愛犬

■ショートシナリオ


担当:鏑先黒

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月17日〜12月22日

リプレイ公開日:2004年12月26日

●オープニング

 その日、冒険者ギルドに、小さな女の子が訪れた。身なりは良いが、年齢は6歳くらいだろう。女の子はきょろきょろと店内を見回し、受付へと歩いてきた。
「お兄さん、あたし、冒険者さんを雇いたいんです」
 その小さな女の子は、ギルドの受付に声を掛けてきた。
「どうしたんだい? あ、それより前にお名前なんかを聞かせてくれるかな」
 受付の言葉に、少女は話し出す。
「あたし、茉っていいます。お父さんは商人で‥‥」
 茉が語ったのは、江戸でも中堅といえる商人の名だった。服の仕立てが良いのもそれで納得だ。その商人の父親は、今は上方の方へ行っているらしい。
「この間、お山にみんなで遊びにいった時、豊丸を置いてきちゃったの」
 後から聞くと豊丸というのは、犬の名前だということだ。
「なぜ、豊丸を置いてきたんだい?」
 受付の男はなるべく優しく問う。
「小鬼が出たの‥‥」
 それを聞いた受付は更に詳しい話を聞き始めた。茉は知る限りの事を話して、最後に言う。
「お兄ちゃん、豊丸を見つけてね。お父さんに買ってもらった犬なの・・・・」
 茉は縋る様な目で受付の男を見ている。

 依頼に応募した冒険者達を前に、受付は話し出す。
「敵は小鬼或いは茶鬼程度だ。さほど強い敵では無いだろうが、数は20前後いて山の中に住みかがあるという話だ。ただ、時間がたち過ぎている、豊丸は殺されている可能性が高いな。豊丸は葦毛の小型犬で外国産だ。そして、首輪に豊丸と入っているらしい。まぁ、どの道失敗する可能性高いが、母親に連絡して報酬は確保する予定だ。貴方たちには豊丸の生死の確認して欲しい」
 そう受付は冒険者達に伝える。

●今回の参加者

 ea0235 周防 佐新(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0270 風羽 真(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5299 シィリス・アステア(25歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7310 モードレッド・サージェイ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea7742 ヴィヴィアン・アークエット(26歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea8065 天霧 那流(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8806 朱 蘭華(21歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

 冒険者達は依頼を引き受けた後、さっそく茉の元へと向かった。現地に着くと、茉の元に向かう者、周囲に聞き込みに向かう者、茉らが襲われた場所に向かう者に別れた。
 天霧那流(ea8065)は聞き込みの為に野良仕事をしている老人に声を掛けた。
「すみません、この辺りに小鬼がでるって聞いたんですけど」
 那流をはじめとした武装した3人の冒険者を見た老人は驚いている様だったが、少しして口を開く。
「あんた達、小鬼退治を頼まれたのかね?」
 老人の言葉に那流は首を横に振る。
「いえ、小鬼退治を頼まれた訳じゃないの、でも戦うことになると思うわ」
 その那流の言葉に、シィリス・アステア(ea5299)が笑顔を浮かべながら付け加える。
「小鬼の事は依頼外ではありますが、なるべく小鬼達は全滅させようと思っています」
 シィリスの言葉に、老人も笑みを浮かべる。
「それは助かるのう。やつらは夏ごろから姿を見せてきての。向こうの山を越えた沢にある洞窟に奴等はいるらしいが、数が多くてのぅ」
 老人の言葉に、超美人(ea2831)が更に問う。
「その洞窟の様子と小鬼の数はどれぐらいであろうか?」
「洞窟はそんなに広くはないの。狭い入り口から入って、普通の家くらいの広さがあるかのぅ。数は20程という噂じゃ」
「家ぐらいの大きさに20匹ね」
 那流は少し嫌そうに言った。狭い洞窟に大勢の小鬼が詰め込まれているのを想像するのは楽しいことでは確かに無かった。
 更に質問を重ね、老人から聞けるだけの事を聞いた三人は、礼を言って茉の家に向かった。

 一方、茉達が襲われた場所に向かったのは、モードレッド・サージェイ(ea7310)と風羽真(ea0270)だった。調査に来たかったのは真だけだったが、多数の小鬼が出る場所に単独で行くのは危険ということで、希望の無かったモードレッドも同行したのだった。
「何か手がかりはあったか?」
 モードレッドの言葉に真は首を横に振る。
「いや、何も無いな」
「なら、戻るとしようぜ。他の奴らが手がかりを掴んでるかもしれないじゃん」
 モードレッドの言葉に頷き、真も茉の家へと向かう。
「豊丸が生きている証拠も死んでいる証拠も無かったが‥‥さて、嬢ちゃんの純な願い‥‥報われるといいんだがねぇ」
 真の呟きは、モードレッドの耳にも入る事無く、風に流されていった。

 茉の家には、茉と母の他に使用人が何人か居るようだった。先にギルドの使者が来ていたため、すんなりと話は通った。
「この度は茉の願いを聞いていただきありがとうございます」
 茉の母が深々と頭を下げると、隣にいた茉も頭を下げるが、周防佐新(ea0235)がそれをとどめる。
「まぁ、そんなに気にしないでくれ、俺達にかかればそう危険な依頼じゃない」
 佐新の言葉に、朱蘭華(ea8806)が無言で頷き、ヴィヴィアン・アークエット(ea7742)が笑みを浮かべてみせる。
「それよりも、小鬼の居場所は知っているか? そこが判ればかなり楽になるんだが」
 その問いに、母の方が答える。
「私は正確には知りませんが、なんでも裏山を越えた沢にある洞窟に小鬼達はいるそうです。数はなんでも20程とか」
「20か‥‥」
 8人で戦うには多くも少なくも無い、油断はできない。だが、佐新は勢い良く立ち上がる。
「早速行ってみるか」
 その言葉に、蘭華は無言のままで立ち上がり意思を示す。ヴィヴィアンはその羽を使って飛び上がる。三人の背に再び茉達が頭を下げた。
「よろしく御願い致します」
「よろしく、おねがいします」

 茉の家の前で合流した8人は早速、小鬼がいるという洞窟へと向かった。那流達が老人から詳しい位置を聞いていたのと、蘭華が発見した足跡を追跡したことで洞窟自体は簡単に見つかった。
「見張りは一人だけのようですね」
 シィリスが離れた木陰から覗き込みながら言う。
「なら、大丈夫そうですね。行ってきます」
 ヴィヴィアンは空へと舞い上がる。空には障害物がない分、見つかりやすい。洞窟の前に立っている小鬼がもし真面目に見張りをし、空まで監視していたら発見されたことだろう。しかし、そこまで真面目で頭のいい小鬼は珍しい。ヴィヴィアンは悠々と近づいていった。
 ヴィヴィアンは魔法が届く距離まで近づくとそっと詠唱を始めた。そして、彼女の呪が完成した瞬間、小鬼はへなへなと眠りについた。それを確認すると、佐新と真が洞窟の入り口へと駆け寄った。同時に佐新は、眠り込んだ見張りの体に刀を突立てる。小鬼は叫びと共に絶命する。もちろん、見張りに声を出させるのは作戦のうちだ。
 小鬼の叫びが響き渡ると洞窟の中がざわめきだす。ややしてから小鬼が、恐る恐る奥から顔を覗かせた。しかし、洞窟の前にいるのが二人だけだと確認すると、ニタリと笑う。顔を出していた小鬼が後ろへと声を掛けると、奥からぞろぞろと仲間達が現れる。その中には少し大柄なものもいた。
 小鬼達は声を上げて真達に襲い掛かってきた。その勢いを見て、真と佐新は頷きあう。足を止めていては、勢いに押しつぶされると判断したのだ。二人は小鬼達に背を向け走り出した。小鬼らは、その姿を見て喚声を上げる。真たちは追いつかれないように、真剣に走り始めた。
 だが、それこそが冒険者達の考えた罠だった。先頭を走っていた小鬼の肩に那流の放った矢が突き立つ。ゆっくりと倒れる小鬼を見ながらも、他の小鬼が意味を図りかね戸惑っていると、美人と蘭華、モードレッドが小鬼らの背後から襲いかかった。那流も次々に矢を放ち続け、ヴィヴィアンとシィリスもスリープを使い始める。冒険者達の反撃が始まった。
 たちまち混乱に陥った小鬼達を見て、真達は身を翻す。佐新は再び刀を強く握ると、小鬼の只中に飛び込む。佐新の姿に気がついた小鬼は斧を振り上げるが、佐新はあっさりとそれをかわす。そして、横なぎに刀を振う。小鬼は反対側に飛んで刀から身をかわそうとするが、佐新の刀が小鬼の視界から消える。そして、次の瞬間には小鬼の体に刀は深く食い込んでいた。血を吐いた小鬼に、佐新はとどめを刺す。変幻自在の剣が佐新の得意技だ。
「逃げるのならば、追わぬぞ!」
 佐新の叫びに、意味は判らないながらも小鬼は更に浮き足立つ。隣に立つ真は両の手に持った刀と小太刀で次々に、血飛沫を生み出していく。刀を受けられようと小太刀が、小太刀をかわされようと死を刻んでいく。
美人の刀も既に血に濡れている。
「豊丸を返してもらうぞ。無事でなければ叩斬ってやる」
 叫びながらも、攻める手を美人は緩めようとしない。まだまだ戦いの経験が少ない美人は必死で小鬼と切り結んでいた。
 一方で、蘭華は乱戦の只中にいた。武道家である蘭華はその拳にナックルを装備し暗めの配色の武道着を身につけている。彼女は身軽に動き、小鬼を戸惑わせ、拳を振う。彼女を中心に小鬼に混乱が湧き上がっている。不意に蘭華の目の前の小鬼が目を閉じ、足をもつれさせる。ヴィヴィアンのスリープによって眠らされたのだ。その隙を蘭華が見逃すわけは無い。
「‥‥バオ・フー・チャン‥‥」
 声と共に蘭華の拳が放たれる。それは、一般に爆虎掌と呼ばれている奥義だ。爆虎掌を受けた小鬼は目を見開き、僅かに身を震わせたがそのまま息絶え地面に転がった。
その後方ではシィリスは呪を唱えようとしていた。武装をしていない彼の姿を見て、二匹の小鬼がシィリスに向かう。だが、その前にモードレッドが立ちふさがる。クルスソードを突きつけて、小鬼に言い放つ。
「罪は命で贖え。それが俺の裁きって奴だ」
 モードレッドの振った剣は、受けようとした斧を弾き、小鬼は地面に叩きつけられる。残る一体の小鬼は逃げようとしたが、シィリスの呪が完成した。途端に、小鬼は抗えぬ睡魔に襲われ、地に伏した。それに確実に、モードレッドは止めを刺した。
 ヴィヴィアンは上空から次々に呪を放っていたが、本当に僅かな間に小鬼達は逃走して行った。魔法を掛ける相手の居なくなった彼女はゆっくりと、佐新の隣へと降りていった。
「追う?」
「いや、その必要は無いだろう」
 佐新の言葉に真も頷く。
「これだけやればこの辺りには近づかないだろう。逃げたのも5、6匹だしな」
 誰一人、欠ける事無く、再び集まった8人は洞窟へと入っていった。だが、そこには悲しい事実が待っていた。

 茉は冒険者たちの帰りを、家の前で待っていた。そして、彼らが帰ってきたのは、夕暮れが押し迫った頃だった。茉が冒険者達に駆け寄ると、彼らの陰から豊丸が飛び出して駆け寄ってくる。
「豊丸っ!」
だが、豊丸は茉の少し手前で止まると話し出す。
「茉ちゃん、今まで僕の面倒見てくれてありがとう!茉ちゃんと過ごした日々はすっごく楽しかったよ! でも僕もう行かなくっちゃダメなんだワン。茉ちゃんの事は絶対に忘れないから泣かないでね。僕はずっと茉ちゃんの心の中に居るから‥‥いつでも会えるから‥‥今まで本当にありがとう、茉ちゃん!」
 それだけを言うと、豊丸の姿が光に包まれその姿が徐々に光に解けていく。
「豊丸っ!」
その言葉に答える様に、豊丸は最後に一吠えると本当に消えていった。その様子に、茉は呆然と立ちすくむ。
洞窟に入った冒険者達は豊丸の首輪と犬の骨を見つけていた。それは、豊丸が死んでいる事を意味する。それ故に冒険者達は豊丸の首輪と骨を回収し、そして、ヴィヴィアンがイリュージョンを使い、豊丸と茉の最後の別れを演出すること相談したのだった。
 茉の瞳からぽろぽろと涙が零れる。
「さぁ笑顔で豊丸を見送ってあげましょう‥‥あなたが泣いてたら豊丸はもっと悲しくなっちゃいますよぉ〜」
 ヴィヴィアンはそう言って慰めようとするが、茉の涙は止まる気配を見せない。
「見えなくなっただけさ。豊丸は茉の側にいて茉の事を護ってるんだ。忘れないでやってな。そうすりゃ、豊丸はいつまでも茉と共にいる」
 と佐新。
「‥‥ほれ、豊丸は空の上から嬢ちゃんの事を見守ってるぜ? 目に見えないだけで、何時も嬢ちゃんと一緒だ。だから寂しくなんかない‥‥分かるかい?」
真も頭を撫でて慰めるが、茉はまだ泣き止まない。すると、シィリスは静かに豊丸の首輪を茉に渡す。シィリスにとって茉が豊丸の事で涙を流すのが、嬉しいことでもあった。他者のことで涙を流せるのは優しさの現れでもある。彼女には、今回の事で命の大切さを知って欲しいとシィリスは考えていた。
シィリスが首輪を渡すのを見て、美人も言う。
「豊丸は茉に会えて幸せだったろう。茉は豊丸と過ごした日々を忘れるな。鬼達も居なくなって安心して眠れるだろうから首輪と一緒に豊丸を送ってあげよう」 
「‥‥飼い犬は、少なくともお嬢さんと一緒にいる時間は幸せだったと思うぜ。我らが父のように、いつまでもお嬢さんの事を見守っているさ。きっとな」
 モードレッドが茉の頭に手を置き、笑顔を見せる。那流はお守り袋に豊丸の毛を入れたものを茉の首に掛ける。
「豊丸のお守りよ。豊丸が茉ちゃんの傍に居て、いつも守ってくれるように。豊丸の事を覚えていてあげれば、離れ離れでもいつも一緒だから。楽しい思い出は消えないからね」
 優しく笑みを浮かべる那流に茉はようやく顔を上げた。
 ヴィヴィアンがその手を引いて、家へと導く。仲間たちがそれに続く。
 それを見ていた黙って見ていた蘭華に、真が呟くように言う。
「例え偽善行為だろうが、それを望む相手にゃ充分善行だよ。‥‥そう思おうや?」
「‥‥偽善じゃない。私もそう思う」
 蘭華はいつもの様に短く言うと、その口元を再び布で隠す。その表情は隠されていたが、笑みを浮かべているのではと真は感じていた。