわらと寄って来た小鬼へと、マアヤとネリネの手から吹雪の魔法が襲う。がくがくと、川原に膝をつく小鬼。
「うん、暦通りやね」
 からからと飛鳥は、笑うと、ほんなら行くでと、鉄扇を構えて、小鬼へと足を踏み出した。
 何体かの小鬼はは二重の吹雪の扇から逃れて我先にと逃走を図る。その足を生かすつもりなのだろう、左右の森へと走り出す。ふふんと肩をすくめると、マアヤの手から水球が飛び、逃げる小鬼の足を止める。
「季節外れのぉ行水もどぉ〜?」
 ジョンガラブシの移動は慎重であった。小鬼達にそれと気がつかせずに上流側の森へと潜む。仲間達の魔法が発動されると同時に愛馬ブラックに騎乗したまま川原へと姿を現した。そちらへと逃走しかけていた小鬼は、長弓、梓弓をきりきりと引き絞るジョンガラブシの姿を見て、慌てて逃走方向を変える。川だ。
「ミーの手から逃げんとするか、それはあるかもしれないが、やってみせても構わないでござろう」
 ふっ。そんな笑いと共に、ジョンガラブシの手から矢が幾本も放たれ、小鬼を襲う。逃走方向を変えたり、立ち止まったりした小鬼達は、その僅かな判断の差で、柳墨とアトゥイチカプに追いつかれた。二人の足には韋駄天の草履。アトゥイチカプの手裏剣、八握剣が小鬼に傷を負わせて、足を緩めさせたのも大きい。
「‥‥後からすまんの。おぬしを逃がすと少々厄介な事になるでな‥‥ごめん!」
 上段から叩き伏せるように錫杖が小鬼を屠る。その後からアトゥイチカプの手にしているエペタムと呼ばれる、石を食うといわれる魔剣が翻り。
「残念だったなっ!逃がしはしないぜっ!」
「この季節に、寒中水泳はかなわんで。津軽はんっ!」
「ユーとはじっくり話し合わねばならん、必要もある‥よきにはからえ?」
 上流方面に逃げてきた小鬼をその弓矢で射抜いたジョンガラブシは、じょんがら節言うたら津軽やんっ!と付け加える飛鳥に頷くと、冷たくなりかかっている川で、その脚力が落ちた小鬼へ、そこを死地としてもらわねばならぬと、弓を引き絞り。

●柿木のある土手の下で
 小鬼の始末をした村人達は、ありがとうございますと、冒険者達に頭を下げた。
「昔から言うブシは用事があるとな‥‥」
 不可思議な言語を操り、ジョンガラブシは、またぱさりと髪を跳ね上げ、ふっ。と笑うと愛馬にまたがり仲間達より先に帰路につく。
 七瀬水穂の、柿のお土産待ってるですよというお見送りの言葉を思い出して、飛鳥は土手の上の柿をもぐ。朱色が濃くなったその柿は、小さく、種も多かったが、とても甘い。
「私は固い方が好みだけど‥‥熟しているのもなかなかね‥‥。甘くて美味しい‥‥」
 とろりと口の中に広がる柿の甘さは、この国の菓子の甘さの基準になる場所もあるという。ネリネは、うん。と、ひとつ頷いて川に飛ぶ石を眺める。
 心づくしのお弁当は、梅干の入ったお握りに赤いカブの漬物。川魚の甘露煮に木の芽が散って。質素なものであるが、川のせせらぎを聞きながら、日向で食べるお弁当はとても美味しい。
「ん〜。まったりってかんじよね〜」
 竹筒に入った緑茶を飲みながら、土手に寝転び、マアヤは穏やかな風景を眺める。千切れ雲が足早に空を行くのを見て、目を細めた。空が高い。
「美味しかったっ!」
 ぺろりとごはんつぶがついた指を舐めると、アトゥイチカプは、石投げをしている子供達に混じる。水を切り飛んで行く石は、長く遠くまで何度も跳ねた。
「ふむ。石飛ばしか。懐かしいの‥‥どれ」
 平たい石を拾うと、柳墨も 腰を捻る。しかし、中々、石は水の上を走らない。隣では、子供達とアトゥイチカプが、何段も遠くへと飛ばしているというのに。むぅと、唸り、何度か挑戦する。その姿に、土手の上からマアヤ、ネリネのがんばっての声が飛び。何度目かに成功を果たすも、小さな呻き声と共に、腰を抑えて柳墨は座り込む。あーあ。と、アトゥイチカプが覗き込み。

 冬の前のひとときの団欒は、冒険者達の手によって成し遂げられた。
 何所の南国かと思わせるような気候はそろそろ終りなのだ。
 それを告げるかのように、一斉に色ついた紅葉が散ったのは、翌日の事。冷え込みは川原へと伝い。陽射しは穏やかだが、吹く風はひんやりと頬を刺し。
 本格的な冬が、やって来る。