加賀からの色

■ショートシナリオ


担当:いずみ風花

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月22日〜01月27日

リプレイ公開日:2008年01月31日

●オープニング

 ふらりと江戸冒険者ギルドに現れた、妙に派手な男が居た。
 冒険者達は、様々な国からやってきて、様々な容姿をしているから、派手といっても、そう他の冒険者と変わりは無いのだが、この国には珍しい部類に入るかもしれない。
「ちょっとばっかし、手伝って欲しいんだ」
「はい?」
「江戸観光に来る予定の奴等がなかなか刻限に来ないから、どうしたもんかと迎えに出れば、どうも、そこに犬鬼が数体、陣取ってるみたいでな」
 江戸へとしぶしぶ戻って、旅支度を整えなおして出かける旅人から聞いたのだと言う。迂回路もあるみたいだが、まあ、どうせ犬鬼は退治しなくちゃいけないだろ?と、笑う。
「冒険者と遊んでみたいしな」
「はぃい?」
「ああ、こっちの話」
「それで、小鬼の出没場所は‥」
 そうそうと、男が笑う。犬鬼達は、山腹のつり橋の両端を陣取り、旅人を待ち構えているようだという。大回りは、一山越さなくてはならない。
 つり橋の掛かる場所は、岩場の多い崖の間に、川が流れている場所で、夜目に紛れれば、下れないほどの崖では無いという。川は深いが、なだらかで、泳いで泳げないほどの距離も無い。今の時期は、とても、寒いが。
「つり橋落としたらまずかろ?」
「そうですね、出来れば、つり橋は無傷が助かります」
 じゃあさ、頼むよと、人好きのする笑顔で、大柄な男が犬鬼退治を願い出た。
 彼の名は前田慶次郎。
 江戸見物にやって来る、加賀の国の職人を待っているという。

●今回の参加者

 eb4462 フォルナリーナ・シャナイア(25歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5492 神薗 柚伽(64歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ec3527 日下部 明穂(32歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec4127 パウェトク(62歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 ec4274 荊 信(36歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)
 ec4354 忠澤 伊織(46歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec4427 土御門 焔(38歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec4444 ラフィーレ・ザガール(23歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

メグレズ・ファウンテン(eb5451)/ 大泰司 慈海(ec3613

●リプレイ本文

●冬晴れのギルド
 寒さが身に染みる冬の日に、嫌に明るい色彩が目に飛び込み、神薗柚伽(eb5492)は、思わず声を上げた。明るい碧の瞳が捉えたのは、依頼人の前田慶次郎だ。鮮やかな赤い髪と、振袖を外套にしつらえた衣装。思わず自分の外套と見比べて、何だか可笑しくなって声をかけた。
「チョットそこのあんた! 慶次郎‥‥もしかして着物おそろ? 髪色おそろ?!」
「おう、おそろ。おそろ。て、‥お母さんも手伝ってくれるんだ。よろしく」
「誰がお母さんかっ! 若い娘っ子には負けんて」
 どちらも本気で言ってはいない。ごめんごめんと笑う慶次郎を柚伽が、かるくどつく。被ってしまったのが何となく気恥ずかしい。
「奇妙な縁だけど、ま、よろしくね」
「おかあさんとぺあるっくの縁」
「だからっ! 誰がお母さんかっ!」
 自分だっておっさんの癖にと、柚伽が指摘すると、慶次郎が僅かによろめく。
 何ともはや、迷惑な話だと、パウェトク(ec4127)は犬鬼が橋を占拠しているという依頼を見つけた。状況は良くないのに、何とも緊迫感の無い依頼人を見て、やれやれと笑う。
「あちらも首を長くしておるであろう。早く会えるとよいなあ」
「そうなんだよ。江戸見物楽しみにしてるからさ」
 相好を崩して、よろしくと手を出す慶次郎に、うんうんと、パウェトクは頷いて手を伸ばす。
 加賀の国からの職人。沢山の職種の中の、どの職人だろうかと、頬に手をやり、日下部明穂(ec3527)は考える。絹糸の束のような赤い光沢のある長い髪がしっとりと流れる。冒険者と遊んでみたい。そんな言葉が聞こえたのは気のせいではないだろう。退屈させるわけにはいかないかしらと、冒険者らしい損得を考えつつ、心中で微笑んだ。
「鬼の類との本格的な戦いは初めてだけど、お役に立てれば嬉しいわ」
「立つ立つ。いろいろ立つ」
「いろいろ?」
 いろいろだと、満面の笑みを浮かべる慶次郎を見て、この依頼人妙に面白い。と、忠澤伊織(ec4354)は年が近い事も手伝って、親近感を抱く。
「筋肉すごいね〜強そうだね」
「そういうあんたも、渋強そうだ」
「前田には江戸側の前衛を任せたい。まぁ宜しく頼むよ」
「それしか能が無いから、それなりにがんばらせてもらうな。て、それだけかぃ?」
「うん、指示はそれだけ」
 大雑把だが、まあ、俺も大雑把だから良いと、笑い返され。この依頼が終われば、江戸観光かと聞けば、そうだと、子供のように笑い、前田と呼び捨てする伊織の肩を、何かあったらよろしく頼むと、ぱむぱむと叩く。非常に人懐こいその顔に、本当に面白そうだと、伊織は笑い返した。
「おう、俺もよろしく頼むぜ」
 荊信(ec4274)が、面白そうな依頼だなと、話に加わる。
 陽の光りを浴びて、豪奢な金髪が揺れる。少し離れた場所で、フォルナリーナ・シャナイア(eb4462)の明るい茶の瞳が、聡明な光りをたたえて興味深そうに慶次郎を見ていた。犬鬼が出て、同国の職人が来れないという依頼なのに、困った風が無い。フォルナリーナには、その体躯で強面に見える。けれども、純粋な目をしているとも思うのだ。
「不思議な人‥」
 すんなりと笑い合う慶次郎と仲間達を見て、フォルナリーナも自然に微笑みを浮かべていた。
 そんな仲間達と共に笑いながらも、土御門焔(ec4427)は、メグレズ・ファウンテンから、犬鬼の対処方を聞いていた。
「基本的に犬鬼は武器に毒をぬってますが、解毒剤はたいていその犬鬼が持ってますので、慌てず対処して下さい」
「ありがとう、無事依頼を成功させてきます」
 青い左の瞳と、右の瞳が紫に思慮深く光る。焔は、頷きつつ、犬鬼を倒す事に集中し始めたのだった。

●凍てついた夜を乗り越えて
 冷たい空気の中、柚伽は対岸へと滑空する。川から吹き上がる風が上手く彼女を対岸へと運んだ。
 それと同じくらいに、星の光りを遮るように、大凧が、伊織、パウェトク、明穂を乗せてふわりと飛んでいる。
(「居たね‥さてと、風向きは‥良いとはいえないかしらね」)
 何の警戒もしていない犬鬼達が、つり橋の前で火を囲み、好き勝手に休んでいる。柚伽は眠りを誘う春花の術を使うかどうか、風向きを調べた。森の中は、強風でも無ければ風は無いが、川風は、下から上へと吹き上がる。万が一を考えるなら、使わない方が良いかと、次の手を頭に入れる。
 大凧が降りる位置へと、柚伽は移動した。流石に三人で乗って来るには、固定しなくてはならなかった。
 フォルナリーナが括りつけた縄を解きつつ、柚伽が笑う。
「上手に括ってもらったな」
 吐く息が白い。川に入る事も対岸に渡る為には考えないでも無かったが、よほど体力が無ければ、渡り終えてもまともには戦えなかったろうと、明穂は夜空の冷たさを思い返す。
「失礼致しましたわ」
「いいや?ちょっとした役得だ」
 狭い大凧の上である。伊織にしがみつく格好になった明穂が、軽く会釈をしつつ、大凧から降りれば、三人でくっついていた暖かさが冬の寒さに剥ぎ取られ、さらに寒いような気にもなり。
「では、手はず通りにな」
 自力でも紐を外せるように結んでもらっていたパウェトクは、先にするりと下りると、そのまま、崖を下り、戦闘開始時には橋と犬鬼の間に立ちたいと崖下から橋の近くへと移動を始めれば、江戸側から、ざわめきが響く。戦闘が始まったのだ。その音にぴくりと身体を震わせ、犬鬼達が起き上がった。
「そっちに気を取られてるとねっ!」
 柚伽の身体に煙が纏いつくと、大ガマが蒼い夜の陰影をつけて犬鬼の前に現れる。
 引き絞られる犬鬼の弓。
「行くぞい」
 軽々と橋の上に現れると、パウェトクが小太刀を星空に閃かせて手近の犬鬼に襲い掛かる。一矢を大ガマに撃たなくてはならなかった犬鬼は、次の矢を番える前に傷を負う。
「逃しませんわ」
 大ガマを盾にして、明穂の薙刀の突きが犬鬼を襲えば、僅かに遅れて、伊織が一文字を大外から打ち込んだ。橋に逃げ込もうにも、パウェトクが低い位置から走り込み。

 一方、少し時を戻した江戸側では、空を飛んで対岸へと渡る姿を確認すると、囮作戦が開始された。
 とても豪奢な衣装の焔が、夜の暗い森を歩く。前には、火が焚かれ、人影──犬鬼が、三つの影を作っている。
 犬鬼は、近寄る焔に気がついた。ざわりと、夜の冷たい空気が揺れる。
 悲鳴を上げるフリをする焔は、橋から、待ち受ける仲間の下へと犬鬼が弓を引き絞るのを見て走る。ひょう。空を裂いて矢が飛んでくる。
「っ!」
 一本の矢が、焔の服を掠める。
「さぁて、初仕事には手頃な相手か、確実にやらせて貰うッ!」
 後ろに一つに縛った細い尾のような黒髪がふわりとなびいた。荊信が、焔と犬鬼の間に走り込んだのだ。白と黒のヤギを模った大型の盾、山羊大楯で犬鬼の矢を受けて、走って来た焔を背中に庇い犬鬼への間合いを詰めて行く。
「アニェス」
 フォルナリーナの塗坊アニェスが、その足を生かして、文字通り壁になりに、仲間達の前へと進んで行く。突然現れた塗坊に、さしもの犬鬼達の手が止まる。
 こりゃ面白ぇと、笑う慶次郎も刀を抜くと走り出した。
 逃走にかかれば、犬鬼達の足は速い。追いつけるのはアニェスぐらいなのだが、犬鬼の逃走方向から火の手が上がった。焔だ。するりと開かれた巻物は炎の罠。
「御覧の通り、今魔法の罠をしかけました。橋の方向へ逃げますと、今見たく黒こげになりますよ」
 幾分か、焦げた臭いが漂う。吹き上がった炎は、何度もかけなおさなくてはならないのだが、犬鬼達にはわからない。迷っている間に荊信が追いついた。バルディッシュと呼ばれる大柄な斧頭をつけた勇壮な雰囲気漂う斧を振り上げる。
「フン、この間合いなら得意の弓も使えまい」
「つり橋には行かせませんわ」
 淡い闇の色を纏わせて、フォルナリーナがその手を伸ばせば、再現神の魔法は邪悪なる心を持つ犬鬼を打てば、慶次郎の刃と荊信のバルディッシュが犬鬼へと叩き込まれ、戦闘は終わった。
「向うも大丈夫そうですね」
 こちらが静かになれば、向こう側も、戦闘の音はせず。
「大丈夫か?」
 つり橋を、伊織が渡ってくる。
「ええ、こちらは大丈夫です。橋も傷ついては居ないようですね」
 万が一の事があればと、補修も考えていた焔は、つり橋には被害が無いのを見てほっとする。
「いやぁ、すげえな冒険者」
 繰り広げられる魔法と戦闘。果ては不思議なペットまで、慶次郎が楽しげに声を上げるのを、冒険者達は可笑しそうに見た。
「‥解毒剤。これですわね」
 加賀側では、倒した犬鬼の懐を探る明穂が、たおやかな笑みを浮かべる。いろんな意味で抜かりは無い姿に、パウェトクが笑いながら、犬鬼をこのままにしておくのも何だからと、後片付けを始めて。
 
 翌朝、加賀からの職人の一団が無事江戸へと向かう事になる。様々な技術を持つ職人達を纏めていた最年長の漆工芸の職人を筆頭に、各分野の若い職人が、江戸の色をその身に取り込む為に顔を出す事になるのだった。