隠密

■ショートシナリオ


担当:鏑先黒

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月28日〜09月02日

リプレイ公開日:2005年09月05日

●オープニング

「我が藩に潜入している隠密を倒していただきたい」
 冒険者ギルドにやってきた麻生藩藩士、山中はそう告げた。ギルド員は頷いたものの、多少気になって問う。
「失礼ですが、御国の方々で討ち取られたほうがよろしいのでは」
「少々、込み入った事情がありまして。我が君、新庄直頼様は俗に言う平織派でありますが、嫡男である直定様は源徳派なのです。それ自体はさほど珍しいことではありませんが、直定様の手引きで源徳派の隠密が数多く入ってきている現状に、殿としても手を打たぬ訳にはいかぬのです。ですが、我が藩の藩士が彼らを討てば、彼らと直定様の間に確執が起こる可能性があります。故に、外部の者の手を借りるのが良いだろうとの結論が出たのです」
 山中の言葉に、ギルド員は納得したように頷いた。
「なるほど、しかし隠密を探し出して討つとなるとかなりの時間が掛かると思いますが、よろしいのですか」
「いや、隠密を探し出すことは当方が行います。現在、三人の者たちが我が藩に入っているのが確認されています。それぞれかなり腕の立つ忍者であるようですので、全てを倒すことは求めません。一人を倒し、他の者への警告とすることで依頼の成功とさせて頂きます」
「その隠密のことを教えていただけますか」
「全員が城下町の同じ旅籠に泊まっています。一人は浪人に化けており、名を田神真乃助と名乗っている様です、武器としては日本刀を持っています。一人は旅芸人の与太、武器らしきものは確認出来ません。商人の徳兵衛、こちらも武器らしきものは持っていません。勿論、隠してはあるのでしょうし、素手の戦いが得意なのかもしれません。彼らは、朝早く別々に宿を出て、夕方には戻って来るとのことです。襲撃場所と時間はお任せします。旅籠で寝込みを襲うのが、一番逃げられにくいと思いますが、くれぐれも他人を巻き込まぬ様御願いします」
「承知しました。内密に、急ぎ冒険者に当たってみましょう」
 ギルド員はそう頷いた。

●今回の参加者

 ea8483 望月 滴(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb0641 鳴神 破邪斗(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0938 ヘリオス・ブラックマン(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb1490 高田 隆司(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「隠密」

 山中とともに麻生藩へと入った冒険者達は、彼に詳しい話を聞きながら歩いていた。
「標的の顔はご存知ですか?」
 鳴神破邪斗(eb0641)の言葉に、山中は首を横に振る。
「いや、だが、監視していた者に後で人相を届けさせよう」
「助かる、だが出来れば人相描きで頼みたい」
 破邪斗に続き、望月滴(ea8483)が山中に問いかける。
「少し、疑問なのですが、隠密を退けてしまえば、どのみち若君とあなた方の確執は深まるのではないでしょうか」
「確かにその通りです。ですが、我が殿の命を受け私があなた方を雇いました。恨まれるのであれば、私と殿です。若が殿に対して恨まれようともしかも、さほど心配はいりません。単なる使いの私はさほど重要ではありません。ですが、殿の命を受け家来の誰かが隠密を討とうとした時、その者たちと若の間で確執が生まれます。更に、逆に家来の方に死者が出た場合は、遺族と若の間に確執が出来ましょう。その確執は簡単には乗り越える事は出来ないと思われます」
 山中の言葉に滴は、嘆息する。
「悲しいことですね」
 滴の言葉に、山中はただ頷いた。四人は、更に詳しい町の様子を聞きながら歩く。

 ヘリオス・ブラックマン(eb0938)は隠密が泊まっているという宿に行くと、早速そこの客引きに声をかける。
「少しお聞きしたいのですが、田神真之助という人物がこの宿にとまっていませんか?」
「はい、浪人様ですね」
「彼の隣の部屋を借りたいのですが」
 その言葉に客引きも不審そうな顔をしたが、口には出さなかった。
「‥‥はい、空いてますよ。ご案内しますね」
 客引きが先に立って案内しようとするが、ヘリオスは更に声を掛ける。
「それから、俺が田神殿の事を聞いたのは、誰にも話さないで下さい」
 その言葉に、客引きの顔がさらに曇る。
「何かあるのですか?」
 正直、客引きとしては面倒を避けたい。旅籠にとっては、評判というのは生命線だ。盗みや刃傷沙汰があったとなれば客足が遠のくのは避けられないからだ。
「いえ、大したことではありません。俺の知っている田神殿ならばいいのですが、違っていることもありますから」
 そう笑みを浮かべて答える。さほど良い言い訳ではなかったが、客引きはそれ以上は追及せず、ヘリオスを案内した。

 高田隆司(eb1490)が約束の小料理屋に着くとすでに、三人とも座敷で待っていた。宿では不味いので、ここで情報交換をすることになっていたのだ。
「待たせたな」
 隆司は空いている席に着くと、早速話を促す。
「何か情報は掴めたかい」
 その言葉に、まず滴が応える。
「わたくしが旅の僧侶を装って宿を回ったとき、徳兵衛様に会うことが出来ました。最初から疑っていたからかも知れませんが、普通の商人では無いような気がしました。‥‥そう、とても危険な感じを受けました。それから、この町での買いつけが終わったとも話しています。もしかすると、時間が無いのではないでしょうか」
 滴の言葉に破邪斗が頷く。
「俺も与太と田神の部屋を探ってみたが、何も出てこなかった。流石に、調べたものは身につけているらしいな。滴の話が本当だとして、徳兵衛だけが報告に行くのか、残る二名も出立するのかは判らないな。急がねばならないようだな。やるなら、田神だろう。徳兵衛と与太は他の者と相部屋で、田神だけが個室だからな」
 ヘリオスがそれに続ける。
「田神の隣室に上手く宿がとれました〜。襲撃するなら、俺が手引きしますよ〜」
「決まりだな」
 破邪斗の言葉に、滴とヘリオス、隆司が頷く。
「じゃあ、眠いしさっさっと片付けようぜ」
「皆さん。戦う際はお互いに怪我をしない様に気を付けましょうね〜」
 ヘリオスの言葉に、滴は真剣に頷く。
「多少の怪我ならわたくしが治せますが、万が一のことがありますから注意して下さい」
「ああ、相手は手練の隠密だ。油断はするな」
 破邪斗がそう言って立ち上がる。


 その夜、四人は夜の早いうちにヘリオスの部屋へと集まった。このまま、夜中まで待って襲撃を始めることになってた。
(眠いねぇ、だが引き受けたからには一仕事するか)
 隆司も、うとうとしながらその時を待っていた。
 そして、夜も更けた頃、動き始める。先頭に立つのは、隠密行動に長けた破邪斗で、ヘリオス、隆司と続いている。滴は戦いが得手では無いため、まだヘリオスの部屋にいる。誰かが傷付けば、駆けつける手はずになっている。部屋の前に立った破邪斗が敷居に油を差し、すうっーと襖を引き始める。だが、常人ならば気付かないその音に中にいた者は反応し、布ずれの音がした。その瞬間、破邪斗は一気に襖を開け、部屋へと飛び込む。
 布団に突き立てられた鬼神ノ小柄は一瞬遅く、すでに田神が刀を手に飛び起きていた。そして、その横をかすめ、ヘリオスが窓の前に立つ。逃げ道を失った田神だったが、短く呪文を詠唱し、印を結ぶ。すると、田神の姿が三人に増える。
(分身の術か)
 隆司は敢然と、田神のうち一体に飛び掛る。フェイントを掛け、素早い一撃は田神の体に打ち込まれるが、すり抜けてゆく。逆に田神は破邪斗に向かって来る。隆司のおかげで左の田神は偽者と判っているので、真ん中と右の田神の刀にだけ反応する。破邪斗の十手に手ごたえがある。真ん中の田神と破邪斗が対峙するが、それも一瞬だった。再び振われた鬼神ノ小柄に、田神は後ろに飛んでかわす。
 しかし、そこにはヘリオスが待ち構えている。ヘリオスの刀が、田神のわき腹に食い込む。
「夜盗だっ!」
 そこで初めて、田神が声を出す。隠密裏のまま、破邪斗達を退ける事を諦めたのだろう。その声に、隆司達も焦らずを得ない。いくら藩からの仕事はいえ、ここで騒ぎを起こすと無辜の町民達をも巻き込むことになる。窓へと駆け出した田神の前に、隆司が立ちふさがる。刀を振り下ろす田神の表情は、覚悟を決めたものだった。田神の刀が、隆司の肩に叩きつけられる。血が吹き出す衝撃と痛みに、隆司の剣先も震える。だが、震えながらもその剣先は田神の腕を切り裂いていた。田神はその怪我にも関わらずなおも走ろうとしたが、ヘリオスが再び立ちふさがる。今度は、待ち構えていたヘリオスが先手を取る。その刀は、田神の胸に埋め込まれた。
 ヘリオスが刀を抜くと力を失った田神の体は床へと倒れる。その傷が致命傷であることを見て取ると、破邪斗は二人に声を掛ける。
「いくぞ」
 破邪斗はそういうと、窓から飛び出した。すでに宿の中はざわついている。隆司とヘリオスもそれに続いた。
(明日は我が身‥‥いや、運が無かったら、俺がああなっていただけの事、か)
 倒れた田神の姿を思い出しながら、破邪斗は町の外へと向かった。

 襲撃に加わらずにいた滴は集まってきた者達とともに、宿で野次馬となっていた。田神の死体に驚いている宿泊客をよそに、滴はさり気なく周囲を見まわした。だが、徳兵衛と与太の姿は見えない。既に宿から逃げたのだろうか。
(隠密というのも、辛いものですね)

 滴が呪文を唱えると隆司の体が淡い光に包まれて、その傷が塞がっていく。
「助かる」
 既に四人は藩境まで来ている。ここで山中と落ち合っていたのだ。
「あの三人が一体何の為に何を調べていたのか少し気になりますが、今となっては知る術がないですね〜」
 ヘリオスの言葉に、山中は首を横に振る。
「さほどそれは問題ではありません。ですが、皆さんの働きは申し分ないものでした。殿に代わって礼をいいます。ありがとうございました。ですが、しばらくは我が藩には近づかない方がいいでしょう。役人に追われることはありませんが、町民達の中にはあなた方の顔を覚えている者がいるかもしれません」
 その言葉に、四人も次々に立ち上がり、江戸へと向かった。こうして、麻生藩の依頼は果たされた。