流しそうめん

■ショートシナリオ&プロモート


担当:いずみ風花

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 41 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月05日〜09月09日

リプレイ公開日:2006年09月15日

●オープニング

 江戸から少し離れた山中の神社で、納涼祭を開こうと案が練られていた。
 何も無い山間の村だが、今年の世話役連中は、派手な事が好きだった。だからといって、旅芸人をこの時期に合わせて呼んだり、出店を呼ぶような財力は無い。しかし、暑い夏を乗り切った村人に、少しでも楽しい思いをさせてあげたいと思ってもいた。
「なあ、滝前でやってる流しそうめん、上の神社から、下の神社まで持ってこれねぇか?」
「どないして?急な崖と、滝から流れる水で、足場が悪くて、無理だべ。あれは、上の神社まで上がった人への振る舞いだべ?」
「それを、夏祭りの一日だけ、苦労せずに食べれたら、どうだい?」
「そりゃかまわんけど。大変だべ」
 夏も終わりになろうかというこの時期、いろいろな収穫や、秋へと向けての準備などで、どの家でも余分な人手は無い。その為の世話役なのだから、自分達でなんとかしなくてはならない。
 三人の世話役は、腕を組んで、上を向いたり下を向いたり。
 一番年上の世話役が、ぱりぱりと頭を掻く。冒険者ギルドを思い出したのだ。
「やってくれっかなぁ」
「とりあえず、頼んでみっか?」

 傾斜のきつい、ごつごつした岩肌の上流から、長い竹を通し、小さな社のある下社まで、流しそうめんをしてくれる人募集。

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea7310 モードレッド・サージェイ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8432 香月 八雲(31歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0641 鳴神 破邪斗(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5073 シグマリル(31歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

●華やかな助っ人
 小さな山中の村の小さなお祭り。それを、手伝って貰えるのかどうかは、納涼祭りの世話役達の賭けでもあった。そんな事には人手など割けないと言われるだろうと、駄目元で出した、お手伝い募集の願いは、世話役達の考える最良の形で報われる事になった。
 最初に目に入ったのは、白い髪を揺らして、弾むようにやってくる白井鈴(ea4026)である。
「納涼祭〜♪」
 何処の精霊かと、目をこする世話役達であったが、すぐに、目をこすることもしなくなる。
「流しそうめん!冷たくて美味しそうですね!」
 香月八雲(ea8432)が、流しそうめんを思い描いて、楽しそうに笑って来るのは可愛くて良い。だが。
「そうめんは食べた事あるけど、流しそうめんって初めてなんだ」
「ふむ。俺はそうめんという物が珍しくてな、それが流しというのだから、さぞかし凄いのだろう」
「麺を流して捕まえて食べる‥‥んだ?ジャパンでは踊り食いっていうのがあるって聞いたけどそれなのかな?」
 金色の髪をさらりと流し、姿勢良く歩くのは、システィーナ・ヴィント(ea7435)。そして、やはり姿勢良く、すらりとした壮年のジェームス・モンド(ea3731)が、孫というには大きく、娘というには小さなシスティーナに、にかりと笑いかける姿は、なにやら一枚の絵のようで。
 長い髪を軽く揺らし、頷きながら、流しそうめんを鍛錬だと思いっきり勘違いしているのは、背の高い、モードレッド・サージェイ(ea7310)だ。
「ながしそうめん‥‥?成る程、急流に乗って流れてくる食い物を素早く捕まえる、動体視力を鍛える鍛錬か!」
 ある意味、間違ってはいない。かもしれない。
 まだ、夏の日差しが残る日中の太陽を仰ぎ、シグマリル(eb5073)が青い目を瞬かせた。
「江戸のチュプ・カムイ(太陽の神)はとても強く神々しいな。蝦夷の地よりもその輝きは変わらずとも放つ力はより激しく我らに届いた。‥‥こちらの人に言わせると、ただ「暑かった」のひと言で済まされてしまうが。涼をとれるのならば、喜んで働かせて頂こう」
「‥‥まぁ、偶には殺伐とした日常から離れてみるのも悪くはないか」
 鳴神破邪斗(eb0641)が、楽しげに歩く仲間を最後尾から目を眇めて見て、呟く。その呟きには、やはり、楽しげな雰囲気が混じっているのを本人は知ってか知らずか。
 壮観といって良い冒険者達の姿に、口をぱくぱくとさせる世話役達に、瀬戸喪(ea0443)が、人当たりの良い、少女と見まごう笑顔で微笑むのを合図に、納涼祭の助っ人達は、世話役達と準備を始める為動き出すのだった。
 
●そうめん台
 どう。という音が響く、山道は、僅かに足元が湿っている。腐葉土を踏みつける度に、じんわりと染み出す水や、頭上を覆う木々の梢に、江戸市中では味わうことの出来ない涼を感じる事が出来る。鳥や虫のざわめきが、山全体が笑っているかのような錯覚をも起こさせる。
 すぐ横に、流れる清流が見え隠れする。山頂近くの上社までは、確かに、普通の人の足ではかなり辛いものかもしれない。
 神社の上社は、実にそっけないものであった。
 小さな祠があり、その前に、白い布が目隠しにかけられるだけで、飛沫を上げる滝の降り口が横にあるおかげで、十畳ほどの空き地は、かなり滑りやすい。奥の釜では、薪が焚かれ、そうめんを茹でるばかりになっている。さらに、その奥に、見事な竹林が広がっていた。
「滝から、途中の道まで流して、そこから曲げるのが良いみたいだよ」
 鈴が、世話役達から、流す方向などを聞いてくる。
「働かざる者食うべからずと言うしな、しっかりと作業させて貰うぞ」
 にかっと笑うジェームス他数人は、竹を切り出しに、世話役のひとりと竹林に入っていく。山頂ほど近い竹林だが、よく手入れされており、太い竹が何本も天に向かって伸びていた。
 手分けして切り出された竹は、喪が、手際良く、枝打ちをして、長い一本の竿竹に変えていく。
 流しそうめんにする為の竹細工の説明を受けているのはモードレッドだ。竹を真半分にするには、鉈が一番。切った竹の尻を半分にするように、軽く切れ目を入れると、軽い音と共に、入れた切れ目の角度通りに竹は真っ二つに割れていく。長い竹を真半分にするにはコツが必要だったが、それもすぐに飲み込んで、器用に竹を割っていく。
 シグマリルが、割られた竹の節を器用に抜いて、形を整えていく。

 神社の張り出した岩場から、命綱をつけて滝を下りながらシスティーナが竹を渡す。
「あ。そこ危ないですよ〜!もう少し右に寄ったほうが滑らないと思います!」
 八雲も、竹のスロープを作る為の指示を出す。滝の流れや、滑りやすそうな場所などをよく調べておいたのだ。命綱がきちんと結ばれているのも確認している。万が一を常に考える八雲は、小さく頷きながら作業を見守っている。
「危険な岩場での作業は任せておいてよ」
 鈴が、えへんと胸を張るのを、じーっと見るのは世話役の面々。顔に不安と書かれている。しかし、小さくて可愛らしいが、彼は冒険者で忍者でもある。
「そういう目で見ちゃダメ〜」
 笑顔を振りまいて、軽々と竹を繋げていく鈴に、世話役の顔が、感心しきりの顔に変わるのは、そう時間もかからなかった。一方、ジェームスは、ぐうっと手が伸びる。硬直する世話役ににかりと笑う。
「任せておけ、その辺りの高枝鋏よりは、役に立つつもりだ!」
 破邪斗はそんなジェームスから、竹を受け取ると、軽く肩を竦め、鈴と一緒に足場の悪い場所で竹を受け取り、スロープを延ばしていく。
 それがジェームスの術のようで、仲間の冒険者達が動じずに動いているのを見て、世話役は、そうめんを茹でるため、その場を離れるのだった。
「滝の近くなど水の辺というのは存外に涼しいしな」
 そのまま設置しただけでは、流れの速い川の中に組み立てる竹のスロープは壊れてしまう。シグマリルは、石などで、流されないようにと、下社まで支柱を作る地味だが大切な作業をこなしてきていた。ここまでこれば、もう完成したも同然である。メインとなるであろう下社の最後の長い竹を喪がしっかりと固定する。
「終わりですか?」
 喪が上社から、降りてきた仲間を出迎え、そうめんを流す手伝いに、上社に登る準備を始める。
「こんなに長い距離を流れてくるそうめんって、どんな味がするか楽しみです」
 絶対に一番に食べようと思っている八雲が、嬉しそうに笑った。

 まだ日も高かったが、暗くなってはそうめんは流せない。
 太鼓の音が響き渡ると、ひとり。またひとりと、村の衆が流しそうめんを食べに現れる。まずは、そこに居る、冒険者達の華やかさに、声を上げて喜び、箸と汁を入れた竹の器を手に並び始める。竹の器は、モードレッドが手早く竹割りを覚えたので、合間に作った力作である。水平に竹を切るのはとても難しい。だが、器の縁は綺麗に水平で、教えていた世話役のお墨付きである。
「流しそうめんに参加するのなら、やっぱり一番麺を狙わなくては!流しそうめんで一番に麺を取れたら、その年の福男になれると!」
 箸を構えて、一番最初に下社に流れ込む場所に陣どっているのは八雲である。
「お腹いっぱい食べるんだから!」
 向かい側には鈴が、やはり気合充分に構えている。どちらからともなく、にんまりと笑みが浮かぶ。
 流しそうめんの、戦いの火花が二人の間に散っていた。

 上社では、喪が、大きなザルいっぱいに盛られたそうめんを抱えて滝の前に居た。ひと固まり摘むと、流れる清流の竹筒にそっと流す。白いそうめんが、清流に乗って竹を滑る様に落ちていく様子を満足気に眺める。
「ジャパンに滞在して早二年‥俺の箸使いテクニックが試される時が!」 
 箸を握り締め、素振りのように、箸を使い、その熟練度を確認するモードレッドは、流しそうめんを食べるべく、熱く燃え上がっていたが、あまりに熱く燃え上がって練習していたため、気がつけば流しそうめんの一番最後の場所しか空いていなかった。
「冷えててつるると食べられる不思議な食べ物だな。そば、というのに似てるようで似てないのがまた不思議だな」
 シグマリルが満足気に舌鼓を打つ。
 その横では、上手になったとはいえ、まだ箸使いの怪しいシスティーナが、がんばってそうめんを掴み、嬉しそうに口に運んでいる。ふと見れば、破邪斗が、それとなく集まった皆にすり潰した梅肉風味の漬け汁を口直しに配っていたりする。
「まだ暑さも残るこの時期には格別だな」
 照りつける太陽の暑さは、もう峠を越してはいるが、まだまだ日暮れるまでは熱い。初めて流れるそうめんを食べるジェームスは、目を細め、口元に笑みを浮かべて頷くのだった。
「麺が‥‥流れて来ない‥‥」
 大変盛況である、流しそうめんの一番最後に居るモードレッドも、そのうち食べれるであろう。麺はたくさんあるのだから。多分。

●祭りの夜は更けて
 篝火が揺れる。
 小さく組まれた櫓に、古びた太鼓。下社の縁側にあたる場所で、世話役や長老達が笛と小太鼓でささやかなお囃子が、僅かに彩りを添えている。
 そうして、輪になって櫓を回る、盆踊りなのだけれど今年は冒険者のおかげで、その場自体が華やかであった。
 芸事が生業である喪の手振り足取りに、若い娘は言うに及ばず、若い衆まで見とれている。八雲とシグルマが見よう見まねで手足を動かすのもご愛嬌だ。システィーナとジェームスが華麗なステップを踏んで社交ダンスを始めると、モーレッドも盆踊りを社交ダンス風に踊って注目を集めている。

 納涼祭りは、大成功だった。離れた場所で、秋の気配が忍び寄る闇と、盆踊りの篝火を見ていた破邪斗が、誰に言うと無く呟く。
「‥‥さて、休暇も終わりだ。また悪意と陰謀に塗れた日常へと戻るとしよう」
 呟きには、祭りの名残を思い切るような厳しさもあった。

 祭りが終われば、秋がやって来る。