写経

■ショートシナリオ


担当:鏑先黒

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月12日〜05月17日

リプレイ公開日:2005年05月20日

●オープニング

「冒険者を六名集めて欲しい」
 麻生藩藩士、山中と名乗った男はそう告げた。ギルドの係は笑顔を見せながら応える。
「はい、六名ならばすぐにでも集められると思いますが、火急の用件でしょうか」
「火急ということは無いが、時間の余裕もさほど無い。実は当藩の姫、薫様に関わる依頼なのだ」
 山中は続けて依頼の内容を話す。山中の話では、この三月というもの薫姫は藩内の寺に篭り写経をし、写経を完成させては次の寺で写経を始める、ということをしている。だが、姫が次に選んだのは刻泉寺という寺で、この寺が問題なのだという。刻泉寺は由緒ある寺ではあるのだが、白有山の山頂近くにあることもあり、平時は無人の寺となっている。その為、一昨日に下見に訪れた山中が寺に入り掃除などして帰る時、麓の村人から妙な噂を聞いたのだ。なんでも、刻泉寺には、最近怨霊が出るという。その夜、山中が試しに泊まってみたが、その時は、怨霊らしきものは出なかった。だが、噂がある以上、放置する訳にはいかない。そこで、姫の護衛を頼みたいという。拘束期間は十日程になるだろう。だが、途中で怨霊を倒すことが出来れば、そこで依頼達成ということになるということだ。
「相手が幽霊なので、それ相応の準備が出来る者を集めて頂きたい」
 その言葉にギルド員も頷く。
「銀の武器を持っているか、魔法が使える者が中心ということですね。判りました、早速募集を掛けましょう。一応、差し支え無ければ、写経の理由など教えて頂けませんか。」
「‥‥薫様の意思によるものゆえ、私の一存で話すことは憚られる。聞かずにおいて頂きたい」
「判りました。では、少々お待ちください」
 ギルド員は早速、冒険者の募集の為に動き始めた。

●今回の参加者

 ea4522 九印 雪人(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7242 リュー・スノウ(28歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea9555 アルティス・エレン(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0833 黒崎 流(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1624 朱鳳 陽平(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1773 宮崎 大介(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 刻泉寺は、意外なほど整った建物だった。無人の寺というからにはもう少し荒れているかと思っていたリュー・スノウ(ea7242)は額に浮いた汗を拭いながら、感心した。無人とはいいつつ、定期的に手入れを行っているのだろう。
「黒崎殿、すまぬが先に一回り見てもらえないか」
 依頼人である山中が、黒崎流(eb0833)に言う。幽霊や怨霊は、普通は夜にしか出ない。しかし、何事にも例外はある。
「そうだな、念のため見てみるか」
 そう言うと、流に続き宮崎大介(eb1773)が寺の敷地に足を踏み入れた。
門から入って正面に本堂がある。本堂は小さいがこんな山奥にあるにしては大きいといえるだろう。本堂の左右に僧坊と宿坊があり、台所がそれに付いている。少し離れたところにある鐘楼には、やはりよく手入れがされている鐘が吊られていた。
流と大介はざっと見回ると、門のところで待っていた山中達のもとに戻り、怪しいところが無いことを告げた。
 寺の中へと入った一行は、各自の部屋に荷を下ろした後、薫は写経の準備に入り、他の者は護衛の準備に入る。といっても、昼の間はほとんどすることは無い。各々下見をしたり、休んだりしていた。

 そして、夜。朱鳳陽平(eb1624)と九印雪人(ea4522)が建物の周りの巡回を開始する。彼らと大介、流そして山中ともう一人の侍、それぞれが組みとなり、夜の間交代で見張りを続ける手はずになっている。リューは、薫の寝所となる宿坊に詰めていた。残るアルティス・エレン(ea9555)だけは本人のたっての希望で、単独で見回りを行っていた。
 陽平達が宿坊の前に来ると、丁度中から煌々とした光があふれ出してきたのが見えた。
「ホーリーライトか、この光の中には大抵の怨霊は入れないそうだな」
 陽平の言葉に、雪人が相槌をうつ。
「ああ、リューの守りは容易く破られないだろうな。‥‥それにしても、こんな山の中で写経とはねぇ、酔狂な姫さんもいたもんだね」
 その言葉に、陽平は軽く頷いただけだ。雪人もそれ以上何も言わなかった。薫に何か事情があるのだろうが、それを詮索するつもりは雪人にも無かった。
 その夜は結局、何事も無く終わった。

 次の日になって、再び薫の写経は続けられた。その様子を見ていたリューが見入ってしまうくらいに写経は真剣に行われている。夕刻となり手元が見えなくなると、灯りをつけ更に続けられた。
(‥‥このように真摯に行動できる想いとはなんなのでしょう‥‥)
 リューはそっと息をつく。それが切欠になったのだろうか、薫も息をつき筆を置く。
「今日はこれで止めましょう」
 そう言って文具を片付け始める。リューと薫は夜具を整えると、横になった。といっても、リューは傍に控えているだけだ。リューには護衛としての任務があるのだ。
「先に休ませて頂きます」
 薫がそう言って横になる。
(何故、写経を行うのか、声にすることで多少なりともお心が軽くなるならば、聞かせて頂きたいのですが‥‥。此方から問うことは出来ませんし‥‥)
 リューがそう思っている間に、薫が寝てしまったようだった。リューはしばらく待ってから、ホーリーライトを使う。煌々とした光の中、リューは外の様子を聞き逃さないよう、耳を澄ませる。

「ん〜、退屈だねぇ」
 夜半過ぎ、一人、門の所で立っていたアルティスが伸びをする。正直、山奥の寺暮らしは二日で飽きていた。この上、あと八日もこんな場所に閉じ込められるのは、うんざりする。
「早く出てきて欲しいね」
 その声に応じたのか、闇に何か動くものがあるのにアルティスは気付いた。
「まさか、こんな時間に猟師ってわけじゃないじゃん」
 アルティスは小さく呪を唱えると、自らにフレイムエリベイションを掛ける。その間に、影は近づいてきていた。影の数は十ほど、全て腐敗した人間の死体のように見える。山中の話に聞いていた怨霊にはとても見えない。
「なんだろねぇ。でも、真っ当な猟師じゃないのは確定じゃん。いらしゃ〜い、アンデットさん、団体様、御案内〜」
 同時にファイヤーボムの詠唱に入る。化け物達は足は遅いらしく詠唱は余裕で間に合った。アルティスの呪文が完成すると、炎が生み出され、化け物たちの真ん中に叩きつけられる。炎は爆音とともに広がり、化け物達を包み込む。その様子を見たアルティスは笑みを見せた。
「あらら、随分とタフだね〜。付き合うのも骨が折れそうじゃん」
 アルティスの言うとおり、化け物達は足を緩める事無く、彼女に迫ってくる。化け物のむ表面は焦げ、全く効いていないわけでは無いだろうが、手間が掛かりそうなのは事実だ。だが、そこに雪人と陽平の二人が、爆音を聞きつけ駆けつけてきた。
「こいつは随分、数が多いな」
 抜き身の刀を手にして、雪人が呟く。そのまま、オーラの力を刀に込め、死人たちに振り下ろす。オーラの込められた刀の威力に、化け物も弾き飛ばされる。
「だが、怨霊ではないらしいな、これなら、時間は掛かるが負けることは無い」
 陽平の言葉通り、この化け物死人憑きは、冒険者にとって手ごわいという相手ではない。だが、数が多いのが問題だった。そこに起き出して来た山中達も加わり、乱戦となっていった。

「姫様」
 リューがそう声を掛けるのとほぼ同時に、薫は起き上がる。
「何事でしょう?」
「恐らく怨霊が出たのだと思います。身支度を御願いします」
「判りました」
 薫が身支度を整えると、早速リューは彼女と共に本堂へと向かおうとした。だが、引き戸を開けた瞬間、青白い影が襲い掛かってきた。思わず身構えるリューだったが、影はホーリーライトの光に阻まれた様に身を翻す。
「怨霊です、下がっていてください」
 リューは新たに呪を詠唱する。選んだのはピュアリファイ、アンデットにとっては浄化される危険のある魔法だ。リューの体が白く淡い輝きに包まれ、呪文が完成する。怨霊が声にならぬ叫びとともに壁をすり抜けてゆく。無論、逃げたわけでは無い、物陰からリューの隙を窺おうとしているのだ。
「リューさん、姫を外に。屋内では戦いづらい」
 そう声を掛けてきたのは、駆けつけた大介だった。その手に握られている刀は既に炎に包まれている。傍らには流の姿もあった。大介の言葉通り外に出ると、怨霊もついてくる。しかし、ホーリーライトの中に入ってこられないのは変わらず、四人の頭上をぐるぐると回っている。
「いきますか」
 その言葉と同時に流が光の中から飛び出し、自ら囮となる。ようやく襲える相手を見つけた怨霊はすぐさま流に向かう。その動きは予想以上に速く、怨霊の手が流の肩に触れる、途端に今まで感じたことが無い感触と痛みが流を襲う。
「っ痛」
 だが、怨霊の背後から大介が切りかかる。再び声にならぬ声が響き、怨霊は上へと飛び上がる。刀から逃れようというのだろう。だが、流達も黙って逃がすわけもない。流の手からオーラの込められた手裏剣が飛び、リューは再びピュアリファイを使う。怨霊の青白い光が消え、その姿は闇にとける。
「隠れた訳では無さそうだ。滅びたか‥‥」
 大介はそう呟くと、周囲に目を走らせた。今のところ、新たな脅威は無さそうだ。

 その頃、門の前の戦いも終わろうとしてた。陽平の振り下ろした刀が、死人を打ちつけられると、ようやくその体から力が失われ、倒れた。陽平が周囲を見渡すと、仲間達もそれぞれの相手を倒したところだった。攻撃をかわすことも知らない相手だったが、それでも数が多かった為、皆が手傷を負っている。
「アルティスさんは大丈夫かい」
 言葉を向けられたアルティスは素直に笑みを見せた。
「ああ、傷一つ受けちゃいないじゃん」
 その言葉に頷くと、陽平達は薫の元へと向かった。

 次の朝、冒険者達は山を降りることとなった。怨霊を退治したので、もはや危険は無いと判断されたのだ。
「正直、少し残念ですね。まだ、姫に話しかける機会も無かったのにな」
 そう言葉にしたのは流だ、一日中写経を続けていた薫とまともに言葉を交わせたのは、リューくらいなものだろう。流の言葉に、小さな笑いが起こる。その笑いの中、リューは振り返る。
(姫の願いが叶いますように‥‥)
 こうして、冒険者達の仕事は成功裏に終わった。