雪鬼

■ショートシナリオ


担当:鏑先黒

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月18日〜01月23日

リプレイ公開日:2005年01月24日

●オープニング

 そこは小さな山村だった。毎年、雪鬼の被害に苦しみ、大地の恵みもさほど豊かでは無い。それ故に非常に貧しかった。それでも村人達は、諦めずに金策をし冒険者を雇うこととなった。僅か6人であったが、村人達は彼らに希望を託したのだった。雪鬼の被害が無くなれば、暮らしはぐっと楽になる。冒険者への依頼は雪鬼を撃退する事だ、全滅させなくても良いが村にはもう来ないほど痛めつけて欲しい。
 その夜、雇われた冒険者達は村の外れにある民家で、囲炉裏を囲み暖をとっていた。外は既に雪が降っている。この村を襲う鬼は、雪鬼と呼ばれている白い鬼だ。その数は4体。背丈は人よりも大きく猪の顔を持つ。腕力にものをいわせ村人を傷つけ、冬の蓄えを奪っていく。
雪鬼という鬼は正直、冒険者の一人、山中汰楼も聞いたことが無かった。山中自身は、これで二度目の依頼という駆け出しの冒険者だ。小鬼程度に遅れをとるつもりは無いが、雪鬼の強さは大きさからいっても小鬼程度の強さでは無いだろう。山中は緊張を隠そうとして無理に落ち着いたふりをしていた。
外では風が強くなって、吹雪となっている。雪鬼がやってくるのはこんな夜だという。
 突然、獣のものらしき遠吠えが辺りに響く。間違いなく雪鬼の遠吠えだ。普段ならば、それを合図に村人は家の前に蓄えを放り出す。すると雪鬼はそれを拾い、再び山へと去っていく。だが、出された蓄えが少ないと感じると、暴れるのだという。そのような事が冬に、何度か繰り返されるのだという。
 だが、今晩は蓄えを出す家は無い。代わりに山中達が刀を手に、飛び出していく。叩きつけられる様な吹雪に、山中は顔をしかめる。暖められていた体が、一風ごとに冷えていく。まだ、雪鬼の姿は無い山中達は頷き合うと左右の物陰に隠れ、雪鬼達を待つ。
寒さに震えながら、山中は息を殺していた。やがて、4体の雪鬼が咆哮とともに姿を表す。山中はすでに冷たくなった手で柄を握る。そして、十分に引き付けたとき、いくぞっと仲間の声が掛かる。山中は抜刀し、雪鬼に襲い掛かった。だが、十分に引き付けて行ったはずの奇襲だったが、雪鬼はそれぞれかわしたり、手に持った棍棒で受け止める。そして、そのまま背を見せて走り出す。その行動を意外に思いつつも、冒険者達は走り出す。深追いはするつもりは無いが、驚かせただけでは依頼を果たした事にはならないだろう。
 前方を走る影を六人は追い続ける。だが、彼らが急襲されたのは走り出して間もなくのことだった。鈍い音と悲鳴が背後から起こる。山中が振り返ると、2体の雪鬼が自分に襲いかかろうとしているところだった。足元には仲間が血を流して倒れている。
前方を走っている影は囮だったのだろう、あとから考えてみると、吹雪に紛れて影が幾つだったかは判らなかった気がする。2体の雪鬼は雪の中に隠れ冒険者をやりすごし、背後から襲い掛かって来たのだろう。
 山中はとっさに後ろに下がろうとしたが、雪に足を取られ仰向けに倒れる。自分の迂闊さを悔やむがどうする事も出来ない。だが、仲間の一人が進み出て、山中を狙った棍棒を弾く。それを見て、山中は慌てて立ち上がる。だが、さすがに踏み固められていない雪は一歩ごとに、足を取る。対して雪鬼は、雪をものともせずに動き回っている。雪鬼の名は伊達では無いということだろう。山中は意を決すると、仲間の槍をかわした雪鬼に刀を水平にして体ごと突っ込む。長引いては不利だと考えたのだ。手ごたえとともに、刀が雪鬼の毛皮に埋め込まれる。その刀を引き抜くと、血飛沫とともに雪鬼の白い毛皮が赤く染まった。
 だが、その瞬間、山中は横殴りの衝撃と共に意識を失った。後から考えると、先行していた雪鬼が戦いに合流したのだろう。周りで繰り広げられる戦いから、山中は脱落した。
次に山中が気がついた時には、村長の家で手当てを受けていた。村長は冒険者で生き残ったのは山中一人だといい、雪鬼も一匹が死んでいたという。他の雪鬼も手傷を負ったらしく血の跡が続いていたという。
結局、山中はその冬の間、村に世話になったが雪鬼は現れることは無かった。
 それが、二年前の話だ。

 麻生藩藩士、山中汰楼は久方ぶりに冒険者ギルドを訪れていた。冒険者として修行を積んだ彼は、半年前に家を継ぎ冒険者を辞め、城勤めとなったのだった。だが、その彼の耳に例の村にこの冬、再び雪鬼が三匹現れているという話が聞こえてきたのだ。それを聞いた山中は冒険者ギルドに雪鬼退治を依頼してきた。話を聞き終えた受付の男は僅かに首を傾げる。
「山中様が依頼することでは無いと思いますが。前回の依頼も完全に失敗した訳でも無く、去年と一昨年、村に被害は無かったのですから」
 だが、山中は首を横に振る。
「仇討ちだと思って欲しい。仲間たちがいなければ、私の命も無かった。だからこそ仇を討ちたい。私が仲間を失ったのは、あの一件だけだ、だからこそ気になってしまうのだろうが‥‥。城勤めの身で自由は利かないが、報酬は用意できる」
 そう言われると、受付としても断る理由は無い。
「判りました。早速、手配しましょう」

●今回の参加者

 ea0555 大空 昴(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2497 丙 荊姫(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2775 ニライ・カナイ(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea4183 空漸司 影華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6321 竜 太猛(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

 山中が依頼した雪鬼退治には、六名の冒険者が参加することとなった。ひとりは空漸司影華(ea4183)、志士であり空漸司流の使い手だ。ひとりは華仙出身のであり十二形意拳を使う、竜太猛(ea6321)。ひとりは遥か北国から来たニライ・カナイ(ea2775)は白の神聖騎士だ。太猛と同じく華仙国出身の李雷龍(ea2756)、こちらも十二形意拳の使い手だ。忍びの技を使いこなす少女、丙荊姫(ea2497)。我流の剣技で危機を潜り抜けてきた浪人大空昴(ea0555)。
 依頼を受けた冒険者達は早速装備を整えると、雪に埋もれてしまった山道を進み、村へとたどり着いた。そこは予想通りの小村であり、家々の痛み具合、補修の有様が貧しさを表していた。
「寒そうな家だ」
 村の入り口でニライが言った言葉がそれを象徴していた。
「うん、雪の山は本当に辛いんです。家が壊れて暖が取れなければ凍えるだけ食べ物だって夏の収穫で食い繋ぐしかないんですから。それを‥‥世の中には無害な山鬼だっていると言うのに、赦せません! 山中さんのためにも絶対懲らしめてやりましょう!」
 昴が改めて憤りを口にすると、皆が頷いた。そして、突然の来訪に驚く村人が見守る中、冒険者達は村の中へと入った。

 村長の家を訪ねると、村長もまた驚いていた。どうやら、山中は村に話を通してはいなかったらしい。だが、雪鬼を退治するという言葉に、村長は喜びを露にする。
「そうですか、山中様が‥。我々は戦いには疎い者たちですが、それ以外でしたら何でもお申し付け下さい」
 村長の言葉に昴が応えた。
「でしたら、幾つか御願いしたい事があるのです」
 来る途中に話し合っていたのは、雪かきのための人手の提供と小屋の提供だった。村長は、当然その申し出を快諾した。

 話がまとまると、冒険者達は早速行動に移った。二手に分かれ、村の周りの地形を確認と、雪かきをし始めたのだ。村の中の雪は、ほとんどが人が通れるほどにしか除けられておらず、戦いの場にするには不向きだ。それを全て除けて、戦いが出来る足場にしないといけない。雪の積もったままでは、雪鬼に有利すぎる。だが、村人が手伝ってくれるとはいえ、雪の量は見た目から考えるよりも多い。
「ニライ、荊姫、大丈夫なの?」
 影華が雪かきの手を止めて、二人に聞く。荊姫は顔を上気させつつも無表情に雪かきを続けているが、その足元は少しふらついている。ニライは経験の差か少しはましだが、体力の無い二人は辛そうだ。
「平気です」
「まだ、大丈夫だ」
 二人がそう答えた時、丁度昴、雷龍、太猛が周囲の見回りから帰ってきた。
「すっかり、片付いたようじゃな」
 太猛が、あちらこちら土が見えている地面を見て言うと、荊姫が問いかける。 
「そちらはどうでしたか?」
「山道は細すぎです。雪鬼が獣並みの動きをするとすれば、本気で逃げだせば、追いつくのは難しいですね」
 雷龍の答えに、ニライが頷く。
「そうか‥‥。やはり、村で決着をつけるつもりでやろう」
 そうして、今度は荊姫の指示で路地を封鎖し、雪鬼を誘い込む準備を始めた。日が暮れるまでに、その準備を終わらせると、夜は夜番を立てつつ提供された小屋で過ごす。提供された小屋は村の山頂側の入り口にあり、冒険者達にとっては都合が良い。

 そして、二日目の晩に吹雪はやってきた。
「今日辺りかな‥‥」
 雪鬼は寒い吹雪の夜に来るといい、前回鬼が来た時から日も経っていると村人は言っている。まさに条件は揃っている。冒険者達は静かに鬼たちが来るのを待った。
 さほど待つことは無かった。突然、獣に似てそれでいて獣ではない咆哮が辺りに響く。
「来た‥‥」
 昴が呟く。寝ていた者達へ視線を送ると、すでに起き始めている。昴達は身に着けていた防寒具を外す。動きが鈍くなるのを嫌った冒険者達は、誰一人防寒具を身につけず、短期決戦の構えだ。火を燃やしていたとはいえ、防寒具を脱ぐとすぐに寒さが身を襲う。だが、すぐに動きが鈍くなる訳ではない。冒険者達はかんじきを身につけ準備を整える。
「かなり近いな」
 ニライの言葉に、昴が戸を開けて影華と雷龍が続く。彼女たちは広場の近くに潜み、そこで雪鬼達を待ち伏せるかまえだ。外に出た昴は勿体無い、そう思いながらも保存食を軒先などに置いていく。これで、雪鬼を油断させ広場へと誘い込むつもりなのだ。勿論、保存食が長時間濡れれば駄目になってしまう。それを防ぐためにも、昴は短期決戦を望んでいた。
 三人が出て行ったのを確認して、ニライは再び闇に目を凝らした。火を消した太猛もその横に並ぶ。火を消したことにより、闇を見通しやすくなるがまだ雪鬼の姿は無い。
 しかし、さほど待つ事は無かった。徐々に近づいてくる咆哮が村の入り口で立ち止まるのが、ニライ達にも確認できた。雪鬼は昴が置いておいた保存食を掴むと、村の中へと歩き出した。
(「豚鬼‥‥ではないようじゃな」)
 その姿が、通り過ぎた時、太猛達は外へと飛び出す。そして、まずニライが用意していた墨を一匹の雪鬼に掛け、太猛は目印のための染料を投げつけた。黒と藍の二色が雪鬼の白い毛皮を汚す。雪鬼は振り返るが、その目の前に炎が叩きつけられる。荊姫の火遁の術である。さほどの威力は無かったものの、雪鬼を驚かせるのには十分だった。背を向けて逃げ出した雪鬼を三人は追い始める。吹雪と闇で見失いがちになるが、染料と墨がなんとか、雪鬼の姿を浮き立たせていた。雪鬼たちは左右に目を走らせるが、全ての路地が封鎖されている。
 そして、雪鬼が広場へと達した時、物陰から飛び出した雷龍が踊りかかる。雷龍の拳が雪鬼の胸に叩き込まれた。その衝撃に雪鬼は一歩下がるが、敵意をむき出しに牙を見せる。その瞬間、もう一つの影が雪鬼に駆け寄っていた。
「この一撃で‥‥倒す!! 空漸司流暗殺剣‥‥輝衝斬!!」
 影華の刀が闇に閃き、振り下ろされる。だが、雪鬼はその一撃に反応していた。手に持っていた棒を水平に持ち上げると刀を受け止める。膂力では明らかに雪鬼が上のはずだった。だが、輝衝斬はその助走の勢いを威力へと転化させる。棒に刀が食い込み、刀が押し込まれた。
(「ここまでね」)
 押し込まれた刀が雪鬼に触れた瞬間、影華は引き切った。雪鬼の体から血飛沫が上がる。棒のために浅くはあるが、雪鬼の胸が血に染まった。
その隙に荊姫達が雪鬼の背後を塞ぐ。更に松明を配置し終えた昴も影華に並ぶ。
辺りには昴の配置した松明が幾つか雪に立てられている。雪はまだ降り続けているが、その炎のおかげで雪鬼達の姿はなんとか捉えることが出来ていた。
囲まれたことを知った雪鬼は、迷いを見せた。足を止めて冒険者達を睨み付ける。
「来るぞ」
 太猛の言葉が合図になったかの様に、雪鬼たちが動き出す。
(「防具らしきものは身につけておらぬの、ならば爆虎掌よりも手数で押した方がいいようじゃの」)
 太猛は意図的に正面から雪鬼に当たる。雪鬼には大きさで少し劣るものの、力ではそうは劣らない。素早さと力強さ、それを太猛の拳は備えていた。鍛えられた拳と蹴りが、雪鬼の顔面、胸、膝に打ち込まれる。だが、同時に雪鬼もその棍棒を太猛に打ち込んでいた。相打ちともいえる打ち合いに太猛と雪鬼双方がふらつき、そして踏みとどまる。だが、その一瞬が雪鬼には命取りだった。雪鬼の胸に刀が突き立つ。雪鬼の体を背から胸に貫いた刀は影華のものだった。その隙を作るために太猛は正面から挑んだのだ。そして、背後からの接近を雪鬼に気付かせなかったのは、影華の空漸司流暗殺剣ならでは足運びだった。影華が刀を素早く抜くと、それでも雪鬼は振り向く。だが、そのまま膝をつくと倒れ込む。影華は冷静に鬼に止めを刺すと、周囲に目を走らせた。

 雷龍は逃げようとしていた雪鬼の前に立ちふさがっていた。それに対し、手に持っていた棒を投げつけて走り抜けようとした雪鬼だが、雷龍は簡単に棒を叩き落し雪鬼の前に立ちふさがる。既に雷龍の体はオーラによって強化されていた。武器を捨てた雪鬼との、正面からの殴り合いになる。双方共に一歩も引かずに殴りあう。だが、いつの間にか雷龍の背後に立ったニライが短く呪を唱える。吹雪の中でニライの姿が淡い光に包まれ浮かび上がった。その光景に怯えた様に雪鬼が下がろうとするが、その動きがピタリと止まる。ニライが使ったのはコアギュレイトの呪文だった。
 その隙を雷龍は逃さなかった。雪鬼の懐に飛び込むと、顎元に拳をたたき上げる。腕だけでは無い、脚力も使い全身のばねを一点に集中させた一撃だ。鈍い音と共に、雪鬼は後ろへと倒れ込む。その姿を確認して、ニライは息を吐いた。

 最後の一匹も逃げることを選択していた。突っ込んできた雪鬼をかわすと同時に、昴は手にしていた油壺を投げつける。だが、地面へと叩きつけられた壺の中身の殆どは雪鬼には掛からなかった。
「荊姫さん!」
 その言葉に応じて、荊姫の手から炎が生み出される。突然の事に雪鬼は目を閉じて下がった。その一瞬で昴には十分だ。その刀が、雪鬼の肩に食い込む。傷つけられた痛みに雪鬼が棍棒を振り回すが、その時には昴は下がっている。代わりに、荊姫が雪鬼の背後に回る。雪鬼が対応できない内に首筋に手刀を叩きつけた。常人ならば、気絶するであろうタイミングと威力だ。だが、雪鬼は平然と今度は荊姫を狙う。雪鬼は荊姫の予想以上にタフな様だった。
 だが、雪鬼が荊姫に意識を向ければ、今度は昴が前に出る。昴の正確な一撃が、雪鬼の体に深い傷を穿つ。雪鬼は渾身の力を込めて棍棒を振り下ろす。一撃で大きな傷を与える事が出来る一撃を昴は冷静に見ていた。そして、当たるかと思われた瞬間、足運びだけでそれをかわし、昴は雪鬼の懐へと飛び込んだ。手ごたえと共に、刀が雪鬼の胸に埋め込まれる。雪鬼は血を吐きながらもなんとか、逃れようとしたが又も背後から近づいた荊姫が、首筋に風車を突き立てる。もちろん、只の風車では無い。暗器として作られ、棒の部分の先は刃となっている。深く埋め込まれた風車をはなし、荊姫は距離を置いた。すでに雪鬼が致命傷を負っているのは間違いない。雪鬼はその生命力を誇示するように、一歩二歩と昴へと向かったが、それが限界だった。前のめりに、倒れ込む。
 駆け寄ってきた影華に、昴は笑みを見せる。ニライや太猛も彼女たちの周りに集まってきた。
 こうして、雪鬼との戦いは有利な場を作り出した冒険者達の勝利に終わった。

 翌日の昼頃、冒険者達は村を発つこととなった。だが、その前に昴らのたっての希望で二年前に亡くなった冒険者の墓へと赴いていた。六人がそれぞれの言葉で祈る。
「仇は討ったのじゃ。安心して眠るがいいぞ」
太猛はそう言って立ち上がる。彼らの無念が晴れ、近在の村に平穏が訪れたことを信じて、五人もそれに続いた。
 村を発つ六人を、村人達は総出で見送っていた。