柿を守って!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:いずみ風花

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月26日〜10月01日

リプレイ公開日:2006年09月30日

●オープニング

「大変だっ!」
 山から薪を取りに出ていた村の若い衆が、血相を変えて戻ってきた。
「大きな猿だ!いや。白い猿だ!去年の奴らだ!いずれ里近くに下りてくる!」
「狙いは柿か…」
 この村は、柿を主な特産物としている。
 もちろん、自給自足程度の農作物は取れる。だが、僅かながらも、豊かな正月を迎えれるようになったのは、ここ数年である。
 去年は…残念ながら、子供等に飴を買うのが精一杯であった。
 それも全て猿の群れのせいである。
 この大きな猿の群れ、大猿に率いられた白猿の小さな群れではあるが、狡猾で、罠など見向きもせず、熟れた柿をむさぼり、熟れない柿は叩き落す、性悪の群れであった。
 ついでとばかりに、まだ植えたばかりの冬野菜の芽を踏みにじっていった。
「今年、やられたらもう蓄えが底をつく…」
「無理してでも、頼むか」
 男達は、里山から下ってすぐの柿の木々を眺め、溜息を吐くと、冒険者ギルドへと足を向ける。どんなに早く辿り着いても江戸までは二日かかる。男は、力いっぱい走り出した。

 大猿に率いられた猿達を、退治してください。

●今回の参加者

 eb0112 ジョシュア・アンキセス(27歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 eb1533 ロニー・ステュアート(30歳・♂・ファイター・シフール・イギリス王国)
 eb5253 中川 彦左衛門(40歳・♂・僧侶・河童・ジャパン)
 eb6966 音羽 響(34歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●守りたいと思うから
 村への道程を急ぐ冒険者達だったが、村へは急いでも途中一泊しなくてはならない。
 明朝早く出立する事にし、その日は早々に野宿の場所を決めた。

 薪を集め、野宿の灯とする。
 その紅い炎を見ながら、おのおのが猿に対する下準備を怠らない。
 音羽響(eb6966)の穏やかな顔が、薪の灯りに僅かに翳った。
 冒険者ギルドに駆け込んで来た村人の話では、大猿に率いられた白猿の小さな群れだそうだが、その数と、今回集まってくれた仲間の数との差が気になるのだ。
 冒険者も万能では無い。しかし、困っている人を目の前にして、僧侶としては放ってもおけない。たおやかな物腰で、薪に向かい、軽く溜息を吐く。
 ふと横を見れば、ロニー・ステュアート(eb1533)が、布に包まって早くも小さな寝息を立てている。
「わしも白の僧侶のはしくれじゃからな。弱気を救うためじゃ、気張っていかんとな」
 響の溜息に目を留めた中川彦左衛門(eb5253)は、その黄色い瞳に炎を映し込んで陽気に笑う。
「そうですね」
 根は前向きで、深くは悩まない響は、同業の彦左衛門の言葉に、笑顔を返した。
 やるべき事をするだけ。
「‥‥なんか上手く出来ねえ」
 縄と石で獲物の足を止める、狩人が良く使う、ボーラを戦力の足しにしようと、ジョシュア・アンキセス(eb0112)は先ほどから奮闘しているが、ボーラは形にはなるのだが、どうも思い描いていたものとは違うような気がしてならなかった。
「でもまあ、出来る事はやっておかねーとな」
 ジョシュアもロニーも得意は弓であり、響と彦左衛門は僧侶。戦力の不足を少しでも補う為、出来ることはしておきたかったのだ。
「性悪の猿めっ!ぜってーとっちめてやらあ!」 
 ジョシュアの力強い呟きに、響も、彦左衛門もそれぞれに頷いた。

 柿を奪いに来る猿達。
 猿にとっては、それは山野に実るご馳走と、なんら変わるものでは無いのだが、そこに暮らす人々にとっては、生活の糧である。やっと手に入れかけたささやかな収入を脅かす猿は、速やかに退治してあげたい。
 紅い炎を間に挟み、お互いの信頼を深める彼等だった。

 翌日、朝早く、焚き火の後始末をすると、冒険者達は出立した。
 ロニーも、ボーラを作る気だったらしく、自身の手に持てるだけの石と縄とで移動しながら作り始めたが、ジョシュアと同じく、どうも似たような物にしかならない。
「なんとかなるです」
 手にした弓とボーラを交互に眺め、ロニーが頷く頃には、依頼のあった村が見えてきていた。

●乱戦
 村の入り口では、首を長くして、村人達が集まっていた。
 今は柿木の近くにしか下りてこないが、いつこちらまでやってくるのか気が気では無かったようだ。
 やって来た冒険者の一団に、先頭で待っていた村長は軽く目を見開くが、袈裟姿で笑顔でお辞儀する彦左衛門やにこにこと愛想の良いロニーの顔に、相好を崩す。
 そんな村長や村人に、冒険者達は、笑顔を返すと、畑を抜け、柿木めがけて、足早に駆け抜けた。
「畑にまでは行かせねえ」
 長い紅い髪をなびかせて、ジョシュアが先頭を切り、手にしたボーラを振り回し始める。鈍く、空を切る音が響く。
 柿木から見え隠れする白猿達の動きが、甲高い警戒音と共に殺気を帯びる。
「ボスが居るはずです」
 畑での戦闘を避ける為、果樹園の中に飛び込んだジョシュアにロニーも続く。
 ロニーが群れに居るはずのボス猿を探すが、耳を打つ高い雄叫びと共に踊り出てきたのは、一匹の白い猿。
 反射的にボーラを投げるが、その軌跡は定まらず、思わぬ方向へ飛んで行く。
 小さなロニーへと繰り出される白猿の爪は、間一髪で空を切った。
「ちいっ!」
 やはり、ボーラを投げるジョシュアだったが、ロニーと同じく、狙った方向とは微妙に違う方へとしか飛んでいかない。
 棍棒を持った白猿が、ジョシュアに迫る。だが、その動きは、ぴたりと止まった。
「やらせません!」
 微妙な距離を保ったまま、響が白猿の動きを止めたのだ。
「無理すんな!」
 ジョシュアが短弓に矢をつがえ、びょうと放つと、響によって動きを止められた白猿に当たる。
 地響きを立てて、矢に射られた白猿が地面に落ちると、途端に、連れて来た犬達の威嚇の声が大きくなった。
「囲まれたようじゃぞい」
 周囲を伺っていた彦左衛門が声を上げる。それを合図にか、木の上から、木の下から、白猿達が一斉に冒険者を囲うように現れた。
 回復の為、僅かに離れていた響と彦左衛門にも、白猿が迫る。
 彦左衛門を守るかのように、柴犬のサブローが土を蹴立てて前に出た。
 ロニーのボーダーコリー、チャーリーが響を守るように吠え、飛び掛る。
「間に‥‥合わせます!」
 響は詠唱を彦左衛門に向けるが、自分の身に迫る白猿には対処が追いつかなかった。味方に迫る白猿の動きを止めようと、離れ過ぎない位置が仇となる。
 彦左衛門に迫った白猿は動きを止めたが、響に向かった白猿の一撃が、無防備な響の背を打ったのだ。長い栗色の髪が空を舞う。
「響さん!」
 ロニーが放つ矢は、響を襲う白猿の背後から二本続け様に打ち込まれ、それ以上の響への攻撃は防がれた。
「大丈夫じゃ!」
 響の詠唱で動きを止めた白猿の膝元をかいくぐり、彦左衛門が柔らかな乳白色の光に包まれ、それは響を癒して行く。
 一方、ジョシュアは大猿と二体の白猿に対峙していた。
 最初に地に伏した猿の近くで、白猿よりも一回りほど大きな大猿が威嚇の雄叫びを上げてジョシュアに迫る。
「ボスを失っても群れていられる訳じゃねーだろ!」
 側面の木の上からも、白猿が棍棒を掲げてジョシュアを狙っていたが、彼の矢は、白猿に向かう事無く、突進してくる大猿めがけて放たれた。
 両脇の木の上から、ジョシュア目がけて、白猿の棍棒が打ち込まれるが、狙い違わず、大猿の胸に矢は吸い込まれた。
 ロニーと響、彦左衛門が三体目の白猿と戦おうとしていたその時。ひときわ高い声が果樹園に木霊した。
「逃さねえぜ!」
 両方向からの棍棒は流石に避けきれなかったが、地に伏し、転げまわる大猿に、白猿達が動揺している隙に、痛む身体を伸ばし、ジョシュアはもう一矢、大猿へと打ち込んだ。
 鈍い音がし、矢は深々と大猿の顔を射抜いていた。
 軽い振動を感じ、ジョシュアが振り返ると、棍棒を落とした白猿が、次々に柿木伝いに、山へと向かって退散していく。
「どれ。みせてみい」
 彦左衛門がジョシュアの怪我を回復させていく。
 怪我が治るといっても、受けた衝撃全てが消えるわけでは無い。蒼白な顔をしつつ、笑顔でやってくる響は、白猿達が逃げていった山を見た。甲高い叫び声が遠ざかり、鳥達がその移動に驚いてか、青い空に羽音を響かせて飛び立った。鳥が飛び立つ方向は、かなり遠くまで伸びて行き、やがては見えなくなった。
「なんとかなったみたいです?」
 嬉しげに皆の周りを回るチャーリーと、サブローに、仲間達は目を細めて笑い合うのだった。
  
●柿
「ん〜。使えそうにないのです」
 戦闘後の、矢を回収しようと回っていたロニーが、しょうがないなぁという顔で、羽を震わせながら帰ってくる。猿に当たった矢は、容易に引き抜けず、刺さった時点でかなり曲がったり折れたりしていたのだ。
「しっかし、随分と質の悪い猿どもじゃったの。しっかり灸が効いたみたいじゃからもう大丈夫じゃろう」
 彦左衛門は、改めて去年の惨状を聞いて、やれやれと顔を撫ぜた。
 しかし、今年は冒険者達の活躍で、木々を揺らし、戦闘をした割には、落下した柿は数えるほどであった。
 未だ熟しきらない柿は以外にしぶとく、揺する程度では落ちなかった事もある。食べるだけ食べた猿達が、遊んでもいで落としたり投げたりしなかったから、今年の柿は充分に村を潤すだろう。
 それでも、やはり落ちた柿も一割ほどあったが、残った方が多いので村としては万々歳である。
「ありがとうございます。本当に。ありがとうございます」
 村人は、残った柿の熟れたやつを数個もいで来ると、それをを剥いて冒険者達に振舞った。こんな事ぐらいしかお礼にならないけれどと、頭を掻く村人から、差し出される柿は、びっくりするほど甘かった。
 手をかける果物は、こんなに甘いものなのかと、冒険者達は顔をほころばせた。
 柿木に手を当て、ジョシュアは青い柿が落ちていた時の利用方法を口にするかしないか考えていた。落ちた柿が少ないからである。剥いた柿を勧めに来た村人に、それでも言う気になったのか、あらぬ方向を向きながら話し始める。
「‥‥聞いた話なんだが。青い柿は柿渋染め業者や問屋に売り払うと良いらしいぜ?」
「染物‥‥ですか」
 それは、良い事を聞きましたと、お礼を言う、笑顔の村人にジョシュアは、甘い柿をほおばり、やはりあらぬ方向を向いた。
「俺は損する気はねーからよ」
 村が、柿渋として、収穫出来そうにない柿を活用するのはまた後の話。

 こうして、柿の果樹園は猿達から守られたのであった。